ぬるりと‥‥。  
 陵辱するかのような速度で、異物が体内めがけ侵入してくる。  
 熱く激しい感触が身を灼いた。  
 桜の爪がひときわ強く僕の胸に痕を残し、ぎしりと全身をたわませてショーツをなすりつけ  
ながら、淫靡な指が下半身をぎじりと絞りきって絶頂をことほぐ。  
 痛みと快楽が、瞬間的に衝撃に転じて息が止まり、呼吸すべてを外へ叩きだす‥‥。  
 大きく腰をたわませ、びくびくっと背筋を律動させながら、馬乗りになる桜の下で、彼女が  
からめる指先にすべてをほとばしらせ、真っ白にはじけていた。  
 
 
「どきどきした?」  
「‥‥。殺されるかと思ったね」  
 率直に告げると、赤みを帯びた大きな瞳をきらめかせ、桜の口がほころんだ。  
 息つぎを許されて、ようやく、長く甘いディープキスから解放される。  
 最後にもう一度、侵入してきた桜の舌がぬるぬると歯茎をいじり、重ねにいった僕の舌先を  
なごりおしげになでて抜けていった。  
 どうしようもない銀糸のアーチが妹と僕の唇をつないでいる。  
 唾液のいくらかは僕の胸にあとを残し、桜のヘアピンがえぐった胸元にもしたたった。混じ  
りあう粘液にそっと唇をつけた桜が、どろんと酔眼を蕩けさせて一心不乱に舐めとっていく。  
そのせいでさらに唾液が肌に沁み、僕の体をふるわせた。  
「ちゃんと私を見てくれないからだよ」  
「なぜ、そう思ったの?」  
「キスのときから‥‥。兄さんが本気じゃないのが、悔しかったの。だから脅かしたんだよ」  
 事件のことはあとでちゃんと教えてあげるから、今は私を見て‥‥。  
 淡く色づいた手が僕の顔に触れ、こつんと額をくっつける。ひりひりした熱の余韻が、桜を  
通して僕にも伝わってきた。  
 やはり妹は、僕や森野とは違う、ということなのだろうか。ただ酔って自制をなくしている  
だけで、もとから暗黒の思考など感じることもない、素直な少女だということなのか。  
 失望は、けれどなぜか喜びと半分半分だった、  
 自分でも感情の理由を分析できずにいるまま、桜に向かい、いつまで僕のものを握っている  
の、と問いかける。今なおびくびくとたわむ屹立は、桜の手にあやされすぎてすっかり硬度を  
取り戻してしまっているのだ。  
 あ、あ‥‥と見る間に紅潮した桜は、あわてたようにからまった指をほどき、トランクスの  
中から手を引きずりだす。  
 にちゃあという淫蕩な粘つきと一緒に、情けない匂いがたちこめた。  
 目をぱちぱちさせ、桜は興味津々で僕が放出した精をためつすがめつ観察する。  
 だらりと白濁のしたたる手をかざし、つぅーっと粘っこく尾を引いたひとしずくを唇に運ん  
でいく。舌先をのばし、そろりそろりと、見せつけるように飲み干した。  
 ん、コク、とのどが動き、じきに変な顔をして振りむく。  
「分かんない。おいしいのかな、これって」  
 むろん、自分の精液がおいしいかどうかなど、僕が知るはずもない。  
 それ以前に、妹が、精液をなめるという性行為を知っていたことにおどろく。どこでそんな  
知識を覚えたのだろう。  
「内緒」  
 頬をつやつやさせた桜は、ね、と囁きながらぴたりと寄り添ってきた。  
「の」の字を描くように僕の体に指を這わせ、今度は兄さんが‥‥と羞じらいながら、甘えも  
媚も上手に含んでおねだりしてみせるのだ。  
 たずねるまでもなく、上気した桜の裸身はカタルシスを求めて焦れているのが一目で分かる。  
ふくらみを見せる乳房は充分に熱をはらんで肌色をさらに艶めかしく彩り、触れられるその時  
を待っている。  
 腕をまわして強く抱きしめ、裸の躯を重ねあわせた。密着した胸がちりちりしびれ、上目で  
うかがう表情がたまらなく愛らしい。  
 
 上半身を引き起こした桜は、カットソーをまくったまま邪魔だった肩紐をたくみにすべり落  
とした。ブラジャーを抜き取った色づく裸体が、輝くように僕を誘う。  
 逆光の蔭からでも、桜が慈愛にみちた笑みを淫靡にたたえているのが分かった。熱っぽい視  
線に応えて手を伸ばし、下から乳房をふにっと押し包んでやる。  
 んァ、と本当に気持ちよさそうにのどを鳴らし、桜は僕の手のひらに自分の手を重ね、指を  
上からからませてきた。  
「兄さんに揉まれて、私、大きくなっちゃうかもよ」  
「それは大変だな」  
「うん、きっと大変だよ。クラスの友達にからかわれたりして」  
 睦まじく、愛情のこもった会話を交わし、ゆるゆると官能を高めていく。  
 ひくひくと切なそうに腰がうねる。  
 ゴク、と唾を飲む音が、妹の裸身をかけめぐるアクメの深さを教えてくれる、  
 笑みに溶けくずれた欲望がしだいしだいに焦れきっていた肌を加速させ、熱をもとめて躯を  
蕩けさせていく。汗のにじむ乳房を優しく揉みしだくと、トクトクと狂おしい早鐘が掌をゆさ  
ぶってきた。  
 どうしようもなく桜も求めている。  
 初めての躯に濃厚なペッティングを刻みこまれ、もう限界まで疼いているのだ。  
 まるで騎乗位のような体勢で、またがった腰がむずむずと跳ねている。どうしたらいいか桜  
は分からぬまま、みたされなさを解消しようと、不器用に股間をなすりつけるばかりだ。  
 桜の火照りを煽るべく、片手で集中的に胸を虐めだす。  
 うっとりと与えられる刺激に酔いしれてきつくからめてくる指をつかみ、反応をたしかめて、  
空いた手で胸全体を支えるように柔肌に這わせていく。  
 さらに乳房をなぶると見せかけ、わき腹からお尻へつっと一筆に撫でおろす。  
「あ、ひぁ‥‥ァァ!!」  
 あまりの余波に、あげかけた甘い歓声はぶつりと途切れ、桜はひきつった調子で大きく息を  
吸った。声にならない嬌声をまきちらし、ようやく、こじるように喘ぎ声をひりだして、ぷる  
ぷると膝をつっぱらせて硬直してしまっている。  
 指で触られる箇所すべてが性感帯になってしまったかのように桜は乱れくるい、落馬寸前の  
ロデオのようにガクガクと躯をたわませる。  
 汗ばむショーツの後ろから指を進入させ、今度は安産型のたわわな白桃に手を這わせていく。  
だが、桜自身が右に左に腰をひねってのがれるため、なかなか足のあいだに息づく谷間までは  
侵食できないのだ。  
 むちっとしたお尻のラインは乳房以上に敏感らしく、火照りも弾力もすばらしかった。  
 揉みこんでやるたび、電撃でも走ったかのように背筋が跳ねあがる。  
 瞳のふちまで卑猥にのぼせあがった桜は、僕が揉みごたえのある感触を堪能するよりも先に、  
ふわぁ、と奇妙な声をあげ、へなへな上体を倒してしまう。つっぷした桜の顔が、よこたわる  
僕の目と鼻の先にあった。  
「桜」  
「兄さん‥‥」  
 どちらからともなく舌を伸ばし、今度は躊躇せずに濡れた舌同士をからめあった。キスする  
にはほんの少し遠い距離をうずめるように、首をそらし、熱心に顔をつきだして舌をさしだす。  
 いたいけな仕草にかきたてられた僕も唾液舌先をに集め、ぬるぬるとなすりあった。  
 粘膜と粘膜をからめあう卑猥さがたまらない。  
 真っ赤に濡れた舌は性器のまじわりをいやおうなく連想させ、トランクスとショーツの生地  
のみをへだてて密着した互いの異性の部分をきつく狂おしく意識させた。  
 まるで擬似的なセックスだと思い、悩ましく舌をはずませる桜の表情に目を奪われ、先端が  
こすれあう一瞬一瞬の衝撃がひびきあって、頭の芯が悦びに爛れきっていく。  
 
 それは桜も同じなのだろう。  
 盲いたように無我夢中になり、オーラルセックスに没頭してしまっているのだから。  
 キスを愉しみつつ乳首をコリコリひねって心ゆくまで啼かせてやり、桜の注意が逸れたすき  
にお尻から引き抜いた手を一気に下腹部へ伸ばした。  
 あんのじょう、たっぷり湿っていたショーツをくびれさせるよう秘所におしあて、ぐりぐり  
っと指全部をへばりつかせて股間をなぞりあげていく。  
「あっ、ダメェ」  
 悩ましい苦悶の声ももはや手遅れ、僕の手は、桜のもっとも熱くなった熱と汁の源に食いつ  
いていた。濡れそぼって縮れた柔毛の起伏までを指先が感じとり、充血したヴィーナスの土手  
を丁寧に梳きあげていく。  
 ぷっくりとした盛りあがりに指をうずめ、上端のふくらみを包皮の上からこりこり探った。  
「兄さ‥‥ッ‥‥。ン、ァンっ‥‥!」  
 桜の声がぷるぷるとわななき、いともたやすく乱れて言葉から喘ぎへと退化していく。  
 う、うくっと桜が腰をずりあげ、けれど僕は逃すことなく押さえつけてさらに指でなぞりま  
わした。こみあげるものがすごいのだろう、桜は、ぎゅうっと僕にしがみつき、伏せた顔を胸  
板にうずめている。  
「顔を上げて‥‥。ほら‥‥」  
 ぷるぷると首を振るので、さらにひくひくと指を振動させ、嬲り、追いこんでいく。  
 我慢しきれず、ひゃあと桜が顔をあげた瞬間、その首筋に歯を立てず唇だけでかぷっと吸い  
ついた。  
 唇を這わせ、頬をすりよせながら、うなじや鎖骨に舌を這わせていく。  
 ぬらぬらと唾液が尾を引くと桜は狂ったように全身をのけぞらせ、目のふちを赤らめたまま、  
貪欲に跳ねまわった。のたうつ裸身を抱きよせて絶頂をきわめさせようと抵抗を封じ、キスの  
雨を降らせていく。  
「なにコレ、なにこれェ」  
 懊悩のあまり錯乱して瞳を丸くしている桜のおとがいをつまみ、耳たぶを甘噛みしながら、  
そういうときはイクっていうんだよと教えてあげる。  
「いやぁぁ、止めて‥‥。イク、イっちゃ‥‥」  
 涙目になってふうふう喘ぐその息つぎの余裕さえあたえず、僕はさらに桜を愛していった。  
胸をあやし、下腹部をもてあそび、舌で跡をつけていく。  
 はじめての自失するようなエクスタシーが怖いのだろう。がくがくと桜が僕にしがみつく。  
「いいんだよ、イって」  
 受けとめてあげるから。  
 そう囁くと、桜の瞳孔がすうっと内側へ吸いこまれるようにすぼまっていき‥‥。  
 あ、あ、あ‥‥。と声にならない声で訴えかけつつ、火照りと体液をにじませた裸身が鉄の  
ようにこわばって、やがて、ぐんにゃりと糸の切れた人形となりもたれかかってきた。  
 焦点のあわない瞳をみやり、何度もひきつる痙攣の揺りもどしが沈んでいくまでそのままの  
体勢で桜を抱きしめる。  
 胸をつつんみこむ手のひらを痛いほど尖った乳首が突いている。  
 股間は、ひどきわ濃い、粘り気のある愛液をとろとろと吐き、僕の掌からこぼれだしていた。  
 
 
「もぉぉ、ひどいよ‥‥。止めてって、行ったのに‥‥」  
 兄さんに、イかされちゃった‥‥。  
 うなじまで桜色に茹だった彼女は、柔らかい粘膜に指をもぐらせた僕の手を逃すことなく、  
余韻を楽しむようにくすくす笑った。笑いながら、さらにねだるように下腹部を指の腹にすり  
つけ、のけぞるようにして白い喉元をひくつかせていた。  
 その視線がふらふら泳いだと思うと、あれ、あれ、などと言いながらベッドに倒れてしまう。  
 どうも、今の行為でさらに酔いがまわってしまったらしい。  
 濃密な唾液の交換で濡れてしまった桜の口を、親指でぬぐうようにこすってやる。  
 ン‥‥とまぶたを閉ざし、されるがままに身をゆだねていた桜は、歌うようにささやいた。  
「あのね。私、死体がニセモノだって知っていたから」  
 ‥‥思わず指が止まる。  
 記憶をたどるように、桜がぼつぼつと語りだす。  
 どうやら、涼一とその仲間が、女の子をびっくりさせる方法を予備校で話しているのを耳に  
したらしい。マネキンの首でも用意したらという話に涼一が食いついていて、それで、死体を  
見つけたときもすぐ、ドッキリの可能性に思い当たったという。  
「いやだけど、死体は見なれているから。ニセモノだって、すぐに気づいたの」  
 血痕や独特の臭いなどもなかったのだと証言する。  
 僕の目撃談を聞いて涼一の部屋で怪訝そうにしたのは、そのせいなのだろう。  
「いやな偶然だよね‥‥。涼一君がタチの悪いごっこ遊びをした直後に、本当の事件なんて」  
 ああ、そうだね、そう答える。  
 ぽーっとした瞳で、ベッドに横たわったまま桜は僕を見上げていた。手を伸ばして僕の服の  
すそをつかんでいる。  
「あのね。兄さんに教えなかったのは ウソをつく目的じゃないの。涼一君の印象が悪くなる  
のがイヤだったからだよ」  
 彼、最近引っ越してきたばかりだし、兄さんたちに変なイメージ持たせたくなくて‥‥。  
 でももう、そんなに気にしなくてもいいのかな‥‥。  
 一人で呟き、もにょもにょと黙りこむ。だが、そんな羞じらいまじりの桜の様子は、もはや  
頭に入っていなかった。桜の言葉を反芻し、すべてのピースがそろったと確信する。  
 兄さん‥‥?  
 桜が不思議そうな、どこかまぶしそうな顔をして僕を見上げる。  
 わしゃっと桜の髪をなで、額にキスをして抱きあげた。彼女の部屋まで運んでやり、風呂に  
入って先に休むよう告げ、戻って身支度をととのえる。  
 今からどこかに出るの、と桜が訪ね、いつものように僕は口にした。  
「コンビニだよ」  
 
 
 近づくにつれ、羽音を鳴らしてひどい量の蠅がとびまわっていることに気づく。  
 星明かりもない闇のなか、大気に漂うのはまぎれもない、川の淀みとは似ても似つかぬ人体  
の腐った臭いだった。  
 かすかに、口元がつりあがる。  
 自分のうかつさを自嘲しつつ、僕は広場を見下ろした。すべては勘違いだった。最初から、  
遺体はこの場にあった。森野にも、そして僕にも『見えていなかった』だけなのだ。  
 携帯をとりだし、森野の声を耳にして、最低限の要件を告げる。  
 電話を切った僕は、おだやかな沈黙に身をゆだねた。  
 ここには何もない。ただ、厳然たる人の死が形となって存在しているだけだ。  
 犯人を迎えに行く前に、もう一度視線を落とす。  
 腐乱の宴をくりひろげる二つの切り株めいた足首を、その末期的な光景を僕は凝視した。  
 

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