一人暮らしをしていた僕の家に森野がいつの間にか住み着いて、既に3年と少し経っていた。
高校2年生の出会いからは、もう7年の月日が流れている。僕も彼女も社会人になっていた。
社会に出ても僕は仮面を被り続けており、森野もまた、相変わらずのスタイルを静かに保っ
ている。
どこまで続くものかと思っていた僕達の縁も、ここまで来るとなると、あまり言葉にしたく
は無いが“運命”というやつなのかもしれない。学生のときとは違い、限りが見えない社会人
生活というものはずっと続く。このまま適度に干渉していく生活が続くのだろうか。
一応、森野は『寝る場所を借りている』という意識はあるようで、一通りの家事をやってく
れていた。しかし洗濯や掃除はなかなかの手付きでも、料理だけは何年経っても進歩しない。
本人は認めたがらないが、不器用なのだ。今では何とか少なくなってきたものの、両手の指
に切り傷は常備していたし、「ナポリタンが出来たわ」と言って差し出されたそれは明らかに
赤い皿うどんだった。味の方は言うまでもない。
初めの頃、1度だけ食べ残したことがあった。すると彼女は、いつの間にか僕のスーツのポ
ケット全部にごま塩を投入するという、地味な嫌がらせを行ったのだ。普通に怒り狂われるよ
りも恐ろしさを感じた僕は、それ以来食べ残していない。
外食に誘ったり、僕が料理しようとすると、今度は瞬間接着剤で携帯電話を開けないように
くっ付けられた。もう2度と外食へ誘わないし、僕が料理することは無いだろう。
しかしその行為は、彼女なりに僕へ感情を表現しているのだろうと考えると何も出来なくな
ってしまう。