8月※※日(月)  
 
 毎年、この時期はうだるような暑さが続き、外に出ただけで窒息する  
ような感覚に襲われる。特に僕のような人種にとって、暑さは致命的だ。  
外出の度に、太陽に殺されるのではないかと錯覚してしまう。  
 僕は2回も読み終えた漫画雑誌を閉じ、空を仰いだ。  
 今日も雲一つない快晴だ。額からタラタラと汗が垂れ、不快指数が増  
していく。視線で殺すという表現があるが、さしずめ今の僕は視線で空  
を殺そうとしているのかもしれない。  
「お待たせ」  
 僕を呼び出した張本人は、約束の時間を2時間ほど遅れてやって来た。  
いつもと変わらない涼やかな態度に、僕は珍しく怒りを覚える。  
「遅刻だよ」  
「そうね」  
 顔を上げると、見慣れた黒いワンピース姿の森野夜がそこにいた。病  
的なまでに白い肌を汗が流れているが、僕と比較すると明らかに少ない。  
「怒るなら私にじゃなく、私の家の前に居座った薄汚いケダモノにして  
頂戴。あれが2匹も玄関口にいたせいで、私は家に閉じ込められたの」  
 ケダモノ、と言われ、一瞬何のことだかわからなかった。だが、視界  
に入ったペットショップを見て、ケダモノの正体を思い出す。  
「犬が怖くて外に出られなかったと?」  
「まさか………そんなわけないでしょ」  
 言葉とは裏腹に、声が震えていた。図星のようだ。いつだったか、森  
野は大型犬とすれ違っただけで硬直し、動けなかったことがあった。話  
題に出しただけで不快を露にするほど、森野は犬が嫌いだ。  
「理由なんてどうでも良いでしょ。行きましょう」  
 森野は僕の腕をぐいぐい引っ張る。僕は手にしていた漫画雑誌を手近  
なゴミ箱に投げ捨てると、森野の歩調を合わせた。  
 ペットショップの前を通ると、中から店員らしき男性が水の入ったバ  
ケツを持って出てきた。水撒きでもするのだろう。僕たちは邪魔になら  
ないよう足早に店先を通り過ぎた。  
 
「それで、今日はどこに行くんだい?」  
 歩きながら、森野に尋ねる。何も知らされずに呼び出されるのはもう  
これで何度目だろうか? 夏休みに入ってからというもの、森野は度々  
僕を呼び出し、あちこち連れまわすのだ。今年は受験だというのに、呑  
気なものだ。  
「そうね………今日は………」  
 森野は顎に指を置き、考えを巡らす。呼び出したくせに何も考えてい  
ないのも、これで何度目だろうか?  
 僕はため息を一つつき、ふと考える。  
 周りの人間には、僕たちはデート中の恋人に見えるのだろうか?  
 恋人なのかと聞かれれば、僕も森野も「いいえ」と答えるだろう。な  
ら、友達かと聞かれても答えるのは難しい。僕たちの関係は、たった一  
つの意見の合意から成る、酷く不安定で危うい代物だ。  
 即ち、殺す者と殺される者。  
 僕はいつか、森野をこの手で殺すことを約束した。だが………  
「どうしたの?」  
 森野に呼ばれ、意識が現実に戻る。  
「いつになく無口だけど、調子でも悪いの?」  
「いいや………」  
 森野は「そう」とだけ言うと、あれこれと今日のプランを話し始める。  
僕は半分聞き流しながら、再び思考に戻った。  
 僕は森野を殺すと約束した。僕自身、森野が死ぬ瞬間、殺される場面  
をこの目で見たいと渇望したこともある。しかし、その機会に恵まれる  
度に、僕は森野の命を救ってきた。後一歩というところで、彼女を現世  
に引き留めてきた。  
 こんな関係が、いつまで続くのだろうか?  
 僕たちは、いつまで一緒にいられるのだろうか?  
 
その日は、特に何をするでなく、喫茶店で夕方まで話した後、僕達は  
別れた。そして、僕が森野に疑問を投げかける機会は、とうとう訪れな  
かった。  
その夜、森野の母親から、彼女がまだ帰宅していないと電話がかかっ  
てきたのだ。  
 森野夜は、その日から行方不明となった。  
 
 心地よいまどろみから、森野夜はゆっくりと目を覚ました。       
車酔いをした時のような倦怠感がまどろみに取って変わってくる。意  
識がはっきりしない上、地に足が着いていないような浮遊感もあって、  
まだ夢の中なのかと錯覚する。  
しかし、ふと感じた違和感が、彼女を現実に引き戻した。  
 普段と違って、自分の視線が明らかに高い。椅子に上った時よりも更  
に上かもしれない。自分のものでないかのように体が重く、節々が痛い。  
幾通りもの想像の中から、夜は最悪な答えを導き出し、それを肯定す  
るように、恐る恐る頭を下げた。  
地面が遠かった。  
夜は一糸纏わない姿で拘束され、たった3本の縄で天井から吊られて  
いたのだ。  
本来地に着いていなければならない足は大きく大股を拡げられ、天井  
のパイプから下げられた縄が両膝の下を通って持ち上げられている。形  
の良い胸も縄で絞られ、歪に強調されており、両腕は動かせないように  
腋で固定され、万が一股を閉じられないよう、臀部を縛る縄が背中で固  
定した手首の縄を通って膝の縄と同じく天井に結ばれていた。  
「気づきましたか?」  
少し離れたところで、男が椅子に腰掛け、こちらを見上げていた。見  
間違うはずもない。自分を気絶させ、拉致した男だ。  
男の目は欲望でぎらついており、口は意地の悪くにやにやと歪んでい  
る。それだけで、自分の近い未来が容易に想像できた。  
「案外落ち着いていますね。前の娘はもっと取り乱していたのに」  
慣れているから、とは言えなかった。こんな風に捕らえられるのは前  
にもあった。あの時はここまで酷い辱めは受けなかったが、それでも命  
の危険があったことに違いない。さすがに2度目となれば、周囲を観察  
する余裕もあった。  
ここは窓のない、非常に薄暗い空間だった。空気が籠もっているので、  
地下室かもしれない。横の方で換気扇が回っていた。あった。叫べば  
誰か助けてくれるかもしれない。そう思った矢先、換気扇の向こうから  
電車が通過する音が聞こえた。  
「近くに線路があってね。数分に一回はこいつが聞こえてきます。叫ん  
だところで誰も気づきませんよ」  
こちらの考えなどお見通しだと言わんばかりに、男はせせら笑った。  
 
「私を………どうする気?」                     
「どうなると思います?」  
男は立ち上がり、夜の股間に顔を近づける。まるで彼女が忌み嫌う犬  
のように、音を立てて臭いを嗅ぐ。  
嫌悪感から、夜は身を固まらせた。何とか逃げようと藻掻くが、体を  
拘束する縄は緩むことはなく、空しく体が揺れるだけだった。このまま  
処女を散らされるのか? だが、男が取った行動は彼女の予想を遙かに  
上回るものだった。  
男の太い指が、夜の肛門にメリメリと侵入してきた。予想だにしなか  
った事態に、夜は瞬間的なパニックに陥る。  
「ちょっ……そこは……い、いやぁぁ、ひぃぃっ!?」  
身をよじると肛門がキュッと締まり、男の指をきつく食いしめた。そ  
れに気を良くしたのか、男はゆっくりと指の前後運動を開始した。その  
度に夜は悲鳴をあげて藻掻くが、宙に浮いた状態ではどうにもならない。  
返って力が入り、肛門の締めつけを強くするだけだった。  
「随分と敏感ですね……こちらでの経験があるのですか?」  
「そ、それは………あ、あぁぁっ、いやぁぁっ!」  
男が指の動きに変化をつけたため、言葉が途切れる。焦らすように入  
り口を弄っていたのがどんどん速くなり、根本深くまで挿入してくる。  
そうしながらも男は執拗に夜の性経験を問うが、容赦のない指責めを受  
けている夜は答えることができない。  
「言いなさい、ケツ穴でしたことがありますか?」  
「ひぃぃ、ひぃいぇぇ、ないわっ。ひぁことなぃわぁ!」  
「バージンですか………それでこれだけよがってるってことは、相当の  
変態ですね。壊しがいがある」  
2本目の指が挿入され、グイと肛門が拡げられる。  
「クゥ……あぁぁぁいぃぃぃっ、うあぁぁぁ」  
初めて経験する感覚に、夜は戸惑っていた。気持ちでは否定しても、  
体は肛門抉られることで感じている。その証拠に、夜の股間からは洪  
水のように愛液が噴き出ていた。  
不意に男は指を引き抜き、夜から離れる。部屋の奥から大きな鏡を  
持ってくると、夜に自分の体が見えるよう壁にかける。否応なく自分  
の姿を見せつけられ、思わず夜は視線を反らした。  
目を開けることができなかった。                 
排泄器官をなぶられた。その事実が受け入れられず、鏡に映る自分  
を直視できない。自己嫌悪がこみ上げ、夜は静かに涙した。  
 
だが、夜に自身を哀れむ時間は与えられなかった。  
「目を開けなさい………まあ、そのままでも良いですけど」  
再び、異物感が直腸を引き裂いた。指とは違う、冷たい無機質な感  
覚。痛みで目を開くと、巨大な注射器を肛門に突き刺した自分が鏡に  
映っていた。それだけで、男が何をしようとしているのかが理解でき  
た。  
「いやぁ、やめてぇぇ………あぁぁっ!」  
間髪入れず、中の液体が直腸に送り込まれ、夜は息を飲んだ。得体  
の知れない液体が生き物のように直腸を逆流し、粘膜は火で焼かれた  
ように熱くなる。  
液体が全て注入されると、新しい注射器が肛門にあてがわれた。今  
度も一気に中の液体を押し込まれる。徐々に大きくなる圧迫感に、こ  
のままでは腸が破裂するのではないかと恐怖する。  
「やぁぁ………やめ………!?………」  
不意に、下腹部が盛り上がるような錯覚を覚えた。昨晩から溜まり  
に溜まった尿が膀胱の中で暴れ回り始める。漏らすまいと必死で力を  
込めるが、逆に今度は腸内の液体を意識してしまう。もう、プライド  
など保っていられない。切羽詰まった夜は叫んだ。  
「降ろして……お願い降ろして!」  
「駄目です。ちゃんと目を開けて下さい、今の自分の姿が良く見えます  
よ」  
「嫌よ! やめて………いやっ!」  
空になった注射器を捨て、男は最初に自分が座っていた椅子に腰か  
けた。そのまま、高みの見物としゃれ込む気のようだ。  
息をするのも忘れて、夜は必死で耐えた。全身の毛穴が開き、玉の  
ような汗が噴き出てくる。少しでも力を抜けば、爆ぜてしまう。しか  
し、便意と尿意はどんどん大きくなっていく。  
次の瞬間、夜は呆気なく決壊した。  
まん丸と口を拡げた尿口から黄金水がしぶき、綺麗な放物線を描  
く。  
堪えていたものが抜けていく開放感から、下腹部に込められてい  
た力が僅かに緩んでしまう。たちまち肛門が広がって裏返り、茶色  
い奔流が壊れた水道のように流れ出す。  
「ひぁぁっ、いやぁぁぁ、あぁ………」  
内臓が飛び出るかのような感覚に、放尿が止まった。だが、すぐ  
にまた激しい失禁が始まる。2つの肉管を擦られ、断続的に訪れる  
悦楽が脳を刺激し、気絶することすら許されない。直接神経に電流  
を流されたかのようなエクスタシーに、クレヴァスからも愛液が分  
泌される。  
いつの間にか、男は壁にかけていた鏡を夜の近くに掲げていた。  
鏡の表面に尿がぶつかり、飛沫が弾く。3つの穴から飛沫を迸ら  
せ、絶頂に酔いながら自分を汚す姿をまざまざと見せつけられ、  
夜はとうとう気を失った。  
 
8月※※日(火)  
 
その日、妹の桜は体調を崩し、朝からずっと部屋に閉じこもって  
いた。昨日まで元気に外を遊び回っていたことを考えると不思議な  
気分だが、昨日の夜に帰宅した時も顔色が悪かったので、隠してい  
た夏風邪が悪化したのかもしれない。  
 生憎両親は用事で出かけているため、面倒は僕が見なければなら  
ない。相変わらず森野は行方不明のままで、携帯電話にも繋がらな  
い。僕としては早く探しに行きたいのだが、病床の妹を放っておく  
わけにもいかなかった。  
「ごめんね………」  
桜は弱々しく謝る。顔色はまだ青いが、昨日よりはましになって  
いた。最初に見た時は、酷く憔悴していて、本当に生きているのか  
疑わしかったほどだ。  
「私は良いから、森野さんのところに行っても良いよ」  
「そこで、どうして森野が出て来るんだ?」  
桜は森野を僕の恋人か、それに近しい人物だと誤解している。何  
度も理論立てて否定したのだが、一向に認識を改めず、こうしてよ  
く話題に出してくる。  
「そういえば………昨日、森野さんを見たよ」  
「森野を? いつ?」  
「昨日、家に帰る途中で」  
桜が帰宅したのは午後8時を回るか回らないかという時刻だった。  
僕が森野と別れたのは午後6時半。森野の母親から連絡があったの  
はそれから桜が帰宅してから2時間後。つまり、桜は行方不明にな  
る前の森野を目撃したことになる。  
僕は問いつめたい衝動を抑え、務めて冷静に振る舞った。変な行  
動に出れば、桜の誤解は一層に酷くなる。  
「それで?」  
「うん…………」  
言いにくいことなのか、桜は僕から顔を逸らして言い淀む。しば  
らく待つと、ポツリポツリと昨日のことを語りだした。  
 
桜は昨日、友達と夏休みの宿題をするために出かけていた。と言  
ってもそれは建前で、実際のところ宿題もせずに友達達と終始喋っ  
ていたらしい。その帰り道、近道をしようといつもは通らない雑木  
林に足を踏み入れた。そこは町中だというのに周囲の騒音も聞こえ  
ず、世間から隔絶された異空間だった。夜は暗くて足下も危ない上、  
何度か変質者も出たことがあるので、地元の人間はまず近づかない。  
しかし、急いでいた桜は恐怖心を抑えてそこに入ったのだ。  
「そこで………見つけちゃって」  
死体を。  
桜は死体を見つけるという特殊な才能を持っている。小学生の時  
に死体を見つけて以来、度々見つけてはこのようにふさぎ込んで熱  
にうなされる。しかも、その間隔は段々と短くなっていっているの  
だ。  
「私、夢中で走って……その時なの、森野さんを見たのは」  
桜の話では、森野は桜がいたのとは反対の茂みから顔を出してい  
たらしい。一瞬見ただけなので断定はできないが、森野にとても似  
ていたらしい。  
ふと気になって、僕はその雑木林の場所を聞いた。そこは、森野  
の家からやや離れたことろにあり、彼女が帰宅するためにはその近  
くを通らねばならない場所だった。桜が森野を見たとしても不思議  
ではない。しかし、見過ごすことのできないものがそこにはあった。  
桜の見た死体が誰かに殺された者なら、当然それを行った者がい  
るはずだ。そして、森野は自分でも知らない内に異常者を惹きつけ  
てしまう。この2人がどこかで交差したとしても、おかしくはなか  
った。  
気づくと、僕は立ち上がっていた。訝しげに、桜は僕を見上げる。  
「少し、出てくる。そう……2時間くらいで戻るよ」  
桜には悪いが、あまり時間がないかもしれない。既に森野がいな  
くなって半日。時が経つにつれて、森野が生存している確率は低く  
なる。  
桜は心得たと言わんばかりに頷き、手を振った。部屋をでて行こ  
うとする僕に、「森野さんのことが心配なんだ」と声をかける。反  
論するのももどかしく、僕は足早に家を飛び出した。  
 今度こそ、森野が死ぬ場面をこの目で見られることを願って。  
 
ここに監禁されてから、どれくらい過ぎたのだろうか?  
ぐったりと体を横に寝かせ、夜は考えた。しかし、とっくの昔に  
狂ってしまった体内時計では計ることもできず、すぐに考えるのを  
止める。  
今、この部屋には夜しかいなかった。気がつくと男はおらず、手  
首以外の拘束が外されて床に寝かされていた。しかし、今度は首に  
は犬用の首輪が巻かれ、鎖で壁に繋がれているため、状況的には吊  
られていた時と大して変わっていない。  
フッと、気を失う前のことを思い出し、屈辱感がこみ上げてくる。  
あの後も男は何度も浣腸を繰り返し、夜の体を弄んだ。性交もまだ  
したことがないのに、肛門を責められて喘いだ自分が堪らなく惨め  
だった。  
「起きていましたか」  
ガチャリと奥の扉が開き、男が入ってくる。手にはお盆が握られ  
ていて、乗せているものを落とさないよう慎重に近づいてくる。ま  
た浣腸されるのかと身構えるが、男は夜の前にお盆を置いただけに  
留まった。  
「食べなさい」  
お盆の上には、牛乳とシリアルが動物用のプレートに盛られてい  
た。まるで自分の惨めさを突きつけられたような気がして、嫌悪感  
が顔に表れる。思わず、夜は口走っていた。  
「嫌よ」  
「何故です?」  
「嫌なものは嫌!」  
手が使えない状態では、犬のように這いつくばって食事を取らねば  
ならない。犬の真似をすることだけは、死んでも嫌だった。  
 
「仕方ありませんね」  
男は部屋を出ていき、大きな段ボール箱を抱えて戻ってくる。意  
図がわからず、夜は身を固めたまま首を捻った。  
段ボール箱を床に置くと、男はおもむろに夜の体を抱きかかえた。  
背中を地面に押しつけ、両足を大きく持ち上げて秘部と肛門を頂点  
に持ってくる。  
「な、何をするの………?」  
恐怖の余り、声を引きつらせてしまう。だが、意思に反して彼女  
の秘部はジンワリと湿りだしていた。  
男はどこからか銀色のクスコを取り出すと、浣腸責めでただれた  
夜の肛門に突き刺した。  
「ひぃっいやぁぁ」  
ヒンヤリとした感触が伝わってくる。そのままグイとクスコが押  
し込まれ、腸の中が丸見えになった。片手で夜の姿勢が崩れないよ  
うに押さえ、もう片方の手は床に置かれた段ボール箱を引きずって  
くる。夜の位置からは見えないが、そこには大量のシリアルが詰ま  
った袋と、500リットルの牛乳瓶が何本も入っていた。  
やがて、クスコに大量のシリアルがぶちまけられる。  
「ひっ!? あぁぁぁぁつ!?」  
ギザギザな表面が直腸をなぞり、夜は悲鳴を上げる。  
今度は牛乳が注ぎ込まれた。先程まで冷蔵庫で冷やされていたた  
め、直腸が爆発したような痛みを訴える。  
「いやぁっ、やめぇ、やめてぇぇっ………」  
夜の懇願を無視して、男は用意したシリアルと牛乳がなくなるま  
で作業を続けた。最初と違って何一つ言葉を発しないため、余計に  
恐怖感が煽られる。  
「うぅぅ………ぐぅあぁぁぁ」  
クスコが抜かれると、腸内で牛乳が逆流を始めた。牛乳に浸され  
たシリアルはくっついて塊となり、異物感が膨れあがっていく。連  
続浣腸によって疲弊しきった肛門は堪えることもできず、強制的に  
造り出された便が駆け上る。  
「いやぁぁあっ、あぁぁっ!」  
噴水のように白い液体が噴き上げ、塊となったシリアルが落下し  
てくる。常軌を逸した食事法に、秘部は更にじゅくじゅくと愛液を  
迸らせ、牛乳と共に夜の顔を汚していく。  
夜は子どものようにむせび泣き、ただ首を振って快楽に耐えるこ  
としかできなかった。  
 
8月※※日(火)  
 
桜が見たという死体は、雑木林の真ん中辺りにある杉の木の下  
に放置されていた。だが、それを死体と呼べるのかどうか、僕に  
は判断がつかなかった。何故ならそれは、人として形はおろか、  
身体の一部であると判別できないほど、乱暴に解体されていたの  
だ。むしろ、破壊と表現した方が良いかもしれない。破壊された  
パーツは広範囲にばらまかれており、目につくだけでも手、足、  
二の腕、眼球、耳が土に汚れて転がっていた。それはまだ綺麗な  
部類で、中には切断を途中で止めて皮一枚で繋がっている部位や、  
鈍器で砕かれたようなものもあった。薄暗い中、よく桜はこれが  
人間だと気づけたものだ。  
ふと僕は去年の夏に遭遇した、バラバラ殺人事件を思い出した。  
あの事件も被害者はこのように解体され、オブジェのように飾ら  
れていた。  
しかし、これはあの事件とは違う。死体の解体方法が雑だし、  
飾られているわけでもない。僕にはそれが、意味のあることに  
思えて仕方なかった。それに、どうして犯人は死体を埋めるの  
ではなく地面の上に放置したのか………。  
そこまで考えて、僕は一つの予想をうち立てた。  
その突拍子もなさに、僕は我を疑った。  
汗で濡れた顎を、拳で拭う。木々の隙間から照りつける陽光  
を眩しいとも思わず、僕はただその場に立ちつくした。真夏だ  
というのに背筋が凍りついているような気がした。何の裏付け  
もない想像が、一番正しい気がしてならない。  
調べる必要がある。  
急がなければ、森野もこの死体と同じように、破壊されてし  
まうかもしれない。  
 
「うぐぅぅ、あぁぁぁっ、あ…………」  
ゆっくりと抽送されるアナルバイブの刺激に、夜は堪らず嬌  
声を上げた。とろけきった肛門の柔壁をこすられ、ねじられる  
ように抉られていくうちに、肉の喜びが律動を始める。  
おぞましいと思う気持ちとは裏腹に、体はマゾヒスティック  
な快楽を求めていた。度重なる行為で夜は自我を保てなくなっ  
ていた。彼女が未だ処女だと言われても、信じる者は誰もいな  
いだろう。  
「あぁっ、そ、そこ………だ、めぇぇ」  
夜は鼻フックをかけられ、醜く顔を歪めていた。乳首とクリ  
トリスでは張り付けられたピンクローターが振動しており、そ  
れ一層強く便意を刺激する。既に夜は1リットル近い量の浣腸  
を施されているのだが、アナルバイブで肛門を塞がれているた  
め、出口を求めて腸内を暴れ回る浣腸液の苦しみに身を任せる  
しかなかった。  
「お、お願い………出させて……」  
男は無言でバイブの抽送の速度を上げた。それが答えだと言  
わんばかりに。腸璧を突き破るかのように深々とバイブが打ち  
込まれ、更に男は夜の腹部を思い切り押し込んだ。悲鳴が室内  
に木霊する。  
「ふぐぃっ!? やめ………あ、あぁぁっ、で、出る……出る  
ぅぅ!」  
肛門を塞いでいたバイブが噴き出した浣腸液の勢いで吹き飛  
ぶ。下品な音を立てて、夜は脱糞した。その顔は恍惚とした表  
情を浮かべており、涙と涎で汚れていた。しかし、次の瞬間、  
その顔は恐怖に凍りついた。  
荒い息を吐き、ぱっくりと開いた口には白く光る牙。獰猛そ  
うな瞳と黒い体毛。大型のドーベルマンが、そこにいた。  
「い、いやぁっ………来ないで………」  
ドーベルマンの股間には、太くて赤黒くペニスがそそり立っ  
ていたケロイドでただれているようにも見えるペニスは既に先  
端が少し濡れており、見る者に嫌悪感しか与えない。  
男はドーベルマンの手綱を手近な突起に引っかけると、夜の  
体を四つん這いに寝かせた。さっきの絶頂の余韻がまだ残って  
おり、夜は抗うこともできない。  
秘部が充分濡れていることを確認すると、満足そうに微笑む。  
これならば、受け入れても痛みは少ないだろう。だが、暴れら  
れても困るので、縄で念入りに拘束しておく。そして、お預け  
を食らって不機嫌なドーベルマンを呼んだ。  
「やめて……や、やぁぁっ、来ないでっ! いやぁっ!」  
ドーベルマンの股間にそそり立つ性器を見て、夜は悲鳴を上  
げて気絶した。  
男は残念そうに肩を落とした。もう少し暴れてくれること  
を期待したのだ。だが、これでやりやすくはなった。前の娘  
はドーベルマンと交わったことで絶頂死した。この娘もそう  
なるのか、それとも生き抜いて、より激しい責めを受けるの  
か。どちらにしても、男にとって人が壊れていく様はこの上  
ない楽しみだった。  
「その辺に、しておいてくれませんか?」  
ドーベルマンが、弾かれたように夜から離れる。まるで、  
自分よりも格上の存在に怯えているかのように。  
振り返ると、黒い衣装に身を包んだ少年が壁にもたれかか  
っていた。その少年は、気が狂いそうなまでの虚無と死の匂  
いを内包していた。  
 
僕という侵入者が現れても、男は平然とした顔のまま、僕  
の方を振り向いた。酷く特徴のない顔で、集団に紛れれば埋  
没してしまうだろう。しかし、歪に歪んだその唇は、既に彼  
が常識から逸脱してしまった存在であることを物語っていた。  
「君は……この娘の恋人かい?」  
何故、世間は僕と森野を恋人同士にしたがるのだろうか?  
その疑問を振り払い、僕はズボンのポケットに手を突っ込  
む。いつでも飛びかかれるよう、そこには去年の夏にある人  
から譲って貰ったナイフが入っている。  
「※※町の雑木林に死体を捨てたのは、あなたですね」  
「ああ。あの娘はなかなか私の責めに耐えてくれた。出来れ  
ばもう少し生きていて欲しかったのだけれどね」  
壊れてしまったから捨てた、というような言葉に、僕は僅  
かに違和感を覚える。  
「だが、よく犯人が私だとわかったね」  
「ええ、これは賭けです」  
同じ時間、同じ場所に2人の人間がいて、森野は行方不明  
となり、桜は無事に帰宅した。犯人が森野をさらった可能性  
は高い。それなら、何故桜を狙わなかったのか。桜は死体を  
目撃している。放っておけば警察に通報されるかもしれない。  
それを承知で犯人は森野をさらわねばならない理由があった  
のだ。警察に通報されることを覚悟でやらねばならないこと、  
つまり…………。  
「森野は、あなたを見た」  
死体の存在を知られてまで守らねばならないもの、それは自  
分自身だ。「雑木林に死体が捨てられている」と「雑木林に死  
体を捨てた犯人を見た」ではどちらに天秤が傾くかは明白だ。  
 すぐにでもここを立ち去らなければ、警察がやって来るかも  
しれない。しかし、目撃者を放っておくわけにもいかない。だ  
が、2人の人間を捕まえることはできない。なら、せめて自分  
の顔を見た方を。  
「ええ、その通りです。まあ、次の獲物を探す手間が省けたと  
いう点では、あれは最良の判断でしたけれど。ですが、それだ  
けでは犯人を特定することはできませんよ」  
「ここからは骨が折れました。何しろ手がかりが何一つない。  
ですが、人間というものは必ず誰かに見られているものです。  
あなたも例外ではない」  
雑木林を立ち去った後、僕は丸一日かけて森野の足取りを  
追った。そして、ペットショップのオーナーが森野らしき女  
性を抱えて歩いているところを目撃した人物に出会ったのだ。  
その人はホームレスで、捨てられた書籍を拾ってリサイクル  
業者に売ることで生計を立てていた。月曜日は週刊漫画の販  
売日であるため、ゴミ箱には読み終えたそれが捨ててあるこ  
とが多く、店の前のゴミ箱を漁っているところ、偶然森野を  
担いだ男を目撃したのだ。  
そこで休業中だったペットショップに侵入し、この地下室  
を発見したのだ。  
 
「人が壊れるのを見るのは……好きなんですけどね」  
不意に、男は語りだした。  
「殺すつもりなんてなかったんですよ。ただ、どこまで人間  
を壊すことができるのか、試してみたくなって。一応、餌づ  
けはちゃんとしたんですけど」  
その言葉に、僕はこの男に抱いた違和感が何なのか理解し  
た。  
今まで目にした猟奇殺人犯たちは、程度の違いはあれ、殺  
人そのものが生き様だった。現実から剥離しているような孤  
独と虚無感の中で、人を殺すことだけが自分自身の存在を  
現実に繋ぎ止めていた。しかし、この男はそれらと同じで  
ありながら、決定的に違う部分があった。  
殺人を、望んでいないことだ。  
行為の果てに殺してしまうのであって、殺すことを目的  
とはしていない。この男の望みは、少しでも長く獲物が生  
き長らえ、体と心を徹底的に蹂躙し、破壊すること。死体  
を破壊したのは、その行為の果てに辿り着いた一つの結末  
だったのだ。  
 この男は、いわば心を殺す殺心鬼だ。  
「森野を返して貰えませんか?」  
「悪いが、もう少しこの娘を壊したいんだ。それに、君と  
いうつがいがいれば、もう少し保ちそうな気もするな」  
男はポケットから果物ナイフを取り出した。  
森野だけでなく、僕も捕らえて陵辱するというのか。  
ポケットの中でナイフが渇きを訴える。導かれるままに、  
僕はナイフを引き抜いた。捕まって、辱められ、破壊され  
るのはごめんだ。  
「……………」  
勝負は一瞬で決まった。男が果物ナイフを振り下ろすよ  
りも早く、僕のナイフが男の胸に吸い込まれるように突き  
刺さった。生きた肉を貫く感触が、ナイフを通じて手に伝  
わってくる。  
「人は……いつか壊れます。このように………」  
ドサリと、男は床に倒れ、動かなくなった。  
破壊を望んだ殺心鬼は、呆気なく事切れた。  
ドーベルマンもいつの間にかいなくなっている。動物の  
本能で殺されることを恐れたのかもしれない。  
地下室には僕と森野だけが残された。  
森野は無様な姿を晒したまま、気を失っている。次に目  
覚めた時、彼女は僕の知っている森野夜のままなのだろう  
か? それは、誰にもわからない。  
「森野は……壊れることなんて望んでいませんよ」  
呟きは、闇の中に沈んでいった。  
 
 
 あの一件から一週間ほど経った。  
僕も森野も、表向き何事もなかったかのように日々を  
過ごしている。相変わらず、彼女は唐突に僕を呼びだし、  
あちこち連れ回している。今日だって、隣県で起こった殺  
人事件の現場を見たいと呼び出され、こうして行楽シー  
ズンで賑わう電車に揺られているのだ。  
森野は騒いでいる子ども達の声が不快なのか、不機嫌な  
顔で文庫本に目を落としている。邪魔すれば怒られるので、  
僕は黙って目的の駅に到着するのを待った。  
ふと、あの殺心鬼のことを思い出す。  
彼が破壊した死体は桜を通じて母さんが警察に通報し、  
マスコミが「解体殺人事件」として連日のように報道し  
ていた。しかし、その犯人であるペットショップのオー  
ナーの死は、新聞の端の方に小さく載っただけだった。  
きっと、この事件も迷宮入りになることだろう。  
『人が壊れるのを見るのは……好きなんですけどね』  
彼は人を壊すことを嗜好していた。その結果として、  
死体をあれほどまでに破壊したのだ。では、心が壊れ  
た人間とはなんだろうか?  
僕達が心と呼んでいるものは、理性と本能が織りなす不  
協和音のようなものだ。それが壊れるということは、自律  
のためのたがを失うということである。残るのはその人自  
身の願望であり、生きるための方向性。「  」を行いた  
いという動詞しか残らない。いわば、その人自身の本性だ。  
だが、森野の本性であるところの森野夕は、10年も前  
に死んでいる。彼女は知らず知らずの内に、姉である森野  
夜という仮面を被り、それ自体に心を塗りつぶされている。  
彼女が望んでいるのは、森野夜として死ぬこと。それは、  
森野夕として死なせてしまった姉への贖罪だ。  
 
だけど、僕はそれを望まない。  
あの殺心鬼との僅かなやり取りは、僕が常々抱いていた  
疑問を解いてくれた。  
僕は、森野夕を殺したいのだ。  
姉を失い、自己を殺し、自分ではない者として生き、死  
んでいかねばならない少女。僕は、彼女が森野夕として死  
ぬ場面が見たいのだ。  
それは叶わぬ夢だった。  
「夜」として死にたい森野。  
「夕」を殺したい僕。  
ジレンマだ。2人の望みは決して交わらない。  
僕には、森野夜を壊す術はない。或いはあの殺心鬼  
なら、「夜」を破壊することが出来たかもしれないが、  
今となってはどうすることも出来ない。僕に出来るの  
は、いつか森野が「夕」に戻ってくれるのを待つこと  
だけなのだろうか?  
そっと、僕は森野のお尻に触れた。  
「………!」  
森野は顔を強張らせたが、拒絶はしなかった。その  
まま僕は周りに気づかれないよう森野のお尻を撫で、  
肛門の周りをなぞる。  
「んぅ…………」  
場所をはばかってか、森野は嬌声を押し殺した。小  
さな声で「止めて」と囁くが、目はより強い刺激を求  
めていた。  
僕はスカートごしに中指を肛門に突き刺し、ゆっく  
りこねくり回しながら言った。  
「目的地とは違うけど、次の駅で降りようか」  
「………………」  
無言のまま、森野は肯定の意味で首を振る。これか  
ら何をされるのか、期待と興奮で秘部は湿りだしたの  
がスカートの生地ごしでもよくわかった。  
「良い娘だね、夕」  
僕には、森野夜を壊す術はない。  
ならば、僕は僕なりに、「夕」を殺す方法を模索す  
ることにしよう。焦らなくとも、時間は充分にある。  
(ずっと一緒だ。森野夕…………)  
 
                   (了)  
 
 

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