―――ある朝。
前日に『特急仕立て』を行った織部悠が、夢も見ないような熟睡から覚めたとき、
「・・・・・?」
下半身にえもいえぬ違和感を感じた。むずがゆいような、生暖かいような。裸眼で定まらぬ
視線のまま、そこに目を向けると、もぞもぞとタオルケットの塊が蠢いている。
(・・・・・??)
寝ぼけて靄のかかった頭ながらも、サイドボードから眼鏡を拾い上げ、何事かとタオルケッ
トを剥ぎ取る。そして、中身を見た瞬間、驚愕とともに、彼は一瞬で覚醒した。
「な、ななな!!」
「あら、おはよう」
まるで、普段通り。街角であったときとまったく同じ調子で挨拶を返してくる、オカッパ、
もといジラソーレ・フィレンツェ支店の才媛、ベアトリーチェ・パスコリ。だが、その身に着け
るのはだるんとしていて、どうしても隙間に目がいってしまうワイシャツだけ。起き抜けに元気
一杯なオリベ自身はトランクスをずいと押し上げて、整ったベアトリーチェの顔のすぐ横にある。
そして、追い討ち。
「・・・・・昨日は、激しかったわね」
そんなことを言いつつ、頬に手を当てて、赤らめて照れるベアトリーチェ。
「鍵・・・・・」
「何かしら?」
「いやいや、どうやって中に入ったんだって?」
「それはもちろん貴方がエスコートして・・・・・」
言いつくろうとしたが、じっと見つめてくるオリベの視線から、見破られていることを察した
ベアトリーチェは軽く肩をすくめた。
「もう少し慌ててもいいんじゃないかしら?」
「・・・・・いや、表に出てないだけってか・・・・・しかしまぁ、お宅もずいぶん思い切った手に出てき
たもんだなぁ」
上体を起こしたベアトリーチェを、オリベはまじまじと眺める。
奥襟にジラソーレのタグがついたワイシャツは彼女向けに作られたサイズでない。男物、それ
も上背があって割りに肩幅のがっしりした。おそらくあつらえられたのは元スポーツマンか、普
段からレジャーとして体を動かすのを好むタイプ、そして年のころは二十から四十。
大きめでつくりのしっかりしたそれを、あえて小柄な女性が着るところに、この服の色香があ
る。襟元と第一ボタンをわざと外し、ゆったりと開いた胸元から覗く、双房の曲線。白くなまめ
かしいそれと、生地を押し上げてかすかに浮かび上がる桜色の先端が扇情的だ。長時間着たまま
だったせいで、下ろしたてのパリ感がなく、くたびれた感じなのが、一戦交えた後のような感じ
を出していてまた良い。
ぐっと下に視線を落とすと、ぺたりと広がった裾から覗くデルタゾーン。ふとももに、飾り気
のない下着が覗く。
(完璧だな)
ある種の着こなしとしてオリベはそう思う。色香にまぶされたフェティシズム。骨抜きにされ
ない男はいないだろう・・・・・
(中身、知らなきゃな・・・・・)
「それで、この状況で、貴方はどうも思わないの?」
「・・・・・あいにくと、毒と分かってる料理を食べる気にゃなれんでな」
「ん?本当にそれが理由かしら」勿体つけるようなベアトリーチェの物言い。
「どういうこったい?」
「泥棒市の東洋人は、お稚児囲ってって評判なんだけど」
「お稚児って・・・・・小動物のことか!?」オリベの脳裏にマルコの顔が浮かぶ。
「勘弁してくれよ・・・・・」
店を開くからには、風評にはそれなりに気を使ってきたつもりだった。ただでさえ、余所者な
んて微妙な立場なのだから。
(・・・・・まさか、そんな見方をされるとはねぇ)
「まぁ、とかく世間はそういう無責任なお話を好むものだから。そう、たとえば、貴方の工房か
ら、あられもない格好の女性が白昼堂々、目に涙を浮かべて飛び出していったり・・・・・とかあった
ら、どんな話が作られるのかしらね」
笑顔にネコ口でそんなことを言うベアトリーチェと、背筋を凍らせるオリベ。
「選択肢を与えないで自由選択させるってのは、脅迫って言うんだと思うんだけどな・・・・・」
「私はたとえ話をしただけなんだけど?」
その頭ににょきっと二本、悪魔の角がはえて見えたのはオリベの錯覚だろうか。
(苦手なんだよなぁ、この嬢ちゃんは)
ため息とともに、ひらひらとオリベはベアトリーチェに手のひらを振った。
「OKOK、で、そっちの要求は?お前さんは俺になにを望む?最高の一着か?」
「今日はクライアントとしてでも、雇用者としてでもないの」ベアトリーチェの挑むような視線。
「そいつぁ、算盤ずくが身上のあんたらしくないね」
「あら、少し心外。一人の女として、貴方が魅力的に映った。そしてそれが私をこうさせた。そ
れ以上でも、それ以下でもない、って言ったら?」
照れも衒いもなく、頬まで唇を寄せて、吐息とともにベアトリーチェが呟いた。挑むような瞳
がすぐ側にある。
技なんだな。そう思った。けれども、分かっていながらも抗いきれない本能の部分があった。
「やれやれ。毒食わば皿まで、か」
仰向けに寝たままのオリベの体に、ベアトリーチェの体が覆いかぶさってくる。肌に感じる体
温と、男を惑わせるコロンの甘い香り。その整った顔立ちが次第に近づいてきて。
「んっ・・・・・・」
唇が重なる。
鮮烈な衝撃はない。けれど、能管をじくじくと淫気がまさぐっていくような、深く蕩ける口づけ。
首裏に手が回されると、重ねたままに、ベアトリーチェのもう一方の手がオリベの胸の辺りに伸
ばされた。
ぷち、ぷちと上から順番にボタンが外されていく。なすがままに、その手は下半身まで伸びていく。
起床から絶えず屹立したままのその部分に、下着越しの指の感触。
「ちゅぱ」
離れた唇には、涎の銀糸が伸びていた。
そのまま、その舌はオリベの胸板に這わされた。ザラリとした感触と唾液の適度なぬめり。それ
が生み出す掻痒に似た快感。猫科を思わせるように背中を曲げた、ベアトリーチェのワイシャツの
胸元は大きく開き、横になったオリベが上体を軽く起こしてそちらを見れば、鮮やかに朱色い先端
がちらりちらりと隙間から覗く。
(つぅ、自信あるようには見えたが、ここまで巧いたぁね)
清楚にも見える面立ちのベアトリーチェからは想像できない卓越した技に、オリベは翻弄されつ
つあった。
トランクスがズリ下ろされると、押さえつけられていたそれが勢いよく飛び出す。
「あら」
彼女の口から上がった驚嘆の声は、目にしたそれへの感想か。
だが、ためらうことなくそのしなやかな指先は、グロテスクな肉竿に伸ばされる。充血しきった
海綿体の固まりは、オリベの意図にかかわらず、時折びくんと脈打っていた。先端からカリ首にか
ける一番、敏感なところに手のひらの感触。それが包み込み、しゅにしゅにと弄ぶように、肉棒を
擦りだす。五指と手のひらで作られる、絶妙な力加減。笑みすら浮かべながら、ベアトリーチェは
そんな淫技に耽る。
―――そして、
「・・・・・・ん」
猛る先端に唇を近づけ、
くぷ。
飲み込んでいった。
「つっ・・・・・・」
思わず、オリベは上ずった声をあげた。口腔は熱くぬめり、頬の内側と舌とが絡まり、ペニスを
やんわりと包み込む。
のど奥まで届かんばかりにほおばられては、唾液まみれのそれが引き抜かれる。
ぐ、ずじゅ・・・・・・れる。
上下動するベアトリーチェの口腔から、水っぽい淫音が零れる。咥えたまま、その視線は上目遣
い。そして、時折、髪をかきあげる仕草。決して速いペースではない。しかし、その下は鈴口、と
わたりなど、敏感なところを外すことなく刺激する。
(ヤバイな・・・・・・)
想像より早く、射精感がこみ上げてくるのをオリベは感じていた。
んくっ、くぽっ、くぽっ・・・・・・
リズミカルにショートカットは揺れる。戯れにオリベは彼女の後頭部に手を伸ばした。さらりと
した髪の感触を感じつつ、先端がもっとも奥まで飲み込まれるタイミングを見計らって、
「・・・・・・んぷ!?」
ぐいと引き寄せた。
喉頭をつかれ、くぐもった悲鳴を上げるベアトリーチェ。屹立したペニスがすっかり飲み込まれ
ていた。肉塊に呼気が阻害され、眉をしかめる。
けれども、それも一瞬のこと。
すぐに彼女は、その口には大きすぎるそれに適応し、咽ることなく乱暴な進入を受け入れる。
こぽ、くぷ。
引き抜かれるたびに泡だった唾液が唇の隙間から零れて、顎を、首筋を、そして胸元を伝って落
ちていく。
本能に従って、このまま喉奥に放ってしまおうか?
猛りに任せて、ボブショートに突きこむオリベだったが、その手をベアトリーチェがやんわりと
外した。ネトネトと水っぽい肉槍が引き抜かれる。
「・・・・・・っ、けほ」
咳き込みに合わせて、彼女の口元からたらりと唾液が垂れた。
「脱いだほうがいいかしら?」人差し指をワイシャツに向けて、聞いてくる。
「・・・・・・着たままでお願いしたい」
「そう」
ベアトリーチェはかすかに笑って、ショーツに手を伸ばす。するり、白いそれが太ももに下りる
と、秘めやかな部分が露になる。
シャツの鮮やかな白さのせいだろうか。窓から差し込む朝日に包まれた部屋において、その絵は
淫靡というよりも崇高にも見えた。控えめな陰毛に、淡い色の合わせの部分。それがあまりにも出
来すぎているから、自分の体内にぐつぐつ沸き立っている劣情が、恥じるべきもののようにすら思
えてきてしまう。
オリベはまるで経験のない少年のように、頬を染めてそこから目を離した。そして、ベアトリー
チェの肩に手を伸ばすと、
ぽす、
「あん」
体勢を入れ替えた。小柄なその体をベットに押し倒し、自分が上に。シーツの海に沈むベアトリ
ーチェの頬は、かすかに朱が差している。
けれど、その表情はあくまで笑顔。いつもと同じ、笑顔でありながらも、本心は探らせない、あ
る意味では頑なな表情。
―――だからこそ、その氷の仮面を蕩けさせたくなる。
今度はオリベのほうからのキス。
舌を差し入れ、絡めあう。深い口づけと同時に、オリベは胸元から手を差し込んだ。
吸い付くような肌の感触に、程よい弾力。普段スーツに押し込まれていたそれは、思った以上の
大きさで、手のひらに余るくらいだった。
先端は避けて、わざとじらすように双丘に指を這わせる。
「・・・・・・っつ」
口づけの隙間から、甘い吐息が漏れた。
そうやって昂ぶらせてから、かすらせるように先端をなぞる。突起はすぐにぷっくりと起き上がり、
固みを帯びていった。強めにその部分を、中指で押すと、呼応するようにベアトリーチェの体がかす
かに痙攣する。
ワイシャツから、肩と片方の乳房を露出するようにはだけされると、下半身に手を伸ばした。
桜色の合わせの部分に指を伸ばすと、クレヴァスに沿ってじっとりと湿り気を感じる。
(もう濡れてる、か)
つぷん、と中指を第一関節までかき入れる。窮屈な入り口は、トロリとした愛液のおかげで、たや
すくそれを飲み込んだ。
(・・・・・・すでに準備万端じゃないか)
その部分。自分のものなど到底入りそうもない、その小さな穴を乱暴にこじ開けていく。思考の全
てはその一点に集中していく。長く続いた口辱を外すと、すぐさまオリベは猛りっぱなしの自身を、
ベアトリーチェの秘部に押し当てた。
唾液、先走り、愛液。さまざまな液体が混合したものを潤滑に、凶暴なそれがベアトリーチェの肉
列を裂いていく。
にちちちち。
「・・・・・・はぁう」
カリ首まで。もっとも出っ張った部分が、一番狭い先端を押し広げきって、進入したときに、ベア
トリーチェの口から、上ずった声が上がった。
普段より、数オクターブ高い、鈴の鳴るような喘ぎ声。
腰をさらに強く押し当てる。沈んでいく。小柄な体のどこにそんなキャパシティがあるのか、屹立
したペニスはどんどん飲み込まれていった。
熱い。狭い中、膣壁が絡んでくる。突き、そして引くたびにペニス全体が、膣内で擦られる。
感触を味わうように、ゆっくりとした挿入が続いた。どんつきまで突き入れ、抜ける寸前、カリ首
で入り口がみちみちと広がるくらいまで、引き抜く。
「ん、っ、あ・・・・・・ん」
ベアトリーチェの甘い声。
ピストンに夢中になっているオリベの腰に、彼女の両足が回されていた。突き入れに合わせて、そ
の足にぐっと力が入る。
「・・・・・・うわっ」
突如の逆襲にオリベが呻いた。
きっちりと固められているせいで、最奥に飲み込まれたまま、身動きが出来ない。ペニス全体が締
め付けられる。そのうえ、蟹ばさみ状態の足は、さらなる密着を求めてくる。ぐいぐいと腰を押し付
ければ、ボルチオにもっとも敏感なペニスの先端が擦られる。突き当たりの壁で、亀頭がごりごり擦
られるのだ。
両手も回され、抱きつかれ、前身をすっかり密着させられる。そんな状態でも、ベアトリーチェの
腰元は蠢き、オリベの吐精を促した・・・・・・
(やば、出るけど、このままじゃ・・・・・・)
「っ、いい、ですよ・・・・・・そのまま、中にっ・・・・・・!!」
反論を口にする余裕もなかった。もう限界を超えていて、危機感だけがストッパーだった射精は、
その一言を聞いた途端に瓦解。
「くぅ!!」
低く呻いて、オリベは溜まりに溜まったそれを吐き出した。
「出て・・・・・ますね・・・・・・うわ、まだ」
下腹部に目を落としたベアトリーチェが他人事のように呟く。
どくん、どくん。密着した体勢のまま、脈動してそれは白濁を吐き出す。一回、二回・・・・・・なかな
か終わらない。
あまりの量で、こぷりと合わせから収まりきらないスペルマが零れだして来る。
睾丸に軽く痛みを感じるくらい、大量にベアトリーチェの膣内に放出したオリベが、ようやくそれ
を引き抜いた。
ずるん、勢いを失った肉棒が引き抜かれてから、一拍、置いて、
こぽ、とろ。
入れっぱなしの時間が長くて、閉じの悪くなっているその部分から、粘っこい白濁が流れ落ちてきた・・・・・
********
事後。
弛緩したオリベを横目に、さっさと後始末を済ませ、スーツに着替えているベアトリーチェがいた。
「・・・・・・よくするのかい、こういうことは?」
「何が?」
ベアトリーチェは笑顔。いつもの表情。
「慣れすぎてるなって思ってさ。それも、普通じゃない」
接待用。
彼女の年で身につけているような技じゃなかった。
それを、仕事としているのではない限り・・・・・
「効率の問題ですね。一番手早い方法だと思ったら、するだけ」
ある意味で彼女らしい台詞だとオリベは思った。
「お宅んとこの社長さんは知ってんのかい?」
背を向けたベアトリーチェから、返事はなかった。
「・・・・・・ま、こうなった後で言うのもアレだし、人に説教垂れるほど立派な人間でも、長く生きてるわけ
でもねぇんだけどさ・・・・・・」
照れ隠しにか、寝癖の頭を軽くかきながら、オリベは続けた。
「傾城が安売りは勿体無すぎると思うぜ」
一瞬、ベアトリーチェの動きが止まった。でも、振り返った彼女はいつもどおりの笑顔を浮かべていた。
「・・・・・・褒めてくれてるの?ありがとう」
照れたオリベが顔を背けると、彼女はさっと部屋を出て行った・・・・・・