一人のさえない男が町をさまよっていた。ふと、目に付いた古本屋の看板に引き寄せられるかのように男はその店に足を踏み入れた。  
そこにはよくあるBOOK何とかというような店の雰囲気とはまるで違い、  
上品とも言うべき静寂に包まれていた。男は自分があまりにも場違いな人間ではないかと思い、店を出ようとした。  
「いらっしゃい。」  
その甘く頭に響くような声に振り向くとそこには妖艶な女が立っていた。  
「私は、この店の店主、みたいなものよ。」  
「はぁ。」  
心臓がバクバクと鳴っている。普段綺麗な女性と話すときの緊張感とも違うこの高まりは・・・  
もしかしてこの女性に一目惚れでもしたのだろうか、と男は思った。  
「何をお探しで?」  
話し掛けられ、あわあわしながら男は答えた。  
「あの・・・魔道書ってありませんか?」  
「あら、随分と物騒ね」  
くすくすと笑うミステリアスな女店主に真っ赤になりながら言い繕う。  
「あ、いえ、ちょっと学校のサークルでホラー系の出し物をしようか、という  
意見が出たので、ちょっと興味がわいて・・・」  
普段ろくに女性と話すことも無い男だが、何故かぺらぺらと都合のいい嘘をつく事が出来た。  
(エロゲーで興味がわいたなんて言えないよなぁ・・・)  
内心冷や汗をかきつつ、嘘に綻びが出ないようにさっさと切り上げようとする。  
「あはは、でもよく考えてみたらもし見つかっても、外国語とか出来ないですしね。とても読めそうじゃないし・・・」  
「あら、そんな事無いわよ。ちょっと待っててね。」  
その女店主は奥に引っ込み、しばらくすると一冊の古ぼけた本を持ってきた。  
「これ、大正の頃に中国からわたってきた魔道書を日本語に訳した物らしいの。」  
言われてみると『瑠璃色異本』と古めかしい文字で書かれたそれには何処か名状しがたい不気味さがあった。  
「見てもいいですか?」  
「どうぞ。」  
パラパラとめくってみるとやはりそこには所謂達筆な、男にしてみれば難解極まりない・・・  
まあ、それでもかろうじて理解できる文字がひしめき、古文が嫌いな男は眼がちかちかした。  
それを我慢して読み進めていくと、どうやらこれは悪魔を召喚する儀式が書かれているようだ。  
 
ふと顔を上げると、女店主は怪しい微笑を浮かべてこちらを見ている。  
「あの、これって高いですよね・・・」  
流石に何となくでこんな高そうな本を買うのに躊躇いを覚えた男は、女店主に尋ねた。  
「いえ、よろしければお近づきの印にどうぞ。」  
「ええ?でも・・・」  
「倉庫にほこりをかぶっているよりも、いくらかマシでしょうし、その本そのものにそんなに価値は無いんですよ。」  
「・・・本当にいいんですか?」  
「ええ、実はもうそろそろ倉庫の整理をしようと思っていたので───」  
「そういうことならありがたく頂いていきます。」  
「またのご来店をお待ちしています・・・」  
男は家に帰ると、じっくりと本に目を通し始めた。  
しばらくすると男はなんでも一つだけ願いをかなえる異世界の悪魔を召喚する項目に興味を抱いた。  
「うーん。この材料なら全部揃いそうだな・・・」  
男はこう見えてもいろいろな方面にツテがあり、サークルでも重宝されていた。  
「・・・やってみるか!」  
男は奔走し、2,3日で全ての材料をかき集めた。  
男が部屋に材料を集め、魔方陣を描いて、呪文を唱えると、真っ黒な煙があたりに充満し、それが晴れると、そこには悪魔が立っていた。  
邪悪なオーラを纏ったその悪魔は唸るような恐ろしく低い声で喋り始めた。  
「さあ、なんでも一つ願いをかなえてやろう。ただし、死後の魂は私が頂くぞ。」  
男の願いは既に決まっていた。  
「僕はあの古本屋の女主人のような人に死ぬまで愛されたい。」  
「よろしい。お安い御用だ。」  
そういうと悪魔はどろん、と姿を消した。  
あまりのあっけなさに呆けているとしばらくして、ドアを控えめにノックする音が聞こえた。  
男はもしかしたら、と期待に胸を躍らせつつドアを開けた。  
そうするとあの女店主が男に飛びつき、情熱的なキスをかわし、さらには  
舌を男の中に侵入させその口内を掻き回した。  
 
感極まった男は、すぐさま女店主を部屋に招きいれ、そのままベットになだれ込んだ。  
「あの日であってからあなたの事が頭から離れないの・・・  
お願い、私を抱いて・・・」  
「僕もだ、初めて君に出会ったときから、君とこうしたいと思ってた。好きだ。え、と名前、聞いてなかったな・・・」  
「・・・ミザリィと呼んで・・・」  
ふたたびミザリィは男の唇を奪った。  
そしておずおずと伸ばしていた男の手を掴み、胸と自分の茂みに導いた。  
「好きにしていいのよ。ほら、もう胸もこんなに尖っていやらしいでしょう・・・  
アソコもあなたの事を考えただけでグチャグチャになっちゃうの・・・  
こんなはしたない女は嫌いかしら・・・」  
「まさか!大歓迎だよ!愛してる、ミザリィ・・・」  
「私もあなたを愛してる・・・」  
溜まらず男はミザリィの豊満な胸にむしゃぶりつき、硬くなった自分のモノを  
どろどろに濡れたそこに突き刺した。  
「ああああああ〜〜〜いい!いいのぉ!!」  
ミザリィは長い髪を振り乱し、男が腰を振るたびに激しく喘いだ。  
「くっ、でる・・・」  
「だしてぇ!!膣(なか)にだしてぇ!!」  
びゅるるるる!!  
男はミザリィの奥深くまで押し込み、盛大に自分の精液を支給に流し込んだ。  
「ハァ、ハァ、凄かったわ。本当におかしくなりそう。」  
「僕もこんな、気持ち言いなんて思わなかった。・・・でも、もっと君を感じたい!僕で君をいっぱいにしたいんだ。」  
「いいわ。何度でも私を抱いて。犯して、めちゃくちゃにして欲しいの。」  
その言葉に男は興奮して飛び掛り、その日、ミザリィの喘ぎ声が絶える事は無かった。  
 
男はそれからも毎日ミザリィの体を楽しんだ。  
それだけでは飽き足らず、ミザリィにありとあらゆるプレイを要求し、ミザリィもそれを受け入れた。  
縄、蝋燭に始まり、スパンキング、浣腸、野外調教、アナルセックス、  
フィストファック、さらにはオムツを付けたり、乳首やクリトリスにピアスを通したり・・・ともかく考えられる物は全て試し、ミザリィもそれに答えた。  
 
しかし毎日欠かさず頑張りすぎた男は40歳で病気を患いもはや虫の息になってしまった。  
「少し死ぬには早すぎる感もしなくは無いが、俺にはもはや悔いは無い。  
20年もわがままをいわず、付添ってくれてありがとう。  
悪魔に魂を売り渡してでも、君を手に入れたのは正解だった。」  
ミザリィはにこりと笑うと、煙を噴き出し、悪魔の姿になった。  
あの20年前の男の魂を売り渡した悪魔の姿に。  
「お、お前、俺を騙してたんだな!畜生!」  
「人聞きの悪いこというな。お前はあの時、『女店主のような』って言ったじゃないか。それじゃ、俺が外見変えて付き合っても何の問題も無いだろう。」  
「何てことだ。こんな奴の体を毎日喜んで抱いていたのか・・・」  
「そう言うな。こういっては何だが、お前の激しいプレイに付き合うのも結構負担がかかったんだぜ。愛してたわ、あ・な・た(はぁと」  
ごつい顔をした悪魔が顔を赤らめ  
片目でウインクしながら、投げキッスをすると、男は突っ伏して動かなくなった。  
男の体から抜け出た魂を悪魔はぱくりと食べ、満足して姿を消した。  
 
 
 
誰もいなくなった部屋で本は音も無くふわりと浮き上がり、本当の主人の手に戻った。  
『悪魔の一番のご馳走は絶望した人間の魂です。そのため、悪魔は人を騙し、  
願いをわざと曲解し、人間を破滅に導きます。皆さんはもし、古本屋で妖しげな本を見かけても、決して近寄らないでくださいね。  
そうしないと皆さんもアウターゾーンに引き込まれてしまいますよ・・・』  
 
おわり  
 

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