〜『自慰の手順』〜  
 
「……じゃあお願い。ボクがここにいられるように、……教えて頂戴」  
肩から手首までを覆うシャツの袖以外、その身を隠す物を失った新庄・運切は、そっと呟いた。  
自分でも認められなかった秘密をあっさりと受け入れ、自分の全てを求めてくれた佐山・御言に向けて。  
彼に対する信頼と愛情に、自然と身体の力を抜いていく。  
脚の間に割り込んだままの佐山は、求めに応じて力強く頷いた。  
「うむ、それでは順を追って教えようか新庄君。まずはステップ1、『おもむろに揉みしだいてみよう』だ」  
「……えっと、いきなり前言撤回したくなってきたなぁ、ボク」  
眉が下がる。力を抜くのではなく、徒労感に似た脱力。  
「遠慮せずとも良いよ。実演を交えつつ、懇切丁寧に教えてあげよう。ふふふ」  
「予想はしたけど全然聞いてくれてないしっ! というかその含み笑いはなにっ!?」  
不吉な予感に顔が引きつる。やはり止めておけば良かったかとも思う。  
抱え込むようにして胸を覆ったこちらの手の甲へ、佐山はそっと自らの掌を重ねてくる。  
「ちょ、ちょっと待って! な、何する気?」  
咄嗟に脚の間を隠していた手で、佐山の手首を引き止めると、  
「君こそ聞いていなかったのかね? おもむろに揉みしだくと宣言したはずだが」  
「だってそんなの、……は、恥ずかしいよ」  
「なに、気にする事はない。この先もっと嬉し恥ずかしいことをするのだからね」  
「え? いまなんかボク、とっても聞き捨てならない台詞を聞いた気がするんだけ……どっ!?」  
言葉尻を遮るように、こちらの五指の合間に指先を滑り込ませ、乳房へと触れてきた。  
 
うろたえている内に、佐山は掌底でこちらの手を操る。  
胸の膨らみを覆ったまま円を描き、  
「あふっ! ……なっ、なに、今の?」  
そして起こった初めての感覚に、少し怯えた目をする。佐山は手を止めて、  
「ふむ、どんな感じがしたかね?」  
「どんなって、ぞくぞくっと来て、くすぐったいのとも違って、……上手く言えないよ」  
「なるほど、本当に何も知らないようだね。それがつまり、感じるという事だ」  
「そ、そうなの? でもボク、どうなってもいいのーとか、もう滅茶苦茶にしてーとか思ってないんだけど」  
「それは、もう少し先の話だよ。一体どんな雑誌を読んでいたのか、おおよその察しはついたがね」  
「……ううっ」  
言わずともいい事を口走ったことに気付き、うめきを一つ。  
からかうような視線に、みるみる頬に血が昇ってくるのが分かった。  
「ともあれ、それが新庄君の望みとあれば、そこまで感じさせてあげるのに異論は無いよ」  
「あっ、あのね、別にそうさせて欲しいとかじゃなくて……」  
「どちらにせよ、君に教えていく過程で、順次そうなって貰わないと困るわけだが」  
「そんな、うそ、ちょっと待っ、……くぅん!」  
自分の指と佐山の指、合わせて十指が片方の乳房を包み込み、ゆっくりと動き出す。  
胸に広がる甘い疼きに、唇から高い吐息が洩れる。  
「なにっ、これぇ……。こんな、ボク、こんなのっ……」  
疼くような、燃えるような、甘くて切ない感覚。  
未知の快感を引き出され、寝惚けたように虚ろな声を発した。  
 
「いいかね、この際の注意点は、最初はソフトに撫でる事だ。ゼリーを崩さないように触る感じで」  
「でもっ、ボク、ゼリーを撫でた事なんて、ないよっ……」  
「比喩表現という奴だよ新庄君。つまりは自分が痛くないように、こうして優しく触れば良いだけの話だ」  
「そんな、……あ、はぁっ……」  
彼の視線を遮るはずだった手の中で、ふにふにとその形を変えていく柔らかな肉。  
言葉通りに優しく、その場所をくるくると撫でる佐山の、そして自分の手。  
疼きから熱さへと変わってくる感覚に、次第に息が切れ始める。  
「なっ、なんかボクっ、早くも佐山時空に引きずり込まれてるっ?」  
「今度は時空ときたかね。君の豊かな詩的表現には、さすがの私も感歎する事しきりなのだが」  
「こういうの、詩的って言うのかなぁ。んっ、あ……」  
佐山に導かれ、胸の膨らみを撫で回す自分の手を、顎を引いてぼんやりと眺める。  
自分の意志とは無関係にゆったりと動く、己が手指の引き起こす不慣れな感覚に、激しくなる胸の動悸。  
想い人に触れられているという認識は、安堵にも似た高揚を起こし、熱さは甘美なわななきに転じる。  
彼の腕を制していたはずの手は、気付いた時には力無く腹の上に横たえられていた。  
「ひゃうっ!?」  
いきなり今までとは違う刺激を受け、大きく息を呑んだ。  
見ると、顔を覗かせた胸の突起が、折り曲げた佐山の指に弄ばれている。  
爪の先で引っ掻くように擦られ続けるうちに、そこが固く充血していくのが判る。  
頭の芯に響く波紋に、火照った身体が勝手に跳ね出し、  
「あっ、ちょっ、それやだ、やめてっ!」  
思わず口から悲鳴が迸った。  
 
「それはまた何故だね? 私が納得できるよう、論理的に10秒以内で答える事を要求しよう」  
「うわ短っ! それってつまり、やめてくれないってこと? あのねっ、だからさ、その、何て言うか……」  
「正解かつ時間切れだよ新庄君。何しろ君にこれを教えるのが、もはや最優先課題になっているのでね」  
「いつの間に最優先っ!? だからちょっと待っ、……や、あん!」  
またもや再開された円の動きで、隆起した胸の先端が指の間で転がる。  
残響が消える前に新たな刺激が上書きされ、快感が次々と胸の奥に堆積してゆく。  
見詰めてくる佐山の視線は熱く、重ねられた掌はさらに熱い。  
息苦しいほどの昂りを、しかし身体はゆっくりと受け入れ始めていた。  
佐山は軽く咳を払う。改まった口調で、  
「さて、もう少し細かく解説すると、この行為には大別して三種の動作が含まれている」  
「さ、三種?」  
「まずは、揉む。ほぐすような感じで、徐々に力を入れると良い」  
「んくっ、んっ!」  
言葉通りに、指先が絶妙な力加減で柔肉を掴み、変形させた。  
指の間からあふれた肉がまろび出て、動きに応じて波のようにうねる。  
「そして、撫でる。触れるか触れないかという、微妙な間合いを保つのが秘訣だ」  
「やふっ! ……あ、今、ゾクッて……」  
下乳を羽毛で刷くようになぞられて、背筋にぴりっと電流が走った。高鳴る鼓動の響きが思考を乱し、  
「最後は、擦る。特に乳頭の部分を、このように摘んで刺激するのは効果的だ」  
「ひんっ!? や、やっ、……んんっ!」  
指先でしこった先端を弄られ、触れられていない方の突起までが切なげに疼く。  
 
巻き起こる快楽に大きく喘ぎ、抗うように首を振る。  
しかし堪えようとすればするほど、身体の奥からは強い衝動が立ち昇る。  
「これらを組み合わせる事によって、いわゆる揉みしだくという一連の動作に繋がる訳だが……」  
胸から手を離し、こちらの顔を覗き込み、  
「どうだろう、そろそろ飲み込めてきたかね?」  
「うっ、うん。なんとなく、だけど……」  
問うてくる佐山へ曖昧に頷き、弾む息からどうにか言葉を紡ぎ出した。  
「よろしい。では今の要領を踏まえて、次は一人でやって見たまえ」  
「え……。こんなの、ボク一人で、……するの?」  
「最初の主旨を忘れてもらっては困るね。もっとも、私もつい先程まで失念していたのだが」  
「う、わ、分かったよ。……んっ」  
戸惑いつつも首肯して、膨らみの上に乗せていただけの手を、おずおずと動かしてみた。  
質感を確かめるように持ち上げ、指先で先端に触れると、確かに似たような感覚が起こる。  
しかし、佐山の手でされた時と比べると、快楽はあまりに微弱なものでしかない。  
「あれ? あんまり、さっきみたいにならない……」  
「それは良かった。自分でした方が気持ちいいとあっては、私としては立ち直れないからね」  
「そういうものなの?」  
「無論だ。しかし試みに問うが、今なにを考えて触っているのかね?」  
先程までとの違いに、納得のいかない面持ちで、手中の柔肉を撫で回しつつ、  
「え? なにって、ただ触ってるんだなーって……」  
ポツリとそう答える。  
 
「それが間違いの元だ。自分でしていると思うのではなく、私が触っていると想像するといい」  
「そ、それって変じゃない? 本人が目の前にいるのに」  
「だから、一人でする時の練習だよ。さあ、やって見たまえ」  
「うっ、うん……」  
躊躇いながらも、佐山の手の感触を反芻し、それを自分の手に重ねる想像を喚起する。  
身体に残る余韻がそれを助け、脳裏に心象が定まると、たちまち蘇る強い快楽。  
「ほっ、ホントだ、全然、違う……っ!」  
息を呑み、自分で引き出した感覚に、指が自然と導かれていった。  
 
              ◇  ◇  ◇  
 
「んっ、はぁ……。ふっ、ぅ、んは……ぁっ、ん……」  
己の胸元へ目線を落としたまま、次第に行為へ没頭していく新庄を、佐山はじっくりと観察した。  
教えた通りに、細い指が柔肉をゆっくりと揉み、優しく撫で、  
「くふぅ、あ、んっ! はっあ、……んくぅ、ふ……」  
要領が分かってきたのか、動きは徐々に滑らかさを増してゆく。  
色素の薄い突起を摘むようにして擦り、もう一方の膨らみを、肘の辺りでもどかしげに捏ね始める。  
「こっ、ここ……。すごく、じんじんするっ……」  
困ったように眉をひそめ、先端を弄る指先で、同じ動きを何度も繰り返す。  
弾む息と共に滑らかな臍の窪みが上下し、白い肌が血の色を透かして紅く染まっていく。  
時折小さく下唇を噛み、官能の高まりに身をよじる様は、  
「激烈にエロい……」  
「あっ……!」  
思わず洩れたこちらの呟きに気付き、ハッと面を上げたその頬が、みるみる羞恥の色に染まった。  
 
手を止めた新庄へ頷きを返し、  
「私に構わず、そのまま続けてくれたまえ。なかなか見事な揉みしだきぶりだよ、新庄君」  
「あ、あのさっ! もしかしてボク、とんでもないコトしてない?」  
「ふむ? 至って普通の、常識に則した手法だと思うがね」  
「手法とかじゃなくって、そもそも佐山君が見てる前でこんなコトするの自体、おかしいって言うか……」  
自信なさげな呟きに、今度はかぶりを振り、  
「気のせいだよ新庄君。第一、君は普通と異常の区別がつくのかね? 憶測で物を言ってはいけないな」  
「ううっ、やっぱりボクが全然知らないからって、何気にすっごいコトやらされてる気がするぅ……」  
「だからその半目はやめたまえと言うに。教えて欲しいと言ったのは君だろう?」  
諭すように宥めつつ、艶を増した肌に再び手を伸ばした。  
「まあそれはさておき、そろそろ次のステップへ移ろうと思うのだが」  
「さておかれちゃうんだね、ボクの疑問。……駄目って言っても、多分無駄なんだろうし」  
「飲み込みが早くて助かるよ。ステップ2は、『あちこち弄くり倒して開発してみよう』だ」  
「て、訂正を求めたい部分は多々あるんだけど、とりあえずその怪しい表現だけでも何とかならない?」  
訊ねられ、肌に触れかけた手を宙に留める。しばし黙考し、  
「……かなり無理な注文だね。私は実際に教わった通りの台詞を、そのままなぞっているに過ぎないのだし」  
「む、無理とか言う? それに一体だれに教わって……」  
「推察するに、それは嫉妬という奴だね。心配せずとも、今の私の脳内には、君の事しか存在しないよ?」  
そう告げて、何故か諦め切った表情をする新庄の腹に、そっと五指を這わせる。  
ひんっ、と息を呑むのに構わず、汗ばんだ肌の上を指先で蛇行。  
うっすらと朱を帯びた魅惑的な肢体が、視界の中で大きく跳ねた。  
 
「ぅひゃっ! ちょ、それ、くすぐった……!」  
「ふむ。これはまだ、くすぐったいだけかね?」  
「だけって、そんな事されたら、くすぐったいに決まって、……やんっ!」  
掌全体を使って、わき腹を優しく撫で上げると、悲鳴とは違う甘い喘ぎが起こった。  
そのまま脇の下まで遡ろうとすると、肘を締めてビクンと横に逃げる。  
一番下の肋骨を指先で拍子を取るように叩くと、んっ、と唇を噛み締める。  
「もう一度訊こう。こうされるのは、嫌かね?」  
「はぅ……。え、えと、分からないけど、……嫌じゃ、ない……よ」  
潤んだ瞳と目線を合わせてやると、恥ずかしそうに顔を逸らす。  
首を竦めて呟くその仕草に、強い欲求が込み上げた。  
「それはなによりだ。では私がこうして触っていくから、新庄君も自分で撫でて見たまえ」  
「んっふ、……あ、佐山君っ、ん!」  
右手と左手で塑像を整えるように、新庄の身体の輪郭を伝う。  
豊かな弾力を備えた肢体を、反応を見ながら、ゆっくりと緊張を解きほぐすように撫でる。  
腰骨に親指を掛け、まろやかな曲線をなぞるようにさすり、太股を撫で下ろす。  
「あっ……。ヘン、なんか、ヘンだよっ……」  
「さあ、私にされるばかりでは意味がないよ? 怖れずに、自分の好きな様に触っていいのだからね」  
「ボクの、したいように……?」  
頷いて見せると、ようやく決心したように、小さく顎が引かれる。  
腹の上に置かれていた指先が、遠慮がちにこちらの動きを追いかけ、肌を伝っていく。  
あえて促すまでもなく、乳房を押さえていた手の方も、再び自然と動き出した。  
 
「あっ、……こんな、あっちこっちしてると、ボク、訳わかんなく、なって……」  
「それは、やめて欲しいという意味かね?」  
「ううんっ、そうじゃ、ないよ……。だけど、頭、クラクラしてっ、……んあっ!」  
「私もご同様だよ。いつに無く興奮して、正直息苦しいぐらいだ」  
「同じ……? 佐山君も、ドキドキしてるの……?」  
不思議そうな呟き。自分の身体を撫でていた手が持ち上がり、こちらの胸の中央へと宛がわれる。  
ぴったりと確認するかのように、掌がシャツの上から押し当てられ、  
「ほんとだ……。ボクの身体を、触ってるせい……?」  
「そうだとも。だからもっと感じてくれたまえ。そうしてくれれば、私も嬉しい」  
「嬉しい……の? 佐山君も……?」  
「ああ、勿論だとも。それに、こうして君の身体を撫でくり回すのも、とても楽しいね」  
「そんなっ、ことっ、……んっ、や、言わない、でよ……」  
内股で指を閃かせると、もじもじと腰をくねらせて、快楽に耐える様子を見せる。  
遠い記憶と些少な知識だけが頼りでも、割と何とかなっているらしい。安心して、そのまま続行する。  
「あっ!? だ、だめっ! ちょっとタイムっ!」  
しかし、しばらく愛撫を続けていると、突然大きな声を上げた新庄は、ベッドの上で半身を起こした。  
そのまま身体を捻って逃げ出そうとするのを、がっちりと腰を掴んで引き止める。  
「タイムは無しだ。理由なき反抗は認められないよ」  
「お願いっ! なんにも訊かずに行かせて、ってか離してっ!」  
胴に引き寄せた太股をぴったりと閉じ、両手でシーツを握り締め、ずり上がるようにして抵抗する。  
泣きそうな顔をしながら、腰を押さえるこちらの手を振り切ろうと、じたばたと暴れ出す。  
 
……その態度からもしやと思う。あまりにベタではあるが、  
「まさかトイレなどとぐほっ!」  
「何で言うかなぁっ! じゃなくて、違うの、違うんだったらぁ!」  
「うむう、かなり効いた。……新庄君、勿論違うよ。だから落ち着いて、私の言う事を良く聞きたまえ」  
「……へ?」  
肯定の言葉にきょとんとし、暴れていた四肢がピタリと動きを止める。  
その隙に大きく息を吸う。そして畳み掛けるように、  
「脚の間が疼いて、しかもちょっぴり濡れている気がする。そうではないかね?  
 事前に教えそびれた私も悪かったが、それは決してお洩らしなどではない。  
 女性の身体は、ある程度の快楽を与えられると、そこが濡れてくるものなのだよ」  
「え、っと、その、……そうなの?」  
「うむ、そういうものなのだよ」  
そうなんだ、と安堵を込めて呟く新庄に、一点を凝視しながら何度も頷いた。  
少し距離が開いたせいで、閉じたつもりであろう太股の隙間から、ある部位がはっきりと覗いている。  
うっすらと茂った恥毛の合間から覗く、薄桃色の閉じた花弁が、呼吸に合わせて小さく息づく。  
そこから滴った雫が、脚の付け根を妖しく濡らしている様に、牡の衝動を強く誘われる。  
「もっとも見る限りでは、濡れているのはちょっぴりどころでは無いようだが」  
「は? 見る限りって、……うわぁっ!?」  
こちらの視線に気付き、新庄は慌てて跳ね起きると、はだけたシャツの裾を引き寄せ、そこを隠す。  
しかし、ほぼ十年ぶりに生で見た女体の神秘は、ただでさえ滾っていた欲望を、嫌が応にも昂ぶらせる。  
ズボンの前がはち切れんばかりに張り詰め、軽い痛みすら覚えた。  
 
              ◇  ◇  ◇  
 
身体の前に掻き合わせたシャツの布地を握り締め、新庄は堪らない思いに身体を竦めた。  
佐山の視線に陰部を晒していたと思うだけで、消え入りたいほどの羞恥を感じる。  
「み、見ちゃった? 見えちゃってたの? ボクの、その……」  
「はっきりくっきり、高画質で余す処なく。ちなみに今は、短期記憶を長期記憶に変換中だが」  
「それ絶対だめっ! 忘れてっ、消去してっ、ワンツースリーはい忘れたっ!」  
「時々、君は不可解な行動に出るね。うむ、それにつけても瞼に浮かぶのは、しっとりと濡れた……」  
「わーわーわー!」  
照れ隠しに喚き立てるが、見られてしまった事実は覆らない。  
熱い眼差しに下腹部の疼きは増し、内股をさらりとした液体が濡らす。  
見られたくなかった筈なのに、見られた事で興奮を覚えている。そんな自分が信じられない。  
「ところで新庄君。このまま続行するに当たって、重大な問題が発生してしまったのだが」  
「な、なに?」  
「先程のあまりに刺激的な光景のせいで、いささか私の冷静さが失われてきたようなのだ」  
話の筋が読めず、にじり寄る佐山をこわごわと見返し、  
「さっきまでも冷静だったとは思えないよ? いや、確かに目の色変わってるけど……」  
「しかし、ここであっさりと前言を翻すほど、私は無分別ではない」  
「佐山君にも分別ってあったんだ。ちょっと新発見」  
「そこで折衷案なのだが、男性になった時の方法も、今この場で教える事に同意してもらえるだろうか」  
「え、あ、うん。……あれ?」  
深く考えずに答えた直後。とてつもない地雷を踏んでしまった感触に、ふと首を傾げた。  
 
「では、了解を得た処で早速……」  
「ちょ、……な、何で佐山君まで脱ぎ出すのさっ!?」  
手早くベルトを外していく佐山に向かい、両手で顔を覆って、動揺に裏返る声で問い掛けた。  
指の間から窺う顔が、心底不思議そうな顔をして、  
「何を慌てているのかね。一緒に風呂にも入った仲だろう?」  
「だってあの時とは状況が違うしっ! も、もしかして、教えるって、まさかそういうことっ?」  
「察しが良くなって喜ばしい限りだよ。君は手順を覚え、私は落ち着く。まさに一石二鳥と言えよう」  
一人納得したように頷くと、ベッドの上に膝立ちになり、下着と共に一気にズボンを引き下ろして見せる。  
名状し難い形状を備えた物体が、その中から威勢良く飛び出した。  
「うわっ! なっ、なにそれ、なにそれっ!?」  
「何と言われても、まあナニなのだが。新庄君も自分の物は見慣れているだろう?」  
そう問い返す佐山のソレの先端は鋭角な線を描き、生の肉の質感を示している。  
男である時の自分のモノも、確かに朝起きた時などに、多少大きくなっていた事は無いではないが、  
「だっ、だってそれ、ボクのと全然カタチとか違うし……」  
「皮を剥いてみれば、新庄君の物も似たような感じだと思うがね。後ほど試してみるといい」  
「む、剥く? それって、剥いたり出来るもんなの?」  
「まあ、最初は多少の痛みを伴うと思うが、普通は剥けるものだよ。更に詳しく聞きたいかね?」  
「ううっ、それはとっても自爆行為のような気がするから、止めておく……」  
下着を脱ぎ捨てた佐山に返しながら、視線は股間に釘付けになっている。  
頭ではグロテスクにさえ思えるのに、身体は何故か熱を高め、下腹部の疼きが収まらない。  
その視線に佐山は少しも動じず、続けて脱いだシャツも軽く畳むと、閉ざした膝に手を伸ばしてきた。  
 
「さて、それでは再び開脚して貰えるかな?」  
「やっ、やだ、もう見ちゃやだっ!」  
割り開こうとする手に抗い、合わせた腿に力を込めた。両腕で身体を隠し、大きくかぶりを振る。  
知識は無くとも、いや、無いだけに余計なのか、今の自分の状態を知られる事は、ひどく恥ずかしい。  
それでも、佐山が素直に聞き入れてくれるとは思ってはいない。しかし、  
「なるほど。では私に見えなければ良いのだね?」  
今度の要求はあっさりと認められ、えっ、と拍子抜けする。途端、力強い腕で抱き起こされ、  
「な、なに、なんなの?」  
「いや、ならば一つリアリティを追求しようと思ってね。とりあえず、後ろを向いてくれたまえ」  
「は? え? ど、どういうこと?」  
訳の分からないまま身体を引かれ、くるりと半回転。  
背中を向け、軽く脚を開いた膝立ちにさせられると、すかさず股の間へ佐山の下半身が滑り込む。  
膝を外に払われて重心を崩し、ぺたんと腰を下ろした先は、彼の胴の上。  
気付いた時には、佐山の腰に大きく跨った姿勢で、反り返った先端を臍の下に突きつけられていた。  
「こっ、こここここ、これ……」  
ある意味、正面からの開脚よりも恥ずかしい体勢を取らされて、どもりながらぎくしゃくと振り返った。  
首を一杯に捻り、横目で背後を見ると会心の笑みで、  
「これなら私に見られる心配はない。位置的にも君自身の場合とあまり変わらない。オールオッケーだろう?」  
「ボッ、ボク的には、全然オッケーじゃない……」  
こちら腕からシャツの袖を抜き取っていく佐山に、油の切れた動きで首を振る。  
だが、下腹に当たる先端によって、腰から下が縫い止められたように、全く身動きが取れなかった。  
 
「それでは、これを自分の物だと思って、遠慮なく握ってみたまえ」  
「え、あの、待って。まだ心の準備が……」  
続けて右手が重ねられ、半ば強引に、そそり立つ肉棒へと導かれると、  
「あっ、すごく、硬い……」  
鉄芯を入れたように確かな手応え。思わず抵抗の意思を忘れる。  
「さて、男の場合はさほど煩雑では無い。ここを握って、このように、上下へ擦り立てるだけでいい」  
「こす……るの? でも、こんなに腫れて痛くないの?」  
「痛くはないね。むしろ、新庄君に握られているだけで、すこぶる気持ち良い」  
「そ、なの……?」  
促されるままに、指先に軽く力を込める。  
む、と佐山がうめく。肉棒が別の生き物のように、手の中で脈打つ。  
「ただ、慣れないうちは直接触ると痛いからね。先の部分をこうして、余った皮で擦るようにすると良い」  
「え、あ、う……」  
更に操られ、幹の方へ捲れた皮を先端に被せていくようにして、上下にしごかされる。  
銛の逆刺にも似た先端が、手の中で見え隠れする光景に、沸き起こる淫らな感情。  
知らなくても判る。こんな行為は、絶対に普通ではない。普通でないと判っているのに、  
「なっ、なんか、おかしな気分に、なってきた……」  
「私もだよ。では後は、君一人でやってみてくれたまえ。……出来るね?」  
「た、多分……。こんな感じで、いいんだよね……?」  
「ああ、そのような感じだ。続けてくれ、新庄君……」  
異様に高まる胸の鼓動。佐山の掌が離れると、今度は自分から手を動かしていった。  
 
「んっ、……はぁ。ん、……ふぅ」  
「う……むぅ。正に最高だね……」  
軽く握った手首を上下に揺らし、くきゅくきゅと熱い塊を擦る。満足げな佐山の声が鼓膜を打つ。  
与えられるだけだった快楽を、幾分かは返してあげられているらしい事が、ひどく嬉しい。  
今まで覚えた事の無い種類の悦びを感じつつ、大きく舌を回して唇を湿らせる。  
見られていないという安心感からか、佐山への愛撫には自然と熱がこもっていった。  
「もう少し、強めに握って。そう、その調子だ」  
「あっ、ねえ、佐山君……。先の方から、何か出てきたよ?」  
「それは、私が快感を得ている証拠だよ。新庄君が濡れていたのと、同じ理屈だ」  
「気持ちいい、の? ボクの手が、そんなに……?」  
「うむ、かつて無いほどに気持ちいいね。もう少し早くしてもらえると、更にいいのだが」  
「そう、なの? ……これっ、くらい?」  
「む……っ。ああ、その程度でいい……」  
半ば虚ろな意識の中、佐山の指示に唯々諾々と従い、手中の強張りをしごき立てる。  
先端から滲む、ぬるりとした液体が掌と擦れ、湿った音が響く。  
手が、頭が、触れ合う肌が、そして何より下腹全体が燃えるように熱い。  
かすかに立ち昇る異性の匂いが、羞恥心を麻痺させる。  
慣れない動きによる疲労よりも遥かに強い衝動に、動作が加速。  
「んっ、ん、……はぁ、んぅ、熱、いよ、佐山、君の……」  
「疲れたかね? 今のうちならば、ちょっと一休みしても構わないよ」  
「ううん、平気……。っは、まだ、出来る、からっ……」  
高熱を発した時のように頼りない口調で呟きつつ、右手はその行為に没入していった。  
 
「なんだろ、これっ……。触ってないのに、身体が、さっきまで、みたいに、切なくて……」  
「興奮するかね?」  
「ボク、興奮、してるの、かなぁ……。んっ、よく、分からない、けどっ……」  
摩擦の熱だけではない、内側から起こる肉茎の熱さが、手指を伝わって背筋を灼く。  
疼く股間をどうにかしたくて、けれど鎮め方はまだ知らない。  
悟られない程度に腰を動かし、もどかしさを込めて肉棒をしごき、息を乱す。  
自分の身体から溢れた液体は、佐山の下腹部にしたたり、そこを妖しく濡れ光らせていた。  
「あっ、まだ、おっきく、なるっ……」  
握る指の力を強めると、それを押し返すように、手中のモノが更に大きさを増した。  
背後で佐山がごそごそと動く気配にも、手を止める気になれない。  
初めて触れる他人の性器を、欲求の赴くまま、一心に擦り続ける。  
すると、夢の中のように不確かな視界に、数枚のティッシュを重ねた手が差し出された。  
「え、佐山君、なに……?」  
「うむ、そろそろ出そうなのでね。済まないが、先の方をこちらに向けてもらえるかな?」  
「こっ、……こう?」  
前に倒し、何かを受け止めるように構えた佐山の右手へと、先端を導く。  
「手を止めずに。どうなっているのか、しっかりと見ていたまえ」  
「うっ、うん。……っ、はぁ、はっ……」  
力を抜けばたちまち跳ね上がりそうな反発を押さえつけ、前後に手を動かす。  
言われるまでもなく、視線は先程からその一点に定まったまま。  
そのまましごき続けるうちに、安定していた佐山の息遣いが、にわかに荒くなり出した。  
 
「うっ、く……。いいぞ、新庄君、あと、少しだっ……」  
「うんっ、はぁっ、ボクっ、がんばる、よっ……」  
佐山の声に励まされ、だるく感じ始めてきた腕に力を込めた。  
掌の中では、自分の汗と先端から滲み出た液体が混じり合い、ぬるぬると滑り出す。  
逃がさないようにしっかりと握り、肉棒を見下ろしたまま、搾り出すように強く摩擦を続ける。  
はちきれそうに膨れた先端が、ひくっ、ひくっと、えずくような痙攣を起こし、  
「出るぞ、新庄君っ、……くっ!」  
「あっ……!?」  
うめきと共に強く脈動。  
ティッシュの上に、見知らぬ白濁の粘液が勢い良く吐き出されるのを、呆然と眺める。  
数回跳ねた後、収まったと思えた処で、ゆっくりと指を開き、手から力を抜く。  
思わず止めていた息を吐くと、佐山の安堵したような吐息が、それに重なった。  
「ふぅ。ご苦労だったね、新庄君。このように、射精……つまり、白いモノが出ればお終いだ」  
「しゃ、せ……? こ、こういうの、ボクのからも、出るの……?」  
初めて知る男性の身体の仕組みに、ぽつりと呟く。  
するりと佐山が脚の間から抜け出す。手に残る肉棒の感触に、不可思議な感慨を覚える。  
「最初のうちはそこまで行かないかも知れんがね。なに、気にする事は無い。後はひたすら、実践あるのみだ」  
「う、うん……」  
小さく頷き、掌に付着した白濁を、指の先で弄ってみる。  
甘ったるい花の香りにも似た匂いに、濡れ切った秘所がずくんと疼いた。  
 
              ◇  ◇  ◇  
 
ずっしりと重くなったティッシュを屑篭に放り込むと、外れかけていた理性の箍がようやく定まった。  
考えてみれば、同居人が出来てから一度も処理した事が無かったのだから、我慢できなくなって当然と言える。  
しかしこれで、それほど切羽詰った欲求を覚えずに済む。硬度は変化していないが、とりあえず無視。  
そして脳内で今後の予定をシミュレート。どうにか踏み止まれそうだと判断する。  
「佐山君、ボク、身体が、すごく熱くて……。どうしたらいいのか、分からないよ……」  
「ああ、お待たせして申し訳なかったね。それではいよいよ最終ステップだ」  
「あっ……」  
心からの謝罪を口にすると、新庄の両膝の裏を大きく抱え上げた。  
あぐらを崩した脚の間に丸い尻を下ろし、華奢な背を胸の中へと収める。  
身体を抱き寄せ、覆い被さるように密着すると、細い首がびくんと反り返る。  
肩口から顔を覗き込むと、酒に酔ったように緩慢な動きで、潤んだ瞳が見上げてきた。  
「佐、山君……。あの、お尻に、当たってるよ……」  
「うむ、その件については、あまり気にせずに。もう一度やってくれとは言わんよ」  
「そっ、じゃ、なくて……。それ、当たってると、なんだか……」  
「何だか?」  
「ボク、ますます、おかしくなって、きちゃうよぉ……」  
甘えるようにそう言われ、立て直した筈の理性が大きく揺らぐ。  
すっと息を吸い、頭の中で三つ数え、セルフコントロール。よし大丈夫、私は冷静だ。  
「おかしくなっても構わないのだよ。さ、脚を開いて」  
背後から膝に手を伸ばし、外側へと割る。  
柔らかな肢体にはすでに抵抗の意思も無く、こちらの手の促すまま、大きくM字に脚を開いた。  
 
「さて、君は先程、どうしたらいいのか分からない、と言ったね」  
「うっ、うん……」  
「しかし実の所、薄々察しているのではないかと思うのだが、どうだろうか?」  
「え……っ?」  
新庄は意外な事を言われたといった表情で、呆けた声を上げる。  
……はて、準備が出来ていたというのは、自分の勘違いだろうか。とりあえず、確認せねばなるまい。  
「君が今、一番触りたいと思っている場所に触れる事が、おそらく正解だ」  
「べ、別に、触りたいとこなんかないよ……」  
「正直に答えて欲しい。これは、君が自分の身体を認める為にしている事なのだからね」  
気まずげに目を逸らす新庄の耳に、優しく言い聞かせる。  
唇が何かを言い掛けて閉じる。気を取り直したように首を横に振り、  
「違うよ、ボク、そんな変なとこ触りたいなんて……」  
「その返答は、認めたも同然だと思うが。ところで変な処とは具体的にどこなのか、きちんと言えるかね?」  
「そっ、そんなの、言える訳ないじゃないかぁ!」  
怒って泣き出す寸前の顔で、こちらを睨みつけてくる。  
何故言えないのか、かなり理解に苦しむが、その疑問はしばし脇に置く。  
「では私から言おう。ここが疼くのだろう、新庄君?」  
「っくぅん!? んっ、や、そこ……!」  
そっと股間に手を伸ばし、中指を花弁に宛がう。  
びくんと眉を跳ね上げて、困惑と切なさの入り混じった表情で、軽く身を捩る。  
濡れた絹のように滑らかな感触に、意識が強く集中するのを感じた。  
 
「やぁ……! そこ、触っちゃ……!」  
縦へなぞるように指先を動かすと、拒絶の意を含んだ声が上がった。  
「ここは違うのかね? ここでないとすると、後は少々マニアックな場所しか心当たりがないのだが」  
「違わ、ないけどっ……。そこっ、触られるのっ、やっぱりっ、恥ずかし、ぃ……よぉ」  
指を止めずに訊ねると、蚊の鳴くような声で答えを返す。  
「それはまた、さっきまで私のモノを握っていた人の台詞とは思えないね」  
「あ、あれはっ、佐山君が、そうしろって……」  
「まあ、ここまで大洪水になっていては、恥ずかしいというのも分からなくは無いが」  
「やっ……。そ、んな、んっ、あ、音、立てちゃっ……」  
添えた指の腹を軽く左右に動かすと、それだけで柔らかな水音が立ち、抗うように肢体がのた打つ。  
見えずとも、そこから新たな雫が沁み出し、指に絡むのが判る。  
「ここまで来て我慢しても意味は無いよ? 感じたままを受け入れたまえ」  
「でも……っ、ボク、すごくヘンなんだよ……」  
「変、というだけでは判断しかねるね。どう変なのかな?」  
耳元で囁き、温かなぬかるみを指で捏ね回すと、やがて耐えかねたように、  
「んんっ、そこっ、触られてるとっ……」  
「うむ、忌憚の無い意見を聞かせて欲しい」  
「されてると、ね……。恥ずかしいのに、すごく気持ちいいの……」  
告白と同時に、熱を増した背中から緊張が抜け、胸板に身体を預けてくる。  
充実した肢体の重みに、愛しさが込み上げる。  
ゆっくりと秘所をまさぐりながら、良い匂いのする髪に軽く口付けた。  
 
「それが正常な反応なのだよ。少しも変に思う事はない」  
「ほん、……と? ほんとに、ボク、ヘンじゃないの……?」  
「疑い深い人だね、君も。何度でも言おう、君は正しい、私が保証する」  
「あっ、はぁ……。んっ、んふぅ、くぅん……」  
重ねて肯定したのに安堵したらしく、新庄の顔からは急速に戸惑いの色が薄れていった。  
硬さの残っていた秘裂からも力が抜け、さして力を入れていない指先が、つるりと中に沈み込むようになる。  
浅い位置で攪拌するように円を描くと、濡れそぼった肉襞が指先に纏わりつく。  
そこから慎重に上へ伝うと、指先がこりっとした感触を探り当てた。  
「んぅ……っ!?」  
「今のが、女性の身体で一番敏感な場所だ。分かるね?」  
「うっ、うん……。すっごく、びりびり来た……」  
指を浮かせて問い掛けると、反射的に閉じかけた脚が、答えと共にゆるゆると開いた。  
呟く声にも否定の響きは無く、ただ驚きと、そして無自覚の艶だけがある。  
「後は、ここをこうして……」  
「んっ! く、ん、……あ、ぁ!」  
指の腹で肉芽を左右に弾くと、その度ごとに過敏な反応を示す。  
「……このように、優しく弄ってやれば良いだけの話だ。自分の望むままにね」  
「んんんっ、ん、んん、……っ!」  
指先で挟み、そっと丸めるように捏ねると、唇を噛んで声を殺し、髪を振り乱す。  
一旦指を止めると、弓なりに反らされていた背筋が脱力し、くたりとこちらにもたれ掛かってくる。  
激しい息遣いと共に伝わってくる鼓動が、興奮の度合いを如実に表していた。  
 
「はぁっ、はぁ、はっ、ん……ふぅ……」  
「さて、これでもう、どうすればいいのか理解できたね?」  
「はっ……んぅ、うん……」  
少し待ってから訊ねると、新庄はうっすらと目を開け、素直に頷いた。  
ほつれた髪が一筋、紅潮した頬に掛かっているのが、ぞくっとくるほどの色香をかもし出している。  
もっと触れていたいという欲求を押さえつけ、  
「それでは、これまでと同様に、後は自分で……」  
「やだ……」  
秘所に宛がっていた手を引こうとすると、それを制するように手首を捕まれる。  
予想外の展開に、軽い当惑。  
「……新庄君?」  
「佐、山くん……。離しちゃ、やだよ……」  
「しかしだね新庄君、自分でやらなくては覚えた事にはならんよ」  
「判ってる、けど……。だけど、ボクっ……」  
そう呟いて、元の位置に戻したこちらの指に指先を重ね、  
「お願い……」  
下半身に直接響くような声で、続きを促す。  
自己の欲求と新庄の望み、そして自慰の教育という目的を考えれば、取るべき手段は一つ。  
「……では、私と君、二人で一緒にやるとしよう。それで良いかね?」  
「ん、うん……んぅっ!」  
互いの指を絡め合わせ、力を合わせてその場所を探り始めた。  
 
「いっ、ん……! あ、んんっ、んはぁ……っ!」  
貪欲に快楽を求め出した細い指は、次第にこちらの動きを追い越していった。  
小刻みに手首を揺らし、鼻に掛かった喘ぎを上げながら、更なる官能を追う。  
「ここも、かな?」  
「ぅんっ、そう、そこも……なのっ……!」  
揺れる乳房に手を伸ばすと、すぐさまその上に手が重ねられ、自ら先端の突起を摘んでしごく。  
桃色の舌先がちろちろと見え隠れし、半ば開いた唇に艶を与える。  
「新庄君、いま、自分がどれほどエロい顔をしているか、分かるかね?」  
「くふぅ……ん、やだよぉ、見ちゃ……見ない、でぇ……」  
「しかし、こうして見ている方が、新庄君の反応は良くなるような」  
「やっ、やだ、こんなの、違う、違うのにぃっ……」  
「と言う割りに、動きは一向に止まらないようだが。私の予想以上にエロいね、新庄君は」  
「だっ、だってっ、佐山くんの、手がっ、……いい、いいんだもんっ……んんっ!」  
新庄の指の動きは、声の高まりに合わせ、徐々にその激しさを増していく。  
こちらの手を強く股間に押し付け、それでは足りないとばかりに、濡れた花弁を擦り立てる。  
股間に当てた指の腹が上から押されて、硬くなった肉芽をこりこりと刺激する。  
「言い訳をする必要はないよ。ベッドの上では積極的、というのも、私としては大歓迎だ」  
「やっ、んふぅ、ん、んんぅ、んっ!」  
「こうして悶える君も、すこぶる魅力的だね。もっと声を聞かせてくれたまえ」  
わざと耳元に息を吹き込むように囁き、尻肉に剛直を擦り付ける。  
脱力していた背中が再びじりじりと反り始め、足の爪先が丸まって、シーツに深い皺を穿った。  
 
「あっ、だめっ、ボクっ、……もう、弾け、ちゃうっ……!」  
やがて新庄は胸の中で伸び上がるようにしながら、眉を歪めてぎゅっと目を瞑った。  
膝ががくがくと震え出し、自分を慰める手へより一層の熱が入る。  
「よし、そこまで来たら、あともう一歩だ。そのまま快楽に身を任せるんだ」  
「やだっ、怖い、怖いよ、佐山くん……っ!」  
「大丈夫だ、私がついている」  
脇を締めて、予兆にわななく身体を強く抱き、力強く言い聞かせる。  
細い指は意思の制御を外れているらしく、こちらの指と争うかのように陰裂をくじり、捏ね回す。  
胸を覆った左手をきつく握られて、微かに幻痛が走る。  
「あっ……、あぁ、ん、んっ、んぅ……っ!」  
膝の震えが全身に広がり、洩れる喘ぎが間隔を狭め、  
「ボク、ボクっ、もう、っ、──だめええぇっ!」  
高らかな絶叫と同時に、緊から緩へ。  
前に倒れ込もうとする肢体を抱き止め、蕩けたような秘所からそっと手を離す。  
「……新庄君、イったのかね?」  
「んはぁっ、はぁ、はっ、はぁ……っ」  
顔に掛かった髪を掻き分けてやると、荒い息をつきながら、それでも満たされ切った女の表情が覗く。  
答えられる訳が無いという事に気付き、自分の思慮の浅さに軽く苦笑。  
「……ご苦労様、新庄君。これにて一応、最初のレッスンは終了だ」  
そして愛しさと労わりを込めて、火照った頬に軽く口付けを送った。  
 
              ◇  ◇  ◇  
 
頬に受けた唇の感触に、新庄は飛びかけていた意識を身体に引き戻した。  
しかし、まだ頭の中はふわふわと頼りなく、四肢は骨を抜かれたように力が入らない。  
信じられないほどの快楽の余韻が、背後の体の感触と重なって、染み入るような安心感を覚える。  
頭をことんと胸板に預けると、ゆっくりと落ち着いていく温かな鼓動に耳を澄ませた。  
「新庄君。最後の方はどんな感じだったかね?」  
「ん、……すごかった。頭の中にばちばちーって来て、何も考えられなくなって……」  
「ふむふむ」  
「それでね、胸とか、あと……。な、なに言わせるんだよ、もぉ……」  
途中で猛烈に恥ずかしくなり、顔を伏せる。  
実際には、それから先は記憶も曖昧で、ただ気持ち良かったという事しか覚えていない。  
「それで、今後は一人で出来そうかね? 自信が無ければ、後日改めてレッスンの場を設けるが」  
「だいじょぶ、多分、出来ると思うよ。……どうしてそこで、露骨に残念そうな顔するかな」  
「いやまあ、それはそれで良いとして。そろそろ服を着た方が良いと思うよ、新庄君」  
「ん、うん、判ってるけど、もう少し……」  
裸のままで、佐山の体温を感じていたい。  
素直にそう思い、子猫がじゃれるように頬を摺り寄せる。  
「ううむ。私としても、このまましばらくピロートークを繰り広げたいのは山々なのだがね……」  
けれど、珍しく煮え切らない佐山の口調に、何となく不吉な予感が走り、  
「生憎と、本気でシャレにならない時間になっているようなのだよ」  
「え? 時間、って、……」  
指差す方へ顔を向け、時計の文字盤に視線を投げる。  
 
「うわあぁっ! しっ、7時過ぎてるぅっ!」  
「うむ、正確には7時12分ちょうどだね」  
2nd−Gとの模擬戦開始時刻は7時半。今からではどうやっても間に合わない。  
頭に昇っていた血が一気に下降し、甘い気分は微塵に吹き飛んだ。  
「なななっ、なんで、いつの間にこんな時間っ!?」  
「ふむ、冷静に分析するならば、楽しい時間は早く過ぎてしまうという心理的錯覚が……」  
「そーじゃなくて! 完全に遅刻じゃないかどーすんのさっ!?」  
手近にあったタオルで身体を拭い、わたわたと自分の服を掻き集める。  
慌てる自分とは対照的に、佐山は普段と変わらない落ち着いた口調で、  
「安心したまえ、我らが全竜交渉部隊には、優秀なメンバーが揃っている。彼らの力を信じようではないか」  
「なに他人事みたくまとめてるんだよぉ! いいから佐山君も早く服着てっ!」  
「そう言う新庄君は、少し落ち着いた方がいいよ? ちなみに、ここに何故か君の下着があるのだが」  
「ああっ、もうっ!」  
佐山の手から小さな布地を奪い取り、力の入らない手足を叱咤して、急いで身支度を整える。  
どうしてこう、この人はいつでもズレているのだろうと、かなり本気で思い悩む。  
更に問題なのは、自分がそんな人物に、どうしようもなく惹かれているという事実。  
「結局、ボクの方から合わせるしかないのかなぁ。でもボク、せめて人格ぐらいは真っ当でいたいし……」  
シャツのボタンを掛けながら小声で呟くと、背後から爽やかな声。  
「そうそう、帰って来たら二人でスケジュールを決めよう。新庄君は、食前と食後のどちらがいいかね?」  
「わーん! やっぱり合わせるなんて出来ないよぉっ!」  
思わず天を振り仰ぎ、誰にとも無く叫ぶ嘆きが、自分の耳に虚しく響いた。  
 
〜END〜  
 
 

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