春、冬があけ、花が咲き、動物たちが子を作りはじめる季節。
そう、発情期だ。
そんな影響を、直球ストレートでくらった動物が、この尊秋多学院の寮室の一室にいる。
寮室のネームプレートにはこう書かれている。
『美術部部長ブレンヒルト・シルトとそのしもべ』、と。
ブレンヒルトは朝靄のかかる頭で目を覚ました。
時刻は八時、授業には遅刻だがいつもならまだ寝ている時間だ。
・・・?
何故かと考える、自分の起きる時間は九時と決まっている。そしてずれたこともない。
目覚めの原因を布団の中で確かめる。すると右足が何か柔らかい物に当たった。
「・・・暖かい」
そう呟き、考える。なんだ?、と。
そして思考は一つの物にいきつく。
「あの馬鹿猫か・・・」
ならば話は早い、いつもどうりに蹴り跳ばし二度寝に入るだけだ。
そしてそうする。右足の踵部分を使って蹴り跳ばす
「ぐはぁっ!」
ここまではいつも通りだが蹴った右足に違う感覚がきた。
なんだろうか?黒猫には違い無いだろうが。いつも蹴っているこの右足の感覚がおかしいと言っている。
もし強盗か変態が入って来ているのなら吹き飛ばすために起きなければいけない。
「・・・面倒臭いわね」
口の中で舌打ちをし、起き上がる。体温が残る布団からでると、春だと言うのにまだ冬の肌寒さが残っている。
「さぶいわね」
と、身震い一つ。目が覚めてよいとも思う。
「さて・・・」
と、前置き、布団を見る。そこには自分は入っていないのに人、一人分くらいの膨らみがある。
そして部屋を見回しても荒らされた気配はない。
「変態か」
口に出し再確認。そして行動に移す。吹き飛ばすのは後で、だ。とりあえずは顔を見、佐山達に通報しよう。
・・・そうすれば遅刻の言い訳も立つわね。
そして布団に手を掛け一気にめくる。
そこには、全裸で腹を押さえ苦しんでいる少年がいた。
目の前の光景を見て、考える。
・・・変態じゃなくてエロガキか、・・・とりあえずは通報をしたほうがいいかしら、と。
思考の決断は通報に。そして、佐山に電話をするため携帯をとり電話番号を打つ。
後は通話キーを押すだけで駆け付けてくるだろう。
「ブ、ブレンヒルト〜、いきなり何するんだよ〜」
その言葉で通話を押そうとした手が止まる。
「あら、私の名前を知ってるの?エロガキにしちゃ偉いわね。――――だけど全裸で人の布団の中に入ってくるようなガキは許さないわよ?姉直伝の粛正をしてやってもいいのよ?」
こう言えば早く部屋から逃げでもするかと思い言う。
しかし、目の前の少年は首を傾げている。
「ブ、ブレンヒルト?ガキなんてこの部屋にはいないよ?幽霊でも見てるの?」
・・・?なにを言ってるのだろうか?変態エロガキ+電波なのだろうか?
「ブレンヒルト?どうしたの?何を考えこんでるんだよ。」
少年は相変わらずベッドの上で首を傾げている。
・・・そう言えば。
「黒猫がいない・・・?」
「な、何を言ってるんだよ僕ならここにいるじゃんか。それとも、度重なるイジメで天罰が落ち―――、っていきなり蹴らないで―――、朝から腹はけっこう痛い―――っ!」
・・・この体が反射として動いてしまうことを、言う奴は、この世に一匹しかいない。
「あんたが黒猫?」
「うん、そうだよ?わからないのブレンヒルト。」
そしてブレンヒルトは見た。少年の頭に耳が生えていることを。
開いた口が塞がらないとはまさにこのことなのだろう。
・・・言葉がでないわね。
目の前の少年、・・・もとい黒猫(らしい)は全裸で自分の布団の上に座っている。猫の耳らしきものとしっぽらしきものをつけて、だ。
これを見て普通に反応を返せる人間がなんにんいるだろうか。
・・・いるわね、身近に大量。佐山達なら普通に流せるのだろうか?
何通りかをイメージ。
・・・流せそうだわ。
そして思う。
「私もまだまだね・・・」
「ブ、ブレンヒルト?遠くをみながら突発セメント発言はやめようよ」
指摘され、改めて視線を少年に向ける。
黒猫か?とは聞いたが。本当にあの黒猫なんだろうか?
・・・再確認が必要ね。
そして考えは言葉にされる。
「なにか馬鹿な事を言ってみなさい」
「ブ、ブレンヒルト?ついに脳が実年齢に追い付いてボケて―――、って脚でげしげし踏み付けるのはやめてー」
再確認。そして判断。
答えが行き着くのはやはり。
「馬鹿猫か―――」
「だ、だからさっきも言ったじゃないかー。僕は僕だって」
時計の針は九時を指している。授業は完全遅刻。
・・・今から学校へ行けば大樹先生と同じころにはつくだろうか?
と、そんな考えを首を振って記憶から削除。今は終わらせることが先にある。
今ベッドには自分が腰を降ろし、床には少年が正座をしている。
少年にはとりあえず自分の服を着せいる。
・・・さすがに全裸はまずいわね。
踏み付けたときも、服を着せるときもだが。
・・・見てしまった。―――男の生殖器ってあんな形なのね。
小さいころに翁と一緒に風呂に入ったころに見たことはあるが。
・・・あのころはそんなこと気にしなかったしね。
「じゃあ初めてか・・・」
そう考えると、とても恥ずかしい気がしてきた。
体中の温度が一気にあがる。
頬が上気しているのが自分でもわかる。
「ブレンヒルト?どうしたの?顔、真っ赤だよ?」
はっ、と意識が引き戻される。
見れば少年は座ったまま心配そうに首を傾げこちらを見上げている
その仕草にまたもや鼓動が早くなる。
・・・何を考えているのよ。あれは猫よ?馬鹿よ?しもべよ?男でもなんでもないじゃない。
と、自分に言い聞かせ、うわついていた気持ちをリセット。いつもの無表情にもどす。
「いや、なんでもないわ。気にしないで」
「ホントに?熱があるんだったら保健室いかなきゃ」
「大丈夫よ。それよりなんであんたはそんな姿になってるの?昨日、私が術でもかけたっけ?」
「いや、それに抵抗して逃げ出した後、お腹をすかして帰ってきたんだけど。食べる物がないから、そこに落ちてた賢石を噛んでたら・・・、食べちゃって。そしたらこうなっちゃった。テヘッ」
「なっ!?テヘッ、じゃないわよっ!何を食べてるのよっ!?吐けっ!吐きなさい!!」