狭い部屋がある。白壁の小さな個室は洗面所と一体型のトイレだ。
そこに座るショートカットの女性はジーンズを膝下まで降ろして右手側の壁を見た。
そこにある小さなパネルには幾つかのソフトボタンがある。
「ええと、水圧を……、艦砲射撃……、でしたっけ」
小首を傾げながらボタン設定。そして発射ボタンに指をかけわずかに頬赤くした顔で、
「奈津、行きます……」
眉を立て目を伏せ、ボタンを押そうとした。だが、手が停まった。
「──や、やっぱりできませんっ。練習してみようと思いましたけど」
奈津は頬を両手で押さえていやいやをする。その後に彼女は吐息し、
「出来ません……。でもこれが普通ですよね……」
だけどと奈津は困り顔でうつむく。両頬を押さえたまま、
「でも昭緒さんがこれを取り付けたと言うことは、その、あの、私にこういう
のに慣れて欲しいという真意があったりして……。妻としては夫の欲求に
答えるべきですけど。でもでも、そうじゃなかったら」
奈津は身を折り、膝を寄り合わせる。
「私がいやらしいだけです……」
どうしたら、と奈津はつぶやく。何しろ夫は好意でこれを取り付けたのだ。
「ちゃんと使えるようになったら、昭緒さん、褒めてくれるでしょうか……」
ふん、と決断した奈津は身体を起こしてパネルに指を乗せた。
そのときだ。ドアの外から晴美の泣き声が聞こえた。
奈津は迷った。ボタンと泣き声のするドアを交互に見て、
「……晴美が泣かない方が昭緒さんは喜びますよね」
はい、と晴美に声を掛けながら奈津は立ち上がる。ジーンズをあげ、耳に
指で触れると熱さがあった。
その熱さと泣き声に困り顔で微笑んだ奈津はドアを開けながらつぶやいた。
「昭緒さん、私がこんな女だって知らないでしょうね……」