UCAT女性職員専用巨大浴場  
銭湯“百合”  
 
 日本UCATのどこかにあると言われている女性専用の巨大浴場。  
 その所在は女性職員にのみ知らされ、かの全部長をもってしても  
 詳細を掴むことは出来なかったと伝えられている……。  
 
                      民●書房「なぜなにUCAT大全」より  
 
 
湯気に満ちた空間に女性の嬌声が響く。  
そこにいる女性は皆安らぎの表情を浮かべ、湯船につかり、体を洗っている。  
UCAT女性専用巨大浴場、銭湯“百合”  
その歴史は護国課時代にまでさかのぼる事が出来、今でも要職に就く趙・青らにより  
福利厚生の一環として作られた物を、九十年代初頭、独逸UCAT出身のディアナ・ゾーンブルクが  
大幅に改造・改良・増改築を行ったものが現在のそれとなっている。  
ちなみに、内装は昭和の銭湯スタイルを完全に継承している。  
 
そんな銭湯“百合”に今、あらゆる人間に安らぎを与えるこの空間に似つかわしくない表情を浮かべ、  
湯船の隅で膝を抱えて他の女性職員の裸体を観察するものがいた。  
肩口で切り揃えた金髪に、TAIEKI−500と同じ色をした青い瞳。  
周囲の女性職員と比べ、貧弱としか言い様の無いボディライン。  
名をヒオ・サンダーソンとする少女だ。  
彼女の瞳には憂鬱の色が浮かんでいる。  
――ステイツでは、あまり気にならなかったのですけれど……。  
彼女の母国には、水着ならともかく一糸纏わず大勢で風呂に入る習慣は無い。  
慣れぬ空間が感覚を惑わすのだろうか、つい他人の体に目が行ってしまう。  
母国の女性と比べ慎ましやかな体の人が多いな、とヒオは思う。  
それでも自分より大分大きいのが悔しいけれども。  
 
――でも、他人に体を洗って貰うのって、そ、そういう関係ってことなんでしょうか……。  
洗い場のそこかしこに背中を流し合う姿が見られるのだが、彼女の偏った知識は  
それを多少ずれた方向に受け止めていた。  
ズレた意識を引き戻すように声が掛けられる。  
「あらあらヒオ。そんな隅で膝を抱えて、どうしましたの?」  
「あ、ディアナ先生……」  
振り向いた先には、いつもと同じ微笑を浮かべたディアナ・ゾーンブルクがいた。  
銭湯17の掟に従い、頭に手拭いを載せている。  
「あなた、タオルで体を隠すのはおやめなさい。  
まだ慣れてないのでしょうけど、GOと言ったらGOに従え、ですのよ?」  
「は、はい……」  
頷き、ディアナに倣って手拭いを畳み、頭に載せる。  
隣で湯船に浮かんでいるナパーム級を見てしまい、思わずほう、と溜息をついた。  
「気になりますの? 先生の胸」  
「は、はい?」  
三秒、完全に言葉を失う。  
「ふふ。先生の、ではなく他の人の、の方が正しいですわね」  
「いえっ! 私、そんな……」  
そんなことありませんの、と言おうとするが、  
「本当に嘘が下手ですのね。そんなことまで隠す必要はありませんわ。  
あなたくらいの年齢だったら、とても自然なことですもの」  
「……」  
沈黙。  
押し黙るヒオの横で、ディアナは調子っぱずれの歌を歌い始める。  
「マイヤヒ〜♪ マイヤフ〜♪ マイヤホ〜♪」  
「……原川さんが……」  
「マイヤハッハ〜♪」  
「先日、その、借りてたエッチな本を返しに飛場さんって方がいらしたんですの。  
それで気になって、原川さんがいない時に見てみたら……」  
「米さ米酒かぁのまのまイェ〜イ♪」  
「金髪の、その、いかにもディーバって感じの巨乳の人が無修正で、色々と……」  
「のまのまイェ〜イ♪ のまのまのまイェ〜イ♪」  
 
「ディアナ先生! 聞いてますの!?」       聞いてますの……   ますの……  
風呂場に声はよく響く。  
突然の大声に、多数の怪訝な視線がヒオに向けられた。  
「あ、あの、すみませんですの……」  
既に赤くなっている顔を更に赤くして、ヒオは頭を下げる。  
「全く、何を怒鳴ることがありますの?」  
「先生が話を聞いてくれないのが……」  
「聞いてますわよ、全部。要するにダン・原川君の嗜好と、  
自分の体型が合ってないんじゃないかと悩んでるんですのね」  
「……はい、そうなんですの……」  
ざばり、とディアナが立ち上がった。  
「ここで長話したら湯当たりしますわ。ジュースでも飲みながら話しましょう」  
 
備え付けの浴衣を着た二人は、談話室へと場所を移した。  
「はいどうぞ。先生のおごりです」  
「ありがとうございます」  
トロピカルフルーツが描かれた缶をヒオは受け取った。  
『フルーツ混合最強酒 南国ひぃばぁ』と書いてあるのだが、気付かず口をつける。  
「!? な、なんか変な味ですの……」  
「そう? じゃあ先生のフルーツコーヒーヤクルトと交換します?」  
「い、いえいえ大丈夫ですの」  
「ならよろしい」  
腰に手を当て大瓶一気飲みを再開するディアナ。  
反らした胸はその大きさが強調され、今にも浴衣からこぼれ落ちそうに見える。  
身長の差も手伝って、思わずそれに注目するヒオ。しかしディアナはそれを横目で見ていた。  
「……胸の大きさなんてものが、男女の仲の決め手になることはありません」  
「えっ……」  
「愛情というものは、心の結びつきです。外見が印象を左右することはありますが、  
それに振り回されるのは良くないことですわ」  
「で、でもっ」  
うつむき、声を絞り出す。  
「……原川さん、してくれませんの」  
 
ディアナはその言葉の意味に軽く驚くが、口を挟まない。  
「キスも、あの時っきりで……。カーテン一枚隔てて、裸で女の子が寝てるんですのよ?  
してもいい、して欲しいって、私から言ったんですのよ? なのに、何で一人で……」  
アルコール度数強すぎたかしら、とディアナは少し後悔する。ヒオの口に缶を運ぶ動きは止まらない。  
ついには目の端に涙を浮かべて、それでもヒオの愚痴は続く。  
「私のこと、妹とか親戚とか、そういう扱いしかしてくれませんの。  
体が育ってないからですの? 背が高くて、ばいんばいんだったら抱いてくれるんですの?」  
――なんて判りやすい子なんでしょう……。  
原川の考えてることはディアナにも察しがつく。  
原川が下半身で思考する男なら、ハナからディアナは同居を認めていない。  
ヒオだって判ってはいるのだろう。しかし、理性と欲情を完全に分離するには、彼女はまだ幼すぎる。  
真っ当な教師なら、言葉でさとし、なだめ、慰めるのだろう。  
しかしディアナはまともではなかった。  
そもそもまともなら、未成年をこういう状況で酔わせるようなことはしない。  
 
――やっと、ですわね。  
 
家庭教師を引き受けた時から少なからずその欲望はあった。  
とはいえ、その時既にディアナは理性で全てをコントロール出来る人間だった。  
そもそも相手はいくらでもいるし、花すら咲く前の子供に手を出す必要は無いのだ。  
しかし、今は違う。  
自分を教師として尊敬、信頼しており、体と頭は風呂と酒で弱りきり、  
心は無視し押し潰していた想いで揺れ動いている。  
咲こうとしている、未熟な花。  
 
――その心の隙間を埋めてあげなくては、教師の名が廃りますわ。  
 
母猫の目に潜む闇に、ヒオは全く気付かない。  
 
「――胸を大きくする秘訣、教えて差し上げますわ」  
へ? と呆けた酔い顔でディアナを見つめるヒオ。  
「確実に成長しますわ。彼に、――見てもらいたいのでしょう?」  
こくこく、と頷く。  
「では、場所を変えると致しましょう。ここで授業をするわけにはいきませんから。  
もう飲み終わってますわね?」  
ヒオの手から缶を受け取ると、中身は確かに空だった。  
500mlを十五分足らずで空けたことに、今更ながら少し驚く。  
――強い、ってわけではありませんわね。若いから勢いで飲むのかしら。  
完全に酔ったヒオの顔を見ながら、そんなことを考える。  
――まあ、たとえ強くても『薬』の方が効けば問題ありませんわ。  
「それじゃ、行きましょう。こっちですわ」  
手を取り、歩き出す。  
 
「せんせぇ、授業ってトイレ……?」  
「ふふっ。トイレもいいんですけれど、折角ですから……」  
誰もいないことを確認して、ディアナは一番奥の個室に入った。  
「ほら、ヒオ。あなたもお入りなさい」  
「はぁい、ですの……」  
ふらつくヒオを便器に座らせ、ディアナは壁に手をやった。  
――まさか、またここを使う日が来るとは思ってなかったですわ……。  
押すとタイルの一つがへこんだ。続けて二つ、三つ。  
すると、音も無く壁がスライドした。二メートルほどの間を挟んで、また扉が現れる。  
「すごいですね。秘密基地みたい……」  
「その通り。私の秘密基地ですの」  
扉を開けると、中は八畳ほどのバスルームだった。  
浴槽は大人二人が楽々入れるほど大きく、隅にはこれも大きなビニールマットが置いてある。  
何故かシャワーのホースが妙に長く、また壁の一面は鏡だ。所々におかしい箇所がある。  
「こんなところがあったんですかぁ。UCATって、本当にすごいんですのねぇ……」  
「ええ、全く」  
 
銭湯“百合”改築時に、至を脅して作らせた隠し部屋。  
十年の月日を感じさせない保存状態に、ディアナは素直に驚いていた。  
――今度、至君にご褒美をあげないといけませんわね。  
「それはそれとして……」  
「なんですの、せんせぇ?」  
「んっ、おっほん。授業を始めますわ、ヒオ・サンダーソン。  
そこのマットに座りなさい」  
「はぁ〜い」  
ぺたりと座り込むヒオの横に、ディアナも腰を下ろす。  
向き直って、ヒオの顔を見て口を開いた。  
「よろしいですか、ヒオ・サンダーソン。胸を成長させるにはいくつか方法がありますが、  
一番早く、また効果があるのは直接刺激を与えることです」  
「刺激、ですか……?」  
「そうですわ。と言っても、乱暴にしてはいけませんの。  
ヒオ、あなた自慰行為はします?」  
「へっ?」  
「自慰行為。オナニーですわ。  
まさか、まだ自分でしてもいないのに原川君に抱かれたいと?」  
顔を真っ赤にし、首を振って否定するヒオ。  
「そ、そんなことありませんの!」  
「では、週に何回?」  
「うぅっ……、せんせぇ、何でそんなこと聞くんですの……?」  
ふぅ〜、と溜息をつき、ディアナはかぶりを振った。  
「これは授業です、ヒオ・サンダーソン。答えなさい。  
自慰行為は週に何回? 日本に来てからで構いませんわ」  
「は、はい先生っ! えっと、前は週に二、三度でしたけど、  
最近は……毎日……」  
「毎日。都合がいいですわ。今日の分、今ここでいたしなさい」  
 
「え、えっ、でもなんでそんな……」  
「何故、どうして、恥ずかしい。顔に書いてありますわよ、ヒオ・サンダーソン。  
最初の話に戻りますけど、胸に刺激を与える時に快楽を伴わないと効果が薄いのですわ。  
だから、まずはあなたの自慰が胸の成長に役立ってるのか、見極める必要があります」  
「…………」  
真っ赤な顔で、うつむき、黙りこむ。  
――恥ずかしいです。まだ、原川さんにも見せたこと無いのに……。  
熱を帯びた体が先ほどからうずいているのは、ヒオも自覚していた。  
しかし、いくら過去に寝食を共にしたディアナと言えど、見せる事には抵抗がある。  
つっ、とヒオの顎をディアナが持ち上げた。目が合う。ディアナの表情が冷たい。  
「ヒオ、先生はあなたのためを思って言っているんですのよ?」  
昔、ディアナはそんな言葉を吐いたことは一度も無かった。押し付けるだけの汚い言葉。  
しかし、アルコールとディアナ特製の媚薬のせいで、ヒオはそれに気付けなかった。  
「……判りました」  
ふっ、とディアナの顔に微笑が戻った。  
「よろしい。では始めなさい。  
先生のことは気にせず、いつもの通りにやるんですのよ?」  
「はい……」  
ディアナは体を動かしヒオから少し離れ、変わらぬ目でヒオを見つめる。  
――気にするなって言われたって、そんなの無理ですの……。  
視線を感じつつも、浴衣の襟元に左手を伸ばす。  
薄い胸を手のひらで包むようにゆっくりと揉む。  
「んっ……」  
――あれ、なんでこんな……。  
股間へと右手を伸ばし下着に触れると、そこは既に湿り気を帯びていた。  
普段と具合の違う体に戸惑いを覚える。  
ふと顔を上げると、ディアナと目が合った。いつもどおりの微笑み顔。  
「せ、せんせい……。ヒオ、とっても恥ずかしいですの……」  
そんな言葉を吐き出しつつも、左手は胸の頂点を撫で回している。  
右手で下着の上から股間を撫でる。軽く押し、そのまま動かす。  
 
――もう、我慢、出来ませんの。  
ディアナに向かい合っていた体を後ろに倒し、ヒオは仰向けになった。  
両膝を横に開き、腰を突き上げる。ディアナに見せつけるように。  
そのまま両手を股間にやり、乱暴に動かした。  
抵抗無く中へと入った指を激しく動かし、片手は周囲を撫で回す。  
「せんせっ、ヒオっ、ヒオおかしくて我慢できませんの!  
やっ、いやなのに、止まらなくて気持ちよくて変ですのぉっ!!」  
自分で自分を掻き回すことで快感が得られるなんて、想像したこともなかった。自傷行為にも似た自慰。でも先生が、ディアナが見てくれている。  
狂ったように声を上げ、手を動かす。  
しかしそれはそう長く続かず、しばらくして、ふっと糸が切れたようにヒオは動きを止めた。  
開けっ放しの口からよだれを垂らし、薄い胸を上下させて荒く呼吸をする。  
手を離した秘部は熱を失わず、熱く濡れそぼっていた。  
 
ディアナが立ち上がるのが見えて、ヒオはそれを目で追った。  
向かう先は、妙にホースの長いシャワー。  
それを手に取り、ディアナはスイッチを押した。  
――極上でしたわ。  
シャワーを手に当て温度を調整する。その顔は普段と何も変わるところが無い。  
――随分抑圧されてたみたいですわね。それとも、元から素質があったのかしら?  
「――ヒオ、起きられます?」  
「はい……」  
のろのろと体を起こすヒオ。その時になって初めて、ヒオはディアナが全裸なのに気付いた。  
「ヒオ。ヒオ・サンダーソン。私は、『いつもの通りにやれ』と言いましたわね?」  
変わらぬディアナの声の調子の中に、ヒオはふと違和感を感じた。  
「いつもあなたはそんな獣のように声をあげるのかしら?  
原川君に自分を貫かれるのを夢想して?」  
「え……」  
――先生、怖い。なんでですの?  
「それに、そんな性器にばかり刺激を与えては、肝心の胸は大きくなりませんわよ?  
次は先生が手伝ってあげますから、まずは服を脱ぎなさい」  
「……は、い」  
 
言われるまま、既に片袖が抜けていた浴衣を脱ぎ、下着を足から抜き取る。  
傍らに置き、振り返るとディアナが抱きついてきた。  
唇が重ねられる。  
「――――!?」  
驚き、声を上げようとするヒオをディアナが吸う。  
包み込むようにヒオの体を抱きながら、ディアナはそのまま押し倒した。  
操り手のいなくなったシャワーの音が響く。  
あまたの経験を重ねたディアナの舌は、ヒオに脳髄までとろけさすような錯覚を与えた。  
激しく舌を吸い、口内を蹂躙し、互いの唾液が一つになる。  
ふっと離れたと思い息を吸うと、また唇を重ねられる。  
――お口って、こんないやらしいことが出来ましたのね……。  
はたしてどれほどの時が経ったのか、ヒオには判らない。  
また離れたディアナの唇が、今度は重ね戻す事無く言葉を紡ぎだした。  
「――性的興奮、快楽、それを体に刻み込めば、体は自然と成長しますわ。  
淫乱など助平の体へと」  
最後の言葉はよく判らなかったが、要するに「いやらしい」のだ、とヒオは思う。  
「そういう体を御望みでしたら、いくらでも協力しますわ。  
なんたってヒオ、あなたは私の大切な教え子ですもの」  
そして、ちゅっ、と軽いキスをする。  
「せん、せぇ……」  
 
もうヒオには見えていない。  
ディアナの瞳の中の、暗い炎。  
 

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