黒猫は尻尾を掴まれ逆さ吊りにされたままブレンヒルトの手によって尊秋多学院屋上へと連れ出されていた。
「ブ……ブブブ、ブレンヒルト? 何をするのさ!?」
「ナニをするんでしょうね?」
愉快そうな笑みと共に取り出されたのは――
「グラム?」
「ええ」
頷いたブレンヒルトが手にしているのはまごうこと無き1st-Gの概念核兵器、グラムだ。
一体どこから? とかそんなもの勝手に持ち出してもいいの? とか黒猫が思っていると、グラムになにやら記していたブレンヒルトがおもむろに口を開いた。
「あのゲーム、面白い事をやっていたわね」
ゲームと言うのは今自分がこんな目に遭っているそもそもの原因である大城作の18禁ゲームの事だろう。
それでグラムってことは……。
黒猫は、ゲーム中でグラムを使ってジークフリートが若返っていた事を思い出す。「い、いやいやいや、ボクはほら、そんなに年をとってないわけでして!」
もしかしたら若体化≠ナ生まれる前にまで戻されるのではないか?
そんな少々過激なようでいて黒猫の主人の普段の振舞いから考えると全く無いとも言い切れない仕打ちの予感にそこはかとなく生命の危機的なものを感じていると、
「あら、誰がアンタを若返らせるなんて言ったの?」
「――え?」
「アンタにはこの言葉をプレゼントするわ」
そう言ってブレンヒルトは刃を下にしてグラムの柄を持ち、高く振り上げ、屋上に突き刺した。
黒猫に見えるように向けられた刃の腹にはこう記されている。
擬人女体化
●
「えー……」
黒猫は自分の身に起こっている変化を見て思わず気の抜けた声を上げた。
黒猫の声は少女のそれになっており、その身体は声と同じく年若い少女のものと化していた。
服など着る必要など無かった猫の身と違って全裸の人間の身体は冷える。
足を開きペタンと座り込んだ態勢になっており、尻に屋上の打ち放しのアスファルトの感触がひんやりと感じられた。
試しに自分の身体に触れてみる。月明かりにぼんやりと浮かぶ白い肌を繊手が滑り、滑らかな触感を伝えてくる。
股間には一本のすじが入っており、それ以外には何もない。結論としては、
あー、人間のメスだ……。
「いやいやいや、これは無いよっ!?」
叫びながら頭を抱えて左右に振ると、肩甲骨辺りにまで伸びた黒い髪が首の動きに一拍遅れて追随する。
「グラムは1st-Gの全て、機構など書かずとも、そのものを書けば具現してくれるのよ?」
さらりと言うブレンヒルトを見て黒猫は思う。
なんてこった。これはマジで身の危険かも!?
「さて」
ブレンヒルトは笑みを満面に湛えて黒猫へと一歩を踏み出した。
黒猫の本能が危険を告げ、思わず後ずさる。
「大城には星になってもらったわ。アンタにはどういう仕置きをしましょうかね?」
笑顔のまま放たれた言葉を受け、黒猫はロクなことになりはすまいと悟る。
「ボクとしては何をするにしてもこの女の子の格好ってのはよろしくない気がするのですがどうでしょうか!?」
悟ったのでとりあえず何も無いまま終わることは綺麗さっぱり諦め、出来るだけ被害を軽減する方向で言葉を発した。
ブレンヒルトは黒猫の言葉など耳に入っていないかのように振舞い、黒猫へと歩を進める。
「じゃあ、まずは――」
黒猫はブレンヒルトに笑顔で蹴倒された。
「うげ」
アスファルトの上に体が倒される。
素肌に感じる冷たさに思わず身を震わせていると、更に蹴りが入ってうつぶせに転がされた。
「さあ、尻を上げなさい。よく狙えないわ」
黒猫は自身を足蹴にしてくるブレンヒルトの言葉を不吉だと思い、しかしその身に染みついた下僕根性が拒否を許さない。
黒猫は言われた通り、膝を曲げ、尻をブレンヒルトに対して突き出す格好を取る。
「良い子ね」
加虐的な笑い声、黒猫は恐怖に身を震わせ窺うように言う。
「ええと……お手柔らかに?」
そんな事を言ってもきっといつものようにこちらの意見を無視して無茶をするのだろうと黒猫が思っていると、意外な返事が来た。
「ええ、分かってるわ」
「……え?」
どこか穏やかな含みを持って聞こえた声に黒猫は一筋の希望を抱き、尻を突き出した姿勢のまま顔を後方に振り向かせてブレンヒルトを見上げた。
――そこには月明かりに映える、凄艶で嗜虐的な笑みを浮かべたブレンヒルトの姿があった。
希望は幻だったことを瞬時に悟って顔をひきつらせた黒猫へとブレンヒルトは告げる。
「だって、女の尻なんですものね。優しくしてあげなくちゃ――最初はきついわよ?」
言葉と共に、ブレンヒルトの指が肛門をなぞる感触があった。
「――っちょ!? ブレンヒルト!? 何をっ」
突如襲った異物感に肌を粟立てながら問いかける黒猫に、ブレンヒルトは何を言っているのといった体で答えた。
「あら、だからお仕置きしてるのよ? その身体、それなりにいい造形してるじゃないの。グラムもなかなか良い仕事するわね」
そう言って指で肛門付近を撫で続けられる。その感覚が猫の時にやられるのとは違う。奇妙な異物感を感じさせる。
「やめ、ブレンヒルト――」
「あら、そんなこと言って……ここは濡れてきてるわよ?」
「――?」
ブレンヒルトの指が秘裂付近に触れ、同時に湿った音が鳴った。
肛門を撫でられる感触に感じたのか、ピンク色の秘裂からは蜜が零れ始めていたのだ。
ブレンヒルトは肛門を撫でている指に蜜を塗り付け、肛門付近への愛撫を再開し、そこにも蜜を塗りたくる。
「い……や、というかボク、にっ、はこの身体のことはよくっ! 分からないわけ……で……と、とりあえずブレンヒルトよりも胸はあるなーとは思っ――ひっ!?」
黒猫が漏らした余計な一言を受けてブレンヒルトの指に加わる力が大きくなった。
「そんなにいじられたいの? しょうがないわね全く。ならお望み通りにしてあげるわ」
「え、や、ご、ごめんなさい!?」
謝った直後、肛門付近を撫でられている感触が消えた。
黒猫がほっ、と息を吐き出し、体が弛緩した瞬間、それを見計らったかのようにブレンヒルトは告げる。
「良い感じに湿らせたわね――じゃあ」
言葉と共に肛門の奥深くまでズブリと指が突き入れられた。
「アッ、ガァアッ!?」
若干の痛みと強烈な異物感が黒猫を襲う。
猫の体のままだったならば全身の毛が逆立っていたことだろうその感触は少女の身である今、全身が粟立つ感覚に取って代わられている。
「ふふ、そんなにキツく締めたら抜けないじゃない」
ブレンヒルトの指が黒猫の尻の中で動き、残りの指が黒猫を宥めるかのように秘裂を愛撫した。
「や、ぁああっ!?」
秘裂への快感という未知の感覚に黒猫の身体がビクリと反応する。締め付けがより強烈になり、数秒してから締め付けが緩み始める。
瞬間、突き込まれた指が引き抜かれた。直腸のみならず内臓全体が引きずり出されるような錯覚。それは、
あ、気持ち……良い……?
「ほら、もう一本いくわよ」
黒猫が立て続けに感じさせられた快楽に戸惑っている間にブレンヒルトにかけられたその言葉の直後、
先程まで秘裂を愛撫して蜜に濡れた指が肛門へと追加で挿入された。
二本に増えた指が肛門を押し開いて挿し込まれる。
更に奥へ奥へと指が動くと、先程は引きずり出されそうだった内臓が押し上げられ、吐き気に似た不快感を 覚えた。
「あ、ああぅっ……」
括約筋が反射して肛門が締まり、ブレンヒルトの指を再び締めつける。
黒猫には尻に侵入している異物の形がはっきりと分かってくるような気がしてきた。
「じゃあもう一本、指増やしていくわよ」
「あ、っぎ、や、やめ……猫の時と、なんか違っ」
問答無用で挿入される指の数が増加した。
そうしながらブレンヒルトは黒猫の膝裏に蹴り入れてよりうずくまった体制をとらせ、更に膝裏を軽く持ち上げと尻の位置を上げた。
股間全体が月明かりに晒されると同時にブレンヒルトは指を引き抜いた。
「っ――……?」
排泄に似た快感を味わい、身を小さく震わせる。蜜が下半身を伝ってアスファルトの上に水滴を零した。
意識が朦朧とする黒猫に、ブレンヒルトの声が聞こえた。
「……こんな格好になっても羞恥心が現れない辺りやっぱり猫ね。つまらないわ」
そんな無茶な。と思うが口は酸素を求めて荒い呼吸を繰り返すので忙しく言葉を作る余裕が無い。
ブレンヒルトはまあいいわ、と呟き、
「じゃあ、本番ね」
片手で黒猫の掲げられた尻を割り開いた。
――本、番?
黒猫が疑問を抱くと同時、堅く冷たい感触が肛門を割り開くように侵入し、直腸までを一息に貫いた。
「っぎ、っがああああァああッ――――!?」
今までに無い強烈な違和感に身体がのけぞり甲高い悲鳴が迸る。
「あら、良い声で鳴いてくれるじゃない。箒の柄の感覚はどう?」
「――え、ぁ……ほ、うき?」
黒猫の肛門には掃除に使う箒の柄が挿入されていた。
「だ……め、こわれ――」
違和感と苦痛に涙声に鳴りながらの訴えは、
「あら、大丈夫よ、壊れないために指で慣らしてあげたんですもの」
猫の状態のアンタならこれくらいイケたでしょうしね。という言葉によって却下される。
ブレンヒルトはそのまま容赦なく箒を途中まで引き抜き、再び突き入れた。
「ああああ――ッグガッ!?」
堅く冷たい人工物を挿しこまれる感触に、感じる不快感が増加している。
しかし、
「ぅううぁ……ギッ!」
それと同時に、引き抜かれる時に感じる快感もまた増加していた。
「ほぉら、すぐに良くなるわよ」
「ぎぃっあッ! ぐウっ!?」
二回、三回と慣らすように箒の柄の出し入れをしていると黒猫の感覚に変化が起こった。
「あ、ああ……」
気持ち――イイっ!
体温を吸収し、腸粘液でも染みついたのか、肛門を出入りしている箒の柄の滑りが良くなっており、冷たい異物感も大分失せていた。
既に柄を挿入する時の不快感は内臓全体を揺さぶる快感に取って代わっている。
「ひ、あ、あ、うァっ!」
箒の柄が出入りするのに合わせて自ら腰を動かすようになった。その様子を見たブレンヒルトは嗜虐的に言葉を投げかける。
「あら、お尻で感じてるのかしら? ――いけない子ね」
箒の柄を動かすピストン運動の激しさが増した。更に、箒の柄の動きに捻りが加えられ、黒猫の尻を抉るように動く。
「あ、ひッ! あッ! あふ、ぅ……あっ!!」
黒猫の手はいつの間にか股間にいっており、秘所を自らの指で掻き回している。
粘性のある水音が淫靡に響き渡り、アスファルトを濡らす蜜はその量を急速に増やしていく。
黒猫は動物の本能に任せて快感を貪っていった。
「やっ、う! あ! な、にかっ! 来る! 来るッ!!」
涙と涎を垂れ流しながら、黒猫は猫の身では感じ得なかった快楽の波に呑まれていく。
そして――
「あ……ああ、あああああああああッ!!」
一際甲高い絶叫と共に黒猫――少女の身体が痙攣した。痛みにも似た快楽に呑みこまれ、黒猫の意識は途切れた。
●
「――うー、な、何かに……目覚め……あれ?」
気が付いてみると、黒猫はブレンヒルトの部屋で寝転がっていた。
「なにか、とんでもない夢を見ていた気がするんだけど……」
身体を見回してみる。どこにも異常らしきものは見当たらない。当然体は黒い毛並みの猫のものだ。少女のものではない。
「……夢オチ?」
半ば呆然としながらそう思っているとブレンヒルトが現れた。その頭上では小鳥が小さく囀っている。
彼女は起き上って不思議そうに自らの身体を見回している黒猫を見て少し意外そうに声をかけた。
「あら、おはよう」
「やあブレンヒルト、おはよう」
挨拶を返した黒猫を数秒じっと観察し、ブレンヒルトは頷いた。
「身体は普通に動くみたいね」
「え?」
「いえ、なんでもないわ。ただ、これからはお仕置きの幅が増えて楽しみだって思っただけよ」
そう言って妖しく笑んだ主人の言葉に首を傾げ、黒猫は直感的な恐怖と何故か流れる冷や汗を感じるのだった。