「ふむ・・・やれやれ、今回もなんとかなったでござるなあ」
身体を湯船に沈めながら、点蔵・クロスユナイトはひとりごちた。
広めに作られた浴槽の中で全身を伸ばし、大きく息をつく。
鼻腔をくすぐる柔らかな木の香りと、五体を満たす湯の熱気が、己の身を内と外より暖めてくれるようだ。
見上げれば湯殿の天窓からは月が見える。
照明とは違う優しげな光を仰ぎながら、”無事に己の務めを果たした”といえる充実感にしばし浸る。
「・・・キリリと冷えた酒と蕎麦でもあれば最高でござるなあ」
「あら?ちゃんと用意してございますよ」
点蔵は背後から不意にかけられた声に思わず身を硬くする。
振り向けば、そこには湯殿の入り口から悪戯が成功したような笑みを浮かべる妻の姿があった。
「ふふふ・・・今日もお疲れ様でした。点蔵様」
・・・不覚でござる。最も身近な者とはいえここまでの接近を許すとは。
ここ最近二番目くらいの不覚でござる!ちなみに一番はいずれ来るまだ見ぬ不覚のための予約席でござるから
まだノーカンでござるよキープ、キープ!と、点蔵は内心で自分を慰めつつ・・・
「自分、忍者としての自信なくすでござるよ・・・」
「精霊達の力を借りましたから♪」
「今、さりげなくチートな発言が出たでござるよ・・・!?」
改めて、柔らかな笑みを崩さない妻の方へ向き直った点蔵の動きが止まる。
「ら・ら・ら・らららら・・・」
裸体!?裸体でござるか?い、いや確かに見るのはいまさらでござるが、いや何度見ても飽きる事は無く・・・そんなことはともかく!
ここは湯殿で自分も裸体なので問題・・・あるでござる!いやしかし、トーリ殿などは・・・
「あらあら」
まだ、恥ずかしがってくれるのですね。
おもむろに固まった点蔵の内心の狼狽を見て取り、彼女は内心で微笑の感情を濃くする。
魅かれ合い、身を重ね、契りを交わし、絆を深めた間柄でもあるのに、だ。
「別に見ても面白いものじゃありませんよ」
傷ばかりのこの身ですし、と言葉を続ける彼女へと点蔵は苦笑交じりの笑顔を見せた。
「・・・ずいぶんとなつかしいことを持ち出すでござるなあ”傷有り”殿」
「そうですね、”点蔵様”」
「しかしまあ・・・少々驚いたというか、何と言うか・・・」
洗い場で背中を流してもらいながら、点蔵はかつて”傷有り”と呼ばれていた彼女と言葉を交わしていた。
洗髪へと移行した彼女の手の柔らかい感触が何とも心地良い。
「たまさかには、よろしいでしょう?・・・あ、お湯をかけますから目を瞑っていてくださいね」
身構える点蔵の頭から程好い暖かさの湯がかけられる。
己の身がすっきりと清められていく様は何とも良いものだ。
「それに・・・また傷を増やされたのでしょう?」
む・・・と、言葉を飲み込む彼に対し、”傷有り”と呼ばれた女性はかまわず、
「私は傷を増やす事は無くりましたが、貴方様は傷を増やされている・・・」
「それは・・・」
自分の不出来のせいであり、貴女が気に病むことではないと点蔵が言葉を紡ぐよりも早く、
唇に柔らかい感触が来た。
暖かく、柔らかく、湿った感触が双方に交じり合う。
湯の温度のせいではなく、お互いにはっきりと頬の火照りを感じつつ顔を離す。
「隙あり、ですね」
・・・不覚度ランキングアップでござるよ。本日はひょっとして自分ヘタレdayでござるか?!
再び消沈モードに入り始めようとする点蔵に、かつて”傷有り”と呼ばれた彼女が言う。
「でも、その傷は貴方様が”何かを為そうとした結果”なのでございましょう?」
「・・・」
再び、何も言えず沈黙を持って返す点蔵に、
「ですから、よろしいでしょう?その傷の意味を想い、貴方の幸いを願い、傍らに在りたいと誓う者が居ても。
傷を癒し、思いを慰めたいと思う者が居ても・・・居ても、よろしいでしょう?」
「・・・jud.(ジャッジ)」
点蔵の答えは簡潔に、だがはっきりと響いた。
「jud.(ジャッジ)では、治療しますね」
彼の答えに満足するように、彼女が笑みと共に己の術式を展開し始める。
同時に点蔵の体の各所の傷が、熱を持つ。だが、その一瞬に・・・
「隙あり♪」
「ほうううう?!」
柔らかい感触と共に、暖かく湿った刺激が点蔵の股間に直撃した。