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「拙僧思うに、貴様らはアレか? “弟の前でのみ泣いたことがある姉”という貴重種(レア)を絶滅させにいくつもりか、ん?」
狭い路地裏の先、そこから現れたのはこの場に不似合いな航空系半竜。竜が進化の形として人型へといたった貴重種だ。
何故か審問官のコスプレをしており、腰には様々な拷問具が吊り下げられているが――こちらの警戒に対し、それを構える姿はみせない。
「知らんだろうがあの女はな、一度しか泣いたことのない女だ。そしておそらく今後も――」
トーリはあのときの涙を最後に、悲しいにならぬと決めたのではないかと、安易な想像を仲間たちは持つ。
ならばトーリの涙を最後に、喜美もまた泣くことはないのだろう。――少なくとも今は。
「故に訊く。貴様ら敵であるな?」
歩を進め、半竜は兵士達の目前に迫る。
「だが異端に非ず。拙僧、異端審問官希望故、異端に非ず同門とは戦いを避けるのが理想である。どうしたものかな」
半竜が警戒したままの兵士達の横を通り抜けていく。兵士達の警戒は解かれるままだ。
「さて矛を交えぬならば、拙僧は説法をいたそう。姉キャラについてだ。姉キャラとはどういうものだ?」
半竜が己の左側に立つ兵士の一人に向かって右手で指を差す。差された兵士は突然のことに言葉が出ず、それに構わず半竜は台詞を続ける。
「己と姉と弟あるいは妹という関係を擬似的なものを含み構築している者か?」
差した指を右に流し90度、右隣にいる兵士を指差し問う。
「あるいは自分とは関係のない、他所の姉弟の姉をみて姉キャラと呼称すべきか?」
どうだ? と半竜はこの場にいる全ての者に問う。
問いは波紋を呼び、兵士達は己に、あるいは傍にいる者にその問いの答え求める。
半竜を警戒したいたときのざわめきとは別の、新たなざわめきが生まれた。
「お、俺さ。家庭教師が女の人だったんだけどさ、2コ年上でさ、あれって一応姉キャラだったのかな? よく叱られたよ。ドキドキした!」
「はいはい! 自分はリアル姉がいます! でも血が繋がっていません! 姉キャラですか!?」
「い、従姉も姉キャラに含めていいのかな……あ、あれ? なんだろう、考え出したら止まらないこの気持ち!?」
兵士達は迷える子羊のような目で半竜をみた。
半竜はうむと頷き。
「各々の答えが出つつあるようだな。では拙僧の答えを申そうか」
おお! と路地裏で期待の声が生まれた。それに対し半竜は眼前で拳を形作る。
「拙僧、異端審問官ではあるが……姉キャラを泣かすというのなら、拙僧は貴様らには私的に死刑をくれてやるのが筋であるな!」
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「という展開はどうだろうか点蔵」
「えっ? そういう話を書くのではないで御座るか!? え、なに妄想オチ!?」
「点蔵、拙僧は同人屋ではない。異端審問官(希望)だ」
「えっ、えー!? えー!?」
「それはそうと、その包みはなんだ点蔵」
「あ、これで御座るか? 最近、ネシンバラ殿も含めて自分らの身近な同人界隈ではTSがはやってるそうで、それのサンプルを貰ったで御座るよ」
「ほう?」
「……まあ、モデル料ということらしいで御座るよ」
包みから透けてみてた文字は“点蔵×TS傷有り”。
……なるほど。モデルか!
「“ウルキアガ×点蔵”シリーズも何冊か出ているらしいが、それのTSモノもでるのか? 拙僧、どちらにしろ遠慮したいところだが」
「どうでござろうなー。正直、遠慮して欲しいんでござるが」
「“あ、ああ、自分の股間が木の葉隠れー!”とかなぁ、どうよ?」
「“もう駄目で御座る。自分の半蔵門がみ、微塵隠れーっ!”とかで御座るな。まあ言っても詮無いことで、と御免――」
急ぎの用が御座るのでと点蔵は挨拶交じりに忍者走りで立ち去る。
ウルキアガも片手を挙げ別れの挨拶とした。
「しかし、TSなぁ」
……あの魔女どもも関わっているのか。
だが自分には関係ないことだと、自室へ足を向けようとして、立ち止まった。
……いや、待てよ?
とウルキアガは何かひっかかりを感じ、自分の直感に誤りがないと信じて能力を用いる。
……想像力、臨・界・発・動!
・さらし
・無愛想
・同級生
・勤労学生
・弟アリ
・妹アリ
・家計を支える
・弟妹を養う
・戦友
+姉キャラ
……結構高得点であるな!
体力平均、攻撃力平均、耐久度平均、役職なし。
されど第二特務かつ半竜の自分とともに戦場を駆け抜けた仲だ。おまけに互いに背中を預けた回数は数知れない。
……ネームを切るとすれば、こうか!?
“何をしたっていいと”“解っているなら言わなくてもいい”
“拙僧は動けんのだ”“情け無くなるから言うな”“楽しそうにやっておるのに”“怒るぞ”
“く”“――は”“……キツいな”“行って……………ここで、――……………いくから”
“……!!”“名を呼ばなくてもいい”
“三発目だ。校庭と、先ほど、既に……していたからな”
“こっちは無視か?”“んー、じゃあ、ここ………………か?”“こっちは二発目だな”“……まだまだであるな!”
「――イケる!」
過去の会話でコラってみたもののイイ感じだ。ナイス想像力。
……日々の鍛錬の賜物であるな!
これは神の啓示に違いないと、ウルキアガは帰宅の予定を変更し魔女の巣窟に向かうことに決めた。
念のためにと、浅間へ性別変換系の類の術式を発注しておこう。何これは異教であって異端ではない。
そう思う半竜であった。