風見とシビュレの絡み合いを、新庄と八号はただ見つめていた。  
――え、えーとえーとえーと……。  
眼前で繰り広げられる友人二人の痴態に混乱する新庄。  
そんな彼女に背後から声が掛けられた。  
「御目覚めですか。心情は理解出来ますが、大声を出さないで下さい。  
シビュレ様は、水を差されることを快く思われません。宜しいですか?」  
口を塞いだまま囁やきかける八号の言葉に、新庄は首を縦に振り了解の意を示す。  
八号の手が口から離される。彼女に向き直ろうとした新庄は、体の異変に気付いた。  
「……八号さん、なんでボクの手を掴んでるの?」  
新庄の両手は風見のように後ろに回され、後ろに座る八号の手に拘束されていた。  
「申し訳御座いません新庄様。シビュレ様の御命令ですので」  
「御命令って、ボクの人権ナチュラルに無視!?」  
「Tes.、新庄様の人権は確かに存在しています。  
しかし私は、それとシビュレ様の御命令では、優先度が後者に設定されております」  
――何だよ、それっ!?  
その言葉に怒鳴ろうとする新庄だが、再び上がった風見の悲鳴に顔を正面に戻す。  
「やだぁっ! お尻裂けちゃうっ! おっ、御願いだから抜いてよシビュレぇ!!」  
目を凝らして見れば、風見の中へと進入する指が二本に増えている。  
「ふふ、キツキツなのは日頃から体を鍛えておられる証拠です。  
健康的な括約筋……。これならきっと、出雲様もお喜びになられますよ」  
「か、く……?」  
 
シビュレの言葉に、いやその中の単語に反応する風見。  
風見の目を覗き込みながら、シビュレは笑みを濃くする。  
「――ええ、この締め付けに興奮しない男性はいないでしょう。  
これでまた、以前の刺激的な性生活が戻って来ますよ?」  
「覚、とまた……」  
――シビュレさん、怖い……。  
微笑みを浮かべたまま、風見の蕾に指を抜き差しし、彼女の豊かな乳房を揉む。  
風見の全身を這い回る舌先は、まるで食事の魚を舐め回す猫に見える。  
口から出る言葉は、普段と変わらぬその口調と内容に酷い落差がある。。  
――嫌だ、この場所は全部おかしい……!!  
室内の異様な空気に硬直する新庄。  
しかし、視線を二人から外すことは出来なかった。  
 
自動人形の住まいだからだろうか、室内には時計が無かった。  
自分が目覚めてから二、三十分くらい経ったかな、と新庄は思う。  
時間のことを意識したのは、シビュレが風見の体から離れたからだった。  
狭い室内には女性の放つ濃い匂いが充満しているが、  
既に麻痺した鼻はその匂いを感じ取らない。  
風見は、ただただシビュレに犯されていた。  
泣き声も上げず嬌声も上げず、体を時々ぴくりと反応させるだけの風見。  
その目からは生気が感じられず、薄く開いた目からは乾いた涙の後が見える。  
顔の下の布団は、風見の涙と二人の唾液でじっとりと湿っていた。  
一方のシビュレは、先刻までの歪んだ気力に満ち溢れていた表情は既に無く、  
再包装のドラマを流し見るような、さんざ遊び倒した玩具を弄ぶような、  
そんな顔をして千里を見つめていた。  
行為中シビュレは、風見の股間の全面部に薄く生え揃う陰毛、  
そしてその下には一切手をつけていなかった。  
何でだろうな、と眼前で繰り広げられた痴態にあてられ、  
もやのかかった頭で新庄は考える。  
「……出雲様との性交は、貴方に快感を与えていますか?」  
 
シビュレの奇妙な問いかけに、風見は答えない。耳に届いているのかも怪しい。  
「二年前に貴方にこの身を救われた時から、ずっと、貴方に尽くしたいと思い、そうして  
 
きました。  
自動人形は、主人に真の悦びを与えたいと、常にそう思い、それを成す事を至上の悦びと  
 
しています」  
話しかけつつ、再び身を寄せ、唇を風見の顔に寄せる。  
 
「私の身に刻まれたその想いが叶い、私は今、とても幸せです。千里様……」  
 
優しく、穏やかな口づけ。慈愛に満ちたシビュレの表情。  
新庄と八号は、最初から最後まで、ただ二人を眺めるだけの傍観者だった。  
 
 
 
 
しばし後、シビュレは風見の拘束を解き、布団に寝かせた。  
うつろな目をした彼女の体に、掛け布を優しく掛ける。  
事後処理、と呼んでいいのか怪しいそれを済ませたシビュレは、  
新庄と八号に向き直って言葉を掛けた。  
「――新庄様、八号様。御協力感謝いたします」  
「Tes.」  
「えっ……」  
即座に返事をする八号。しかし新庄は、シビュレの言葉に戸惑った。  
――協力ってボク、何もやってない、し……。  
シビュレの凶行を止める事すら出来なかったと、今更ながら新庄は悔いる。  
しかし、シビュレの次の言葉は新庄の意表を突いた。  
 
「ところで、先ほどの更衣室での会話から察しますに新庄様も未経験のようですね。  
せっかくですから、新庄様にも手ほどきいたしましょうか?」  
 
「へっ……?」  
呆然とする新庄。動かぬ脳を必死で回転させる。  
――手ほどきってつまり、風見さんにやってたあれをボクに…………!!?  
「いやっ、悪いからお断りするよシビュレさん!  
ほら、ボク佐山君にしか見せたことないし他の人に見せれるような体じゃ――ッ!?」  
――え、ちょっと……。  
後ろに回っている両手に痛みを感じ、新庄は言葉を途切れさせた。  
首だけで振り向けば、いつもと同じ表情の八号。  
「八号さん……。その、手、痛いよ……」  
「…………」  
苦悶の表情を浮かべる新庄に、八号は無言を返答とした。  
八号を睨むように見つめる新庄の耳に、畳が擦れる音が入ってきた。  
視線を正面に戻せば、シビュレが四つ足で這い寄ってくる。  
――やだっ!!  
その姿に本能的な恐怖を覚えた新庄は、手の痛みを無視して暴れた。  
無言で体を激しく揺らして拘束を逃れようとし、座ったまま足を振り回す。  
「あらまあ……。新庄様、狭いのですからそんなに暴れたら危ないですよ?」  
「新庄様、落ち着いて下さい」  
片手で新庄の両手を掴み、揺れる肩に手を掛けようとする八号。  
しかし、その拘束が緩んだ一瞬、新庄は八号の手を振りほどき立ち上がった。  
部屋と廊下を隔てるふすまに駆け寄ろうとするが、  
重りを付けられたような感触が新庄の体を襲った。  
――重力制御!?  
足をもつれさせ転倒する新庄。その手は、傍らの小さな箪笥に掛かっていた。しかし、  
「あっ!」  
箪笥の上に置いてあった何かに手を引っ掛け、落ちるそれと共に体が畳みにぶつかった。  
「落ち着いて下さいと――!!」  
息を呑む八号。体を起こした新庄は、無意識に自分が落とした何かに目をやっていた。  
それは、箪笥の上に伏せられていた写真立て。中には当然写真があり、その被写体は――  
 
「――佐山君の、写真?」  
 
 

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