「人を壊す、という事について考えたことがありますか? 新庄様」  
重力制御により、畳に座った姿勢で壁に押し付けられた新庄に向けて、シビュレは語りかける。  
「物理的に壊すだけなら、それこそ幼児にでも可能です。  
単に凶器で対象を破壊すればよろしいのですから」  
硬く目と口を閉じる新庄は、シビュレの言葉に反応しない。  
気にする事無くシビュレは続ける。  
「ところが、精神面、いわゆる『心』を壊すとなると、一筋縄ではいきません。  
薬物などで対象の脳を破壊したとしても、それは物理的な破壊と同じです。  
対象自身が、自らの『心』を破壊してしまう。それが重要なのです」  
一糸纏わぬ姿の新庄。脚の間には八号がその身を割り込ませ、  
新庄の股間に舌を這わせていた。  
「具体的にどうするか。方法の一つが、その対象を辱めることです。  
侮辱し、恥辱を与え、屈辱を与え、そして陵辱する。  
責め苦に耐えられなくなった時、人は心を閉ざし、逃避します」  
本来発声の補助のため存在する自動人形の舌は、人間のそれと違いぬくもりを持たない。  
新庄の内部へと侵入し、蠢く冷たい舌。  
そんなものに快感を受ける自分の体を恨み、新庄は歯を食いしばる。  
「私は、それが見てみたいのですよ。新庄様……」  
見下ろしてくるシビュレの目を、新庄は見ようとしない。  
辱められる己の姿は、正にシビュレの語り通りである。  
しかし新庄は、自分の力ではどうすることも出来ない現状に、  
ただ目をつむり耐えるだけだった。  
「……ところで新庄様。そろそろ喉が渇いたのではありませんか?」  
 
――えっ?  
確かに、喉はとっくの昔からカラカラだ。  
突然聞こえた気遣いの言葉に、薄く目を開ける新庄。  
視界には、かすかに湯気の立つ湯飲みを持ったシビュレの姿が映った。  
新庄の隣に腰を下ろし、湯飲みを持ち上げるシビュレ。  
しかし、それの向かう先は新庄ではなく、シビュレの口だった。  
湯飲みを大きく傾け、中身を全て流し込み、しかしそれを飲み下さない。  
新庄のほおにシビュレの手が掛けられ、無理矢理横を向かされる。  
――ちょっと、まさか……。  
「そっ、そんなのやだよシビュレさ」  
んっ、と口を塞がれる。塞いでるのはシビュレの口。  
差し込まれたシビュレの舌が新庄の唇を割り、生ぬるい茶が流し込まれる。  
二人の唇の隙間から流れ落ちる茶は、新庄の顎、首を伝って胸を濡らした。  
茶がなくなってもシビュレは口を離さない。  
差し込んだ舌をそのまま動かし、新庄の口内を味わおうとする。  
首を動かし逃れようとしても、新庄の顔に添えられた手がそれを許さない。  
上と下とを同時に犯される奇妙な感覚。佐山の指と舌とは違う感触。  
「……はっ、あ、ふぁっ……ふ、うっ……」  
新庄の喉から漏れる吐息に、いつしか快感に喘ぐ声が混じっていた。  
その声を聞いたシビュレは、口を離して囁きかける。  
「……両方のお口で満足頂けたようで。  
奉仕を旨とする自動人形としても、満足の極みですわ」  
「なっ……」  
下品な物言いに顔を赤くする新庄。  
文句を言おうと口を開くが、そこにシビュレが指を差し込んだ。  
「ふぁひを……」  
それでも喋ろうとする新庄を見て、シビュレは差し込んだ指を乱暴に掻き動かす。  
「ぅえっ、えふっぅあ……」  
喉の入口までを荒らす指の動きに、えずく新庄。  
苦しみの表情を浮かべる新庄に、吐き捨てられるように言葉が掛けられた。  
「嫌なら、私の指くらい噛み砕いてしまえば宜しいのです」  
 
――何だよ、それっ!?  
「それとも、新庄様はマゾヒストですか?  
御望みならば、いくらでも乱暴に出来ますが」  
「ぃあ! そんふぁおっ……!!」  
無理矢理首を振りつつ拒否する声を上げる新庄。  
涙に濡れる新庄の顔を見、シビュレは指を抜いた。  
「左様で。主人の意向に従うのが自動人形です。  
嗜好を無視して乱暴をするなんて、そんなそんな」  
ぱたぱたと手を振り微笑むシビュレ。  
新庄の思考力は、既にその言葉の異常さを指摘出来ないほどに落ちていた。  
「八号様。一旦止めて、重力制御を停止して下さい」  
「……Tes.」  
延々舌を動かし続けていた八号が、身を起こし新庄から離れる。  
新庄は、重力制御という拘束を解かれはしたものの、全身を襲う虚脱感のお陰で、  
立ち上がることすら出来ずに体を壁に寄りかからせていた。  
顔を起こすと、八号と目が合った。  
いつも通りの無表情。人形らしさを最も感じる、感情の浮かばない顔。  
――でも、さっきの八号さんは……。  
秘密を知られた時の彼女の反応を思い出す。人間と同じように、感情を表に出していたことを。  
感情を得るというのが良いのか悪いのか、新庄には解らない。  
ふと、シビュレが風見の体を起こしているのが目に入った。  
何やら風見に声をかけ、口づけするシビュレ。  
よく見れば、風見の喉が上下して何かを嚥下している。  
またお茶でも飲ませているのかな、と新庄は思う。  
しかし、口を離したシビュレは意外な単語を口にした。  
「――IAI大人の玩具部門による試作品、媚薬『不感症殺し』。  
無味無臭ゆえ飲みやすく、飲み物に混ぜても安心。  
それなのに効果は抜群。名前通り、不感症の貴方でも一口で全身性感体」  
淡々と、説明書でも読むように話すシビュレ。  
――ええと、それって……。  
そう言えば、先ほどから体が妙に熱くなっている気がする。  
 
「一夫様の部屋に放置されていたサンプルですが、所望しましたら  
快く譲って下さいました。二次元に効果が無いのがご不満だそうで……」  
「……飲ませた、の? ボクと千里さんに……」  
その言葉に、笑みを濃くするシビュレ。  
 
「――その通りです、という答えを御望みですか?」  
 
「YESならば、その痴態も薬のせいに出来ますからね。  
ですが、NOならばどうですか? 新庄様は、自分の淫乱さを受け入れられますか?  
もし私が薬を飲ませたのにNOと言ったなら、またその逆だとしても、  
新庄様は自分を理解することが出来ますか?」  
シビュレの問いかけは、新庄の心に更なる圧力を加える。  
話すシビュレの腕の中には、うつろな目をした風見がいる。  
「どちらにせよ、普段から随分佐山様に可愛がってもらってるのですね?  
あんなに声を上げて、体を悦ばせて……」  
――違う。  
「わずか半年でそんな淫乱になるなんて、  
佐山様の調教テクニックも大したものです」  
――何だよ、それ。  
風見の背、肩甲骨の間を指でなぞり、  
もう片手で千里の秘部を愛撫しているシビュレ。  
シビュレの手の中で喘ぐ風見の姿は、とても理性が残っているように見えない。  
その風見の様子に、頬を上気させて話すシビュレの声。  
新庄は、彼女の言葉に内心反発する。  
「今度、佐山様にその調教法、直接教わってみましょうか。  
良い案だと思いませんか? 八号様」  
「……Tes.」  
八号が返事をするのは、自動人形の性か、  
それとも彼女自身がそれを望んでいるからなのか。  
――もう、もう……。  
 
「――もうやめてよ、シビュレさん……」  
 
新庄の両目からは、涙が溢れ、零れ落ちていた。  
風見を犯し、八号の秘密を暴き、自分を責めるシビュレの行い。  
それが、とても悲しくて。普段の彼女と同じとは思えなくて。  
涙する新庄は、哀願の言葉を述べる。  
「どうしてシビュレさんがそんなことするのか解らないけど、  
でも、もうやめて。こんなの、絶対おかしい……。  
人間だとか、自動人形だとか、そんなの関係ないよ。  
人をわざと悲しくさせるなんて、おかしいことだから……」  
「…………」  
困った、という表情を、新庄に向けるシビュレ。  
悩むそぶりを見せて、そして口を開く。  
「……自動人形というのは、不確かな存在なのです」  
――?  
自己の存在を懐疑するシビュレの言葉に、戸惑う新庄。  
「鉱物に宿りし生命とは何か。人間のそれとは何が違うのか。  
人間と同じ生命を得、知能すら得ておきながら、何故人間とは違う存在なのか。  
……ほとんど哲学の領域ですね。  
3rd-Gの自動人形は、これらの疑問を持たぬよう思考が調整されているのですよ。  
ですが私は、自動人形ではなくなりました。  
それで、目覚めた二年前からこんなことを考え続けているんです」  
シビュレは話しながらも、風見の体に這わせる手を休めることは無い。  
「だから、知りたいのです。人間の全てを。  
たとてその過程で、何かを壊すことになろうとも……」  
最後にシビュレの顔に浮かんだ笑みは、今までの怪しい微笑みとは違う、  
自嘲するような苦笑いだった。  
「ですから新庄様。申し訳御座いませんが、最後まで御付き合い下さい。  
……八号様、準備の方は宜しいですか?」  
「Tes.」  
 
シビュレの言葉に、新庄は視線を八号の方へと向けた。  
八号は侍女服を脱いでおり、上はシャツ一枚、下は、  
「何、それ……」  
下着まで脱いだ八号の股間には、  
男性器が――正確にはそれと同じ形をした何かが――付いていた。  
「Tes.、3rd-Gの自動人形は主人の欲求を全て満たす存在です。  
ですので、特殊な趣味の主人用のアタッチメントがこのように」  
「このように、って……」  
――佐山君のより、大きいじゃんかぁ……。  
わずかに上向きにそっている八号のそれは、  
自分よりはるかに大きく太い佐山のものより更に大きかった。  
「新庄様、御覚悟は宜しいですか?」  
風見をまた寝かせ、首筋に舌を這わせていたシビュレが  
顔を上げて問いかける。  
「やだ、無理だよ、そんなの……」  
後ずさろうとするが、後ろは壁。  
重力制御は受けていないはずなのに、体が震えて思うように動かない。  
近づいてきた八号が、新庄の股間へと手を伸ばし、軽く撫で上げる。  
「ひゃっ……」  
指についたぬめりを舐めて、八号は軽く頷いた。  
「宜しいようですね。では、失礼します」  
八号は、新庄の秘所にあてがった性器を模したそれを、ゆっくりと押し入れた。  
――ひっ  
 
「いやああぁぁあぁぁあああぁぁっっ!!!」  
 
初めて受け入れるには巨大すぎるそれは、新庄に激痛をもたらした。  
下腹部を支配する激痛と異物感に、たまらず叫びを上げる。  
しかしその叫びを気に留めず、八号は腰を前後させる。  
 
「やっ、あっ、抜いて! 抜いてぇっ!!」  
八号を押しのけようとするも腕には力が入らず、服に爪を立てるくらいしか出来ない。  
結合部から滴り落ちる処女喪失の証は、畳をわずかに赤く汚した。  
あくまで無表情に、八号は新庄を突く。  
「もう、新庄様ったら声が大きすぎます。八号様、黙らせて下さい」  
「Tes.」  
八号は新庄の口を己の口で塞ぎ、舌を差し込んだ。  
――やだやだ痛いやめてもうこんな嫌だ  
差し込まれた八号の舌に新庄は強く歯を立てるが、  
痛覚を持たない自動人形には無意味で、口内を荒らす動きを止める程度にしかならなかった。  
舌の動きを阻害された八号は、突き込む腰の動きを大きく速くする。  
部屋の中にある音は、新庄のくぐもった叫び、八号が体を打ち付ける音、  
シビュレの囁きに、風見の喘ぎ。  
狂乱としか呼び様の無い室内で、二組の一方的な責めは続く。  
既にシビュレを受け入れた風見は嬌声を上げて身を悶えさせ、  
無理矢理の挿入にショックを受けた新庄は、ただ泣き叫ぶだけだった。  
新庄の喉から搾り出される声がかすれ始めた頃、  
シビュレが何やら八号に声をかけた。  
それを聞いた八号は、繋がったまま新庄を抱きかかえ、持ち上げる。  
「ぅあっ! あ……」  
長身の八号に抱き上げられれば、新庄の足は地に届かない。  
自分の重みで、八号のが奥に突き刺さる感覚に耐えられず、  
新庄は八号の肩に手を回し、足を体に絡みつかせて抱きついた。  
「な、何……八号さん……?」  
突然抱き上げられたことへの疑問を口にする新庄。  
それに答えたのは八号ではなく、横に立つシビュレだった。  
 
「いえ、新庄様も前ばかりではつまらないかと思いまして……。  
さ、千里様」  
視線を下に向けると、四つんばいになった風見がいた。  
「言うとおりにしたら、もっと良くして差し上げますからね」  
「う、うん……」  
頬を赤く染めた風見は、新庄の真後ろに座り、  
尻の間へと顔をうずめる。  
――風見さん、何を…………!?  
「ひゃぁっ!!」  
新庄のを両手で広げた風見は、あらわになった蕾に舌を伸ばした。  
舌先から唾液をたらしながら周りを舐め、中へと舌を侵入させる。  
前を犯された時とは違う屈辱に、呼吸を荒くする新庄。  
「風見さん!? そんなとこ汚いよぉっ!!」  
「何を申されるのですか新庄様。毎日佐山様に綺麗にして貰ってるのでしょう?」  
「そんなわけっ――ふぁっ!?」  
八号の突然腰を引く動きに、新庄は思わず声を漏らした。  
不安定な姿勢だからか、八号の腰の動きはぎこちないものであったが、  
経験したことの無い前と後ろの同時の責めに、新庄は快感を覚え始めていた。  
「んっ……、くっ、ぁあ……いやぁ……」  
「まだ『嫌』なんて言うのですか? 随分と感じ始めているようですが」  
 
――感じてる、なんて、そんなわけ……。  
「違い、ます……」  
新庄の否定の言葉にもはや力強さが無く、ただ垂れ流されているだけ。  
「そろそろ認められてはどうですか? 佐山様となさるより気持ちいいのでしょう?」  
「そんな、そんなこと……」  
――佐山、君……。  
自分の中からたとえ一時と言えど彼が消え、他の人間に犯されていることに  
悦びを感じていたと、新庄は自覚する。  
――でも……。  
 
「もう、いいや……」  
 
かすれたその声を、八号は耳にした。。  
八号はその言葉の意味を考え、……新庄が変わってしまったと判断する。  
それの良し悪しを判断するのは自分ではない、とも。  
新庄は、単に諦めただけなのか。それとも、享楽を自ら受け入れたのか。  
それが解る者は、誰一人いない。  
 

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