「ん? 拙僧に惚れたか?」
「解っているなら言わなくてもいい」
『創作術式:睦月:――展開』
「――三発殴ってウルキアガのノリキへの感情を砕け」
「ノリキ――!!」
「名を呼ばなくてもいい」
ベリーショートのツリ目の少女。甲板の上で航空系半竜と同じ大気に身を晒す人物はいつもと同じ服装だ。
武蔵アリアダスト学院男子指定制服。それは手違いでウルキアガに支給された、人間基準の、そして男性用の制服だ。
その服を纏う女子生徒。今この場で第二特務の半竜と相対するただの女子生徒は、感情と関係の喪失を宣言した。
こちらの想いを伝えれば、相手はそれを術式で“殴り”、宣言通りウルキアガがノリキへ抱く全ての事柄は消滅する。
記憶も感情も相対する理由もだ。
ウルキアガが動かねば、あちらから仕掛けてくる。半竜の強靭さは彼女の術式の前では無意味だ。
タフさがウリである魔族のガリレオを相手に、その外殻の上から攻撃力を通したのをウルキアガは見ている。ともに戦った戦場で。ノリキの術式はそういう類の術式だ。
挑めばノリキが砕きウルキアガの言葉は届かず、そしてウルキアガはノリキの元を去る。
挑まねば敗北によりウルキアガの言葉は届かず、そしてノリキはウルキアガの元を去る。
……これが拙僧とノリキの平行線か。
思えばあの流れからこうなったのではない。
……以前から平行線であったわけだ。
互いに一定の距離を置き、踏み込まなかった。悪い関係ではなく、悪い時間ではなかった。
悪いことではない。
だが、
……進まねばならんよな!
ノリキの技を凌いだ上で、勝利し、彼女への想いを伝えねばならない。
なによりもここを突破せねば、トーリ達が危ういのだ。
想いを込め前へ進めと己に命じる。
「拙・僧・発・進……!」
外殻スラスターに竜砲を蓄積させ、吼える。
「――Go ahead!!」