緩やかな昼下がり。白衣姿の少女と黒衣の少年が相対していた。  
テーブルに向かい合って若い男女が座る様は、恋人同士の語らいと言ったところであろうか。  
だが、その二人は世間一般に述べられる様な男女の仲とは大いに違っていた。  
「今更だが、創作というものに制限は無いね。いわば無限大の可能性があるわけだ」  
白衣の少女が眼鏡の位置を直しながら言葉を紡ぐ。耳の長い少女だ。  
「jud.同感だね。一つの物語は、読み手が触れたその時から新しい可能性を生み出すとも言える。  
受け取った読み手が”もしここがこうだったら?”と思ったらそこから新たな物語が生まれる訳だ」  
黒衣の少年もそれに応じるように言葉を綴る。同じように眼鏡をかけた少年だ。  
二人とも手元の書簡から目を離さず、時折自らの表示枠にメモを取りながらの会話だ。  
不意に二人が同時に己の飲み物に手を伸ばす。そして、器の中ですっかり温くなった茶に口をつけた。  
「・・・それで?今更だけど何の用件かな?」  
黒衣の少年、トゥーサン・ネシンバラが耳の長い少女に問いかけを発する。  
「・・・」  
白衣の少女、トマス・シェイクスピアの名を頂く少女は、カップを口元に当てたまま無言で彼に上目遣いで視線を向ける。  
何か、自分が咎められてでも居るような空気を感じ、ネシンバラは反射的に視線を逸らした。  
横目でちらりとシェイクスピアの様子を伺うと、彼女は先ほどと変わらない視線をこちらに向けたままだ。  
・・・なにか地雷踏んだかなあ  
背筋に嫌な汗を感じつつ、ネシンバラは再び茶に口をつけた。  
「・・・」  
ただ、会いたかっただけ・・・なんだけど、ダ、ダメ!そ、そんなこと言えないよう・・・あうう  
シェイクスピアと呼ばれた少女は跳ね上がる己の鼓動を必死で抑えていた。  
今はまだ気づかれては居ないが、己の内では既に色々な箇所がレッドゾーン突入だ。  
とにかく何かを言わねばならないだろう。ストーリー的にはこのあたりで軽いジャブは基本だ。  
「け・・・」  
「?」  
シェイクスピアより放たれようとする言葉にネシンバラは身を向けなおした。  
彼女の居る場所に行くと、そう公言したのは他ならぬ己自身だ。  
ならば、いかなる言葉も受けなければならない。  
たとえそれが、己を打ち貫くものであってもだ。  
「・・・結婚して」  
ジャブどころかストレートパンチがネシンバラに襲い掛かり、彼は茶を吹き出した。  
 
 
「お風呂・・・開いたよ」  
「あ、ああ・・・」  
濡れ髪をタオルで拭いながら、シェイクスピアがネシンバラに声をかける。  
ささやかな彼の居城であるこの部屋は、小さいなりに風呂を兼ね備えた造りだ。  
一人用の部屋としては武蔵では贅沢な部類に入るであろう。  
だが元々インドア派であり、また今では重要な情報も扱う彼にとって、  
一人になれる場所というのは必要不可欠である為、思い切って奮発した結果でもあった。  
ネシンバラはそそくさと逃げるように風呂場へと向かう。  
洗面所兼脱衣所の洗濯機に脱いだ衣服を放り込み、大して広くも無い風呂場へと飛び込んだ。  
彼女の先ほどの発言は、ことのほかダメージが大きかった。一撃でゲージ半分を持っていかれたようなものだ。  
それは予想外の衝撃を自分にもたらし・・・思わず彼女にウォーターブレスを直撃させてしまった。  
反撃として自分も頭から冷水をかぶる事になったが、その後の追撃に比べれば大したものではない。  
・・・泣かれたのだ。  
正直な話、何か手痛い反撃を受けるものと覚悟したものだが、これは相当に堪えた。  
自分の周囲の女性陣ならば、ドカンというかバコーンというかズドンというか・・・  
とにかく擬音系の物理的なダメージに特化した、諸行無常の響きをもった一撃を食らわせるのが常だが、  
冷静に考えてみれば、かなり一般的でない話だ。  
・・・あれは、反則だよなあ  
情けない事に、完全に想定外の事態に周章狼狽してしまった自分が居る。  
なにせ目の前で涙を流されながら”酷い!いきなり顔にかけるなんて!!”とか”私の大事なものを無理やり奪って行った癖に!!”などと、  
彼女に大声で叫ばれてはたまらないものがあった。  
場所として静かな喫茶店を選んでいた為に周囲に喧伝する事態にならなかった事が幸いだ。  
だが、店の隅の一角に見知った顔を見つけた時は肝を冷やした。  
確かメアリ女史と立花女史という変わった組み合わせだったが・・・  
ともあれ、とっさに人目の付かない場所として自分の居室にシェイクスピアを連れてくる事になったのが事の顛末だ。  
「好きな娘の涙って、反則だよなあ・・・」  
頭から被っていたシャワーを止めて、ネシンバラは自らの想いを口に出す。  
正直あれはマズい、ガード不能技もいいところだ。  
「へえ・・・一応そう思ってくれてたんだ」  
不意に背後からかけられた言葉に心臓を殴り飛ばされたような衝撃を受ける。  
「ちょっ!?な、なんで、ここに!?」  
慌てて振り向けば、背後に自分の想い人である少女の姿があった。  
彼女は先ほど着替えとして貸し与えた自分のカッターシャツをゆるやかに羽織りつつも、その前は開けたままで・・・  
「は、裸?!な、何か下に着なくちゃ・・・」  
Tes.と、彼女は自分の裸体を隠そうともせずに答えると、  
「でも、私は半裸だけど、君は全裸だよね?状況的に」  
彼女の言葉にネシンバラは慌てて空の浴槽に飛び込んだ。  
 
武蔵生徒会書記にして軍師の役を担う少年、トゥーサン・ネシンバラは絶体絶命の状況にあった。  
身には寸鉄も帯びず、眼前は袋小路にして退路は絶たれている、  
助けを求められる人も無く、身を隠す遮蔽物も無い、正に文字どうり絶体絶命の境地。  
そして、我が身を脅かす敵は・・・  
「ん・・・ねぇ、No.13・・・いや、トゥーサン」  
背後から甘い声を囁きつつ、己の身を自分に擦り付けるように寄せる耳の長い少女、  
トマス・シェイクスピアがその恐ろしい戦力を持って迫って来ていた。  
                 ●  
「ふむ・・・どういうことだ?我が友よ」  
金色の色を纏った女王が傍らの女性に問いかけを発する。  
英国に君臨する”妖精女王”エリザベスの午後の茶会での一幕だ。  
「Tes.、くだらない話さ、クィーン。初心な小娘が一念発起して愛しい男に会いに行くってんでね。  
ちょいと手助けをしてやっただけのことさ」  
問いかけへの回答を紡ぎながらもその手と口を休ませず、紅茶とスコーンの消費を続けるのは黒髪の女性、  
英国女王が友人と称する”女王の盾符”が一人”海賊女王”グレイス・オマリその人だ。  
「・・・あのシェイクスピアが、か」  
「あのシェイクスピアが、さ」  
一息をついて、侍従が淹れた新しい紅茶に二人は口をつける。  
「それで?グレイス、そなたがただそれだけということはあるまい?」  
何をやった?という女王の問い掛けに、グレイスはTes.、と口の端を歪める笑いを見せ、  
「一服盛ってやったよ」  
小娘と小僧の逢瀬だ。勢いは必要だろう?と、グレイスは悪びれもせずにそう言って笑いを見せた。  
                 ●  
「興奮剤の、一種でえ・・・摂取者の体臭、や、たいえ・・・き、から、本人以外、に、も・・・」  
荒い息をこぼしながら、耳の長い少女が身体の各所をまさぐりながら語る説明に、  
ネシンバラは半ば呆然としながら耳を傾けていた。  
「ん・・・もういいやあ・・・ねえ、トゥーサン」  
「あ、ああ、なに、か、な?」  
自室のベッドの上でシェイクスピアが晒す痴態に背を向けていた彼に声が掛かる。  
「・・・やっぱり、私のこと・・・きらい・・・」  
「ええ?!い、いや、そんなことは・・・」  
消え入るような声で呟く彼女に、ネシンバラは上ずった声で慌ててフォローの言葉をかける、  
「う・・・うわぁぁぁん!!やっぱり、君は貧乳眼鏡で微妙に属性が被ってるけど、  
可愛げの無い私と違って一途で純粋な武神が乗っても壊れないCONが18超えてそうな従士の方がいいんだあ!!」  
「まてまてまてまてまて!!それ違う!そんなことは無いから!あと彼女が高いのはむしろAPやACだよ!」  
狼狽しつつも関係の無いツッコミによって、むしろ落ち着いた二人は改めて向かい合う。  
二人とも白いシャツを身に纏っただけの姿で、シェイクスピアはいまだ子供のように泣きべそをかいていた。  
ネシンバラはひとつ小さく吐息をつくと、目の前の少女を覗き込む。  
「・・・ねえ、トマス」  
「ふぇ・・・!?」  
泣き顔を上げた彼女の頬に、不意に少年の唇が触れた。  
突然の事に動きを止める少女に構うことなく、彼の舌と唇が涙の後を拭うように動いた。  
「「・・・」」  
二人の視線が一種だけ絡み合い、次の瞬間にお互いの唇が合わせられる。  
かちり、と二つの眼鏡のフレームが触れ合う音が響いた。  
どちらからともなく小さな動きが起こり、舌が深く柔らかく絡み合わされる。  
暫しの静寂は、解き放たれたお互いの口唇をから漏れた吐息によって終わりを告げた。  
「・・・僕も、これ、で、くすりに、やら、れてしまった、ようだ」  
吐息が熱い、動機が激しい、顔は火が点いたようで、頭は茹るようだ。  
ああ、たぶん今自分は普通ではないのだろう・・・だが、これは、この想いは・・・  
「ねえ・・・」  
「うん・・・好きだよ」  
ネシンバラの言葉に、シェイクスピアの表情が輝きを帯びる。  
「僕は・・・臆病者だ。君の姿を前にして、こうまでしないと伝えられない、でも・・・」  
君が好きだ・・・というネシンバラの言葉は、だがシェイクスピアに伝える事はできなかった。  
その言葉が綴られるより先に、彼の口は彼女の唇によって塞がれる事になったからだ。  
そして、不意にシェイクスピアの舌が小さな錠剤のようなものを彼の口に押し込んだ。  
「えへ、おくすり・・・追加」  
ごくり、と自分の喉がそれを飲み込む音をネシンバラは確かに聞いた。  
                 ●  
「体温の上昇、身体機能の活性、極度の興奮・・・まあ、男女の盛り上がりには良い刺激だね」  
「・・・また強引な真似をするものだな、後々悪影響が残らねばいいが」  
僅かに眉をひそめて咎めるような言葉を発するエリザベスを見て、グレイスは愉快そうに笑って言葉を続ける。  
「・・・そんな都合のいい薬があればねえ」  
「・・・まて、グレイス」  
僅か、ほんの僅かの焦りのような感触を女王の言葉に見て、してやったりと黒髪の木精は声を上げて笑い出した。  
 
幕間:海賊女王かく語りき  
 
「いやーひさびさに愉快だねえ」  
こみ上がる笑いを堪え切れずに、いまだ緩む顔を見せながら黒髪の女性、グレイス・オマリは残りの紅茶に口をつけた。  
彼女の目の前では、僅かに憮然とした表情を作る金色の女性、妖精女王エリザベスが同じように紅茶を傾けている。  
シェイクスピアと武蔵生徒会の書記には災難としか・・・いや、これはむしろ良い方向へ転がるアクシデントか?・・・  
後で労いの言葉でも送神しておくか。  
エリザベスは一瞬の思考の後、あきれたようなため息をつくと眼前の今一人の女王に語りかけた。  
「・・・全く、私にこのような感情を抱かせる者なぞ、そなたくらいだ」  
それはそれは全くもって光栄の至り、とまるで悪びれもせずにおどけて見せるグレイスにはエリザベスも苦笑を禁じえない。  
「それで?薬で無ければ何を使った?」  
「ん?酒だよ酒」  
そう言って、傍らから小さな錠剤とも飴玉とも見えるものが詰まった黒い小瓶を取り出してみせると、その中の物をいくつか口に放り込む。  
「ウチのとこで新しく扱い始めた新製品でね。”どこでもエール”シリーズのギネスミルク味。マイケルのおっさんもオススメの逸品さ!」  
「マイケル?・・・ああ、”La Chevalerie du Fourquet des Brasseurs”(ベルギービールの騎士)マイケル・ジャクソンか、壮健か?」  
「Tes.、こないだ赤味噌ラガー試しにP.A.ODAに突撃かけるってんで近くまで乗せてったよ。ま、それはともかく・・・」  
試すかい?とでも言うようなしぐさで小瓶を掲げてみせるグレイスに、エリザベスは軽く頷きを返して肯定の意を示す。  
「それじゃ、はい。あーん・・・」  
「うむ。あーん・・・」  
錠剤をいくつかつまんで、エリザベスの口元まで運ぶグレイス。  
そして、その指先をエリザベスの唇がぱくりと包み込み、行きがけの駄賃とばかりにその指に舌を這わせた。  
己の指先に女王の唇と舌の暖かい感触を得たグレイスは、エリザベスの唾液で光る指先を己の口元へと導くと、  
何事も無かったようにその指先を口にふくんで舐め取った。  
それはあまりにも突然だが、きわめて平然と行われた一連の動作だった。  
「「「・・・」」」  
周囲の侍従役や警護の生徒達が信じられないものを見たと言うように動きを止める。  
ただ、中の幾人かの生徒はまたか、と言うようなため息で肘や足等を用いて固まった同僚の再起動を促した。  
彼等の女王のその浮世離れした言動は、周囲にとって珍しくはあっても特に異常な事態ではなかったからだ。  
「いつものことだからきにしないほうがいいの」  
それまで会話に加わらず、もっぱら別の事に口を使っていた大きな女性、今一人の女王の友人ウイリアム・セシルが周囲の者達に声を掛けた。  
フードファイターの名を汚すことなく、その間にも彼女はクリームや蜂蜜をかけたスコーンの消費を止める事は無い。  
・・・そろそろあいすくりーむにはいろうかしら?  
そんな思いを抱く彼女に、エリザベスが動きを見せる。  
「む?セシル、クリームが付いているぞ」  
女王はそう言うと、セシルの口横に付いたクリームの欠片を指先で拭って舐め取った。  
ありがとうなのー、うむ、という会話と一連の動作に再び周囲を沈黙が満たし、そしてそれを打ち消すような笑い声が響く。  
「だから気にしないほうがいいって言われたろ?」  
そう言って、グレイスは再び愉快そうに笑い声を上げた。  
                 ●  
「ふむ、しかしまあ・・・大丈夫なのか?あの二人は?」  
「ん?・・・ま、そこまでは保障できないねえ。まさか手取り足取り腰取り教えてやるわけにもいかないだろ?」  
エリザベスの問いにグレイスは肩をすくめて答えを返す。  
心配かい?という問いかけに、私の臣下が不幸になる事などあってはならぬ!と大真面目に妖精女王は答える。  
「まあ・・・悲劇をもって悲劇を覆した者と聞く。大罪武装だけではなくその使い手も奪っていく位ではないとな」  
だがもしも女の一人も幸せにできぬのなら・・・と、エリザベスは言葉を続ける。  
どうするんだい?と、口直しに殻ごとの胡桃を掴んだグレイスに対し、  
「捻じ切れ、もしくは他の何かだ。うん」  
「Tes.」  
エリザベスはさわやかな笑顔で言い放ち、グレイスの返答と共に彼女の掌中の胡桃が音を立てて割れ砕かれた。  
ほれ、うむ、というやり取りの後、平然と胡桃の実を口にしだした二人の女王の周囲では、  
なぜか、男子学生たちがやや前傾姿勢で顔を青くする事となった。  
 
ぴちゃぴちゃと、小さく湿った音が部屋の中に響いている。  
部屋の片隅のベッドの上で、絡み合う二つの人影が在った。まだ若い男女の二人だ。  
ベッドに腰を落とし座り込むような姿の黒髪の少年は、己の股間に潜り込むような体勢を取る金髪の少女、トマス・シェイクスピアに目を向ける。  
彼女の金色の髪から覗く長い耳が、時折上下するように動く様が見えた。  
「えへへ、すっごく、かたあい・・・」  
少年の視線に気づいた少女は、それまでついばんでいた少年の陰茎から口を離して、蕩ける様な表情と口調で言い放った。  
少女の反応に、己の分身が更に”いきりたつ”様を、黒髪眼鏡の少年トゥーサン・ネシンバラはどうしようもなく感じる。  
「あは、またおっきくなった・・・ねえ、きもちいい?」  
彼女の問いかけに、ネシンバラはJud.、と短く答える事しかできない。それはそれほど甘美な快楽であった。  
だが、シェイクスピアは彼のそのそっけない答えにも、よかったあ・・・と満足げな言葉を漏らして陰茎への奉仕に戻った。  
彼女の眼鏡の奥の瞳は変わらず潤んだような熱っぽさを帯びている。  
ネシンバラはその瞳に、どきりと己の鼓動がさらに高まる感触を感じた。  
彼女の紡ぐ言葉の一つが、何気無いしぐさの一挙動が自分に及ぼす結果に、かなり尋常な状態では無くなってきている自分を自覚する。  
甘美な地獄だ・・・  
そんな思考が脳裏をよぎる中、己の陰茎が彼女の口に咥え込まれ、熱いぬめりのような快感が走った。  
初めての口腔愛撫による刺激により、唐突に陰茎から下腹にかけてぞくりとした痺れが突き抜ける。  
「だめ!で・・・離れて!!」  
「・・・!?」  
警告の言葉を発するより早く、次の瞬間ネシンバラは己の熱を吐き出すように、したたかに放ち、果てていた。  
陰茎より迸る粘液がシェイクスピアの口内に叩きつけられる。  
「んんんん・・・?!」  
彼女は少年の精を一息に嚥下しようして・・・唐突に咳き込んだ。  
げほげほと、あてがった両の手のひらに白濁した粘液が零れ落ちる。  
「ご・・・ごめん!出して!吐き出して!」  
ネシンバラは慌ててシェイクスピアの身を支えに入った。  
傍らのタオルを渡し、背中を柔らかく撫でさする。  
「駄目だよ・・・そんなことしちゃ」  
「う・・・でも、男の人って、呑んで欲しいんじゃないの?」  
「・・・いや、無理にそんな事はして欲しくないよ」  
シェイクスピアの言葉に、ネシンバラはそう答える。  
一瞬、誘惑に負けそうになってしまった・・・と、彼は男という生き物のどうしようもない業を体感していた。  
「そ、それはともかく!」  
「きゃ!?」  
その内心をごまかすように、ネシンバラは自らの腕の中にシェイクスピアを招き入れる。  
「攻守交替。・・・次は僕の番ということ。Jud.?」  
「・・・Tes.」  
彼の問いに、彼女は頬を赤らめて頷いた。  
 
                 ●  
「あ・・・ん・・・!」  
柔らかな嬌声が室内に満ちる。  
金髪眼鏡の少女シェイクスピアは、自分の喉から自然と零れる甘い声を、まるで他人事のように感じていた。  
己の身が自分以外の者の手によって愛撫される感触が、それが自分の想いを寄せる相手によるものであるという事実が、  
これが実はまどろみのなかで自分が見ている夢なのではないかという冷たい感覚を思い起こさせる。  
手の届かないものと諦めた筈の気持ち。  
未来には不要と消し去った筈の思い出。  
意味が無いからと目を背けた筈の約束。  
・・・自分の傍から去っていった筈の”あの子”  
――でも――  
「トマス・・・」  
彼が自分を呼ぶ声が聞こえる。――諦め切れなかった気持ちが。  
「トマス・・・」  
彼が自分を抱きしめる熱を感じる。――消し去れなかった思い出が。  
「トマス・・・」  
彼が自分を覗き込む視線を感じる。――目を離せなかった約束が。  
”ねえ・・・”  
!?――懐かしい声が聞こえる――それは、居なくなったと思っていた・・・  
”ねえ?いま、幸せ・・・?””うん・・・大丈夫”  
ネシンバラの手がシェイクスピアの胸のふくらみを優しく包み込む。  
”良かった。気になってたんだ””今まで何処に居たの?”  
彼の唇が、彼女の長い耳に口づける。  
”ずっと、そこに居たよ?だって・・・”  
胡座をかく姿勢の彼に、正面から抱きかかえられる様な体勢で、少女の秘めやかな裂け目に少年の雄雄しい若茎が当てられる。  
熱く濡れそぼった秘裂は、同じくらい熱く高ぶる陰茎にとろとろと溢れる蜜液を滴らせる。  
”だって・・・僕は君なんだから!”  
「?!!」  
ああ、と熱い吐息を漏らしてシェイクスピアは目の前のネシンバラを見つめる。  
けげんな表情を見せる彼にすがりつき、一気にその唇を奪った。  
突然の事に身を硬くした彼だが、直ぐに彼女を受け止め――優しく抱き止める。  
”一緒なんだね・・・””うん。これからはね””・・・彼とも?””ふふ・・・そうなるかな?”  
”僕が・・・君だったんだ””そうだね””居なくなってたのは・・・私?””どうなんだろ?”  
ぐるぐると回る。思考が回る。思いが回る。際限なく早まる思考に溺れそうになる。  
――その時、  
「トマス・・・?」  
自分の名を呼ぶネシンバラの声に、シェイクスピアは、はっと我に返る。  
「・・・ごめん。ちょっと頭に血が昇ってたみたい」”でも、元をただせば彼のせいだよね?””そうだね”  
彼女を案じるような彼の眼差しに少女は僅かな微笑を返す。  
「ならいいけど・・・」  
「それより」  
改めて、彼の陰茎を己の女陰に当てがうと彼女は少年に向けて言い放つ。  
「ここまで来て・・・止めるのは無しだからね?」”責任、取ってもらわなきゃね”  
「Jud.・・・」  
ネシンバラは観念したような苦笑いを浮かべつつ、次の瞬間には凛とした視線で彼女へ語りかけた。  
彼のまっすぐな視線に、少女の鼓動がどきりとひとつ跳ね上がる。  
「じゃあ・・・行くよ?」  
「Tes.、”私達を”・・・もらってください」  
次の瞬間、隆々と勃起したネシンバラの肉槍が熱く潤いを持つシェイクスピアの秘所を貫いた。  
 
                 ●  
「あ・・・あああ!?あああああああ!!!」  
裂けるような激痛が少女の全身に流れ、その反動で彼女は少年の背に回した己の手指を彼の背中に突き立てる。  
己の分身を包む痛いくらいの熱さと心地よい柔らかさの悦楽に溺れそうになっていた少年は、背中より放たれた鋭い痛みにより己を取り戻す。  
「う・・・動いても、いい、よ」  
涙を目じりに溜めながら、それでも健気に微笑む少女の笑顔に少年の心がちくりと痛む。  
少しだけ冷えた頭で己の滾る心と身体を押さえつけて、ネシンバラはゆっくりと慎重に彼女の膣奥を割り進む。  
柔らかくぬめる感触がぞくぞくと己の肉槍に絶え間ない快感を与えてくる。  
激しく動きたくなる情動を涙交じりの少女の笑顔を脳内にリピートする事で封じ込め、ゆっくりとした抽送を繰り返す。  
「あ・・・ん・・・」  
しばらくの時が流れ、シェイクスピアの声が甘みを帯びたものに変化する。  
強張った彼女の身体から余分な力が抜けていき、気が付けば自分の動きに合わせて彼女の腰もうごめいていた。  
喘ぐ様な声、粘着質な音、高まる鼓動、流れ落ちる汗、それら全てが混じり合い部屋の中を満たしていく。  
唐突にびくりという電撃が二人の身体に走った。次の瞬間、迎えた絶頂のさなかにそれぞれがお互いを強く抱きしめる。  
「で・・る!!」  
「いっしょ・・にっ!!」  
びくびくと、少年の肉槍はさらなる怒張と共に迸る精を吐き出し、少女の秘裂は痛いほどの締め付けでそれを受け止めていた。  
それは二人にとって、永遠にも等しい価値の一瞬であった。  
「しばらく・・・このままで。君の熱さを感じていたい」  
「Tes.・・・」  
荒く激しかった二人の呼吸が、徐々に収まっていく。  
長い耳の少女シェイクスピアは、自分の下腹にそっと手を伸ばした。  
薄い腹の肉越しに感じられるのは、己の内に迎え入れた彼の肉槍の感触だ。  
「痛かった?・・・」  
黒髪眼鏡の少年ネシンバラの問いに対し、彼女は蕩けるような顔でTes.と短く答える。  
同時に絶頂の余韻で脱力する身体を少年の身に預けるようにしてもたれかかる。  
丁度正面から抱きしめ合うような体勢だ。  
「でも、これで・・・”私達”とずっと一緒だよ」  
微妙な言葉尻のニュアンスにネシンバラが疑問を挟もうとする。だがそれより早くに、  
「せきにん・・・とってくれるよね?」  
男としては、ざあっと血の気が引く言葉が耳元に囁かれる。  
一瞬どう答えたものかと固まる彼に、次の言葉が襲い掛かった。  
「そうでないと・・・”僕は”何をしてしまうか自分が抑えきれないよ?」  
「!?・・・十四(トマス)?」  
「君の知る僕と言うわけでも無いようなんだけど・・・うん。久しぶり、なのかな?十三(トゥーサン)」  
口の端を上げて、悪戯が成功したような笑みと共にもう一人の彼女がそこに居た。  
「重婚エンド・・・望むところなんだよね?」  
続く言葉に、ネシンバラは無言で天を仰いだ。  
 
大して広くも無い部屋の中、部屋の片隅の寝台の上に二人の人影があった。  
寄り添うように身を横たえるのは若い男女の姿だ。  
二人とも裸身に白いシャツを一枚纏っただけの姿であった。  
「さて、実のところ僕自身もわからないんだ・・・僕が君の知ってるあの子が変化したものなのか、  
それとも君と別れた後に新しく創り上げてしまった自分なのか」  
軽く目を閉じて、傍らの想い人の腕の中で長い耳を持つ金髪眼鏡の少女トマス・シェイクスピアが言葉を綴る。  
「だけど、今現在確かなのは僕は僕でもあり私でも有り、君との思い出も失っていない・・・そんな状態で安定しているということのようだ」  
「昔のように二人になったということかい?」  
彼女を抱きしめながら、黒髪眼鏡の少年トゥーサン・ネシンバラが疑問を口にする。  
「それとも違うかな・・・なんというか、以前よりも僕達は一つに近づいたというか・・・いつかは一つになるのかも知れないね。  
改めて聞くけど、良いのかい?僕達はこんな面倒な女だよ?」  
どこか憂いを帯びた口調で少女が問い掛けた。だが、少年は間髪要れずに即答する。  
「何度も言うようだけど・・・僕は重婚エンド希望でね」  
「・・・もっと気の利いた台詞の一つも言えないのかい」  
あきれたような、だが口調とは裏腹の笑顔を見せながら、シェイクスピアがネシンバラの顔を覗き込む。  
まあぎりぎり及第点かな、と身を起こすと、彼に向かって腕を広げて芝居がかった口調で語りかける。  
「なら、僕達を溶かしておくれ、愛しい人よ。恋という名の炎をもって僕という名の私と、私という名の僕を一つにするほどに・・・」  
「Jud.、それが君の境界線なら・・・その役目は僕が受ける」  
その宣言と共に、ネシンバラは彼女の唇を奪った。  
唇を重ねるだけの軽いものではあったが、シェイクスピアは満足そうに軽い笑みを浮かべる。  
「ありがとう。じゃあ、お礼といっては何なんだけど・・・僕からも初めてを・・・受け取ってもらってもいいかな?」  
「え?・・・で、でも、それはさっき・・・」  
再びその肌を紅潮させながら告げるシェイクスピアに対し、ネシンバラが戸惑いを含んだ声をあげた。  
彼の問いかけに対し、彼女はさらにその長い耳の先までを赤くして無言のまま彼の手をそっと自分の背部へと誘う、  
その手は背から腰を降りて臀部の裂け目、尻肉の奥に位置するそのつつましやかな蕾へと導かれた。  
「まだ・・・こっちは、初めてだから・・・」  
それが、その夜の第二幕の開幕を飾る言葉となった。  
 
                 ●  
「・・・以上、報告としてはこんな感じかな?駆け足で即興なのは勘弁して欲しい」  
傍らに置かれた飲み物に口をつけて、長い耳の少女が話の終わりを告げる。  
「「「「「・・・」」」」」  
その場で彼女の言葉に聞き入っていた面々は言葉も無く固まっていた。  
見れば、その場に居るのは一人を除いて全て女性の姿だ。  
場所は武蔵アリアダスト教導院の空き教室、集まったのは生徒会の面々とその級友を中心とした女性陣だ。  
部屋の入り口には”ガールズトークの部屋”との貼り紙が有り、武蔵配下の自動人形の守衛が立っていた。  
「ほうほう、とりあえず想いは遂げたって訳だね。おめでとさん、シェイクスピア」  
「Tes.、ありがとうグレイス。あなたには感謝の言葉も無い」  
なんのなんのお安い御用だと、この中では数少ない部外者の一人、英国の”海賊女王”グレイス・オマリが沈黙を破って長い耳の少女に話しかけた。  
シェイクスピアと呼ばれた少女とその隣に一人、そして他の面々は彼女達と相対するように机を挟んで各々の席に着席している。  
丁度、公演か講義のような状態だ。  
事の起こりはシェイクスピアを迎えに来たグレイスからの問い合わせに端を発する。  
連絡が取れない為、居場所が解らないシェイクスピアの行方について武蔵生徒会に連絡が来たのだ。  
程なく前日にネシンバラと一緒に居る所を目撃されている情報が入ったが、彼とも連絡が取れない。  
その為ネシンバラの住居へと向かった皆が見たものは、部屋より腕を組んで出て来るネシンバラとシェイクスピアの姿であった。  
一瞬の沈黙の後、その場よりシェイクスピアを伴い逃走しようとしたネシンバラであったが・・・  
その試みは果たされず、捕縛、連行、詰問の三連コンボとなった結果が現在である。  
「あの・・・シェイクスピア、ちょっとお伺いしたいのですが・・・」  
グレイスによって破られた空気を好機と見てか、一人の女性が質問の声をあげた。  
豊かな胸と金の髪を持ち顔に傷を持つ女性、メアリ・スチュアートだ。  
「は、初めてで、り、両方いたしたそうですが・・・その・・・だ、大丈夫でしたの?う、うしろとか」  
頬を赤らめながら尋ねる彼女に、周囲の女性陣も小さく意外な驚きの声をあげ、以外に大胆・・・さすがは人妻などの囁きが漏れる。  
「Tes.、僕の場合は事前にそれなりの準備もしてたから。でも、確かにいきなりはお勧めしない。  
感想としては・・・極東の諺で言うところの”前門の虎、後門の狼”というところかな」  
・・・正に獣!!  
それに彼も優しかったし、と言葉を続ける彼女に周囲の視線が集まり、次の瞬間彼女の隣の人物に注目が移った。  
この場に居る唯一の男性。武蔵生徒会書記、トゥーサン・ネシンバラそのひとだ。  
彼は確保時のまま、ネイトの銀鎖で拘束された状態でそこに居た。  
なぜか”売約済”と大きく書かれた紙を貼られている。  
「うう・・・酷いや・・・何だよこれ!新手の羞恥プレイかい!」  
「どちらかと言うと、周知プレイとでも言えばいいのかなあ・・・」  
副会長である本多・正純の言葉にネシンバラはがっくりと肩を落とす。  
「なるほど、言いえて妙だね・・・では言っておくよ。彼は僕のものだからね」  
彼を抱きしめながら皆にそう言い放つ彼女に周囲の女性達からは、うんうんという頷きと共に了解の意が返された。  
「まあ、式を挙げるとかでしたら早めに言ってくださいね。ウチでもそういうの取り仕切ってますし・・・」  
「ふむ、極東式だと費用はどのくらいになるのかな?・・・ああ、大丈夫。少なくとも今現在の経済力なら僕の方が上だからね」  
「好きな人に対して経済的に優位に立つなんて・・・素敵!憧れちゃう!!」  
わいわいと話に花を咲かせ始める女性達を横目に、そっと自分を拘束していた銀鎖が解かれるのをネシンバラは感じた。  
ふと見れば、銀の髪を持つ騎士ネイト・ミトツダイラがその鎖を手繰り寄せている。  
「まあ・・・不実な真似だけは許しませんわよ」  
騎士としても友人としても、と言うミトツダイラに彼はJud.、と短く答えた。  
「僕は・・・君といるよ」  
姦しい会話の輪の中で微笑む想い人を見つめて、ネシンバラは誰とはなしにひとりごちた。  
 
 
Fin  
 

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