アルカラ・デ・エナレスの奥、四角い二十畳程の統合居室には一組の男女がいた。
片方、入口近くに立っているのはくたびれ姿の眼鏡中年、三征西班牙総長兼生徒会長、フェリペ・セグンド。
そしてもう片方、自分の机で書類を処理しているのは黒髪長身眼鏡の女、副会長兼会計のフアナだ。
「フアナ君、ここから何かもらっていくかい?」
セグンドはそう言うと手に持っていた紙袋をフアナに示して見せた。
フアナは処理した書類の束を片付け、紙袋をちらりと見て、
「tes.、では野菜の類でもいただきましょうか」
そう言うと机から立ってセグンドの所まで行き、紙袋を覗き込んだ。
セグンドは節約のため絞られている明かりのせいで影になって見ずらい紙袋を頭を下げて物色しているフアナを見て、
無意識のうちに頭をなでていた。
「な?な!な?」
「うん、本当に立派になったもんだ」
あんな小さかった子が今ではこんなに立派になって、ああ、僕も年を取るわけだ。髪の感触気持ちいいな〜。
などと思いつつ頭をなで続けていると、驚きで停止していたフアナが再起動しだした。
「や、やめ、おじさ、そ、総ちょっ!」
耳を上下にぴこぴこさせてセグンドを上目づかいで睨むフアナに、
うわっ、しまった、また怒らせた!
と思いつつ反射的な動作で手を彼女の頭から離した。
「あぁ、すまないね。つい、もうあの小さな女の子ではないのにね」
そう言いつつ頭から離れていく手を見て、フアナの手が伸び、両手でつかんだ。
「あ」
「ん、どうしたんだい?」
セグンドは不思議に思いフアナを見る。あれだろうか、これはセクハラですとか言われるんだろうか、
と思っていると眼前のフアナはこちらを見ていた目をそらし、うつ向き気味で、
「あ、謝らないでください、頭、なでられてうれしいんです。それに、前にも言ったとおり、おじさんにならどんなにされても、いいんですよ?」
言った。
セグンドは思う、半寿族は身体と心の成長がかみ合わない種族であり、彼女の本質はあくまで子供なのだと。
そう、つまり彼女の言うどんなにされてもというのはそういう意味ではなく、いや、そもそもそういう意味というのはどういう意味かというと
ええい落ち着け自分! つまりいま彼女は、
「幼児退行してないかい、フアナ君?」
そういうことなのだ。普段は大人ぶって見せてはいるがどちらかというとまだ子供な彼女の精神は今
自分という過去を強く想起させる存在によって普段の大人の仮面を剥ぎ落されているということでありつまり――
「でも、体は大人です」
セグンドの思考は一時停止した。
「おじさんは私が嫌いですか?」
両の手でつかまれたこちらの手が彼女の双丘へ導かれる。
他に誰もいない教導院の奥深く、二人の男女は、見つめあう。