転校初日にメアリが教室の扉を開けたら頭上から黒板消しが落ちてきた。
金髪の上に見事に着地し、チョークの粉を撒き散らす黒板消し。これが武蔵での新生活の大切な一歩なのだと気負っていたメアリの瞳には、
――泣いたら近未来ハズバンドである点蔵様の恥になってしまいます!
けれど涙は目の端からジワジワと込み上げてきてしまう。
そんなメアリを見て、責任を擦り付け合い、あたふたとフォローを入れるトーリ以下クラスメートたち。その前で、
――これは試練…私が武蔵でやっていけるかどうかが今、極東式の新入生いびりで試されているのですね!
小さく鼻を鳴らしながらも、何とか頬に涙が伝うのだけは堪えるメアリ。
――よし耐えた。点蔵様、メアリは強い子です。不用意に人前で泣いたりなどいたしませんから。
心の中でメアリは拳を握り締める。妻として点蔵様の名誉を守り、姉として妖精女王エリザベスと英国の名誉を守り抜いた。
そして徹夜で頭上にヤカンを乗せて練習した極東式の礼儀正しい歩き方で、頭上に黒板けしを載せたまま歩き出す。
その背後から、
「早く入ってください。英国女性はいつまで外で人を待たせるおつもりですか」
三征西班牙式突っ込みで、もう一人の転校生である立花・ァが巨大な義腕でメアリの背中を突き飛ばす。
「き――――――」
吹っ飛ぶメアリ。吹っ飛ぶ黒板消し。決して泣くまいと食いしばっていた歯はそのままに、ノドの奥から悲鳴を上げながら、メアリはオリオトライの目の前で教卓にぶつかり、そして跳ね返った。
「は…はにゃあ……」
「うわ、なんですかあの人は。今跳ね返りましたよ、ボイーンて。うわ畜生、いえ畜生とか言ったらいけないんですが、あの人ホントは牛じゃないんですか? ええいホルスタインなんて、いや、ホルスタインは差別用語ですか?
て言うか乳カースト最下位なのにまた一つ順位が下がりましたよ自分、既にマイナス1位ですよ。それより金髪で巨乳が真理なら半分だけ満たしてる自分の存在どう認知されるんですか!?」