●  
   
 蜻蛉切は、大罪武装である“悲嘆の怠惰”と“怠惰な嫌気”の試作型であり――、  
 忠勝はそのテストを行っていた人間だ。  
 ……ならば、全てを知っていたはず。  
「“悲嘆の怠惰”と“怠惰な嫌気”のオナホ駆動は、我がしっかりとテストした」  
「……!」  
 イメージの中で宗茂は“悲嘆の怠惰”を手放していた。だが現実として未だに“悲嘆の怠惰”は手の中にあり、それを手放してはいない。  
 戦う者が敵を前に戦場に在りながら、戦術ではなく忌避として己の武器を捨てるなどありえない。  
 一瞬とはいえ浮かんだマイナスのイメージを打ち消す。必要なのは勝つために得るイメージだ。  
「まあ我としては蜻蛉切が一番あってるがな」  
 ……蜻蛉切にまで!?  
 試作型なのだから不思議は無いが。いやそもそも今のは武器の話なのかオナホの話なのか。  
 ……底が知れぬ御仁です!  
「底抜けの馬鹿ですか、オナホで抜いたのですか、無生物相手に勃起したのですか……恥を知りなさい!」  
「お前、鹿角! 流石の我も無生物相手に勃たないっての。オカズ持参にきまってんだろ」  
「何故か前半部分にカチンときましたがいいでしょう。無生物には勃たないと? ……齢ですね」  
「いいんか? それでいいんか? ほらこれでいいんかい?」  
「……Jud.、よく犬猫を拾ってきた訳が理解できました」  
   
 じじいは よめを はやくにうしない ひとりみでした  
 そんなじじいは あるとき いっぴきの こいぬを ひろいました  
 じじいには けものぞくせいが あったのです  
   
「おいお前、何か積極的かつ歪曲的に誤解してねぇか?」  
「ハイハイ、Jud.Jud.」  
「オナホだけではどんだけ具合よくても勃たねぇっていってんだよ!」  
「ハイハイ、Jud.Jud.」  
「二週目かよ!?」  
 夫婦喧嘩は犬も食わないとはいうものの、こな流れはどうかと思った宗茂が“悲嘆の怠惰”を掲げ、  
「……おう?」  
「……何か?」  
 ……どうしましょうか?  
 実は止めるだけで、何を訊くかを考えてはいなかっただけに、一瞬詰まった。  
 沈黙はまずい。  
 詰まった焦りもあり、事故的に自然な流れとして宗茂は己の意思とは別にとっさに言ってしまった。  
「そんなに具合がいいのですか?」  
「お! 興味あるか! 若者だもんな!」  
 
 ……食いついてきた。  
「ああいえ、興味はないのですが」  
「なんだオナホ未経験か? 童貞か? オナホール童貞、略してOHDT!!」  
 ……テンション高いですね。  
「ああいえ、童貞というわけでは」  
「なんだOHDTじゃないのか、初体験もオナホか!?」  
「いや無生物じゃありません、生きている相手です」  
 言ってしまってもいいものだったのだろうかと反省しつつ、恥じるべきことではないとも宗茂は思う。  
「“このオナホ生きてる! シャッキリポンと股間が踊るわ!”……通だなお前」  
「いえ違いますから」  
 そんな二人のやり取りを見て、鹿角が頷いた。  
「つまり西国無双の若者も残念なことになっているようですね。この後、お二人で伏姫の二重襲名争いの戦闘になるかと。ではどうぞ」  
「なりませんよ。いやこのあと二戦いはすると思いますが、襲名争いはしませんし、私の相手は人です」  
「でな、鹿角のヨタは置いておくとして“悲嘆の怠惰”の具合なんだがな?」  
 ……え? 続けるんですかこれ?  
 鹿角が話の腰を折ったというのに、忠勝は話を続ける。  
 さして興味はないものの、相槌を打ってしまうあたり宗茂という若者の人となりがわかるというものだが、  
 ……このような健全な好青年が、忠勝様色に染まらなければいいのですが。  
 と鹿角は思う。  
「おう、“ひぎぃぃぃっ!”といった具合よ」  
「“ひぎぃっ!”?」  
「おまけに“らめぇぇぇっ!”だな」  
「“ひぎぃっらめぇぇぇ!”?」  
 ……本当に付き合いがいいですね。  
 本人はただ相槌を返しているだけのつもりのようなものだろうが、傍から見れば別物だ。  
 それはそうとして機能の差で劣っていると思われるのは自動人形として沽券に関わると鹿角は思う。  
 とはいえ、既に下半身はなく、両腕は忠勝に抱きついているため塞がっており――、  
『本多君、副長の本田君』  
「おう、先生。今いいとこなんだからさ、邪魔しねぇでくれ」  
 元信の横槍が入った。  
『オナホでは勃たないといったね?』  
「勃たねぇよ。なぁ? 具合がいいからそりゃ中に入れてシゴけばそそり勃つんだろうけど、そもそも勃たなきゃ中に突っ込めねぇし、無理だわな?」  
 使ったことが無いからわかりませんと思いながらも、軽く頷いて相槌をうとうとする宗茂は、聞いた。  
『人の娘の感情で作ったオナホで勃たないとは何事だ――! 心というものが無いのか――!』  
   
          ●  
   
 お前が言うなというつっこみを宗茂は聞いた気がした。  
 試しに軽く周りを見てみたが自分達以外に誰もいない。幻聴のようだ。ああ、早く帰ってァさんを安心させてあげないと。  
『姫属性のついたホライゾンの感情で、丹精込めた作った大罰武装オナホに勃たない理由を述べなさい(配点:男の尊厳)、本田君』  
「だってー? 我ってばー、姫属性ないしー? みたいなー?」  
『ハイ、じゃあ罰として腰から自動人形提げて街道で勃ってろ』  
「さっきから扱いひでぇなぁ!?」  
 ……流石は元信公!  
 鹿角は元信の発想に戦慄を覚えた。  
 上半身だけで両腕が塞がった鹿角だが、その鹿角ができること、元信の指示は的確だった。  
 忠勝の胸に抱きついた状況からそのまますべり落ち、忠勝の腰の位置でホールド。  
 ……これならばいけます!  
 シュミュレートをしてみたが、結果は問題なし良好と出た。提示されたのは使えるパーツを最大限に活用できる姿勢だ。  
 鹿角は教師としても君主としても立派な人物であると、元信の評価を新たなものとした。  
『姫属性で担任教師の娘属性の合わせ技という立派な教材だよ。本多君、もっと頑張ろうよ』  
「いや無理。人によって後半の属性とか萎えるし、実姉いるヤツが姉モノ駄目とか、なぁ先生よ?」  
『最近になっても実の娘と一緒に風呂に入ろうとする本多君はいいこと言うね。君はあれか、幼馴染とか許嫁属性かな』  
「あ、それ私です」  
 人の良い若者が手を挙げたが無視した。  
『先生。たまには本多君のいいところみてみたいな』  
「先生の指示で三征西班牙の部隊を潰したばっかりなんだがな、我。まあいいや、じゃあ――」  
 と一息つき、忠勝は腰までずり下がろうとしていた鹿角を胸のあたりまでずり上げ、そのうえで蜻蛉切を構える。  
「先生も知らないようなことを今から我が教えてやろう」  
 ……来る!  
 宗茂もまた“悲嘆の怠惰”を構える。  
   
          ●  
   
「“悲嘆の怠惰”のオナホ駆動の特徴を知ってるか?」  
 来たのは軽い脱力感だ。しかし訊かれた以上答えなくてはならない。  
「いいえ」  
 使っていないので当然だ。知るはずがない。  
「“掻き毟り”よ」  
 宗茂は己の股間が縮みあがりそうになるのを感じる。  
 ……削ぎ落とされるのですか!?  
 恐るべきことだ。割礼どころではない。知らないで使っていれば取り返しのつかないことになっていた。  
 ……ァさん、私はまだ無事です。  
 心の中で許嫁に己の体の無事を伝える。だが“まだ”だ。いずれは無事でなくなるかもしれない。  
 西国無双としてそれを乗り越えなければならない日が来るのだろうか? できれば来ないで欲しいが。  
 しかし疑問が起こる。それは男として当然のことであり、  
「その……失礼ですが、御子息は健在ですか?」  
「あ? おう健在も健在よ」  
   
          ●  
   
「? 拙者に兄弟はおらぬはずで御座るが……。まさかオナホによって新たなる生命が! オナホとはいったい!?」  
「違います。違いますから二代様!」  
「らめぇぇぇ! オナホ連呼しちゃらめぇぇぇ!」  
   
          ●  
   
 ……削ぎ落とされてはいない!? オナホ駆動の“悲嘆の怠惰”とは一体!?  
 確かに、忠勝の股間を注視してみれば置いてなお盛んな膨らみが。まさか義体化しているわけではないだろう。  
 動揺を隠しつつ、推測するが如何せん判断材料が少ない。  
 そんな宗茂の表情を読んだのか、忠勝が笑って見せた。  
「ははぁん? さてはオナホ駆動の“掻き毟り”が何か解らねぇって面だな?」  
 ……解るわけがない!  
『ん? 先生もオナホ駆動の“掻き毟り”なんて知らないな本当に』  
 ……元信公も知らぬ機構!?  
 忠勝のはったりか嘘か。いや彼とて武人。戦場においてくだらぬ嘘はつかないはずだ。ならば使った者のみが知る特色なのだろうか?  
 少なくとも大罪武装について元信公が知らぬことを宗茂が知りえるはずが無い。  
 こちらに構わず忠勝は続ける。  
「自分で答えを出さずに、それを聞くってのは不良生徒以下だが、我が特別に講義してやろう」  
『先生も聞きたいね。本田君やってごらんなさい』  
「……いたみいります。では、“悲嘆の怠惰”のオナホ駆動の“掻き毟り”とは一体?」  
「おう。我のインキンよ」  
   
          ●  
   
「――っ!!」  
 今度こそ反射的にに投げ捨てそうになる。がそれを宗茂は再び堪えた。  
 ……大丈夫だ。自分は一度たりともオナホ駆動をしていない!  
 だがたまらなく投げ捨てたい。今までの修行とァへの思い、ありとあらゆるものを動員させ宗茂は己の状況を継続させる。  
「オナホ駆動してなくても手遅れかもな。“悲嘆の怠惰”を掴んだ手から感染ってるかもしらんし」  
 宗茂は意識が飛びそうになるのを感じた。体も0に近く軽くなっていくかのような錯覚を得る。傾き地面と平行になっていく体。  
 力が抜けていく足に、宗茂は本能ともいえるレベルで加速術を叩き込んで、無理やり体を起こし立ち上がる。  
 ここで倒れるわけにはいかないのだ。でもファアナ様、できることなら今すぐに“怠惰な嫌気”を捨てて、海に捨ててー!  
 対し忠勝は忠勝で己の言葉の途中、体が軽くなるのを感じる。  
 忠勝に抱きついていた鹿角が両腕を離したのだ。  
 即座に忠勝は蜻蛉切を持たぬ腕で鹿角を抱きかかえる。  
「……と、落ちるぞお前」  
「たった今、お暇を頂きたくなりまして。ぶっちゃけその手をお放しください。このインキンマン」  
 
 
 
次回から“割断世界ホンダリア”の時間は“それイケ! 暗梅マン”を放送いたします。  
暗黒大陸から細菌を持ち帰り毒チン拳を使うヒーローと、そのライバルであるインキンマンの戦いをお楽しみに!  
「上野行けよ上野!」  
   

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