「自分、メアリ殿の全てを知りたいで御座るよ」  
 そうは言われても――メアリは困った。経験が無いのは無論の事だが、  
基本的にそういった所作は相手を見下す際に行う物であると知識にあり、  
それを彼が望んでいようと自らの手で行うというのは、彼の妻である自分  
の立場的にどうなのだろうかと。慎み深いが故に苦悩は深い。  
「自分の事なら気にせずともよいで御座る。望んでやって欲しいと、  
 そう申しているので御座るからな」  
 笑顔で――少なくともスカーフの下にある顔は、笑みを湛えている  
はずだと、そう自分にはわかった――そう言う彼を見ると、自分の頬に  
赤みが差すのを感じた。  
 私、はしたない事を考えています……。  
 彼が望んでいる事ならば、自分は何でもしてあげたい。そうする事で、  
彼が喜んでくれるなら、彼がつけてくれた自分の傷も嬉しくなる。それは  
つまり、自分自身が嬉しいと、そういう事だ。  
「点蔵様……」  
「メアリ殿が不安に思う必要は何一つ無いで御座るよ……さあ!」  
 彼は自らの物を徐に取り出すと、その場に横たわった。  
 まだ半勃ちで、大きさもそれ程ではない。これが、刺激を加える事で  
勃起し、信じられないような大きさになり――  
 私の中に……入ってくるんですよね……。  
 その瞬間の悦楽を思うだけで、ぼうっと目の前がぼやけるような、  
そんな感覚にメアリは襲われた。  
 だが、今回は膣内には入れない。彼の望みは挿入ではないのだから、  
想い余って自らが暴走する事がないように、自戒せねばならない。  
「……それでは」  
 近くにあった椅子を手繰り寄せ、それに腰掛ける。準備の為に靴を脱ぎ、  
履いていた靴下を脱ぎ、素足を露にすると、それだけで点蔵の物はピクリと  
反応した。むくむくと起き上がっていく物に、メアリは目を丸くする。  
「……点蔵様? まだ触れていませんけれど……」  
 点蔵が自分に触れる事で、あるいは自分が触れる事で、彼の物は  
大きくなる。それが今までの経験上の法則であり、今回の現象はそう  
やって得た知識の外にあるものだった。  
「情けない話で御座るが、自分、メアリ殿に足でしてもらえるかと思うと、  
 それだけでこんなになってしまうで御座る……」  
「そんなに……期待されてたのですか?」  
 メアリは、いつの間にか自らの顔に笑みを浮かべていた。  
 いつもとは違う、愉悦とも呼べる感情を、彼女は初めて抱いていた。  
 いつもならば、彼の指にかき回され、彼の物に突かれるのを期待し、  
想像し、彼に触れられるまでもなく濡らしているのは自分の方だ。だが、  
今回は違う。  
 点蔵様が……私を……私の足を、身体を、期待してくださっています!  
 その事実が、メアリに愉悦を与え、胸を高鳴らせていた。  
「よろしいですか、点蔵様?」  
 ゆっくりと、ゆっくりと、メアリは自らの足を彼の物へと近づけていく。  
「構わぬで御座るから……一思いに!」  
「Jud.……一思いにですね!」  
 彼の求める事を与える事が、自らにとっても喜び。  
 だからメアリは、彼の求めるがまま、一思いに――踏んだ。全力で。  
「――――――――――――!!!!!!!!!!」  
 
 
 
「もげたで御座るぅぅぅうううううううう!!!!??? ……あれ?」  
 点蔵が身を起こしてみれば、そこはいつものベッドの上であり、目の前にも  
横にも、どこにもメアリの姿はなかった。  
「……夢、で御座るか?」  
「どうかなさいましたか、点蔵様?」  
 メアリの姿は視界の内に無く、だが声だけは聞こえる。  
 その事に、点蔵は酷くホッとした。安堵した。  
 一瞬、まさかこれまでのメアリ殿とのあんな事やこんな事まで、全てが  
夢だったとか、そういうオチになるかと思ったで御座る……!  
 自分なら有り得る話だと、未だに自らのそういう部分に自信が持てない  
のが、点蔵という男だった。  
「怖い夢でも見られたのですか?」  
「いや……確かに怖いと言えば怖いかったで御座るが……」  
 言えない。まさか貴方にたま○ん踏み抜かれる夢を見たで御座る、  
などとは。やはり、自分はまだ貴方との日々を夢のようだと、そう  
思っているので御座るなぁ――と点蔵が一人物思いに耽っていると、  
「……でしたら私、そちらに行きましょうか?」  
「ああ、そうしていただけると嬉しい……なにぃぃ!?」  
「あ……べ、別にその……そういう事、したいというわけじゃ……ないんですよ?」  
 顔は見えないが、彼女の顔は今真っ赤に染まっているだろう事は、  
忍者である点蔵でなくとも察せられただろう。  
「……添い寝、ですよ?」  
「Jud.添い寝、で御座るな」  
「そうです。誰かが傍にいれば、怖い夢見なくなりますから。昔、妹にも  
 よくしてあげたんです。……今考えると、あれはどちらが怖い夢を見て、  
 どちらが添い寝してたのかよくわからないですけど」  
「……では、お言葉に甘えるで御座るよ」  
「じゃあ、そちらに参りますね!」  
 心なしか、彼女の声が弾んでいるような気がした。  
 そこで、点蔵はふと気にかかる事があるような、そんな気がした。  
 ……何か大事な事を忘れているような気がするで御座るが。  
 それは、二段ベッドのステップを彼女が降りてきた時にわかった。  
「……メアリ殿……貴女は今全裸では御座らんか!?」  
「え……? それが何か?」  
「だって、その……自分、あの、えー、うー」  
 言葉にならないとはこういう事を言うのか。点蔵は何とか言葉を  
紡ごうと頭を回転させたが、どうやら空転しかしていないようで、さっぱり  
言葉も対応も出て来ない。  
「……点蔵様には、もう全て見てもらいましたから。私の傷も、私の全ても」  
 動けないまま硬直する点蔵の目の前に、シーツだけに身を包んだ  
メアリが降り立つ。シーツの上からでも、その巨乳はその存在を主張し、  
点蔵の視線は思わずそこに釘付けとなった。  
「ですから……私をお求めになるのでしたら、遠慮なく……召し上がって  
 くださいね?」  
「……これ、全部夢なんで御座るかなぁ」  
 頬を染めながらにっこり笑い、シーツを落として自らの裸身を晒す  
彼女の姿――の主に胸――に目を奪われながら、点蔵は思う。  
 エロ関連は夢でも構わない。  
 だが、メアリと一緒になったという事は、ただそれだけは夢であって欲しくないと。  
 そう願いながら目を閉じ、彼女の身体を抱き締めた――  
 
 終わり  
 

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