病院のベッドで暇を持て余している一人の三征西班牙の学生がいた。  
 三河で任務にあたっていた彼は自動人形に敗れた後、自国の病院で治療に専念していた。  
 彼の目の前には彼のパートナーとでも言うべき女性型走狗がいてお互いに向き合っている。  
 そして、  
『やくたたず』  
 いきなり彼女に言われた言葉に、え、俺? やっぱり? でもそんなきつい言葉も君が言うなら歓迎さっ!  
 と男は思ったがよく彼女を見てみるとその背の二枚翼には元気がなく、表情にも明るさがない。  
どうも先程の言葉は彼女自身のことを指して言っているようだった。  
「ああ、」  
 男は彼女がそんな思考に至る過程を考え、思いあたり、なんだ、と思う。  
「気にするなよガブリエル。結局三河の自動人形とやりあってやられちまった役立たずは俺なんだからな」  
 ガブリエルと呼ばれた三頭身二枚翼の天使は顔を上げて言いつのる。  
『でも あのとき つうしんできていたら』  
「あの時は皆通神不能の状態だったんだ。ベースの拠点通神が使えなかったんだからしょうがないさ」  
 ガブリエルの気を軽くするために男は笑いながら言う。  
「それにあの時情報を持って行ってくれただろ? 役立たずなんかじゃないさ。ガブリエルはできる子だ。俺が保証する」  
 その言葉にガブリエルは肩を震わせてうつむいた。  
『う うう…………』  
「こらこら泣くな」  
『だって ことば やさしい うれしい』  
 男はベッドで伸ばした足の上で肩を震わせているガブリエルを胸に抱いてあやす。  
「お〜よしよし」  
 ガブリエルは男の衣服にしがみつくと顔を押しつけて声を殺すようにして泣いた。  
こらえようとしてもこらえきれない嗚咽がこぼれ、男に衣服越しのガブリエルの吐息を届け、涙の感触を得る。  
 ああかわいいなコンチクショウめっ! やっぱり疑似干渉設定つけて正解だったぜひゃっほおおおおおおおおおう!!  
『あの……』  
 男が感無量の極致に達しているとひとしきり泣いて落ち着いたガブリエルから声がかかった。  
「うん? なんだ?」  
『けんのうきょうか ください』  
「なんだ突然? 俺は別にこれ以上の機能を求めちゃいないぞ」  
『けんのうきょうかしたら おおきくなれる』  
「あぁ、まあそうだな」  
 拳を握って力説するガブリエルをいいなあと思いながら男は応える。  
『そしたら もっとなかよくなれる』  
 顔を若干赤くしてガブリエルが言うのを見て、男はなぜ仲良くなるのに大きい方がいいのかと内心で首をかしげる。  
 
『おへやに あった』  
 要領を得ない顔の男に焦れたのかそう言って、男の疑問に答えるようにガブリエルは自身で撮影したらしい写真を表示する。それは、  
 とっかえひっかえヘンリー八世……!!  
「どこでそれを」  
『おへやのふるいかばんの そこのしたでみつけた』  
 俺の二重底を見抜いた!?  
「まさか、やった?」  
『はい』  
 背の翼をぱたぱた動かしたり両手で顔を覆ったりしながら恥じらうガブリエルはそれでも自身の願望を述べた。  
『おおきくなればあんなことも できる して ほしい して あげたい』  
 やくに たちたい  
 彼女にとって主の役に立つことが一番優先順位の高いことなのだ。  
大きくなりたいのも男に快楽を与える役に立ちたいからだろう。男はしょうがないなと思い、  
「あのな、」  
 ガブリエルを目の高さまで持ち上げて目線を合わせる。  
「そんな妙に焦るな」  
『でもきもちいいこと いらない?』  
 当然いるさっ!  
 男は心中で叫び、しかし表面上は努めて冷静に振る舞う。  
少なくとも本人は冷静に振る舞えていると思っている。  
「勘違いをしているな」  
『勘違い?』  
「ああ」  
 よく分からないといった表情のガブリエルに男は言う。  
「別に小さいままでもできるんだぞ?」  
『え?』  
 首をかしげる。知識にないのだろう。うむ、やったのはヘンリー八世一本だけか。  
『できる?』  
「万全だ」  
 誇らしげな男。内心では、  
 あれ? 俺もっと感動路線に話を持っていくはずだったのにどうして?  
 と思っているがまあ別にいいかとも思う。そんなダメな男にガブリエルはせがむ。  
『おしえて くれる?』  
 快楽を与えてそれで役に立ちたいとか考えているうちはまだ教えられんな。  
 と、考えないでもなかったが、  
「ああ、任せろ! いきなり実習からだがな!!」  
 心は正直者だった。ついでに口も正直者だった。  
 そしてその知識はエロゲから入手したものだが!   
 再び心中で叫びつつ男はガブリエルの衣服をはぎ取りにかかった。  
 
 
「うへへへへ」  
「どんな夢をみているんだか」  
 病室の一室、中にはニヤつきながら寝ているいる男と相部屋でテレビ鑑賞にいそしんでいる男がいる。  
ニヤついている方の男の胸の上には彼の走狗がおり、  
『んぅ』  
 妙に色っぽい声を寝言であげていた。  
「…………ほんとにどんな夢をみているんだか」  
 先程通販で隣の男はサキュバス製の怪しげな術式を服用していたのを思い出す。  
きっとたぶん絶対にロクな術式ではないだろうと彼は思う。  
「まったく、皆アルマダの海戦の準備で忙しいというのに」  
 病院の一室は今日も平和だった。  
 

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