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 恋人同士ですることの総称を、日本では「御突き合い」と言うそうだ。  
 新庄や風見のの話から推測すると、「御突き合い」とは言葉の通り何かを突き合う儀式らしい。しかし、肝心の部分を尋ねても言葉を濁すだけで詳しく教えてもらえなかった。日本人はやはり恥ずかしがり屋だ、とヒオは思う。  
 自分から原川へ「御突き合いしませんか?」と誘う事も考えたが、それはむしろ男性に失礼だとクラスの友人達が教えてくれた。こうなるともう自分にはやるべき事がない。  
 (曾御爺様、ヒオはどうしたらいいのでしょうか……)  
 そう途方に暮れていた帰り道、ヒオは声を聞いた。  
 
・――尻神様に祈れば願いは叶う。  
 
 (概念空間!?)  
 慌てて周囲を見渡せば、そこは見知らぬ場所だった。  
 自分の左右には茂った林があり、踏む地面は石畳。そして背後を見れば、柱を何本も組み合わせたような赤い建築物がある。  
 それは「鳥居」と呼ばれるものだと最近習った。  
 神へと至る道を示すものであり、人間の領域と神域を遮る境界だ。そしてそれは門でもあり、神への願いを持つ者の為に常に開かれている。  
 (こんなにオープンなのに何故日本人は色々隠したがるのでしょう?)  
 そう思いもするが、そこが日本の美徳なのだろう。  
 見上げる朱の門からは尊大な気配を感じるが、しかし威圧感はない。  
 だからヒオは向こうへ、鳥居の先へと進むことにした。  
 
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「き……来ましたよ! へぇーヒオさんの所の制服ってスカートヒラヒラでかわいいですね。って僕は何を言ってるんですか! 違います美影さん、僕は服を褒めただけで、あぁ美影さんがあの服を着たら凄い似合いそうだなぁ……」  
「おい。貴様の後輩がトリップ入ってるぞ。どこでも妄想垂れ流しとは危ない男だ。何とかしろ」  
「お前の後輩でもあるんだが。……そういえば千里が最近スカート履いてくれないんだよなぁ。新しい剥き方を開発しておく必要があるな。……こうか? こうか!?」  
「女性陣と別行動にしたのは失敗だったか……」  
 やれやれと息を吐くと、佐山は抱えていたケースからあるものを取りだした。  
 それはちょうど人間の腰からふとももまでの形に似ていて、ちょうど人間の腰からふとももまでの大きさで、ちょうど人間の腰からふとももの色をしていて、そして  
「――丸く、エロい……!」  
 それを一度頭上に掲げ拝むと、人間の臀部の形のをした場所に頬を寄せる。……完璧だ。  
 尻神様の神殿には御神体が無いと始まらない。皆が祈りを捧げるのに必要なものであり、さらに言えば自分が新庄に対してどれだけ本気かを示すものでもある。  
「つまりこれは、私の愛の結晶でもあるわけだね?」  
 そんなことを新庄に話したらEx-Stのボンバーを至近距離で受けてしまった。あれはきっと、喜びのあまり”タメ”てたボタンから指が離れたのだろう。その割に狙いが正確だったが。  
「いずれにせよ。溜まっていたものの抑えが利かなくなり、私に発射してくれたのだからこれ以上の愛情表現はないだろう。喜んでくれたようで嬉しいよ新庄君」  
「……おい後輩。尻にブツブツ語りかけてる危ない奴が俺の横に居るんだが。なんとかしろ」  
「いや、あれを止められるのは新庄先輩だけですよ……。やっぱり女性陣と別れたのは失敗でしたね」  
 横で馬鹿二人が何か言ってるが気にはしない。何故ならここは概念空間で、この場を治める主は尻神様なのだ。神に語りかけるのは当然だろう。  
 佐山は飛場にヒオの様子を探らせるよう合図を出した。飛場は頷き、戸のかなり低い位置に出来た木目穴から外の様子を窺う。  
 普通に窓の影から探ればいいと思うのだが、やはり覗きには人それぞれ違ったスタイルがあるのだろう。  
 
盗撮集団 SNAP  
 
世界で一つだけの覗き穴  
 
風呂屋の脱衣所に並んだ、いろんな花を見ていた  
人それぞれ好みはあるけど どれもみんな綺麗だね  
この穴でどれが一番かなんて 争う事もしないで  
男達は皆誇らしげに シャンと胸を張って覗いてる  
それなのにどうして女たちは 太い細いと比べたがる  
ひとりひとり違うのにその中で 巨乳になりたがる?  
そうさ僕らは 世界で一つだけの穴  
ひとりひとり違う覗き穴をもつ  
その穴で花を愛でる事だけに  
一生懸命になればいい  
 
 飛場が何か口ずさんだのが不気味に思えたので一般人用カメラを使って録画しておく。  
 再生すれば、ヒオをやや低めの角度で覗く変態がそこに映ってるはずだ。歌付きで。  
 これをちらつかせれば飛場の戦闘スピードは向上するはずだろう。良い事だ。飽きたら米国の放送局にでもリークしよう。  
「で、様子はどうだ?」  
「ええ、出雲先輩。賽銭に使う金額を決めかねてるようですね」  
「それは良くないな。風見に協力する代わりに新庄君のサイズ測定を頼んであるのだ。こちらがヒオ君から貰うものは何もない。――では、そろそろ仕事を始めるとしよう」  
 
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 日本の円という通貨は賽銭に使う時は「縁」というものに変わるのだと、ディアナ達に教えてもらった。沢山払った者が多くの出会いをするのだと。  
 それを聞いたロジャーが財布ごと投げたら唯とディアナが凄い良い笑みになったのを覚えている。縁とは量より質が大事でしょうに、と完全に遅いタイミングでディアナが訂正を入れていた。  
「過去の御縁の感謝と未来の御縁を願うのよ?」  
 唯がそう言うので、未来の御縁……と赤面しつつ、あの時は5円玉を投げたものだ。  
 後で唯に安産祈願の御守りを持たされた事から、やはり賽銭の意図はバレバレだったようだが。  
 そんな事を思い出しつつ財布を開ければ、そこには  
「レシートとポイントカードしか入ってません……」  
 万が一の為、と唯から預かった一万円は御守りとともに鞄に縫い付けてあるが、それを使うのは良くないだろう。ロジャーのような人間になってしまう気がする。  
 ポイントカードでもいいかしら? とスタンプの溜捺印された紙片を振りかぶった時だ。  
 
「待ちたまえ!」  
 スパン! と気持ちのいい音で本殿の引き戸が開く。  
 そこには尻を頭に乗せた男が立っていた。  
 誰?  
 とヒオは男の顔を仰ぎ見ようとする。  
 が、視界の中に尻が入った瞬間、目を開けていられない程の光が尻から放たれた。  
 きゃっ、と思い視線をそらせば眩しくもない元の景色だ。  
 もう一度顔を見ようとするが、やはり尻が視界に入ると眩しくなり視線をそらしたくなる。  
「ふははは! 私の顔が見えないかね? 恥を捨てられぬものには尻神様は眩しくて見えんのだよ!」  
「だ、誰ですのっ!?」  
 もはや目で確認することを諦めた。言葉が通じれば問題はないだろう。  
「誰? いい質問だ。私こそは、尻神様のTSU・KA・I!!」  
 スタッカート付きの回答が来た。が、ヒオには意味がよく解らない。  
「曾御爺様、ヒオはまた言葉の壁にぶつかりました……」  
「何をブツブツ言っているのかね? まぁいい」  
 男がこちらに向かってくるのが気配で解った。が、眩しくて男の位置を正確に把握することは出来ない。  
 嫌な汗が背筋に浮かんだ。このままではやられてしまう。  
「き、来てください! サンダーフェロウ!」  
 が、それに答える者は無い。  
(何故……!?)  
 逃げようと、ここから立ち去ろうと一歩を下がる。二歩三歩と下がったが四歩目で石畳に足を取られた。  
 尻もちをついた格好のヒオは目尻に染み出した涙を拭う。  
 概念兵器を持たぬヒオは、変態を前にして何もできない普通の少女だ。  
 だから、助けを求めた。彼を思い浮かべながら。  
「助けてください……原川さん!」  
 
 

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