ぴちゃ、ぴちゃ……
自分の舌が相手の耳の中に入って行く感触と、その音に強い興奮を覚えていた。
「……ん、ああ、そこ、良い」
己の敬愛する者がその行為によって快楽を得ている今の状況がひどく好ましかった。
だから、舌を更に奥へ、苦痛を感じるギリギリの所にまで伸ばし、外耳道をこすりあげるようにして一嘗め、二嘗め――
「う、ああっ!」
少し激しい声、もしかしたらやり過ぎてしまっただろうかと不安になって訊いてみるが、「大丈夫」とのことだった。だから、
「――んああっ」
再び舌を耳の奥に挿しこむ前に耳の外側を丹念に舐りあげることにした。穴には入れないようにその周りだけを舐めあげ、更に上の方にある狭く入り組んだ部分も舌でこじ開けて丹念に舐る。
耳垢の味がするのを美味しいと思いながら手で耳たぶを掴み、緩く揉む。
「んんん」
中に挿れて舐めてもらえないことにじれったそうにしているが、しかし、
「あぁ」
まだ中に挿れはしない。なぜならばこの人はこうやって焦らされるのがとても好きな人なのだから。
舌を離し、耳たぶを甘噛みする。気持よさげに震えるのを見て、耳たぶを口の中で舌でひたすら舐る。自分の唾液を擦り込むように何度も舐っていると、
「そろそろ、中に、……挿れて」
と強請ってきた。これが二人の間で通じる合図だ。
一つうなずき、再び耳の奥へと舌を突き入れることにした。
●
「……で、お前は走狗にいったい何をやらせているんだ?」
同僚の頭の悪い発言に俺は丁寧に答えた。
「あ? 見て分かんねえのか? どっからどう見ても耳掃除だろうが」
同僚はこめかみをつまみ、あー、質問の仕方が悪かった。と言って、
「なんで走狗にそんなことさせてんだよ! ってかやらせるならせめて綿棒を持たせてやらせろ!」
また頭の悪いことを言ってきた。
まったく、分かってねえな。と両手を軽く広げ、頭を動かさないようにしながら肩をすくめると、
「いいか? 俺は、ガブリエルを、近くで、感じたいんだ」
頭の悪い子にもわかりやすいように言い聞かせてやった。
「器用な肩のすくめ方しながら一言一言区切って言うんじゃねえっ! 気味わりいっ!」
人の気遣いをこの同僚はなんだと思ってるんだろう。まったく、
「うるせえよ! 俺とガブリエルの蜜月を邪魔すんじゃねぇっ!」
「じゃあせめて自室でやってくれ! 教導院のど真ん中で耳掃除を舌突き挿れてさせるな!」
この頭のかわいそうな子はなにを言っているんだろう。
「そんなことは普段からやってる。たまには俺とガブリエルの仲の良さを広く皆に知らしめてやらねばならんからな」
二人の間には誰も割って入る余地はないのだと知らしめておかないと、悪い虫が付いたら困るじゃないか。
そう言うと、なにやら同僚が引いていた。あぁ、俺とガブリエルのラブラブオーラに気圧されたんだな。
「――悪いな、ラブラブで」
「何わけわかんねえこと言ってんだよ!?」
ははは、図星を突かれたからってそんなに否定することはないのに。
そんな事を思っていると、耳を丹念に舐ってくれていたガブリエルがその背の二枚翼でパタパタと俺の目の前に飛んできた。
『みみそうじ おわりました』
一仕事やり終わり額の汗をふぅ、とぬぐう動作をするガブリエル。そのあまりの愛らしさに、俺はついついガブリエルを抱きしめていた。
「よしよし、いい子だぞーガブリエル。今度良いことしてやるからな」
『いいこと! いいこと!』
嬉しそうな顔をするガブリエルを見て俺の心も洗われるかのような感覚に襲われる。なんという愛らしさだろうか!
衝動的にガブリエルの二枚翼を一度甘噛みする。ガブリエルは『んぅ……』とくすぐったそうな声をあげ、口を離した俺と視線を上目づかいに合わせる。そして無言。
だが俺たちの間ではしっかりと通じ合っている。愛し合う二人に言葉など無用なのだから!
ガブリエルのほんのわずかに潤んだ瞳は口以上に饒舌に語る。『もっと』と俺に強請っているのを、だ。
ああ任せておけ! ガブリエルが望むなら俺は一日中その羽を噛み続けても構わないっ!
「もうお前そいつと結婚しちまえ」
呆れたような同僚の呟きが聞こえた気がしたが、ガブリエルの羽の味を感じ取るのに全意識を向けていた俺にはどうでもいいことだった。