その頃のネシンバラ君とシェイクスピアさん
武蔵アリアダスト学院へと続く道を歩く二つの影が有る。
それは、武蔵アリアダスト学院・生徒会書記、トゥーサン・ネシンバラと英国オクスフォード教導院・"女王の盾符"のトマス・"6"・シェイクスピアだ。
本来ならば、腕を組んで仲睦まじくこのような場所を歩いてはいけないはずの二人だ。
だが、そのような事はお構い無しとばかりに二人は共に歩みを進めていく。
ネシンバラはその間も時折小さな呟きをもらしながら、表示枠でなにやら文章をまとめては通神文として送っている。
シェイクスピアはそんな彼に付き添いながら、道中で買い求めた菓子をつまんでいる。
時折ネシンバラの口元へと菓子を運び、彼は半ば無意識にそれを口にしていた。
「ラブラブだ・・・」
「ラブラブですね・・・」
「ち・・・ちくしょう！二人仲良くラブラブしながら歩く奴もいるのに、俺達は一人寂しくブラブラしてるだけ・・・」
「せ・・・先輩！」
まさに清く正しい恋人同士というような姿ではあった。だが、
「す・・・すごい。あんなに堂々となんて」
「うん。男の子同士で・・・」
ただひとつ問題があるとすれば、両名とも男子用制服の姿であった事だ。
武蔵の繁華街を抜けて、学院への道すがら公園を横断する形で二つの影が歩いて行く。
周囲には彼等以外の人影は無く、周りの自然と相まって穏やかな雰囲気だ。
「なんだか、周囲からやけに注目されてた気がする・・・今更だけど」
「え？そ、そうかなあ・・・それより、これ中々美味しいね。もう一つどう？はい、あーん」
む、と呻くような声をあげながら、ネシンバラは菓子を差し出すシェイクスピアに対して素直に口を開いた。
彼女が持つのは最近"浅草"で話題になっている新作の菓子"イン形焼き"だ。
デフォルメされた男女が絡まる姿を模した菓子で、中には練乳クリームが入っている。
外箱のパッケージ裏には監修した全裸のインキュバスが「健全に不健全な夜のお菓子！」と親指を立てていた。
「味は結構いけるんだけどなあ・・・」
「あはは・・・武蔵ってほんと面白いよね」
「いや・・・面白いのにも限度ってものがね」
ネシンバラはため息を一つついて片手で顔を覆う。
「ごめん・・・迷惑だったよね」
「い、いや・・・そんなことは、ないよ。うん。きっと」
泣きそうな声で詫びの言葉を発する想い人に、ネシンバラは労いの言葉で答えた。
考えてみれば、彼女も周囲の我侭に振り回されているのだから仕方ないと思う。
それに僕もなるべく君と共に居たいとは思ってるし、と自分の思いをさりげなく口に出した。
「えへへ・・・そうかあ・・・そうなんだ・・・うふふ」
「・・・」
その言葉を聞いて、何か変な方向にテンションを上げていくシェイクスピアに、ネシンバラは内心で冷や汗を流す。
少々うかつな言葉を口にしたかと思い、どうしたものかと思考の海に沈みそうになった彼に。
「えいっ・・・」
「うむっ！？」
傍らの想い人が唐突に唇を重ねてきた。
二人の間に沈黙と共に暫しの時間が流れる。
シェイクスピアの側から抱きすくめるような形であった二人の体勢は、数瞬の後に双方が抱きあう形へと変じた。
傍から見れば単なる恋人同士の逢瀬であったであろう。・・・両名とも男子用制服の姿ではあったが。
「どうしたんだよ。急に・・・」
「ん、なんでもないよ。キス・・・したくなっただけ、だよ」
そう言って、悪戯っぽく笑う彼女の姿にドキリと鼓動が高まるのを感じたネシンバラは、慌てて周囲を見回し人影が無い事を確認する。
そして、彼女を再び抱き寄せて、
「全く・・・そんなことされたら、僕も我慢できなくなるじゃないか」
「あはっ♪」
そう言って、シェイクスピアの唇に自分の唇を重ねた。
ネシンバラとシェイクスピアの頭上、遥かな高みにおいて、墜天と堕天のナイトとナルゼの魔女コンビがそこに在った。
「うふふふふ・・・たぎる！たぎるわ！！おおっぴらに会えない二人の逢瀬、人目を避けての接吻、禁断の恋・・・他人のエロスはネームが進むわあ！！！」
「あー・・・ガッちゃん？言いたい事は色々あるんだけど、とりあえず覗きはいけないとナイちゃん思うかなあ」
「大丈夫！私達は、偶然！通りすがりに！目にしただけよ！！そうよ・・・うふふふ、挿絵の仕事と引き換えなんて安いわぁ」
「望遠術式とか用意した状態じゃ、説得力無いとナイちゃん思うんだけど・・・」
金髪と金翼のナイトはいつもの微笑を崩さず、ガッちゃん最近ストレス溜まってたみたいだし、今日はナイちゃん攻め攻めでちょーっとハードにラブラブしなきゃだめかな？と思いつつ、
不穏な笑い声を漏らす黒髪と黒翼の相方を見つめていた。