「ふう・・・」  
銀の髪の少女ネイト・ミトツダイラは、どこか熱を帯びた吐息を口元からもらしていた。  
こころなしか、その歩みの調子も普段よりもおぼつかない足運びを見せている。  
もっともその乱れは本当に僅かなものであり、それに気付ける者は彼女に近しい者でも極希であるような程度のものであったが。  
だが、それに気付いた者が彼女に声を掛けた。  
「・・・ネイト?具合悪いの?」  
流れる汗を体操着の裾で拭いながら声を掛けて来たのは、小さな体躯と短く切り揃えた茶色の髪を持つ少女、葵・トーリだ。  
「そ、総長?!い、いえ大したことは・・・う!」  
だが、ミトツダイラは近づいてきたトーリから弾かれるように身体を引き、口元を押さえるとその身をひるがえした。  
「も、申し訳ございません!気分がすぐれないので失礼いたしますわ!」  
「あ、ネイト!」  
半ば呆然としながら、その場から小走りに駆け去るミトツダイラを見送ると、  
トーリはすんすんと小鼻を鳴らして自分の身体のあちこちの匂いを確認した。  
「・・・そんなに汗臭かったかなあ?」  
そんな彼女にトーリ君、との声が掛かる。  
振り向けば、梅組のクラスメイト達がこちらに向けてやってくるところだった。  
トーリに声を掛けたのは、その先頭に立つ長身の少女、浅間・智だ。  
「ミトは今ちょっとキツイ時期だと思うんで、気にしないで上げてくださいね。彼女、人狼家系だから少し重いんですよ」  
「んー?重いって、浅間の胸と比べたらどっちが・・・あひょん?!」  
自分の胸元に両手をやり、何かを持ち上げるようなしぐさを始めたトーリの頭にチョップが跳ぶ。  
「フフフ・・・愚妹、野生の獣の前に発情フェロモン満杯で現れるなんて中々のエロスね!  
今頃あの女騎士、己のエロスメーターがブッ千切りレッドゾーン突入で、全開バリバリナンバーワン状態よ!!」  
「自分なんかは軽い方なんでそれほどでもないんですが、確かに重い人はたいへんですよね・・・って、なんですか!その視線は!?」  
会話の途中から視線をアデーレの一部に集めてしまった一同があわてて目を逸らす。  
「でも、硬さはアデーレが一番だよね。一番おっきいのは浅間でー、ベルさんはサイズ的に相性が良くて、  
ネイトは量も多くて大きめでタフなんだよ。他はまだシたことないからわからな・・・ふぎゅう?!」  
なにやら不穏な発言を始めたトーリに周囲から何発かのチョップが再び跳んだ。  
更にはその発言に反応しかかった男子達に、浅間から数発の射撃がズドンされる。  
「と、ともかくミトは何かにつけて内に溜め込むタイプですから心配ですよね」  
「浅間はとにかく打ち出すタイプだから大丈夫だモンね。あ、でも内に射精すのは止めたほうがいいよね!なかはらめぇぇぇぇって・・・」  
次の瞬間、着弾の爆風で飛ばされたお馬鹿の身体が空中で三回転した。  
 
            ●  
 
左舷一番艦”浅草”の街路を進む一つの影がある。  
豊かな銀髪を隠すように暗い色のフード付きマントで全身を覆うのは、人狼家系の少女ネイト・ミトツダイラだ。  
彼女が歩みを進めるのは、主要な通りより外れた人影もまばらな小さな路地だ。  
改装と増設を繰り返した”武蔵”の艦内都市には、時折正式な地図には存在しない”在り得ざる場所”が現れる。  
その殆どは程なくして整理されるのが常であるが、今彼女が目指す場所はその理の中で数少ない例外として存在を許された場所だ。  
表層部より階層を下り、狭い路地を抜けた先にある入り口を抜けると、その先に来客を迎える空間が広がった。  
熱を帯びた荒い息をつくネイトに向かって無機質だが美しい女性の声が掛けられる。  
「お待ちしておりました。ネイト・ミトツダイラ様。例外特区・色街・吉原へようこそ。ご案内は、自動人形”吉原”がお送り致します。――以上」  
通常とは異なる豪奢な和服型の侍女服に身を包んだ自動人形が、そう言ってミトツダイラを出迎えた。  
 
            ●  
 
「しかし、今回は急な申し出でございましたね?予定では後二、三日後と伺っておりましたが。予想外だと判断します。――以上」  
大きく結い上げられた黒髪に、簪(かんざし)型の情報端末を何本も刺した自動人形がそう言葉を紡ぐ。  
傍らに付き従う小柄な少女型の自動人形に、その間も何かしらの指示を飛ばしていく様は正にこの街の主とも言える様相だ。  
「面倒をかけますわ。それで、早速ですが・・・」  
「・・・そのことでございますが、ミトツダイラ様はいつものようにセルフプレイ用のプレイルームをご希望でしたね?」  
若干の疑問符を表情に浮かべつつ、Jud.と答えるミトツダイラに対して”吉原”の言葉が響く。  
「現在、該当する施設が全て満室となっております。――以上」  
「?!」  
目を見開いて愕然とするミトツダイラに、あくまでも平然とした口調の自動人形より言葉がかけられた。  
半ば呆然とする銀髪の少女を前に”吉原”は、彼女に付き従う少女型自動人形に何事か指示を出すと、ミトツダイラへと向き直った。  
「それで代替案でございますが、本日が初見世の者がおりますのでその者にお相手を任せようと思いますが。――以上」  
「ち、ちょっと待ってくださいませ!・・・あ、相手とかそういうのは、その!こ、困りますわ・・・」  
「Jud.ミトツダイラ様がご自身での”処理”を目的として当方に足を運んで頂いているのは承知しております。  
ただ、今回はミトツダイラ様専属と申しますか、正直、ご了承頂けないと私共も困ると申しますか・・・準備が終わったようですね。」  
困惑を深めるミトツダイラへ説明を続けていた”吉原”が、背後の扉へと目を向ける。  
そして、音も無く開いた扉からこちらへと歩みだす一つの姿が在った。  
小柄な身体を装いも華やかな衣装に包み、大きく結い上げた壮麗絢爛な髪には幾本もの髪飾りが踊り、足元は三枚歯下駄と呼ばれる黒塗りの背の高い下駄だ。  
顔形などはまだ定かではないが、その人影は禿(かむろ)と呼ばれる少女を模した自動人形に伴われ、扉の奥から一歩を踏み出す動きを見せ、  
「むぎゅうぅぅぅぅぅ!!!!!!」  
もんどりうって、豪快に転倒した。  
周囲が何とも言いかねる微妙な沈黙で満たされる。  
「な・・・なんなんですの・・・」  
「バランスを崩して転倒したものと思われます。――以上」  
暫しの後、静寂を破るようにそのような会話が交わされる。  
「”吉原”様、トーリ様の呼吸と心音が低下しているようですが。あ、痙攣も始まりましたね。――異常。――以上」  
「!これはいけません。てっきり何か新ネタの披露でも目論んでいるのかと油断してしまいました。吉原、うっかりだと判断します。  
あ、出血も始まったようですね。――異常。――以上」  
「ど!どういうことですの?!」  
やや取り乱した感のミトツダイラの問いかけに、吉原は平然と答えを返す。  
「Jud.、異常の後に以上とつけるのは武蔵様直伝の私共の持ちネタでございます。――以上」  
「そ、そういうことではなくて!ああ、総長!総長!!なにがなんだかさっぱりですが、どうぞお気を確かにっ――!」  
彼女の叫びが部屋の中に満ちた。  
 
            ●  
 
「さーあ!みんな!こんばんわ――!!みんな元気かなー?、先生は今日も元気でーっす!!  
さて、早速だけど、吉原という街に関していってみようか!江戸幕府開設間もない1617年、日本橋葺屋町に遊廓が許可され、幕府公認の吉原遊廓が誕生する。  
この設立の背景には、幕府が市中の遊女屋をまとめて管理する治安上の利点と、市場の独占を求める一部の遊女屋の利害が一致した結果と言われている。  
でも、当時江戸の都市機能の整備を急激に進める為に関東一円から人足を集めたことや、戦乱の時代が終わって職にあぶれた浪人が仕事を求めて江戸に集まったことから、  
江戸の人口で圧倒的に男性が多かった為というのも大きな要因の一つではあろうと思われるね。  
なにせ、江戸中期においては江戸の人口の3分の2が男性という記録が残ってるらしいからね。・・・女の子少なっ!?  
「吉原」の名前の語源の代表的なものとしては、葦の生い茂る低湿地を開拓して築かれたためという説がある。  
「葦=悪し」に通じるのを忌んで、それを転じて「良し=吉」と付けたという説だね。  
とにかく、徳川家康の隠居地である駿府城城下に大御所家康公認の公娼があり、そこから遊女屋を移したのがそもそもの始まりであると言われてるんだ。  
その後、1657年の明暦の大火では日本橋の吉原遊廓も焼失。  
それ以前から動きはあったけど、これを大きなきっかけとして幕府開設の頃とは比較にならないほど周囲の市街化が進んでいたことから、浅草日本堤付近に移転を命じられてしまう。  
そして、以前の日本橋の方を元吉原、浅草の方は正式には新吉原(略して吉原)と呼ばれるようになったんだ。  
おおっと!・・・もう時間だね。それでは、だいぶ駆け足だったけど今回の先生のご高説はこれまで!興味があったら自分で調べてみてね!  
じゃあ!また来世――!!!!!」  
 
「・・・って、こんなお話を先生がしてたよ。死んでも元気だよねー」  
「Jud.、トーリ様。控えめに申しまして、それは臨死体験というものだと判断します。――以上」  
「と・・・とりあえず、あまり心配を掛けさせないでくださいませ、総長」  
「えへへー、ネイトは優しいねー、いい子、いい子」  
色街・吉原の総合エントランスは、広々とした造りの中にも、程好く周囲から隔絶されたレストスペースが点在する。  
この街の来訪者はソファとテーブルの他に情報端末を備えたその場所で、周囲の目を気にせずに今宵の予定を吟味できるという寸法だ。  
その一画にて、いつのまにか自分の膝の上を確保して顔を摺り寄せてくる少女に、ミトツダイラは諦めにも似た吐息をついた。  
「それで・・・いったいぜんたいどういう事になっておりますの?」  
「Jud.、ミトツダイラ様をお出迎えするに当たり、トーリ様をドレスアップする試みでございましたが、見事失敗というところでございました。  
折角の”花魁”風の追加礼装――機動殻並の防御力をも兼ね備える逸品でもあったのですが。――以上」  
「”吉原”様、私供と同じ禿(かむろ)の衣装も良かったのではないかと判断します。”花魁”は、フル装備だと重量も機動殻並ですので。――以上」  
「いえ・・・あの、また微妙に回答がズレていると申しますか・・・」  
トーリが鼻血を止めるために鼻に詰めていたティッシュを抜き取ってあげつつ、彼女の傷の具合を確かめていたミトツダイラがそう呟く。  
「・・・しかし、これでトーリ様をミトツダイラ様に”揚げて”頂き、お二人は朝までヒャッハー!  
私共は太夫クラスの料金を落として頂いてヒャッホー!という目論みがもろくも崩れてしまいまして、吉原、がっかりだと判断します。――以上」  
「Jud.――以上」  
中々に油断のならない事を口走る自動人形達の言葉を聞き流しながら、ミトツダイラは額に手を当てて本日何度目かの溜息をついた。  
 
「そ、それにしても。ど、どうやって総長はここの事を・・・」  
「んーとねー、詳しい人に教えてもらったんだよ」  
そう言って、トーリが軽く手を振る方向に、少し離れた席で会話する一団があった。  
身なりは仕立ての良さそうなスーツだが、全員が顔面の部分に”Jud.”という文字が染め抜かれた白い布袋で頭部をすっぽりと覆っているのが特徴的だ。  
各々が情報端末から引き出したお勧めスポットの情報で盛り上がっているような会話が聞こえてくる。  
「どうでしょう。ここはやはりこのロリババア専門店”五十の塔”で参りましょう!」  
「いやいや、このスポーツイメクラ”レッドブル”も中々・・・ブルマは赤しか認めない!という煽り文句が潔いですね」  
「この、ぽっちゃり系パブ”脂肪遊戯”も良さそうですぞ」  
「蹴打系癒しカフェ”ハイ☆HEEL!”・・・何やらドキドキしますなぁ」  
「よし!私は、羽根付き、耳付き、キツネ憑き!世界の広さを貴方に!のフレーズも眩しい異属専門店”人外アチョー!!”に突貫しますぞ!」  
「ねえねえ、ノブタン!ノブタン!・・・オラなんだかワクワクしてきたよ!」  
「うん!そうだね、コニタン!私もこことみんなが大好きだよ!」  
・・・とりあえず、あまり関わりあいにならない方が良さそうだと、ミトツダイラは判断する。  
「そ、それよりも、私の、あ、相手というのはどういうことで・・・」  
慌てた口調で問い詰めるミトツダイラに対し、あくまでも平静な自動人形の回答が還る。  
「Jud.、それにつきましては大変単純な問題がありまして・・・率直に申し上げますと」  
「ううー・・・だって、お金なかったんだもん」  
「Jud.、それでは無理ですとお断り申し上げたのですが、それでもどうしてもとの事で・・・それならば使う方ではなく稼ぐ方にという訳で  
臨時雇用という事で解決させて頂きました。逆転の発想というものですね。吉原、上出来だと判断します。  
しかし、困りました。ミトツダイラ様があくまでもお断りされると言う事でしたら、私共としてもお客様に無理強いはできません。  
よって、トーリ様には別のお客様を取っていただく事になりますね。――以上」  
な?!・・・というミトツダイラが息を呑む音がかすかに響き、次いで彼女が歯を食いしばる音が微かに響いた。  
「私に・・・総長を・・・」  
それができなければ・・・我が王が!!  
声にならぬ唸りを上げ、ミトツダイラが沈黙する。だが、傍らのトーリは変わらずに笑みを浮かべているのみだ。  
それならば!・・・「あ!ねえねえ!”吉原”さん?」ミトツダイラが悲痛な決意を言葉に出す直前、トーリの声が割って入った。  
「ネイトがなんだか困ってるみたいだから聞くんだけど・・・ねえねえ、わたしがネイトに”王様として雇われる”ってのは有りかな?」  
”不可能娘”の字名を持つ少女は、いつもと変わらぬ脳天気さで、そんな問いを言い放った。  
 
            ●  
 
にぎやかな座敷より漏れ伝わる喧騒の更に向こう側、奥まった座敷の中に幾人かの人影が在った。  
部屋の中では寝間の用意を整えていく人影が二つ、この街の名を冠する自動人形の二体だ。  
そしてその他に部屋の中に見えるのは、短髪の茶色い髪の少女とボリュームのある銀の髪を持つ少女だった。  
「はい、ネイト。あーん」  
「そ、総長。じ、自分で食べられますから・・・」  
「だーめ!今日はわたしがネイトをおもてなしするの!」  
座敷の上座に座る少女、葵・トーリの言葉に、銀の髪の少女ネイト・ミトツダイラは何も言えず、何かを待つようにして口を開けた。  
どれほどの言葉を重ねようとも、結局のところ自分はこの娘の笑顔には抗えないのだ。  
ややあって、寝具の用意を済ませた自動人形が二人の会話に割って入った。  
「さて、お部屋の御用意も出来ましたので私共はそろそろお暇致します。後はお二人でどうぞごゆっくりと・・・」  
「あ、”吉原”さん!そういえば、さっきの話は?」  
トーリの問いに、この街の名を冠する自動人形はJud.、と頷き、  
「トーリ様のご要望である”王様として雇われる”とのことでしたら、問題無しと判断します。  
そもそも、この街、吉原においては例えどのような方であろうとも、どれほどお金を使おうとも、  
決して犯されぬ不文律がございます。そのうちの一つに”廓の中では女性上位”というものがございます」  
”吉原”の言葉に続く形で、傍らの少女型の自動人形がこくこくと頷きながら説明を引き継ぐかたちで言葉を重ねた。  
「よって、言い換えれば元からトーリ様の仰る通りと言う事になりますね。トーリ様が上座であるのはそういう理由でもありますよ。――以上」  
「んー、じゃあ今日はわたしが上にならなきゃいけないの?・・・上手に出来るかな?」  
「トーリ様、別に体位の話ではございませんので、念のために。――以上」  
そのような会話を交わし、自動人形達が退出して行った。  
部屋に残されたのはトーリとミトツダイラの二人きりだ。  
「じゃ、次はチューハイいってみる?チューハイ」  
「は、はあ。何故いきなり焼酎なのかは疑問ですが、それでは一杯だけ・・・って、ふむぅ!?」  
胸元にもぐり込んできた少女に唐突に唇を奪われ、ミトツダイラはトーリに押し倒されるような形で背後へと倒れ込んだ。  
そして、そのままトーリより口移しでミトツダイラの口内へと酒精が流し込まれる。  
ごくごくと喉へ落ちる流れの中、アルコール特有の香りと共に目の前の少女自身の芳香と味わいがミトツダイラの感覚を包み込んだ。  
驚愕が彼女の精神に一撃を入れる。  
だが同時に、彼女の鋭敏な感覚器官は安堵をもたらす匂いと味覚を情報として己の脳へと送り込む。  
沈黙と共にしばしの時が流れた。  
「ん・・・ぷはぁ!どう?ネイト?おいしかった?」  
「はぁ、はい・・・あぁ、そうちょ・・・」  
ミトツダイラはアルコールとはまた別の要因で己の内に熱が生じるのを感じていた。  
 
「流石はトーリ様、見事な”チュー杯”と判断します。――以上」  
「Jud.――以上」  
そう言って部屋の外より二人の様子を伺うのは、どこまでも油断のならない二体の自動人形で在った。  
 
            ●  
 
「さて、ではわたし達もそろそろ戻り・・・如何なさいました?”吉原”様?」  
虚空を見上げ、動きを止めていた豪奢な装束の自動人形を見上げるようにして、少女型の自動人形が疑問の声を上げた。  
Jud.、という答えに続いて歩みを再開した自動人形は、しばしの後に再び歩みを止めて口を開いた。  
「少し・・・よろしいでしょうか?”吉原”様?」  
そう言って言葉を掛けられた少女型の自動人形に新しい動きが見られた。  
背筋が伸び、姿勢が正され、無邪気そうな笑いは静かさと柔らかさを持った笑みに変わる。  
一瞬の後に目元は優しげな光を宿し、一挙手一投足から身に纏う空気までもが落ち着きを持つ円熟した女性のものへと変じていた。  
「今は貴方が”吉原”でしょうに。どうなさいました?”新吉原”?」  
「Jud.、疑問でございます。私ども自動人形は人の助けになる存在。その事実には疑問はございません。ですが・・・」  
一言を区切り、”新吉原”と呼ばれた自動人形は己の疑問を言葉として吐き出した。  
「ですが、何時か全てが滅びてしまうものであるなら、私達の行いは結局のところ無駄な事なのでしょうか?”元吉原”様」  
まだ起動時間の長くはない未熟な同胞の言葉に、”元吉原”と呼ばれた自動人形はその笑みを濃く深いものとしていった。  
彼女の持つ疑問からもたらされる感覚が、人間で言うところの”不安”というものであると判断すると同時に、  
・・・正しく成長しているようですね。喜ばしいと判断します。  
年若い同胞のソフトウェア的なアップデートの兆しを見い出して、彼女に柔らかな視線を注いでいく。  
「Jud.、我々の存在意義に関わる疑問と判断します。関連すると思われる私の蓄積した情報の開示鍵を提供します。  
後で共通記憶より引き出すと良いでしょう。それとは別に・・・少し口頭で伝達しましょう」  
色街・吉原で従事する自動人形達は共通記憶での経験の平均化を最低限に留めている。  
これはこの街の特性である風俗産業が、”必ずしも一般的な良識の範疇に含まれない”事に端を発する。  
公序良俗に反するものでありながら無くてはならないもの、そのような矛盾に満ちた部門を扱うには、  
矛盾の許容範囲を広く取らなければならない。  
共通記憶による平均化を進めてしまうと、その矛盾に対応できなくなる為だ。  
Jud.、と呟く”新吉原”の回答に頷きをもって返すと、”元吉原”と呼ばれる少女型の自動人形は言葉を紡ぐ。  
「やがて滅びるなら全ては無駄・・・貴方はそう言いましたね?では、問いましょう?私達が頂く名前は何を表すものですか?」  
「Jud.?それは・・・街の名前でございます・・・かつて存在した街の・・・?!」  
”元吉原”の唐突な問いかけに、脳裏に疑問符を浮かべながら回答した”新吉原”だが、何かに気付いたような反応を見せた。  
質問を投げかけた少女型の自動人形は、その反応に満足そうな表情を浮かべる。  
「Jud.、そうです。今はもう存在しない街の名です。ですがその名は”滅びても失われなかった”のです。何故かはわかりますか?」  
「Jud.、それは・・・伝えた方々が居たからです。この名を今の世界に・・・」  
「Jud.、きっと、この世界の事も何処かの誰かが伝えていく事でしょう。そして、我々自動人形もその傍らに在るでしょう。  
この世界に矛盾があり、それを許容する人々が居る限り、手助けをする存在は必要でしょうから」  
境界線ですね、と少女型の自動人形は言葉を続けた。  
「滅びても失われず、有るはずのものを見ず、無いはずのものに思いを馳せる。プラスを必ずしも良しとせず、マイナスを持って負を減ずる。  
・・・なんとも訳の解らないものです。」  
ですが、と言葉を続けて、  
「人々はそんな境界線を幾つも越えて進んでいくのでしょう。そして私達もその手助けを続けていくと判断します。何処までも・・・」  
――以上と話を締めくくった”元吉原”に対し、Jud.、と”新吉原”の答えが応じた。  
彼女は滅びと言う名の境界線を見た、だがもうそれに不安を感じる事は無かった。  
 
            ●  
 
薄明かりに照らされた和室の中、寄り添い会う二つの影がある。  
二人きりの部屋の中に時折響くのは、ぴちゃぴちゃという湿ったような音だ。  
その音を生み出しているのは重なり合う二つの唇と、その間で絡まり合う二人の舌であった。  
「ん・・・えへへ。ネイトぉ・・・舌、熱いねぇ」  
「あぅ、そ、総長・・・」  
小柄な影の少女、葵・トーリが、圧し掛かるように覆い被さっていた相手の口から唇を離した。  
彼女を受け止めるように身を横たえていた、ネイト・ミトツダイラが熱い吐息を漏らす。  
よいしょと言う声と共にミトツダイラの身体の上から降り立ったトーリは、小さな衣擦れの音を立てると、  
するりと身に纏っていた衣を脱ぎ捨てた。  
彼女が身に纏っていたのは、襦袢と呼ばれる和服の下着に類する軽い肌着だ。  
その中でも半襦袢と呼ばれる丈の短い軽い衣が、同様に細く軽めの帯と共に二人の傍らに落ちた。  
薄明かりの中に、トーリの小さな裸身が浮かび上がる。  
肉付きの薄い小柄な身体に、左肩を巡るような白い大きな傷跡が目に入る。  
常ならば、その要所を秘する術式も今は解かれているのであろう。  
淡い膨らみの胸乳はその頂点の桜色の突起も顕にし、下腹よりさらに奥の秘め所はその微かな茂みと小さく閉じた秘割れすら確認できた。  
「・・・」  
眼前に広がる光景に、ミトツダイラは眩暈にも似た痺れのような感覚を感じた。  
目に映るトーリの裸身だけではなく、ほのかに香る少女の体臭が己の鼻腔をくすぐっていく。  
顔の火照りが止まらず、ごくりという唾を飲み込む己の喉の音がやけに大きく響いた。  
そして、腰の奥から響きだす疼きが、どくん、という一際大きな鼓動と化して身を震わせる。  
「あ!い、嫌ぁ・・・ひ!ひぁぁぁん!?」  
下腹部を抱え込むようにしてうずくまりかけたミトツダイラの股間に、トーリの手がするりと差し込まれた。  
薄い寝間着をかき分けて、そのまま鮮やかな動きでミトツダイラの奥深くに隠された器官を暴き出す。  
「ああ!だ、駄目!!そうちょ・・・ひぃぃぃぃ!!!」  
「あは!出てきたねぇ。立派、立派」  
びん!と、弾けるような勢いで飛び出した陰茎が、トーリの手の中でたちまちの内に硬度を増していく。  
「んー、ネイトどう?、気持ちいい?」  
「そ!そんなところ・・・あひぃ!!い!いけませんわ!」  
小さく柔らかな掌と指が陰茎を扱き立てる度に、ミトツダイラの身に震えるような快感が走り抜ける。  
「あっ・・・はぁっ、はっぁ!はひぃ!?ひっ、はっ、はぁ・・・」  
「あはぁ!ネイトのすごーい!すんごく太くて熱くて・・・びくびくしてる」  
茶色い髪の少女、トーリはそう言い放つと、小さな唇を赤い舌でチロリと舐め上げた。  
そんな何気ない動作が何とも言えない艶やかな空気を醸し出す。  
ミトツダイラの口から漏れる声も、次第に荒く熱さを増したものとなっていく。  
彼女の股間より屹立する陰茎も、激しさを増すトーリの手淫の動きによって既に痛々しい程に膨れ上がっている。  
「んっ、ネイトの可愛い・・・」  
「ひっ!?あっ・・・あ!あ!あ!アアア!!」  
唐突にトーリの唇がミトツダイラの陰茎を軽く吸い上げた。  
口唇の先から僅かに突き出された舌先が軽く啄ばむような接吻だ。  
だが、耐えに耐えていたミトツダイラに取って、それは限界の終わりを告げる引き金としては十分過ぎるものであった。  
一瞬の硬直の後、彼女の陰茎がさらに太く大きく膨れ上がったかと思うと、先端より白濁した液体を噴き上げる。  
「ひいぃぃぃ!!!あひぃ!ひぁぁ!」  
「んんん!?」  
その銀色の髪を振り乱すように目を見開き、ほとばしる喜悦に身を焼かれつつ、ネイト・ミトツダイラは愛しい少女の口内と顔を白く染め上げていった。  
 
           ●  
 
「んく・・・ネイトぉ・・・出し過ぎだよぉ」  
むせかえるような精臭の中、トーリはそう言い放つと己の口内に残った粘液をごくりと飲み干していく。  
彼女の顔面から胸に掛けて、いくつかは髪の毛にも飛び散るほどの勢いで、白みかかった半透明の滴が彼女を染め上げていた。  
「あんまり我慢すると身体に良くないよ?ネイト?」  
「あ・・あぁ!総長!総長!!も、申し訳ありません!」  
己の吐き出した愛欲の迸りによって顔を汚すトーリに、我に返ったミトツダイラが縋り付く。  
「ん!んく・・す、すぐに綺麗に致しますので・・・ん」  
「にゃはは!ネイト!くすぐったいよぉ」  
「ああ・・・ああ・・・我が王・・・こんな、私のものがこんなに!・・・私だけ先に!」  
一転、ミトツダイラは熱に浮かされたように火照った顔で、粘液に汚れるトーリの顔を己の唇と舌を用いて舐め取るように清め始めた。  
その柔らかな舌のこそばゆさに、トーリは笑みを浮かべ喜悦の声を漏らす。  
「ん・・・ネイトぉ」  
唐突に、トーリの指先がミトツダイラの眼前に掲げられた。  
伸ばされたのは右の中指と人差し指であり、その先は透明な粘液により、てらてらと光っている。  
「えへへ・・・わたしもちょびっとね、イっちゃった」  
いっしょだねえ、と続けるトーリの言葉の端から、差し出された粘液が愛しい少女の奥より湧き出た蜜であるという事実に、  
ミトツダイラが辿り着くには瞬き一つ分程の時が必要であった。  
にゃははは、と照れくさそうに顔を赤らめる少女の顔を前に、ミトツダイラの動きが停止する。  
静寂が場を支配し、何処か離れた宴席の会話までが漏れ聞こえてきた。  
『大丈夫?!大丈夫?!』  
『んっ、大丈夫っ、大丈夫コニたんっ、ちょっとタンパク質が外にでただけ・・・』  
そんな会話も二人の耳には入ってこない。  
「えーと・・・ネイト?」  
動きを止めたままのミトツダイラに、トーリの声が掛けられた時、  
「総長!!」  
「きゃ?!」  
おもむろにミトツダイラが立ち上がりざまに少女の身体を抱え上げた。  
そしてそのまま隣接した寝室に整えられた寝具の上にまで駆け抜ける。  
彼女に押し倒されるような体勢となったトーリが、小さな叫びを漏らした。  
「総長!総長総長総長総長総長総長総長総長総長総長総長総長総長総長総長総長総長総長総長総長総長総長総長総長総長総長総長総長  
ああ!ああ!ああ!ああ!ああ!ああ!ああ!ああ!ああ!ああ!ああ!ああ!ああ!ああ!ああ!ああ!ああ!ああ!ああ!ああ!  
私はもう!ああ、総長!わたし!私!ワタシ!JE!ああもう!こんな!こんな!こんな!こんな!総長の肌!総長の匂い!総長の味!  
総長のぬくもり!そうty・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」  
「えーと・・・えーと、あー、ネイト?ネイトさーん?」  
頬から顔のみならず、全身を紅潮させたミトツダイラが、まるで何かに取り付かれたかのように支離滅裂な言葉を発しながら、  
トーリの全身にキスの雨を降らせる。  
少女の呼びかけにも答える事無く、ミトツダイラはただひたすらトーリの全身に縋り付くばかりだ。  
「オチツケ?オチケツ?」  
部屋の片隅に置かれたミトツダイラの装備より飛び出した銀鎖までもが、暴走しかかる彼女を押し止め様と絡みつく。  
そんなミトツダイラをなんとか落ち着かせようと、トーリは脳内で一計を案じる。  
・・・たしか、こう言えばネイトが喜ぶっておねえちゃんが言ってたっけ?  
そして、その思考の結果として、トーリがミトツダイラの耳元に一つの言葉を囁いた。  
「ネイト・・・えーと『Je t'adore.』」  
「?!、Jud.!!!」  
その効果は覿面で、ミトツダイラの顔が喜びに輝き・・・  
「そおちょぉぉぉぉぉぉ!!!」  
「!?ムリナノ」  
「ザンネン、ムネン」  
己を束縛する銀鎖を引き千切って、ミトツダイラはトーリへと踊りかかった。  
 
           ●  
 
「ん!んく!んむ!・・・」  
「にゃぁはぁぁぁん!ネイトの舌、きもちいー・・・」  
身体の内を駆け抜ける快楽に、トーリが甘い喘ぎを上げる。  
その刺激の発生源は、己の股間を愛撫するミトツダイラの舌の動きだ。  
小さな秘割れにむしゃぶりつくように吸い付き、無我夢中に舌を這わせている。  
柔らかく花開く秘割れを舌でめくりあげ、膣口からあふれる蜜をすすりこみ、充血する小さな肉の突起を舐め上げる。  
その度にトーリの口からは快感に喘ぐ小さな叫びが漏れ、そんな少女の喘ぎ声を耳にする度に、ミトツダイラは己の内に  
なんとも形容し難い暖かさが生まれるのを感じている。  
「ん・・・ネイト」  
文字通り、息もつかせぬ攻防を繰り広げていたミトツダイラがその顔を離すと同時に、トーリが彼女の顔を自らの元へと引き寄せた。  
そしてそのまま抱き寄せるように深い口付けへと移行する。  
ややあって顔を離し、トーリは隆々と勃起したミトツダイラの陰茎に手を添えると、それを己の秘割れへと導いた。  
熱い肉同士が柔らかく触れ合う感触が双方の身体に走る。  
「えへ、何度シても・・・入れるときはどきどきするねぇ」  
「そ、総長!!く、くひぃいいん!?」  
頬を赤らめながら、トーリが己の女陰を割り広げた。  
そこにするりと吸い込まれる様に陰茎を潜り込ませたミトツダイラが、たまらず甘い叫びを上げる。  
「あ、あぅぅぅ!!・・・ネイトの、おっきいよう・・・」  
「そ、そうちょう!そ、そんなに、ひっ?!し、しまるぅ!」  
二人の姿はトーリを下に正面から抱き合うような体勢。俗に性交体位で言う正常位というものだ。  
そして、二人の間に動きが生じ始める。  
最初は小さく、徐々に大きく。  
緩急を織り交ぜ、時には激しく、常には優しく、肌を打ち付け合う音と粘膜が触れ合う感触が二人の肉体に響き渡った。  
「あ、あうっ!くっ!そうちょう!こんな・・・あんっ!」  
「ひゃん!ネイトの、熱くて大きくて・・・奥までキてるっ!」  
己の腕の中で喘ぐ少女の声に、ミトツダイラの動きが激しさを増す。  
その時、ふと視界の中の少女の身体に青白い光が宿りだすのが目に留まった。  
・・・流体光?  
その、何処か見覚えのある光にミトツダイラが目を奪われた時、トーリが彼女に向けて言葉を放った。  
「あは・・・ネイトぉ、一緒に気持ち良くなろーねぇ」  
「え?・・・そ、総長!なにを?ひっ!?」  
次の瞬間、少女に唇を塞がれたミトツダイラにありえない快感が襲い掛かった。  
「んんんんー?!!!」  
「あはぁぁぁん!すごーい!ネイトのまたおっきくなったあ!」  
トーリを通じて流体の光がミトツダイラへと伝わっていく。  
そしてそれと同時に”己のモノで自分自身を貫いている”感覚がミトツダイラへともたらされる。  
快楽の火花で全身を焼かれながら、ミトツダイラはそれがトーリの得ている快感を伝播されている事をぼんやりと理解した。  
「やあっ!やあんっ!!総長!こんなっ!こんなぁ!!」  
「ネイト!ネイト!いい?!わたしはっ、すごくっ、いいよっ!!」  
狭く暖かい膣内に擦られる感覚と、熱く硬い陰茎に貫かれる感覚が同時にミトツダイラを蹂躙する。  
こんな!こんな・・・わたしはこんなに激しく総長を!・・・ああ、でも総長っ!あんなに・・・  
己の陰茎が少女の胎内を征服する感覚をそのまま返されつつ、その快楽に蕩ける少女の顔にますます上気する自分を抑えられない。  
腰の動きは止まらず、吐息が荒くなる。  
汗は滝のように吹き出て、目尻からは涙が漏れ出した。  
獣のように大きく開いた口の端からは涎までもがあふれ出る。  
そして、トーリも限界が近いのか、膣内の締め付けとうねるような動きは強くなるばかりだ。  
「だ、ダメですの!総長!こんな!こんな!出ちゃう!出てしまいますぅぅぅ!!」  
「あはっ!ネイト!いこ!一緒にイこ!」  
「や、やぁ!こんな、ダメ!い、今、すごくはしたない顔してますっ!こんなの見ちゃだめぇ!!」  
「あはぁ!大丈夫だよぉ・・・ネイト、その顔もすんごく可愛いからぁ、だから・・・一緒に!!  
「「い!イくぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」」  
全てが真っ白に溶け合うような爆発が二人の脳裏を焼き尽くし、ミトツダイラの陰茎から迸った熱い精液がトーリの胎奥を満たしていった。  
 
           ●  
夢を、見ていた。  
ぼんやりとしたまどろみの中で、ネイト・ミトツダイラは自分が今夢の中に在る事を自覚していた。  
徐々に眠りより覚醒し始める時間の中、どこか霞がかるようなはっきりとしない世界に立つ自分が居た。  
そして、その周囲にはいつもと変わらない騒がしい顔ぶれが有る。  
夢の中でまで変わらない面々に、そしてそんな夢を見る自分にあきれるような苦笑を覚えつつ、肉体と精神が目覚めの時へと近づいてゆくのを感じる。  
不意に自分の認識する世界に変化が生じた。  
まるで書物の頁をめくるかのように、世界がめまぐるしく変わっていくのが見える。  
夢の世界の狭間、境界線の上とでもいうような場所から俯瞰するような視界だ。  
自分が考えた事がある事、想いもよらなかった事、夢の中だからこそ体験する混沌とした認識が次々と浮かんでは消えていった。  
その中の一つが不意に己に近づいてくる。  
それは一人の赤子を胸に抱く己の姿。傍らには何者かの人影も見えた。  
ああ、やはりこれは夢なのだとココロが冷めていくのを感じる。  
自分達のような両方の性を持つものは子を成す能力が低い。  
何時の頃からか、この世界はそんな男女の性すら曖昧になってきた。  
そして、人が新しく生まれなくなってきている。  
世界が滅びに近づいているためだとも言われているが、真実はいまだ闇の中だ。  
そしてなにより・・・己の愛する娘には、その能力が――無いのだ。  
”不可能娘”(インポッシブル)何という皮肉に満ちた字名か・・・!  
その小柄な体躯も、幼さの残る容貌も、女性という種の中で不完全であるが故だ。  
昔、ホライゾンと共に三河に送られた少年は、命を取り止めて戻ってきた時には少女となっていた。  
何もかも、己自身さえも失い、それでもその馬鹿な娘は馬鹿なままで・・・  
”みんなのゆめが、かなうくにをつくるおうさまになる”  
”ホライゾンが、じぶんのゆめをもつことのできるくにをつくれるおうさまになる”  
ただ、それだけを・・・  
ああ、総長、総長!貴方はいったいどれだけのものを与えてくださるのでしょう?  
貴方は知らないかもしれませんが、いったい私にどれほどのものを与えてくださったのでしょう?  
もしも、私が普通の女の子で貴方も普通の男の子である世界なら!  
私たちは――!  
 
そんな夢を、見ていた。  
うっすらと目を開き始めれば、視線の先に動く人影のようなものが見える。  
同時に、ふわりと鼻腔をくすぐる香りは朝食の膳のものであろうか。  
まだ完全に目覚めていない身体を起こそうと、寝返りを打つ。  
その動きに気付いたのか、人影がこちら側へ近づいてきた。  
半覚醒の状態でも鋭敏な嗅覚が、安堵を得るものを確認する。  
人影は手を伸ばし、こちらの頭を撫でるように手を乗せてくる。  
「お?ネイト、起きたのか?まだもう少し寝てていいぞ。朝飯の用意できたら、起こしてやっからさ」  
そんな、どこかで聞いたような少年の声が響いた。  
「総長!?」  
「ふぇっ?!」  
飛び起きたミトツダイラの傍で、小柄な少女がその勢いに驚くような声をあげた。  
「え?・・・夢・・・?」  
「どしたの?ネイト。怖い夢でも見た?」  
呆然と呟くミトツダイラに、心配そうな声が掛けられる。  
「安心して。――私、葵・トーリはここにいるよ」  
いつもと変わらない、少女の声がミトツダイラの耳に響いた。  
その声に、己の心が落ち着きを取り戻していくのを感じる。  
だが、すぐに朝ごはんの用意するねーと、くるりと背を向けた少女の姿を目にした途端、ミトツダイラの鼓動が跳ね上がる。  
「そ、総長?!」  
今のトーリの姿は、裸身に愛らしいエプロンを纏っただけの姿・・・俗に言う裸エプロンと言われるものであった。  
背面からの眺めでは、可愛らしい尻が丸見えとなっている。  
鼓動と共に、ミトツダイラは朝の生理現象で硬化していた陰茎に、更なる血流が流れ込むのを抑えられない。  
「そ!総長――!!」  
「ひゃぁぁん!」  
 
「Jud.これで延長料金ゲットと判断します。――以上」  
「Jud.――以上」  
そう言って部屋の外で頷きあうのは、やはりどこまでも油断のならない二体の自動人形で在った。  
 
 
 

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