「フフ、愚弟、目覚めの肩揉みよ!」
外出から帰ってきたばかりの貴美が、寝起きのトーリに言い放つ。
「姉ちゃん…俺徹夜でエロゲやってて死にそうなんだけど、容赦ねぇな…」
応えるトーリの声には、いつものような軽快さは見当たらない。
だがいつもの習慣からか、姉の言う事に従うように、ゆっくりと起き上がる。
あと当然のように全裸だった。
貴美自身もそれが日常となっているのか、ツッコミはなかった。
貴美は全裸に背を向けて座布団に座り、全裸がこちらに来るのを待った。
当の全裸はといえば、徹夜明けの寝入りばなを叩き起こされたからか、足取りが覚束ない。
ややふらつきながら貴美の背後に座り、肩揉みを開始する。
「フフ、さぁグイグイ揉むといいわ!?…あ、そこそこそこ」
「ふわぁ…姉ちゃん、別に肩凝らなくね?セージュンとかみたいに事務作業とかしねぇんだし」
「フフフ、愚弟?自由に生きてても肩は凝るのよ?特にオパーイが大きいとね!」
そう言いながら、胸を前に突き出して、何故か勝ち誇るかのようにポーズを取る。
──同時刻。
ミトツダイラやアデーレら小さい面々は、何故か何らかの敗北感を感じたという。
「そーいやオパーイ大きいと肩に負担かかるんだっけ…ふわぁ…」
「そうよ?苦労してる偉い人間は肩が凝るけど、オパーイが大きくても肩が凝るの。
つまり、オパーイが大きければそれだけで偉いのよ…!」
──同時刻。
フアナやエリザベス、浅間や直政ら大きい面々は、何故か何らかの疑問を抱いたという。
そう言って数秒待ったが、しかし、全裸からのツッコミは来なかった。
「──愚弟?どうしたの?」
肩を揉む手も止まっていた。振り返って確認すると、やはり全裸は寝落ちしかかっていた。
「愚弟…?ホントに無理そうね…しかもご丁寧に鼻ちょうちん付きだなんて…素敵!
仕方ないわね…また起きた時にでもさせましょう」
そう言って全裸の肩を支えながら立ち上がらせ、布団に運ぼうとする。
その時、運ばれながら眠りに落ちる寸前でぼやけたトーリの脳裏には、
・『揉む』
・『大きい』
・『オパーイ』
という3つのキーワードが強く残っていた。
そして布団に辿り着き、閉じられる寸前の目蓋には、
座った動きで揺れる、上半分が露出気味の、深い谷間を持った、
非常に魅力的で大きなオパーイが映っていた。
全裸はそれに後ろから手を伸ばして、オパーイの持ち主ごと、一緒に布団に倒れ込んだ。
そこでトーリの意識は眠りに落ちたが、身体の方は無意識にインプットされた、
『大きい』『オパーイ』を『揉む』のを開始し、その手は止まらなかった。
「フ、フフ、愚弟?いくら寝ぼけてるからって賢姉のオパーイを掴むとは…。
仕方ないわね…ん…んっ…?あら…?」
喜美は突然のモミングにやや動揺しつつも、そのまま手を解こうとしたが、
オパーイへの執念からか、眠っているはずの全裸の手はなかなか離れなかった。
寝ぼけてるっていうのに、意外と力あるのね…いつの間にか成長しちゃって…。
こんなしょうもない事でも、弟の成長を感じ取れたのが嬉しいのか、薄く微笑む。
『不可能男』と呼ばれていても、怪我の影響で人並み以上にはなれなくても、
それでも少しずつ『男』になっていくのが、姉としては喜ばしいことなのだろう。
「まぁそれはそれとして、もうそろそろ、本当に…放し…んっ…ぁ…っ!?」
やだ…ヘンな声、出ちゃった…!ぐ、愚弟の分際で生意気な…!
なんとか引き離そうとするも、体勢が悪く、力が入らなかった。
右腕は倒れ込んだ時に、全裸の背中側に回していたため、動かせない。
更に、左腕は二の腕の上から胸ごとホールドされているので、可動範囲も制限されている。
その間も全裸の手指は、ゆっくりと、しかし止まることなく喜美の胸を揉み続けていた。
「ぁ…ちょっ…!やだ…こ、このまま、じゃ、ホントに…、良く、なっ、て…!んぅっ!」
動けない状況で両胸を揉まれ続ける事で、余計に身体に力が入らなくなり、
代わりに抗い難い心地よさと、芯から痺れるような疼きが、熱を伴って身体に満ちてくる。
そして、この状況が起きた事には、喜美自身も気付かない原因があった。
確かに、気持ちよくなれば身体に力が入らなくなるが、いくらなんでも、
眠っている人間を振りほどくのはそう難しい事ではない。
浅間ら女生徒達は、昔からトーリにモミングされていて、いわば触られ慣れており、
ある程度の耐性が出来ているが、姉弟でそのような習慣があるはずもなく、
かといって、高嶺の花に触れられる男は、いまだかつて存在しなかった。
つまりは、喜美は触られ慣れていないため、非常に敏感であり、
自分の身体を走る感覚がどれほどの強さかも分からず、感慨に耽っていたため対処が遅れ、
「はっ…!ぁ、あ…!も、もう…!こんな…ウソ…!だ、ダメ…だめぇ…!」
誰にも聞かせた事のない、誰も上げさせる事の出来なかった嬌声を上げる事になっていた。
「んっ…、ふ、ん…ん〜!」
喜美はなんとか身体を動かそうと奮闘するが、状況は好転しなかった。
喜美の胸を覆うのは、チューブトップに近い形の、面積の少ない布のみであり、
胸の上半分は手指を阻める物も無く、直接触れられていた。
全裸が起きていたなら、感動する程の堪らない感触を手指に感じているであろう。
喜美自身も、堪らない感覚に何度も身を捩っているので、
その動きで布がずれ、先端部が空気に触れ、顕わになる。
「やっ!ぁ、ちょ…待って、待って…!」
流石にこれはマズい。今直に触られたら、何かのスイッチが入ってしまう。
しかし、眠る全裸の指は非情にも一定のペースで動いており、待つ事も急ぐ事もなく、
布がズレた動きで揺れ、戻ってきた両胸の先端部を、指先で同時に浅く引っ掻き、
「ひゃっ!?」
今度は指の腹で押し潰し、そのまま胸全体ごと揉み始めた。
「んふっ、く…!ぅぁっ!?はっ…そ、れ…い、ぃ…!?」
喜美は今、弟相手に、抗うどころか素直に感じ始めていた自分に気付いた。
愚弟…愚弟、なの、に…!でも…!
しかし、それが不快ではなく、元よりエロ行為に忌避感など持ち合わせてもいない。
相手が…弟、って…だけで…そんなのは、神様だって、やってる、事、だし…。
古い神話によれば、神々が親子や兄弟姉妹で子を成すのはありふれた事であり、
愛があったかはともかく、そこになんら禁忌は存在しなかった。
いい男、が…弟だった、ってだけで…それに、気持ち、いい、し…バレなきゃ、いいわよね…?
喜美はあっさりと自身の気持ちに整理をつけ、何かのスイッチを入れた。
「フフ、いいわ…愚弟…寝たままで私をその気にさせるなんて…素敵…!」
全裸本人にはそんなつもりはないだろうが、柔らかい感触を無意識に感じ取ったのか、
夢の中でもオパーイを揉み始めたらしく、手指の動きは大きなものに変化した。
「フフ、人の気も知らないで、幸せそうな顔、しちゃって…は…ぁ…」
右手はトーリの背中の下敷きになっていたが、
繰り返し身を捩っている内に、ようやく引き抜く事が出来た。
上から見ると、トーリの上に背中から乗る感じで半身を寄せた状態になっている。
顔を右に向けると、幸せそうに眠ったままのトーリの顔がすぐ近くにあった。
右手をトーリの頬に寄せ、優しく撫でる。
左手は自分の胸を、文字通り夢の中で夢中になって揉んでいるトーリの左手に添え、
先端部や周辺を重点的にするように導き、反対側も同じようにする。
胸に受ける刺激はより強くなり、先端部も徐々にその身を硬くする。
「はぁっ…ふ…ん〜、いい、感じ、よ…くぁ…あ、ぁ…!」
現実につられてか、全裸も夢の中で先端部を責め始めたらしく、
親指と人差し指を使って、摘んだり捻ったり、複雑な動きを見せる。
「ひぁっ!?やっ、〜〜〜ッ!?…っはぁっ…お、起き、て…、ない…わよ、ね…?」
予想外の動きに、大声を上げそうになるのを、両腕で身体を抱いて必死に押し止める。
不安と期待の両方を抱いて様子を見るが、全裸は眠ったままだ。
安堵の溜息をついた後、念の為、こういう時に使えそうな術式を準備し、
いつでも発動できる状態にしたところで、再び刺激に身を委ね始めた。
「フフ、私だけこんなに熱くさせておいて爆睡とは、愚弟のくせに生意気ね…!」
眠ったままのトーリの腕の中で、時折身を震わせながら、喜美が呟く。
ふと気付くと、尻の辺りにやや固い感触を得た。
何度も身を捩って与えた刺激と、モミングで興奮して、膨張した結果か、
愚弟の愚息ね…素敵!
腰を浮かせて袴とインナースーツを脱ぎ捨てながら、位置を調整する。
「…ん…ぁ、結構硬くて、熱…ぃ…んふぅっ…」
左手で愛しそうに撫で擦りながら、薄布越しに押し当て、擦り付ける。
熱くなってたの…私だけじゃなかったみたいね…。
腰をくねらせる動きは段々情熱的になっていく。その刺激はトーリにも直に伝わっており、
「あ、ぬるっ、てしてきた…フフ、もっと、もっとよ…!」
喜美は左手の中と、自らの内股に熱く粘る水っぽさを感じ、腰の動きを激しくする。
右手をトーリの頬に当てたまま、その顔に熱い眼差しを向ける。
先程までは幸せそうな表情だったが、今はやや眉間に皺が刻まれている。
限界が近づいているのだろうか、見ればトーリの腰も自然と動いていた。
「んゥっ…!あっ、はぁっ…!愚弟…愚弟も、もうすぐ、なのね…!」
トーリの変調を感じ取った喜美は、自身もその水気を増しながら、
左手の動きを、トーリをただ自らに押し付けるものから、押し付けながらも、
トーリの先端部を人差し指と中指の間に通すものに変え、
全裸の両手は、揉む動きから、何かに耐えるかのように、しがみ付く形にシフトしていた。
両胸にしがみ付かれた喜美は、その痛みに近い予想外の感覚に、
「あっ、くっ…それ、ちょっ、強…!でも、ん、ぁ〜〜〜ッ!?」
身体を仰け反らせ、軽く達した。
二人を隔てていた薄布は、繰り返す動きで、横の結び目が緩んでおり、
仰け反った動きにつられて、後ろ側が下に引っ張られ、隙間が生じる。
その薄布と喜美の隙間に、全裸自身が密着しつつ侵入する。
全裸はその全体に熱さを、先端部に薄布の刺激を受け、薄布の内側に放った。
「ふぁっ…!…?…ぁ…もう…こんな、とこに、出すなんて…やっぱり愚息ね…!」
小さな波に耐えながら、不完全燃焼の身体を燻らせていたその時、
「…う…ん…?」
流石に全裸が目を覚ましたか、声を上げかけた瞬間、
喜美は即座に、準備済みの術式を発動させ、
「ん………………」
全裸は再び、そして先程よりも深い眠りに就いた。
「…ダンスとエロ行為を組み合わせた奉納による代演仲介…」
喜美はそう呟きながら、上半身を起こす。
見れば全裸の頭上には、鳥居型の効果表示メーターが現れていた。
「四倍圧縮睡眠…医療用…だっけ?強引に眠らせるなんて、犯罪スレスレよね…」
しかし効果は抜群で、全裸は夢も見ていないのか、それとも疲労のせいか、
両手は身体の両側に力なく投げ出され、静かに寝息を立てていた。
「…起きてる間にするわけにもいかないけど、少しはシてもらえないと、淋しいし…」
だから、
「ギリギリまで使わなかったけど、もう、止まれないから…」
喜美は濡れた薄布と、胸元の帯状のパーツを取り去り、自らも全裸になると、
愚息に口づけ、舌を這わせ、唇で挟み、口に含み、下部を掌中で転がして弄ぶ。
やがて、再び硬さを取り戻したそれから、名残惜しそうに口を離すと、
今度はその豊かな胸で包み込む。様々な液体によって、滑らかに動くそれは、
包み込んでいる喜美の胸にも、硬さと熱とで確かな刺激を与えていた。
その先端部を、自らの胸の先端部に埋め込むかのように押し付けると、
熱い吐息と声が自然と漏れ出し、胸の奥の衝動が抑えきれなくなってきた。
覆い被さって、唇に口づけ──そうになって、唇のギリギリ近くに口づける。
頬に数回口づけ、再び唇の寸前まで近付き、舌を唇に伸ばしかけ、
再びギリギリの位置に口づけ、頬を舐め、口吸いの衝動に耐える。
今顔を見ると、奪ってしまいそうになるので、首筋に縋り付いて、頬と頬、胸と胸、
肌と肌を擦り合わせ、脚に脚を絡めて、熱くなった部分同士を擦りつけ、
しばらくそのまま密着して、気分を高めると共に、口吸いの代償行為とした。
しかし、喜美はあと一歩のところで踏み切れないでいる自分を感じた。
初めてという事、姉弟だという事、眠ってる隙に致す事、──ホライゾンへの罪悪感。
一つ一つならともかく、それら四つもの重圧を、この先も耐える事が出来るのか?
そんな重いものを抱えたまま、今まで通りに振る舞えるのか?
疼く身体と慄く心、それぞれが発する震えに、縋り付く腕に力を籠める事で耐える。
「なんだか、怖い…」
これほどの恐怖は、あの日、弟を失いそうになった日。二人で生まれ変わった日以来だ。
再び上半身を起こす。そういえば、あの時もこうして馬乗りになってたっけ。
あの時の弟は全てが虚ろで、無理矢理泣かせてこちらに引き戻し、自分も泣いた。
あれだけ無防備に泣いて、全てを曝け出したのも、あれ以来無い事だ。
現在の弟は、いつでも笑っていて、今も目の前で、幸せそうに眠っている。生きている。
過去の自分が、全てを曝け出して救った命。高嶺の花が、全てを懸けた男。
その顔を見ていると、胸に暖かい愛しさが沸き上がってくるのを感じた。
口元の緩み──微笑みが止まらず、いつの間にか、漠然とした恐怖は消え失せていた。
「ん…今なら、大丈夫…ね。それに、これからだって…」
今の自分はそれこそ身も心も無防備だ。今なら、あの時の自分に届くだろうか。
これから得る痛みをも受け入れ、乗り越えれば、あの時のような高みに辿り着けるだろうか。
熱いものを自身に宛行う。そのまま腰を落とせば済むが、最後に、もう一つだけ。
唇はホライゾンのために我慢した。これも普段はしないのだから、今ぐらい許されるだろう。
その顔を、潤んだ瞳で見つめ、あらゆる感情、想いを乗せて、その名を呟く。
「──トーリ」
高嶺の花は、人知れずその想いを遂げた。
「──い…愚弟?そろそろ起きなさいな」
「…ぅあ?ふわぁ…あ゛〜、おはよう姉ちゃん」
「フフ、賢姉を放置して爆睡とはいい度胸ね」
「いやいや姉ちゃん、だから俺徹夜明けだって…あれ、なんか記憶が…」
「──なに?エロゲのやりすぎで記憶障害でも起こした?…素敵!」
「いや、う〜ん…夢…の割りには、えらく感触がリアル派だったような…?」
「──。いいけど愚弟、そろそろバイトじゃないの?服ぐらい着なさい」
「あ、いっけね!遅刻したらマズいよな!」
そう言っていそいそと着替え始めた弟を見て、安堵の溜息をついた。
「──ッ!!…ぁ…っく、い、た…!は、…いっ、た…!?」
激痛。この2文字に身体を支配された。
「…ぅ…く…!トー、リ…トーリ…ッ!!」
小声でその名を呼んで、堪え忍ぶ。自分で胸を揉み、繋がりの上部をまさぐって痛みを紛らわす。
外に近い部分は痛むので、内側を擦りつけるように円運動をする事で、多くを得ようとする。
次第に痛みすらも良くなってきたのか、舞う動きにも奔放さが出てきた。
締め付けは相当なものになっているのか、トーリはすぐにも達しそうだ。
「ん…、良くなって、きた…!?いい、わよ…受け止め、て…あげ…ふぁっ!?」
最奥を突かれた時、突然の熱さを内側に感じた。その熱い感覚に、喜美も達した。
「…ッ〜!んくぅっ…!ふ…!」
声を上げそうになるのを、両手で口を塞ぎ、全身を強張らせて全力で抑えた。
これ…すごい…!『イく』とか『果てる』って、こんなに何もかも飛んじゃうんだ…!
この忘我の境地は、あの時とは違い、何もかもが分からなくなるくらいの激しい感覚だった。
大波が過ぎ去るのを待って、トーリの胸板にしなだれかかる。このまま眠ってしまいたいが、そういう訳にもいかない。
少しだけ。少しだけ、高嶺の花は夢を見た。全てを投げうって、愛する男のものになって、二人でひっそりと過ごす、夢。
でも、その夢は、世界を壊す。何もかもが、取り返しがつかなくなってしまう。
一夜限りですらない、短い夢。でも女はそれをも、永遠に出来るのだ。
この永遠だけは、末世にだって消させやしない──。
このニ時間は戦場だった。
トーリの身体を拭いてやり──その最中にまた硬くなったのを見て頬を赤らめ、
汚れた布団を替えて洗濯し、自分の部屋の布団で数を合わせ、
共同浴場で軽く湯浴みをして、身支度を整えて、何事もなかったかのように戻ってきた。
そして現在──、
「いってらっしゃい。肩揉みはまた今度ね?」
「おう、Jud.!んじゃ行ってくるわ!」
そう言ってすれ違いざまに、
──俺、後悔しねぇから。
そう、聞こえたような気がして、驚き、振り向くが、トーリは走り去っていく。
往来まで行って見送っていると、途中で浅間のオパーイをガン見してズドンされていた。
ボケ術式が効いているようで、吹っ飛ばされながらも笑顔だった。
「…本当に、愚弟ね…素敵!」
そう呟いた喜美の表情は、いつも通りの、花咲くような見事な微笑みだった──。