出雲に着き、ナルゼは後輩達と一緒にいた。  
(本当はマルゴットといたかったんだけどね……)  
今回は後輩達が勝った。たまには先輩サービスしないと駄目な気もするし、  
「マルゴットも捕まらなかったしね……」  
いつもいる相方は、今日は出ていていなかった。そこに後輩達が誘いをかけて来たわけで。  
「黙ってきたから、怒ってるかしら」  
その事を思うと、少し表情が曇る。  
「ナルゼ先輩?」  
こちらの様子を気遣った後輩が顔を覗いてきた。  
「あ、ええ、なんでもないわ」  
とりあえず、今日は先輩としていよう。そう思っていると、空から白い翼が降りてきた。  
「ガっちゃん」  
「マルゴット……」  
 
「…………」  
「…………」  
二人は通路で対峙したまま、動きを止めていた。  
「あ、あの、マルゴット先ぱ―」  
「ねえ」  
後輩の言葉を遮るようにマルゴットが口を開く。  
「ガっちゃん、その子たち誰かな? ナイちゃんは忘れられたのかな? ――ねえ。どうなの……?」 開かれた口から零れた言葉は震えており、いつも通りの笑顔を保とうとしている顔を一筋の涙が伝う。  
「マルゴット……」  
「ねえ」  
マルゴットは尚も笑顔で尋ねる。  
「あの、先輩方……きゃっ」  
後輩の一人が言葉を紡ごうとした直後、黒い翼が飛び立ち、手前にいたマルゴットを掻っ攫って行った。  
 
「ちょ、ガっちゃん!? 離してっ」  
出雲上空。ナルゼはマルゴットを抱えたまま飛んでいた。  
「黙って」  
暴れるマルゴットに一言だけ告げる。  
「離してっ」  
「黙ってって言ってるでしょ!!」  
「――っ」  
「……御免」  
ナルゼは飛行を止め、空中で制止する。  
「ガっちゃん……ナイちゃんの事、嫌いになった?」  
肩に抱えられたマルゴットが呟く。  
「そんなわけないじゃない」  
その呟きに、ナルゼは即答した。  
「でも今日は後輩達と一緒だったね。――私抜きで」  
それは事実だ。弁明する気もない。  
「ナイちゃんそこにいなかったから何もわからないんだけどね。でも……見つけた時は悔しかったなぁ」  
ナルゼは何も喋らず、ただマルゴットの言葉を聞く。  
「ああ、私がいなくてもガっちゃんは楽しめるんだなぁ、って」  
「そんな事――」  
無い。と言おうとしたが、マルゴットは隙を与えず言葉を続ける。  
「そしたらさ、胸の中がぐるぐるってなってきて、あの子達の事憎くなってきて、そして――」  
「っ」  
言うと同時に、マルゴットは抱えられたまま翼を  
羽ばたかせ、ナルゼから離れる。  
そして片手を広げ、見せた。  
「呪いの術式。こんなの展開しようとしたんだよ?」  
「マルゴット……」  
マルゴットは術式を閉じ、笑顔で話す。  
「迷惑、だよね。こんな、身内に呪いブチかまそうとする魔女がいたんじゃ……」  
そう話すマルゴットの顔は笑顔だが、先程より確かに頬を伝う物があった。  
「ガっちゃん……ごめんね。本当に―」  
俯くと、マルゴットは閉じた術式を再度展開し、 「御免ね」  
自分に向けた。  
「マルゴット!!」  
 
「……ガっちゃん?」  
気がつくと、術式を展開した手は押さえられ、身体はナルゼに抱きしめられていた。  
「……馬鹿」  
「ガっちゃ―」  
言い終わる前に頬を叩かれ、軽い音が空中に響いた。  
叩かれた頬を抑え叩いた手の主を見ると、彼女もまた涙を流しながら、マルゴットを睨んでいた。  
「……ガっちゃん?」  
「馬鹿!」  
ナルゼは涙声になりながら、言葉を続けた。  
「アンタは馬鹿よ! 迷惑ですって? そんなの気にしてたら、何もやっていけないじゃない!!」  
「…………」  
「迷惑だなんて言わないでよ。そんな事、言われるほうが迷惑よ……」  
「ガっちゃ……ん」  
マルゴットの言葉より先に、ナルゼの唇が口を塞いだ。  
「んん……」  
「ん……ちゅ」  
空で抱き合った二人は、くちづけを交わした。  
「ん……ガっちゃん、ここ空中……」  
「だから何よ。ああ、航空艦? そんなの、見せ付けてやるといいわ」  
そう言うと、ナルゼは再度くちづけをする。  
「んんっ」  
「ん……」  
先程よりも長いくちづけ。  
「ん……ふぁ」  
「……いい声出すわねマルゴット。この先もここでしちゃう?」  
「……流石に空中じゃ難しくないかな」  
ナルゼは、それもそうね、と返し、  
「じゃあ、帰りましょうか。続きは部屋で」  
「……そうだね」  
マルゴットが頷くと、二人は手を繋ぎ、白と黒の翼を羽ばたかせ、武蔵の方へ飛び立った。  
 
「ガっちゃん」  
「何よ」  
「……御免ね」  
「……次謝ったら凌辱ネタのヒロインにするわよ。攻める役は私だけど」  
「あはは、ガっちゃん相手じゃ、罰ゲームにならないね」  
「それもそうね。なら―」  
「?」  
「ネタじゃなく、実践でしましょうか」  
ナルゼの言葉に、マルゴットは笑顔で返した。  
 

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