夜。静寂と闇に包まれた浅間神社に、向き合う三つの人影があった。
「だーかーらー」
普段とは違い、やや脱力した言い回しで、浅間は目の前の姉弟に告げる。
「何度も言ってるじゃないですか!兄弟姉妹家族にはカップル割引適用されないって」
「えー、おじ様は面白がって割引してくれたわよ?」
父さん…トーリ君に女装させて巫女のバイトさせたり、何考えてんですか…!
「と、とにかく、ダメったらダメです!」
「いいじゃない、別に減るもんじゃなし。それとも何?増えるの!?更にデカく!?」
「ホント浅間は堅ぇよな!オパーイは見るからに柔らかそうだけど!」
拳を固めて振りかぶると、二人揃って数歩離れた位置で頭を庇ってしゃがみ込む。
…確かに、仲はいいですよね…。
ついつい妙な邪推というか、ヨゴレメーターが上昇しそうな事を思ってしまう。
同時に立ち上がった二人を見て、そんな事を思っていると、喜美が口を笑みの形にして、
「ククク、なるほど…これは試練ね?カップルに見える振る舞いをしろという事ね!?素敵!」
そう言うと喜美は、珍しく服を着ている全裸の腕にしがみついて身を寄せる。
あー…そういえばトーリ君今日は服着てますねー…一応神社だからTPO考えてるんでしょうか。
ってそうじゃなくて、つい現実逃避しかかったけど、そうじゃなくて。
「あの、喜美?貴女何か勘違いを──」
「何よ?これじゃまだ足りないって言うの?神道のハードルって意外と高いのねぇ…」
まぁいいわ、と言葉を付け足し、更に強く身を寄せ、両胸でトーリの腕を挟む。
スキンシップが積極的なのは、夜半になって参拝客もいない時間帯だからか。
あー、あんまり強く押し付けるから、ちょっとズレて見えちゃってるじゃないですか。
やや飽きれ気味になっていて、ツッコミが遅れたのを、こちらの不服と受け取ったのか、
「フフフ、なるほど…この程度では手ぬるいという事ね…流石はヨゴレ巫女!ならば…!」
愚弟、と呼び掛け、その手をトーリの手に重ね、そのまま豊かな胸へと導いた。
「遠慮はいらないわ、存分になさい?相手は武蔵のヨゴレ巫女…本気でなければ適わぬ相手よ!」
「おいおい姉ちゃんマジか!?本気と書いてマジなのかよ!?人前でなんて初めてだぜ?」
目の前の光景の破壊力に言葉を失いっぱなしの浅間に見せ付けるかのように、
姉は弟の首筋に手を回し、そのまま二人は唇を重ね、モミングが開始された。
なんということでしょう。匠の手によって豊かな乳房は様々に形を変え、
その大きさと柔らかさを見せ付けているではありませんか。
って違う。さっきまで見てた番組、『大炎上!劇的ビフォアーアフターバーナー』の影響だ。
不良物件を匠の手で改良するも、気に入らないとその手で焼き討ちしてしまうという。
P.A.Oda製作という噂だが、だからそうじゃなくて、そうじゃなくて、
「なッ…何、してるんですか!二人とも…!?」
ようやく発した言葉は、やや裏返った音で搾り出された。
弟に背後から胸を愛撫され、彼の首筋や後頭部を愛しげに撫でながら、姉が応える。
「んっ…あ…フフフ、何って、普通に、やってたんじゃ、手ぬるいみたいだから…、
こうやって…ぁ、そこ…っはぁ…カップルらしく…振る舞ってるんじゃない…」
「そ、そんな事言ってませんっ!それに、二人とも、姉弟で…なんて事、してるんですか…!?」
「んっ…スキンシップの範疇よ…大丈夫、人前で合体なんて…多分しないから」
多分って何!?あと人前じゃなきゃしてるんですか…!?
あまりにも堂々と言い切られ、制止する勢いが萎える。
代わりに、目の前の情事に反応して、身体の奥から沸き上がるのは──。
「──む。センサーに感有り!浅間、もしかしなくてもアンタ…濡れてきた?」
瞬間。浅間神社付近の住民は、乱射されるズドンの光と、吹っ飛ぶトーリの姿を見て、
いつもの事かと納得して、武蔵の夜は平穏無事に過ぎていった。