「Trick or Treatだ、My sister メアリ」  
妖精女王は演劇を好む。そして祭もそうだった。  
教導院で王族として立ち回るエリザベスへの差し入れに下町で貰った菓子を渡したりもした。  
翌日には入れ替わって街の賑わいを楽しんだ。  
「そうだと思ってクッキーを共同窯で焼いてますよ」  
双子の妹は口端を僅かに釣り上げて笑う。  
「甘い匂いがするな。バニラだけでなく、シナモンと林檎の」  
気が付きますよね。昔は自分たちで作りたいと無理を言って厨房に迷惑をかけたものだ。  
「アップルパイ、よく食べましたよね。2ホール焼けて冷ましていますからトランプルへのお土産にしてください」  
セシルには注意しなければ1ホール丸ごと食べてしまうだろう。  
ダットリーは林檎のひと欠けでも味見させ、ドレイクはキドニーパイでなければ食わんだろうが食わせよう。  
「もし私がお菓子をあげなかったら、どんな悪戯を?」  
「ああ、簡単な事だ。あの忍者の伝纂器に奏填されている例のアレを実名プレイにして」  
まだ続きがありますね、これ。  
「シナリオルート限定に書き換え、バックドアでプレイ実況を通神に流す」  
「その所業は殺人の域でござるよ!」  
天井板をずらしてそれらしく現われれば良いものを、忍ばず遣戸をフルオープンにして入ってきた。  
「直接的に悪戯をしても良かったが」  
「私と点蔵様のどちらをですか、それとも二人纏めて?」  
自分とメアリ殿ダブル受け! バレたら同人誌のネタにされだろうと危機を感じる。  
暫らくしてエリザベスは二つの箱と王賜剣二式を手にして英国行きの船へ戻っていった。  
多摩から教導院へ戻る最中、メアリは言う。  
「Trick or Treat? どんな悪戯がよろしいですか、点蔵様?」  
周囲が遠巻きにざわめき、そして何かを構える気配。  
ここでメアリ殿に菓子を渡さないと悪戯で済まないでござるよ!  
手渡された携行食のキャラメルを嬉しそうに口にするメアリ。  
――楽しいですよね、My sister?  
 

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