うっすらと湯気に包まれた空間がある。  
 空間は全体が木――檜の板で覆われている。  
 そこは広い風呂だった。  
 通常の民家の二、三倍はあろうかという、広い風呂。  
 そこは飛場道場の風呂だった。  
 広い空間にはシャワーが三つ。  
 その内二つが使用中で、湯船に一人が浸かっていた。  
「ちなみに飛場の馬鹿と原川は睡眠の紙で黙らせてるわ。老人二名はとっくに寝たみたいね」  
「え、ブレンヒルトさん? 何で急に説明口調ですの」  
「ヒオ、余計なこと言っちゃだめ。何ごとも疑問を挟んだら負けだってリュージ君が言ってた」  
 そう、今この空間には美少女が三人存在していた。  
 一人は1st−G監査役の、ブレンヒルト・シルト。  
 もう一人は色々な意味で哀れなヤンキー少女、ヒオ・サンダーソン。  
 そして最後の一人は、この中で唯一の巨乳属性を持つ飛場・美影であった。  
 今は美影だけが湯船に浸かり、二人が風呂用椅子(エロくない)に座ってシャワーを浴びている。  
「でもブレンヒルトさん。ちょっといいですの?」  
 何よ、と答えたブレンヒルトに、ヒオは続けた。  
「その、飛場さんはともかく、原川さんまで眠らせなくても良かったんじゃ……」  
「何アンタ、もしかしてあの男と二人で入りたかったの?」  
 ブレンヒルトにしてみれば何気ない冗談としての一言だったが、  
「へぇっ!!? いいいいえいえいえそんなことは無いですにょよ!?  
その、今日の昼間は色々と同調しちゃってぐにゃぐにゃでしたけど  
だからと言って何も夜まで原川さんにぐにゃぐにゃにされたいかと問われれば答えはYESですけど  
でもまだ原川さんはそんな関係に踏み込む気ナッシングっていうかこれっていわゆるお預け状態なのではとか  
そもそもサンダーフェロウ越しに経験するよりも素肌と素肌で溶け合うべきだって原川さんの蔵書にも書いてあって」  
「ヒオ、ヒオ。すとっぷ」  
 
 周囲を無視する勢いでパニクったヒオに美影が声を掛けた。  
 ヒオが、へ? と疑問符付きの顔を美影へと向けると、  
美影は、ん、とブレンヒルトを指差していた。  
「…………ったい何よあのジジイ、私の方が年上なのにガキ扱いして  
たかだか六十年程度で枯れてんじゃないわよあんだけ期待させといて  
しかも全竜交渉部隊の連中はいちゃらいちゃらとネチョった生活して  
少しは自分らの歳考えろってのよガキの癖に色気づいて…………」  
「ブレンヒルト、さん……?」  
 ヒオの脳内で、シグナルイエローが激しく点灯する。  
 ワーニン、ワーニン、ブレンヒルトの心の闇の扉を開いてしまった可能性あり。  
「それじゃ、ヒオはお先に上が――――ひっ!?」  
 逃げようとしたヒオの肩に、ポンと手が置かれ握り掴まれた。  
 その手の主、ブレンヒルトが口を開く。  
「ねえヒオ。ちょっと小耳に挟んだんだけど、UCATで機体の調整中に、随分楽しい思いをしたそうじゃない」  
「そっ、それは一体どちらで……」  
「ん、私。ブレンヒルトにさっき『今日は何かあった?』って聞かれたからヒオ達のことも話しといた」  
「途方も無いありがた迷惑ですのっ……ひゃあっ!?」  
「で? こぉんな感じで触られてたわけ?」  
 可愛い悲鳴の原因となったのは、ヒオの脇腹をなぞるブレンヒルトの指だった。  
「や、そ、そんな……ぁうっ」  
「『お臍の下あたりを優しくかき混ぜられ』たんでしょ?  
それとも、本当はこっちの方が欲しかった?」  
 ただ脇をなぞっていたブレンヒルトの手が移動し、右手は臍の周りをゆっくり撫で、  
左手はヒオの薄い胸を軽く揉み始めた。  
「やぁ……。ヒオ、まだ原川さんにもされたことないのに……」  
「ヒオ、大丈夫。私もリュージ君にお風呂で胸とか触られたから」  
「美影さんのそれとは意味が違うような……きゃっ!?」  
 
 今度の悲鳴の原因は、ブレンヒルトが強引にヒオを椅子から降ろしたことだった。  
 仰向けに倒れたヒオの上にまたがりつつ、ブレンヒルトが言葉を放つ。  
「美影もああ言ってることだし、大人しくしてなさい。  
大丈夫、――膜は破らないわ」  
「なんか生々しさが増してますのー!!」  
「うるさいわね。大丈夫だって言ってるでしょ。  
そう、あれは私がまだウブなネンネのお嬢様だったころ……」  
 
 ――――ここから回想シーン――――  
 
「いいこと、ナイン? よくお聞きなさい」  
「なあに、姉さん?」  
「女子(おなご)が女子を責める時は、棒に頼らず己の技で勝負なさい。  
3rd-Gの人形のような、偽ち●こは邪道なのよ」  
「姉さん、よく判らない……」  
「いずれ貴方にも理解出来る日が来るわ、ナイン。  
だからその日まで、このことを忘れずに憶えておきなさい――」  
 
 ――――ここまで回想シーン――――  
 
「……というわけよ」  
「何がどう『というわけ』なのかさっぱり判りませんのー!!」  
 声だけは威勢の良いヒオだが、既に左胸を揉みしだかれ、  
右胸の登頂部はブレンヒルトの舌に弄ばれている。  
「でもブレンヒルト、シビュレは  
『ふた●り娘は3rdの伝統! これで千里様を……あらあら……うふふ……あらあらうふふ……』  
って言ってたよ?」  
「はン、所詮道具は道具ね。攻める側にこそ“心”が求められるのよ。  
そして相手に心を伝えるのは、鍛え磨いた指と舌で充分――!」  
「あうぅ、ヒオは、ヒオは、ヒオはああぁぁぁぁ……」  
 
 全身をまさぐるブレンヒルトの指と舌の感触に、  
既にヒオの理性と羞恥は破壊されかかっていた。  
 腿の内側を舐められてもヒオは股間を隠そうともせず、  
それでいて本丸を落とさず敢えて焦らすブレンヒルトに、  
声にこそ出さずとも、彼女を求める感情が生まれていた。  
「すごいね、ブレンヒルト。リュージ君よりも全然すごい……」  
「あんなボーヤのテクニックと、1st-G王家秘伝の技を比べないで頂戴  
そう、あれは××年前――」  
 
 ――ここから(略)――  
 
「いいことナイン。なし崩しに相手をオトす時は、  
雰囲気に乗せながら焦らしまくって相手から求めてくるのを待つのよ。  
そう、こんな風に、ね……」  
「へっ? ――あ、やぁっ、姉さん……やめないで……」  
「うふふ、何をやめてほしくないの? はっきり言ってくれないと判らないわ」  
「……ね、姉さんの指で、あたしのアソコを……もっと……」  
「ナイン、あそこじゃ判らないわ。何て言えばいいのか、――教えたでしょう?」  
「ぁ、はぁい……あたしの、あたしの――――」  
 
 ――ここまで(略)――  
 
「それなのに姉さま、何で甲斐性無しのジークフリートなんかとおおぉぉぉぉっっ!!!」  
「ゃぁああああぁぁぁぁぁっ!!」  
 今は亡き姉への思慕の念が、ヒオの中心部への超高速指責めとして顕現した。  
 先ほどまでと違う直接的な責めに、ヒオは声を抑えきれない。  
「ねえ、ブレンヒルト。それって焦らしてることになんないと思う」  
「――ハッ!? いけないわ、私としたことが……」  
 美影の冷静な指摘を受け、ブレンヒルトは手を止めた。  
 ヒオはと言えば、うつろな目をして、半開きになった口からだらしなくよだれを垂らしている。  
 もちろん、上下両方ともだ。  
 
「マズいわね。自分から求めるようになるまで責めて、  
原川の前で私の技を哀願させようと思ってたのに……」  
 その言葉に、美影は表情は変えずとも声に呆れの色を混ぜ、  
「実質的に今日あったばかりの娘に、ブレンヒルトって、えっと、……鬼畜?」  
「“愛のおやつ”と呼びなさい。  
可愛い女の子の独り占めは犯罪と相場が決まってるのよ」  
「――じゃあ、ブレンヒルトも構ってあげないといけないね」  
「? 美影、あんた何を――んっ」  
 浴槽から出てきた美影は、自然な動きでブレンヒルトの唇を奪った。  
 慌てて離れようとするブレンヒルトだが、美影との体格差がそれを許してくれない。  
「むぐ、ぅ……んーーっ!!」  
 抵抗するブレンヒルトの手を掴み、美影は体ごと壁へと押し付けた。  
 そのまま自分の豊満な胸を押し当てつつ、ブレンヒルトの唇をついばむように弄ぶ。  
 唇をかたくなに閉ざそうとするブレンヒルトだが、それを嗤うかのように美影は舌を挿し込んだ。  
「んーーーっっ!!!」  
 くぐもった悲鳴を上げるブレンヒルトだが、その口腔内を美影の舌がかき回す。  
 舌の裏。歯と唇の隙間。上あごの奥。美影の舌は、全てを捕らえようとする……。  
 
 数分後。美影の舌が抜かれ、唇も離れた。  
 力の抜けたブレンヒルトは、背を壁に預けることでどうにか倒れずに済んだ。  
 と、息を喘がせるブレンヒルトの眼前、長身の美影がゆっくりと体を下げ、  
「――!? やっ、美影、そっちは――ッ!!」  
 膝立ちになった美影の前には、ブレンヒルトの無毛のそれがあった。  
 先ほどのヒオ責めの反動で内側から熱くなったそこへ、美影はゆっくりと舌を入れ――  
 
 ――二十分は経っただろうか。  
 ブレンヒルトの絶頂の証を一度顔に受けながら、美影は舌を止めなかった。  
 ブレンヒルトは、膝を震わせ、声を喘がせ、美影の頭を掴んでどうにか立っていた。  
 しかし自動人形の魔性の勘は、わずかな時間でブレンヒルトの弱点を見つけ出し、  
そこを責められたブレンヒルトはあっさりと二度目の絶頂を迎えた。  
 力の抜けきったブレンヒルトの体を横たわらせ、美影は後ろを向いた。  
 そこには、少し前から息を呑んで二人の痴態を見ていたヒオの姿がある。  
 ヒオは這い寄ってくる美影に対し、体をわずかに震わせた。  
「……ねえ、ヒオ」  
 不安か、恐怖か、それとも期待なのか。  
 よく判らない感情に身を震わせるヒオの手を、美影は優しく持って自分の左胸へと導いた。  
「あっ……」  
 美影の柔肌を通して、鼓動がヒオへと伝わって来る。  
「すごい、どきどきしてるの。リュージ君とお風呂入ったときも、こんなにならなかった」  
 だから、と美影は言葉を続ける。  
 
「――今度は、ヒオがする番だよ……」  
 

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