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武蔵にある湯屋の洗い場で、一人の少女が身体を流していた。
オオアリクイの走狗を連れ、胸元から遮るものなく水滴を垂らすのは、副会長の本多・正純だ。
正純は身を洗い終えると、走狗の浸かる手桶を脇に抱え、湯船のほうへと歩み出す。
しかしその途中、タイルに残る泡の溜まりに足を滑らせ、
「ぬあぃたぁー!?」
奇声を上げ、尻から激しく床に転倒した。
──くっ、また皆からツッコミ入れられまくるような失敗を……。
大きくM字開脚した姿勢のまま、正純は羞恥に頬を染めた。
湯船には生徒会役員を始め、付き合いのある面々がすでに揃っている。
特に喜美あたりは、スベリ政治家がまたベタなスベリを、などと大笑いするに違いない。
だが予想と反し、皆はこちらを凝視したまま、凍りついたように動きを止めている。
「な、何だ?」
慌てて足を閉じ周りの様子を伺うが、なぜかこちらへの返答はない。
そして、彼女らは湯船の中でゆっくり円陣を組み、小さな声で相談し始めた。
「フフフ、まさかこんなカラダネタが来るとは予想外だったわね。
とりあえず共通認識を取りたいんだけど、アレって男性化の影響だと思う?」
「ナイちゃんあえて婉曲的に表現するけど、普通は大豆のはずが何故かソラマメって感じ?」
「あ、明らかに超ラージというか、お徳用メガ盛りマックスな感じでしたわよね……」
「自分あまり詳しい訳ではないんですが、ひょっとしたら天然モノかも知れませんよ?
男性の場合も個体差激しいって聞きますし、元からああだった可能性もあるんじゃないかと」
「拙者も幼少の頃に相風呂したことはあるで御座るが、流石にそこまで確認したことは……」
「でも平常時でアレなら、最大展開したら一体どうなるのかしら?
なんというか、ハッタリ自重しろ的なネタがモリモリ湧いてくるわね!」
「……おい、お前ら何を話してる?」
不穏な雰囲気を感じ問い質すが、やはりこちらを見ようともしない。
少しして、一同大きく頷くと、近寄ってきたホライゾンが平坦な表情で軽く肩を叩き、
「ご安心を正純様。協議の結果、どんな理由であれ巨クリもまた個性のひとつであると結論が」
「だから何の話だー!」
疑問の叫びが湯屋の壁へ幾重にも反響した。