雪原の野に、歩みの跡を残していく影が在る。
だが、その内一つはもうひとつの人影に引きずられながら雪を削りつつ進んでいく。
黒い制服に身を包み、男の方の人影に引きずられている少女が、抗議をするように声を上げた。
「・・・ねえ、佐々」
「なんだ、馬鹿野郎」
「かよわき乙女に野郎ってなによ!というか、そろそろお尻が冷たくなってきたから、
荷物扱いとかやめて欲しいんですけどー」
「うるせえ、馬鹿。大体、尻が冷えてんのはテメエが漏らして・・・」
「だから、言うな!馬鹿─!!」
涙目で抗議を上げる眼鏡をかけた少女に対し、彼女を引きずる浅黒い肌の男は一言、
メンドくせえ・・・と呟くと、掛けているサングラスの位置を直しつつ、少女を横抱きに抱き上げる。
「ちょ!?・・・何すんの!?私、濡れてるからきたな・・・」
「うるせえ馬鹿、そいつは雪の所為だ。大体、女が自分の事キタネエとか言うな」
少女の言葉に有無を言わせぬ口調で、サングラスの男、佐々・成政はそう言い放った。
彼に横抱きに抱えられた形になった眼鏡の少女、不破・光治は彼の言葉に対し、身を縮める様な姿勢を取ると、
「・・・馬鹿」
小さく、そう呟いた。
●
「はー・・・」
白い湯気に満ちた空間がある。
大きな天幕の下、湯が張られたその場所は、急場に築かれた大浴場だ。
寒気が吹きすさぶこの大地で、湯の中に身体を浸すのはこのうえない至福の時だ。
冷えて強張った身体を揉み解すようにして、不破・光治は湯の発する熱を全身で吸い込むように、ひとつ息をついた。
「佐々ってば、なんでああなんだろうな・・・」
自分をここまで連れてきて、さっさと去っていった同僚の事に思いをはせる。
佐々だけにさっさと・・・などとくだらない駄洒落のひとつも浮かんでくるが、
口に出せば、本当に彼がそのままどこかに居なくなってしまうような気がして、頭に浮かんだ言葉を振り払う。
学生としては同期で、自分が不破・光治を襲名し、前田を含めて府中三人衆となってからは大切な仲間だ。
「だいたいさー、佐々は私に対してデリカシーが足らないと思うのよ」
湯船から出て、洗い場で己の身体を洗い清めていく。
右肩の違和感にわずかに眉をしかめるものの、既に治療がされたそれは大分良くなっている。
御市様から逃れるために、佐々の一撃を受けた時の脱臼の名残だ。
遠慮ないんだからなー、でもでも、私のことちゃんと気にかけてくれてたって事でも・・・
そんな事を思いつつ、身体を清める手が自然と己の股間に合わされる。
「ひうっ!?」
思わず、甲高い声が周囲に響き渡る。
慌てて周囲を見渡すが、幸いにして今は誰も浴場の周囲にはいない。
少なくとも、他の者たちの入浴が始まるまでにはまだ結構な時間があった筈だ。
・・・やだ
戦場で、恐怖と緊張から溢れ出させてしまった体液とは、別の液体の感触がそこにはあった。
顔に湯の熱気とは異なった火照りが灯り、胸の鼓動が早鐘を打ち始める。
同時に、不機嫌そうな少年の顔と大きな手の感触が脳裏をよぎり、下腹の辺りに疼くような熱を感じた。
一瞬だけ、脱衣場の方に視線を延ばし、人の気配が無いことを確認する。
「ん・・・佐々ぁ・・・」
周囲の熱気に負けないくらいに熱い吐息と共に、彼女の甘い声が浴場内に小さく響き渡った。
●
小さく、押し殺したような息継ぎの音がする。
熱い、鼓動を伴うような荒い息を漏らすのは、洗い場に腰掛けた小柄な人影だ。
蕩ける様な思考の中、小柄な少女、不破・光治は火が点いたような己の情動に身を委ねていた。
「あう・・・佐々ぁ・・・」
自然と己の口から溢れ出す名前に、身体の疼きがどんどんと高まっていく。
え、ええと・・・おっきな腕で抱きしめられて、ちょっと太い指が身体なぞっていって、
密着した肌からはあったかい熱が伝わってきて、んでまあ色々とこっちの繊細な部分とか攻めてきて、
あいつの手、ごつそうだけど以外に柔らかいし、美術5だからその辺きっとすごく上手で、
首筋から背中とかにさっと流してくれて、そのまま腋を通って前面部分に辿り着いて、
正直不破さんの双子山は標高あんまり高くないけどその分ほど良い面積だから手の中にすっぽり包んでくれて、
でもでも、山頂部分とか攻略されたら主に不破さん的に登頂成功万歳三唱レベルで盛り上っちゃって、
声とか出ちゃうのを堪えるのにあいつの胸元に顔うずめて、ついでにそのままマウスチューマウスでハイ10秒!とかの流れになって、
そんで遂に肝心な部分の攻略に入って、背後の曲線から蟻の門渡りまでマッパで峠を攻める勢いでヒャッハーしてきて、
それからとうとう、押す端子と召す端子のジョイントにインストールされて、上手く端子が馴染むまで抜き差しされて、
合体完了ルート確定嫁フラグONで、不破さん佐々の腕の中で昇天→解脱コンボでKOされちゃうんだ・・・
「ん・・・さ、佐々の”したい”事、全部してあげられるかなぁ・・・ひっ!?」
本日の到達シナリオを脳内で生成しながら、身体各部にコマンド入力を繰り返していた不破の指が止まる。
・・・・!?
次の瞬間、身体の内に寒気にも似た熱が爆発し、暴れまくった。
溜まったゲージを一瞬にして消費するように、脳内で己の心と身体を満たす至福の時が訪れる。
それと同時に身体の方にも反応があった、戦闘時に経験したものと同じ反応が己の身体に現れたのだ。
体内の熱が、液体の形を取って体外へと漏れ出していく感覚だ。
「や!・・・やだっ!?」
戦闘時は恐怖と緊張からもたらされた反応だが、今回は喜悦と弛緩によるものだ。
涌き出ていた迸りが収まるに連れて、身体を焼き尽くす熱も収まっていく。
「ん・・・佐々ぁ」
「・・・おい、不破、いるか?」
大きく息をついて、ぐったりと満ち足りた想いを口に出した彼女へ向けて、唐突に脱衣所より声がかかる。
「ふぇ!?」
「おう、購買でテキトーに着替え買ってきてやったから、置いとくぞ」
「う・・・うん!あ、ありがとね!佐々・・・」
こちらの返事も待たず、じゃあな、とそっけない返事を残して声の主が去っていく気配があった。
「佐々の・・・馬鹿ぁ」
破裂しそうなほどの鼓動を打つ胸を押さえつつ、少女はひとつ言葉を漏らした。
「く・・・癖になったら・・・どうするのよ」
そう言って、不破・光治はもう一度湯を被った。