――詰まるところ、一瞬の衝動が勝ちを得たのである。  
 
 順を追えば、戦場は戦闘“永世――ひまわり”。  
 始まりは風見のフロントスープレックスだった。  
 正面から組み付き、相手の背、腹の後ろ辺りに手を回す。  
 身長差から、丁度風見の巨胸がブレンヒルトの貧胸に押し付けられる形になった。  
 見方を変えれば、風見がブレンヒルトの肩に顎を乗せて抱きついている状態である。  
 風見の動きは素早く、一瞬の内に体を反り返らせ、ブレンヒルトの足を湯船の底から離した。  
 そして、風見の足が“バナナの皮”を踏んだわけである。  
 
 が。  
 
 入射角の都合で両者とも“カタパルト”には乗らず、湯船に崩れてしまった。  
 そして、仰向けで沈んだ風見が慌てて顔を水面に上げれば、  
そこには自分が投げようとしたブレンヒルトの顔があるわけであり――  
 
 ――両者の唇がぶつかったとしても、そこに作為は存在しないというわけである。  
 
 ……いや、その理屈はおかしいわよ!!  
 思わずドラえ●んのようなツッコミを放とうとする風見だったが、  
彼女の口は言葉を出すことが出来なかった。  
 何故なら、仰向けで体勢が安定しない風見の頭をブレンヒルトがホールドし、  
唇を離すまいとしていたからである。  
「ちょっ、ブレ……んっ……」  
 一瞬の事故であったはずが、ブレンヒルトが舌を挿入した時点でもはや事故ではなくなっていた。  
 両手で風見の頭を捉えたまま、唇をむさぼるようなキスをするブレンヒルト。  
 風見は脳内の混乱の度合いが高く、抵抗らしい抵抗も出来ずにいる。  
 ……っつーか、何でこんなことにっ!!?  
 湯船と口の熱の相乗効果で朦朧とする意識の中、風見は原因を探ろうとする。  
 元より、自分にソッチの気は無かったはず。  
 覚との仲は羞恥の――じゃなくて周知の事実だし、ブレンヒルトは単なる同級生で、  
自分も向こうも互いをこういうことの対象としては見ていなかったはずだ、……多分。  
 なら、今自分を舌で犯しているこの姿こそがブレンヒルトの本性なんだろうか――  
 と、どうにかそこまで考えたところで、ブレンヒルトが行為を止めた。  
 ゆっくりとブレンヒルトが唇を離せば、二人分の唾液が両者の口から垂れ落ちる。  
 風見は慌てて口元を手でぬぐうと、ブレンヒルトを睨みつけた。  
「どっ、……どういうつもりよ」  
「どうもこうも、第二ラウンドをやりましょうってことよ。  
ルールは一つ。先にイった方の負け」  
「ちょっ、待ちなさいよ! 何で私がアンタとそんな……」  
「逃げるの? 十五の小娘じゃないんだから、このくらいで顔赤くするんじゃないわよ」  
「ッ!? 顔が赤いのは風呂で暴れたからに決まってるでしょ!!」  
「あらそう。じゃあ、もしかして自信が無いとか?  
普段はあの男に任せっぱなしのマグロちゃんなのかしら?」  
 
 覚のことを言われた瞬間、脳のギアが五段階ほど上がり、  
――慌てて風見はブレーキを掛けた。  
 ……このまま突っ走ったら、ブレンヒルトの思い通りになる……!  
「じ、自信も何も関係無いじゃない。ほら、大樹先生だっているし……」  
「あら、じゃあ二人っきりになれるところに行く?」  
「なっ……」  
 さっきまでの不機嫌顔から一転した、ブレンヒルトの誘惑するかのようなしぐさ、視線に、  
風見は言葉を失った。  
 ブレンヒルトは、ふふっ、と声を立てて笑い、  
「大樹はジャッジってことでいいじゃない。――いいわよね?」  
「えーとですね、先生はその……せ、生徒間の関係に教師が関わるのは変ですよね?」  
「むしろガンガン介入して――!!」  
「風見、もしかして三人の方が良いの?」  
「あああだからそうじゃなくてぇ……」  
「ったく、ぐだぐだうるさいわね」  
「え? ちょ、な……やっ、きゃあっ!!」  
 痺れを切らしたブレンヒルトが、テンパり状態の風見を湯船のふちに座らせた。  
 そしてクレヨンを風見の胸に押し当て、双丘にまたがるように漢字三文字を書いた。  
「ハイ出来上がりっと」  
「ちょっと、一体何書いたのよ……」  
 自分の胸に書かれた文字を、逆向きでどうにか解読する。  
 それを認識した瞬間、風見は恐怖に体を震わせた。  
 
 書かれた文字は――『性感帯』。  
 
「ブレンヒルト! それは反則――」  
「じゃあアンタも好きに書きなさい」  
 そう言ってブレンヒルトはクレヨンを風見の手に押し付け、  
――空いた両手で風見の乳首を強くつねった。  
 
「ひっ……い、やぁぁぁぁああああっっっ!!!」  
 
 声は嬌声ではなく悲鳴として生まれた。  
 しかし、胸の先から伝わる熱は痛みだけが原因ではない。  
 これは概念のせいだ、と風見は自分に言い聞かせるが、  
ブレンヒルトの指先は容赦無く風見を責め立てる。  
「ブレンヒルト、痛い……痛いってばぁ……」  
「あらそう。でも止めないわ」  
「あッ! ん……やだ、あぁ……」  
 風見の声を心地よく思いながら、ブレンヒルトは執拗に責め立てた。  
 先端に限らず胸全体を責めるが、何をしても風見は声を上げる。  
 1st-Gの概念の真の恐ろしさを、風見は嫌というほど味わわされることになった。  
 
「さ、これからが1st-G王家直伝の必殺ショーよ」  
 閉じた足の間から湯以外のものを垂らす風見に、ブレンヒルトは楽しそうに告げた。  
 その右手にはクレヨン。そして左手には、  
「あのー、ブレンヒルトさん? なんで先生のアヒル……」  
「いいからちょっと貸しときなさい」  
 アヒルを手にして近寄りつつ、ブレンヒルトは風見に話しかけた。  
「それにしてもアンタ弱いわね。暴力特化型だと別ベクトルに反動来るの?」  
「知ら、ないわよ……そんなこと……」  
 もはや反抗の言葉にすら力を入れられず、風見は潤んだ目を伏せて隠している。  
「まあいいわ。ほら、足開きなさい」  
「あっ……」  
 湯船の縁に腰掛ける風見の足を、ブレンヒルトは手で開き、体を割り入れた。  
 そして自分は湯の中に身を沈め、風見の股の間に顔の高さを合わせる。  
「なぁにコレ、モノ欲しそうにお口開いてヨダレ垂らして。――変態ね」  
 その言葉に、風見は一瞬ビクリと身を震わせ、  
「……変態って、これはアンタのせいじゃない……」  
「はいはい、風見ちゃんはエッチなことが大好きなんでちゅねー。  
ほぉーらご褒美でちゅよー」  
「ひゃあっ!?」  
 未経験の感触に風見が驚きの声を上げる。  
 下へと目をやれば、ブレンヒルトがアヒルの胴部分を掴み、モヒカン部分で風見の股間をこすっていた。  
 それを横から眺める大樹が、  
「あぁ、先生のアヒル……」  
「あとで新しいの買うから黙ってなさい。……で、どうなの風見ちゃん?」  
「…………」  
 風見の、第二ラウンド開始前の優越感はとっくに消え去り、もはや羞恥心と快楽に挟まれ耐えるのみだ。  
 
「ったくダンマリ? つまらないわね。でも本番はこれからよ……!」  
 ブレンヒルトはアヒルを一旦離し、背中に何か書き込んだ。  
「ちょっと、変なこと書いてないでしょうね…………ッ!?」  
「何よその顔。変なことを書いたつもりは無いわよ?」  
 しかし、風見はうめき声を出すことすら出来ないほどに驚いていた。  
 アヒルに最後の一字が書かれた瞬間、その半開きのくちばしが『回転』を始めたからだ。  
 くちばしの回転速度は、一秒間に約半回転と非常にゆっくりしている。  
 ブレンヒルトが風見にアヒルの背中を見せると、そこには“回転・弱”と書かれていた。  
 ――――ちょっと、まさか――――  
「――さあ、1st-G概念の神秘の力、味わいなさい」  
 風見に抵抗の間を与えず、ブレンヒルトはアヒルを押しつけた。  
 
「あっ……ぅあ……くぅっ……」  
「どうしたのかしら風見ちゃん? 大声で喘いでもいいのよ?」  
 くちばしは、回転のたびに風見の入口を縦へ横へと押し広げる。  
 風見は半端に遅い回転にもどかしさを覚え――その想いを必死で振り払う。  
 しかし回転が続くにつれ、くちばしがぬらぬらと光るほどに風見は快楽の証を吐き出していた。  
 その様を見てブレンヒルトは、口元に微笑を浮かべつつ再びクレヨンを取った。  
「じゃ、今度こそ本番の本番ね」  
 一体今度は何を書くつもりよ、と思った風見がブレンヒルトの手元を見ると、  
 
「“弱”を消して“最強”っと。…………はい完成」  
 
「ブレンヒルト!? いや! やめ――――」  
 
 
 ――ブレンヒルト・性技/淫具技能・重複発動・ドリルくちばし・成功!  
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 十数分後、呆然とする大樹先生をその場に残し、ブレンヒルトと風見は姿を消した。  
 彼女達がその後どうなったのかは、諸説入り乱れている。  
 
 いわく、“ひまわり”の女子用トイレから喘ぎ声が聞こえた。  
 いわく、深夜生徒会室に入っていく会計と美術部部長を見かけた。  
 いわく、1st-G監査と独逸UCAT監査が風見・千里を緊急用隠し部屋に連れ込んだ。  
 いわく、何故か怒り狂ったシビュレがUCAT中を走り回っていた。  
 
 そのどれが真実なのかは、未だ判然としない。  
 

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