「ああ、立花夫妻ちょうど良かった」
訓練を兼ねた夕飯を終えた帰り、二人は巫女装備の浅間に出くわす。どうやら武蔵内の整調を行っているらしく、普段と違い荷袋等を携えている。
「何用でしょうか、浅間様」
「Jud. ご夫婦なのに渡すのを忘れていた物がありまして」
浅間が巫女装束のバインダースカートの裾から取り出したのは一枚の符。見た目からすると、自分たちに割り当てられた居室にある神棚に在る符と同型だ。
だからァは素直に疑問した。
「これは何のための符でしょうか?」
「端的に言いますと、夫婦用の遮音符ですね。武蔵は構造上、どうしても家々が密集する構造になっているのですが、……特に聖譜Tsirhc系圏内からいらっしゃった方が、プライバシーが守られにくいと感じられる場合が多くて」
浅間が苦笑を浮かべるのは、場を変えようが無い以上、術式で違和感の解消を図る移民が多いということだろう。
宗茂は素直に頷いた。
「ああ、確かに慣れるまでは洋風構造物から和風構造物に移ると心許ない感じはしましたね」
「まぁ、お二方は元々和風住居への慣れはあるかと思いますが、密集住居は初めての経験かと思いますし、ご夫婦ですし」
「……先ほどから夫婦連呼されていますが、何らかの関係が?」
今のところ、宗茂もァも生活防音に何らの不備も感じていない。おそらく浅間神社が移民用にと改良した符のおかげだとァは判断した。
浅間は困ったような笑みを生み、言葉を生んだ。
「ええと、夫婦の営みの際に発生する音が通常遮音では間に合わない場合が結構ありまして。――ハナミ? メーター上がってるのおかしくないですか? 真面目な話をしているんですよ、ええ」
真面目に猥談ですね、と口にするのをァは我慢した。
ええ、我慢は大事です。七要徳にも“節制”があり、怒りも節制して分割するのが大人というものです。
ァが若干半目でそう思った瞬間だ。横から手が伸びた。
「Jud. ありがたく頂きます!」
「宗茂様?!」
ァの夫はイイ笑顔で浅間から符を受け取った。浅間も若干甘引きをしているのがわかる。
「いやあ、ァさん恥ずかしがり屋ですから中々最近イイ声聞けなくて困ってたんですよね。助かりました! 我慢してるのも超可愛いんですけどね?!」
「よ、喜んで頂けて光栄です……。え、アレ? 何でメーター下がってるんですか? おかしいですよコレ!!」
『夫婦だと 神様 お喜び?』
「夫婦ずるいですねこのシステム!」
ぶっちゃけ極東の神々は芸能神が好んでエロ担当していたりするので、確かに夫婦が及ぶ行為に関しては寛容というか寧ろ勧める側ですけども……!
浅間が悶絶する中で、宗茂は完全に引いたァを止めるのに必死だった。