『期日指定の厳罰者』  
 
「んー、残念。そこは氏綱じゃなくて次代の氏康なのよねー」  
「あら」  
間違いを指摘され、思わず手を口元に当てるメアリ殿の姿に、自分こと点蔵・クロスユナイトはほっこりした気分になったで御座る。  
──いいで御座るなあ。何と言うかこの、ちょっとのん気な若奥様的雰囲気が堪らんで御座る……!  
メアリ殿は極東史についてはまだ少々疎いで御座るからなあ。  
まあ、その辺りを後で系統立てて解説すると尊敬の眼差しを向けてくれたりするので、自分的には超オッケーに御座るが。  
特に差し向かいで座っていてこちらに身を乗り出すと、机の天板にこう、たふん、たっふん、といった感じで軟着陸する様子など……!  
「点蔵、アンタなに上向きに開いた両手を何度もバウンドさせてるのよ?」  
「あ、いや、何でもないで御座る」  
慌てて腕を引っ込めると、真喜子先生はこちらをジロリと睨んでから、  
「まあとにかく、答えが間違ってたからメアリは厳罰ね。ええと、今週の自己申告では……ん? 本日限定のこれでいいの?」  
「あ、はい、Jud.。皆さんから今日はこれだろうと勧めていただきましたので」  
その返答に、自分の背筋へイヤな予感が走るで御座る。  
──だ、大丈夫で御座るよな? 公衆の面前でキスとかはもう勘弁してくれと頼んでおいたで御座るし……。  
しかし、ウチの外道どものオススメというだけで、不安度数はレッドゾーンで御座る。  
「じゃあメアリの厳罰は申告通り、『皆の前で点蔵とポッキーゲーム』ってことで」  
「Jud.。では点蔵様、よろしくお願い致しますね?」  
「待つで御座るよメアリ殿ー!?」  
予感そのままの展開に、自分は忍ぶ事も忘れて絶叫したで御座る。  
 
「そういう嬉し恥ずかしい内容は書かないと約束してくれたはずで御座らぬか!?」  
「確かに、授業中に人前でお菓子を頂くなど、少々はしたないとは思いますけど……?」  
それ違う! 恥ずかしがるポイントが違うで御座るよメアリ殿!  
「ゲームの内容については説明受けて御座るかな?」  
「Jud.、細い棒状のお菓子を両端から咥えて、どちらが多く食べられるか競うのですよね?」  
「では、棒状の菓子を端から互いに食べ進んでいくと、最終的にはどうなるで御座るかな?」  
「それは、短くなるぶん距離も近づいて……あら」  
先程と同じ新妻風ウッカリ仕草で御座るが、自分いまそれに萌えている余裕は皆無で御座るよ!  
「……って、皆も何で机の上に持参したポッキーを黙って積んでいくで御座るか!?」  
「クククこの晒され忍者、もちろん円滑な授業進行のために決まってるじゃない! ええ、他意なんてあるわ!」  
「まあネームの代価としては安いものよね。あ、全部食べ切るまでが厳罰よ?」  
「甘いものばかりでは飽きますネー。そんな時にはこのバーモントクラッシュポッキーがいいですネー」  
「おおそうだな! 俺もその辺考えて、秘蔵のつぶつぶタン塩100%ポッキー持ってきたぜ!」  
「トーリ殿、それ別の意味でも罰ゲームでござるよ!」  
駄目で御座る。この空間にはもはや敵しかいないで御座る。今唐突にポッキー遁の術とか習得できないで御座るか。無理か。  
「ええと、でも自己申請したものは撤回効きませんので……」  
申し訳なさそうにしながらも、自らポッキー咥えるのは何故で御座るかメアリ殿。  
「──ん」  
すぼめた唇を差し出され、いよいよ進退窮まる初冬の昼下がりで御座った……。  
 
 

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