商人の仕事はハードだ。それが済んだ夜、ベッドの上でハイディは問うた。
「シロくんは、お金と私、どっちが大事?」
「金だ」
シロジロらしい答えに、ハイディの笑顔が眉尻を下げたものに変わる。
「いいか。金の話をしよう。金が無ければ、ハイディと暮らすこともできない。例えば馬鹿がホライゾンを助けようとした時も、必要なだけの金さえあればすぐに助けられた。――だから大事なのは金に決まっている」
ハイディが目を見開く。
「第一、ハイディは目的で金は手段だ。私は守銭奴なのだから、金そのものを愛しているわけではなく、対価として有用な点で愛している。どんな困難でも、金さえあれば殆ど解決できる」
「お金で解決不可能な困難は?」
いつもの笑みに戻ったハイディが更に問いかける。
横向きに転がっていたハイディを仰向けにさせ、シロジロはその上に馬乗りになり答えた。
「金より私にとって有益な恋人に納得させることだな」
そのまま唇を重ねられた。
シロジロは、実は性行為においても貪欲だということを、ハイディ以外は誰も知らない。それが知れれば、素知らぬ顔をした“冷面”などというアーバン・ネームも吹き飛ぶだろうと、ハイディは思うのだ。
でも教えないのは私も貪欲だからかな……!
散々全身を愛撫しつくされて、ハイディの頭は快感でぼんやりしてきている。しかし、このシロジロを独り占めにするのは自分だと、ハイディは思いながらシロジロの望む通りに嬌声を上げる。
「シロくん、もうお腹の中寂しいよぉ」
我ながら甘ったるい声だと思う。
彼が唇の端を吊り上げる。
「こちらはもう満足できたのか?」
「んやあぁぁっ!」
ぬるりと押し潰されたクリトリスへの刺激で悲鳴を上げる。気をよくしたシロジロが更にハイディを責め立てる。ぁ、と声にならない嬌声を上げてハイディは快感の果てに登り詰めた。
「ハイディ、してほしいことは言ってもらわないとできないぞ?」
「ん……っ! は、しりょくん、おはなし、れきなぁ……っ!」
「おやおやいつもの商人トークが台無しだぞ? 下の口はよく意思を伝えられているようだが。……ハイディは仕方の無いやつだな」
つぷり、と彼女の欲求通りに指を差し入れるとハイディが背筋を反らして悶えた。
その反応にシロジロは満足げに笑む。脳が溶けてきているのは彼も同じで、そのままキスをした。差し入れた舌を貪るように舐め回される。互いが互いに飢えている証明だ。
顔を離すと間を透明な糸が引き、蕩けきったハイディがそれでもこちらを見て満足げに微笑った。
「しりょくん、ちょーらい?」
呂律の回らない口調にJud.とも答えず、シロジロは己をハイディに埋め込んだ。ふ、と堪えるような息のあと、首筋に手を回される。しがみついて快感に耐えているようだった。
「ふむ。ハイディ、そういえばこの時点になるともうマトモに話せなくなるんだったか。悔しかったらJud.と言ってみろ」
「ひゃ、ん……!」
胸を揉んでやると締まりが良くなる。言葉で責めてもだ。
涙目で軽くこちらを睨んでくることが、より嗜虐欲を刺激する。
熱く柔らかくぬめる胎内の中に、己をじわじわと埋めていく。体格差故に入りきらなかった時期もあったが今は良好に受け入れられ、
「や、ぁ、きもち、いっ」
……与えるだけ、快感を得ている。何をするにも痛がられていた頃に較べれば格段の進歩だ。現に、背筋を貫く程の快感がある。
ハイディの意思とは無関係に体が悶える程何度も逝かせる内に、締め付けはより強くなり、シロジロから精液を搾り取るような蠢きをハイディの胎内が作る。
快感以外の思考が鈍くなる中でシロジロはハイディに覆いかぶさるように彼女の頭を抱き、呟いた。
「出すぞ」
Jud.という言葉の代わりに頷きがあった。
一際大きく身を反らせ、ハイディは最大の快感を得た。それはシロジロにしても同様で、快感で頭が真っ白になる。白濁した液体と欲求とを、ハイディはさも嬉しそうに受け止める。そこにあるのは、両者の悦びだ。
思わず息を荒くして体重をかけると、たどたどしいながらもハイディがシロジロの背を撫でてくる。呂律が回らなくなる体質の彼女が、ありがとうと気持ち良かったを伝えるためのジェスチャーだと随分前に言い渡された。
体を起こすと、ハイディが蕩けるような笑みを浮かべていた。
「シロくん、だいすき」
「Jud. 私もだ」