「Jud. 何でしょうか、トーリ様」  
 青雷亭にて店主の手伝いをしていたホライゾンは、店の奥から出てきて素直に応答を返した。ええ、今日は今のところ何も悪いことはされてませんし、たまには優しくしないとグレると喜美様が仰っておりましたので。  
「デート行かね?」  
 馬鹿は笑顔付きでそう言った。  
「率直に申しまして、ホライゾン仕事中ですので他をあたってください」  
「超ーぉセメントー!! おい母ちゃん今の返し見たかよ、ひどくねぇ?!」  
「どう考えても悪いのアンタだろうよ。……まぁいい。ホライゾン、片づけ粗方終わったし、たまには付き合ってやってくれるかい?」  
 ホライゾンは頷いた。  
「店主様の仰せであれば、承りましょう。さて、どちらへ行くのですか? トーリ様」  
「俺って本当に逆優遇だな……」  
 だからトーリはホライゾンに手を差し伸べた。  
「後悔通りに散歩。――ちゃんと乗り越えられてるか、確かめに。あと、もしかしたらホライゾンの記憶がよみがえったりしないかなーとかは考えてるけど」  
「Jud. 脱ぎ芸抜きならお付き合い致しましょう」  
「ほら、おやつに菓子パンでも持って行きな。ああ、その馬鹿がもし倒れたら、一応後悔通りの外まではひきずってやってくれるかい? 後は放置で構わないからさ」  
「Jud. ありがとうございます」  
 パン袋を受け取ったホライゾンは、馬鹿の伸ばす手を取った。  
「んじゃ、行こうか」  
「Jud.」  
 
 後悔通りは自然区画の中にある。つまり本来は居心地の良い場所で、あの事件が起こる前までは三人して好んで通った道でもある。  
「何か思い出せそう?」  
「いえ。というかトーリ様、意外と平然としてらっしゃいますね。店主様からの指示に従う機会が無さそうです」  
「残念そうに言うの、やめね?」  
 さわり、と心地よく風が吹く。  
「うん、俺もダメかなって思ってたんだけど、ホライゾンがここにいるから」  
 馬鹿が笑みを浮かべた。  
「そうですか。握ってくる手の手汗が激しいのは何故かと聞いてもよろしいですか?」  
「そりゃあ、好きな女の子と手をつないだら緊張するだろーYO!」  
 そして、ホライゾンの墓碑に辿り着く。一瞬だけトーリの手の力が固くなったことをホライゾンは感じながら、自分の墓碑を眺めた。  
 まったく何も、生まれなかった。少し得た感情でさえ。  
「トーリ様。トーリ様はホライゾンを“ホライゾン”だと仰ってくれていますが、私はこの墓碑で安らかに眠る少女とは別人だとしか思えません。何の記憶もありませんから」  
 くすり、とトーリが笑みを落とした。  
「同一人物じゃなくたっていーさ。俺、一年かけてホライゾンに惚れたんだから、同じ名前の別の誰かでも、俺はお前を好きだよ、ホライゾン」  
 掻き毟りに似た感覚が胸中を過ぎていく。これは感情ですね、とホライゾンは自答した。  
「自動人形に感情は無い今、ホライゾンはそれに応える言葉を持ちません」  
「うん、それでいいんだよ。それでいいから好きって言わせてくれ。……だって言えるのって、みんながチョーがんばってくれたからだもんな!」  
 トーリの笑顔は崩れない。そしてまた掻き毟りが走る。どんな意味かもわかれないまま。  
「いつか」  
「ん?」  
「拒否でも許容でも、いつか必ず伝えます。――その時まで待っていただけるでしょうか?」  
 トーリが目を細めた。  
「ありがとう。十分過ぎるよ、ホライゾン」  
 トーリはホライゾンを抱きしめた。いつもなら実力行使をするホライゾンは、何故かこの時抵抗する気になれず、ただただ数分間をそうして過ごした。  
 

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