ホライゾン:鈴編・政宗√
『序章』
「ふぅ………」
ちょっと買いすぎたわねっと、溢れるくらいたくさん食料を入れた紙袋を両手で持ちながら伊達・成実はため息をついた。
これもあの馬鹿な半竜のためだと思ってこぼれそうなくらいの食料買っていっぱい食べもらおうと思って行動した。
しかし流石に持ち難いので日陰のあるベンチに座ってしばし休憩。
ふと空を見上げては彼女のことを思い出した。
政宗………何をしているのかな?
私は伊達を離れて馬鹿な半竜で姉好きのキヨナリと一緒に暮らしている。
その、彼女の………嫁……としてね。
ここ数日経って徐々に武蔵の生活にも慣れてきたし梅組の皆とも仲良くなってきたような気がする、特に……えっと………メアリの旦那さんの嫁のメアリとは毎日のように会ったりお話している。
だから楽しくてつい思い出して空に届くようにボソッと口に出てくる。
「政宗元気かな……?」
「誰が元気だって?」
「政宗元気かなって……え?ええぇぇぇっ!?」
不意に声をかけられては驚いて振り返る。
それは向こういるべき人がどうしてここにいるのかと言う人物がそこにいた。
「数日ぶりだね成実」
伊達家の当主で総長で生徒会長の伊達・政宗がいた。
「驚いた?」
驚くもなにも、どうしてここにいるのって叫びたいほど言いたかったがここは落ち着いて冷静に問い詰めた。
「何でここにいるの政宗?と言うか連絡してくれてもいいじゃない?」
政宗はTes.と言いかけるがJud.と言い直した。
「武蔵の皆には言ってあるし、もう手続きをした。成実はちょっとしたサプライズだから連絡しなかった」
「サプライズなら誕生日で十分……え?今なんて?」
「もう手続きをした……」
「何の!?」
「武蔵に住む手続きに武蔵アリアダスト教導院に転属することも終わったから、有明に入ったら成実の後輩としてよろしくね」
こっちの方がよっぽどサプライズだった。
何も聞いてないし何も聞かされてはいない、いや、サプライズなんだからそうだと自分にツッコむ。
てっきり会いに来ただとだと思っていたらまさか政宗と一緒に武蔵で暮らすとは思いもしなかった。
しかし何故政宗が武蔵に住むことになったのかを問い詰めた。
「何で政宗までこっちに住むことになったの?当主としても総長としても生徒会長としともやることあるでしょ?」
Jud.と返事し言葉を続けた。
「それはこっちにも出来ると思うし、ほとんど片倉に任せることになるし鬼庭や留守に迷惑かかるし成実には呆れると思う」
「ならどうして……」
「私も―――武蔵と共に、世界を救おうと思ったからじゃ駄目かな?」
政宗が真っ直ぐ私を見つめる。その意思に迷いもなくただ我を通してやって来たのだと理解できた。
なら私が反対する理由などなくなってしまった。
「そっかぁ……」
「納得してくれた?」
「帰れって言っても住むんでしょ?」
ちょっと複雑な気持ちも残るが時期に薄れてなくなるだろうと成実はそう思った。
「今は鈴の知り合いに挨拶に回っているんだけど……成実の旦那さんにも挨拶に行こう思っているのだけど家にいる?」
「武蔵総長のところに行ってエロゲーでもしてるわ」
拙僧はこれからトーリとテンゾーと共にエロゲー実況しに行って来るって朝早く行ってしまった。
そんなエロゲーより私と朝から一緒にいるって選択を取らないのかしらね?別にいいけど。
「武蔵総長もまだ挨拶してないから後で挨拶しに行こう」
政宗に羞恥心なんてないのかしら?政宗も姉キャラみたいだからキヨナリが浮気しないかちょっと心配だけど信じることにした。
「ところで家は大丈夫なの?」
「心配ない。家は鈴と一緒に暮らしている」
「鈴って武蔵外交官でいいんだよね?」
「Jud、鈴にはずいぶんとお世話になっている。私が武蔵で暮らせるように手伝ってくれたんだ」
武蔵外交官……いえ、向井殿って言うべきかな。
いつの間にか向井殿ではなく鈴って呼んでいるし、心なしか向井殿の話しになると生き生きしていると言うより楽しそうに伝わってくる。
成実はきっと思う。
伊達・政宗と向井・鈴はお似合いだと。
●
鈴は知っている。
政宗が今日から一緒に暮らしていくこと。
政宗が皆に挨拶に行っていること。
政宗が後輩として学校に通うことになったことも。
政宗自身から言ってくれたことを鈴は知っていた。
知っているより聞いたと言うのかな………?たまたま楽しそうに雑談する二方の声で認識。
見えないけど見えている、知覚が政宗だと見えていた。
とても楽しそうに笑って成実と話してくれて鈴自身もなんだか嬉しい気持ちになってくる。
それは政宗がきっと、辛いことの上に幸いなことが出来たから、純粋に楽しそうに笑らえるんだと思っていた。
だから鈴自身も、政宗さん楽しそうって心からそう思った。
そう思っているのに疑問が浮かび上がった。
どうしてだろう………言葉では表し難く、ただモヤモヤしているのは?
「…………」
先ほども思った、政宗が幸いが積み重ねることが出来たから私も嬉しい………。
それなのにスッキリしない、モヤモヤが残っているのは?一体なんだろうって?
ふと鈴は思った、政宗が笑っていれば自分も嬉しい………なら自然と笑みが溢れるはすだと。
私は………笑っているの?
鈴は声をかけることなく政宗は成実と別れて行った。
鈴自身もよくわからないモヤモヤを残しながら2人とは違う方向へと帰って行った。
●
太陽が沈む頃、政宗は鈴が教えてくれた皆とほぼ挨拶を終え、残りは明日に持ち越して帰って行った。
鈴が教えてくれた通り、武蔵の皆は面白い人達で鈴のことを大事にしていることがよくわかった。
片倉よりも面白くてバカな人もいたけどそれはそれでいいと思った。
鈴を泣かしたら問答無用に殺されるのか、気をつけないとな。
鈴は目が見えなくておどおどしているけど、皆に愛されて可愛いくてそれと優しくて一緒にいると心がポカポカする。
皆は私の知らない鈴を知っている………そう思ったら、何故か寂しかった。
どうしてこんな気持ちになるのか検討もつかなければ考えても答えは出なかった。
おかしかった、皆は鈴と一緒にいる時間は私と比べて倍以上の差があってのこと、だから私の知らない鈴を知っているのは当然であり当たり前。
逆に考えればキヨナリ殿よりも私は成実を知っていることと同じだ。
仕方ないことであるのはわかっている、それなのに不安が積もり寂しく感じてしまうのはどうしてか?
「……………」
今日はちょっと疲れたのかな?歩き回ったし挨拶もいっぱいしたから気持ちもちょっと整理つかないのかな?
きっと明日になれば綺麗さっぱり無くなると思い、政宗は鈴の家へと帰って行った。
政宗は本当は気がついていたかもしれない、ただそれを認めてしまうのが恐怖に感じてしうから。
だから政宗は疲れたと自分の心に助言し、私寂しい気持ちを紛らわしていたかもしれなかった。
つづく。