「なぁホライゾン」
「なんでしょうか、トーリ様」
「デート行かね?」
とある昼下がり、青雷亭(ブルーサンダー)の一角で、服を着た全裸が言った。
姉は微笑み、巫女や銀狼は頬を赤らめ、他の者は眉を上げるであろう会話だ。
──全裸が床に這いつくばって、ホライゾンに顔を踏まれていなければ。
「は・は・は、このような状況で何を言ってやがるんでしょうか。はっきり申しまして理解不能です」
「いやいやいや、ちゃんと誘おうとしたんだけどよ、ちょっとスプーン落としたじゃん?拾おうとしてしゃがむじゃん?
そうすっといい角度で尻やらコカーンやらが見えるじゃん?伏せてステイするじゃん?
そうすっとよりいい角度で見れるじゃん?だったら見るしかねぇじゃん?」
「ほほぅ、確かに伏せているといい角度で踏めますね」
あ、を連続した悲痛な悲鳴が店内に響き、全員が引いた。
「ともかく、ホライゾンは仕事が終わった後も、店主様に料理の練習を見て頂きますので多忙です。
よって、そのお誘いは承る事が出来ませんので、食べ終わりましたらとっととお帰り下さい」
そう告げると、ホライゾンは馬鹿から足を離し、カウンター内に向かった。
「姉ちゃん!姉ちゃん!踏まれて作戦失敗したYO!」
「フフフ踏弟。目先の本能に従い過ぎて目標を見失ったわね?」
「えぇと、結論から言うと最悪で御座るな」
「全くだ。煩悩に惑わされて本懐を遂げられぬとは…現実はエロゲと違って、セーブもロードも出来ぬのだぞ?」
「いい事言ってるつもりでしょうけど、エロゲを引き合いに出す時点で僧侶として間違ってませんの…?」
「分かっていても言っていい」
「そもそも、あの状況からデートに誘うだなんて、トーリ君は女心が分かってません!」
「…『土下座攻め』『誘い攻め』を凌駕する新ジャンル、『踏まれ攻め』…いや、基本的に総長は総受けだから、
これは普通にM属性か…浅間、ちょっと総長踏んでみて。とりあえず素描だけ済ませちゃうから」
「ナルゼ、何させようとしてんですか!…って、トーリ君もスタンバイしないっ!ていうか見るなぁっ!」
「アサマチ、ホライゾンより激しく踏んでないかな?ソーチョーが物理的に凹みそうだけど」
「相変わらず、いい空気吸ってる連中さね…」
「でもでも、やっぱり女の子としては、デートのお誘いは嬉しいよね。シロ君最近忙しくてあんまり構ってくれないから、
今度仕事の後にお散歩デート誘ってみようかなぁ」
ハイディの発言に、女性陣が考え込む。
協議の結果、ガールズトークの流れになったので野郎共は強制的に叩き出した。
「マルゴットとはよくデートしてるわね。ほとんど日常的になってるから、どこかでマンネリは打破したいわね」
「あはは、ガっちゃんからのお誘い楽しみにしとくね」
「本人の前で言ったらサプライズにならないんじゃないかね…」
「あ、あの!副会長が店先で行き倒れてたので救援をお願いします!あと自分はいつものパンの耳を」
「え、えっと、トーリ君、たち、表で、膝、抱えて座って、た、けど、どう、したの?」
「jud.、現在当店は暫定的に女性以外は立ち入り禁止の聖域に指定されております。
正純様、こちらを。焼き損じのパンです。アデーレ様のパンの耳は只今ご用意致します」
「あー、なるほど。でも、総長達店の外ですし、立ち聞きされませんか?」
「そこは大丈夫です。情報遮断と対傍受の結界を張りましたので、盗み聞きしようとすると番屋に通報が行きます」
その直後、表で誰かが複数の人間に連行される声と音がした。
「徹底してますねー…それで、何の話をしてたんですか?」
「デートのお話ですの。どこに行こうかとか、どんな誘われ方が理想とか、ですわね」
「おおおいいですね!なんか盛り上がってきましたよ!ねぇ、鈴さん!」
「ふぇ、で、デート…!?」
「やっぱりデートって、日常における非日常というか、言わばお祭りみたいなものよね…お互いにいいとこ見せ合う為に、
着飾っていいお店行ったり、でもあえて普通通りに過ごすなんてのも悪くないわね」
「全く、贅沢な話だな…」
「あら貧乳政治家、生き返った?アンタ、食費もだけど、女なんだから身なりにも気を付けなさいな」
「そんな余裕は無い。というか、一つ大きな問題が無いか?」
「え?何が、ですか?」
「あぁ、ホライゾンにナイトとナルゼ、オーゲザヴァラーはいいとして、──他の全員、相手いるのか?」
その瞬間、店内の空気が凍りつき、名前を呼ばれなかった者の顔から表情が消えた。
ほどなくして会議は終了となり、そこにはシロジロに匹敵するレベルの土下座をする正純の姿があったという──。