「あれ?トーリ、くん?どう、した、の?」
「んー、わりぃベルさん。風呂まだいけっか?」
とっぷりと夜も更けた時間帯。
最後の客を見送って、そろそろ店を閉めようかという時。
耳慣れた装飾品の鎖の鳴る音を先触れに、向井・鈴へと声を掛けてくる全裸の姿があった。
全裸の少年こと葵・トーリは、爆発にでも巻き込まれたかのような煤だらけの姿で、手桶と風呂用具一式を小脇に抱えて立っている。
「いや、ちっと浅間んとこで風呂借りようと思ってよ、んで風呂の仕切り板が丁度いい感じの高さだったから、
逆立ちしながらシンクロごっこで、ゴッドモザイクを『そうら、初日の出ー!!』とかやったら、浅間とネイトがマジギレしやがってさ・・・・・・」
あやうくフクロにされるところだったぜ、と笑いながら語る少年は、鈴の両親にも声を掛けながら湯屋の中へと入っていく。
どうやら、今日は彼が最後の客になりそうだと思いながら、鈴も店先に提げていたのれんを仕舞いながら、彼の後に続いて店の中へと戻った。
今日はもう、おしまいだからゆっくりしていきな、と彼に声を掛けつつ先に帰宅の徒に付く両親に、自分も残り湯を使ってから帰ることを鈴は伝える。
そして、湯殿の中に消えていくトーリの姿をセンサーに捉えつつ、鈴は少しだけ悪戯っぽい微笑を浮かべると、仕事着の浴衣の帯に手をかけた。
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「トーリ、くん」
「ん?どうしたよ?ベルさん」
湯殿の洗い場で髪を洗うトーリの背後から、彼を呼ぶ声があった。
水分と熱の籠もった空気を押し退けて、トーリへの背後へと近づいてくる人の気配が在る。
やがて、トーリの背後へとゆっくりと近づいてきた人影は、そのままぺたんと湯殿の床へと腰を下ろす。
「あの、背中、ながそう、か?」
「おー、マジで?わりぃなベルさん、マジサンキューだぜ」
「ん、じ、Jud.だ、よ」
やや前のめりの姿勢で髪を洗うトーリが、その体勢を崩さずに声を掛けてきた人影──鈴へと返事を返した。
彼の返答にやや顔を赤らめつつ、鈴は手で泡立てた石鹸を手早くトーリの背中全体へと広げていく。
「おー、いい感じだぜベルさん」
「う、ん、じゃ、はじ、める、ね?」
「あいよ、ゴシゴシやっちまってくんな」
Jud.、Jud.と返答するトーリは、鈴が自分の背を流し易い程度に、前に傾けていた身を起こす。
続いて背中に生じるであろう刺激に対し、彼が無意識に身構えた時、
・・・・・・むにゅん、と予想外の感触が彼の背に走った。
「ほえ?」
予測していた刺激とは全く異質な感触に、一瞬にしてトーリの頭が困惑で埋め尽くされた。
すべすべとしたなめらかな肌触り、程よい質量と柔らかく弾力のある膨らみ、そして心地よい暖かさ・・・・・・
同時に、時折発せられる、ん、は、などで始まる熱っぽい声音も己の耳に入ってくる。
そんな訳のわからない現状を把握するために、トーリはゆっくりと背後を振り向いた。
「ん、トーリ、く、ん・・・・・・き、もち、いい?」
「おぉぉー!?俺様、いま、チョー!天国──!?」
トーリの叫びと共に、一糸まとわぬ姿の鈴が、その素肌をもってトーリの背を流す姿がそこにあった。