「ちょんまげぇ──」
気の抜けた声と共に、頭頂へ据え置かれた棒状の物体が、義経の余裕を消し飛ばした。
視界の端に捕らえた相手の姿と互いの位置関係、そして髪の上から感じる質感・温度・気配。
把握できる全ての要素が、知りたくもないその正体を脳内確定し、
「き」
我知らず噛み締めた奥歯の間から最初の一字が押し出され、
「さ」
口内で舌を擦過させつつ腰を浮かせ、振り返りの初動に併せて頭上の異物を振り払う。
あとは身体の捻りと激情のままに、起こした身体を背後に乗り出し、
「まぁ──むぐ!?」
怒声を張ったその直後、太い何かが彼女の口に飛び込んだ。
事象としては単純だ。
弾性のあるちょんまげの先を上に弾いても、下腹部に当って跳ね返り、元の位置への振り下ろしが来る。
その軌道へ伸び上がりながら『ア』音の口で顔を突き出した為、カウンターの形で入ったのだ。
あまりに凄惨な二次災害に、周囲の皆は声も出せずに凍りつく。
意識が現状把握を断固拒否している義経も、大きく口に頬張ったまま凝固する。
そんな中、真っ先に我に返ったちょんまげの主が、再び力の抜けた直立姿勢に移行して、
「えほうまきぃ──」
「いやあああぁ!」
生涯初の悲鳴を上げた義経の諸手突きで、くの字になって宙を舞った。