「成実、明日は満月だが貴様準備はできているのであろうな?」 
「何よ。別にお月見って時期でも無いのに何をするワケ?」 
 ウルキアガがタックルせんばかりの勢いで成実の両腕を掴んだ。 
「貴様あ―!! 拙僧の純情を踏みにじる気か?! 結婚して初めての満月と来れば、初夜に決まっているであろう!!」 
「決まってないわよ!!」 
 成実は顔を真っ赤にしてウルキアガを突き飛ばした。 
「……怖いのか?」 
 成実は言葉に詰まった。ウルキアガの声音は真摯であり、ふざけた要素が無かったからだ。 
 そして副長としての自分を在り方と決めた武闘系の成実に性知識は薄い。耳年増ですらない。だから、結果として沈黙しか生み出せなかった。 
 ウルキアガがため息をつく。 
「ふむ。貴様としても覚悟の要ることであろうし、どうやら拙僧急ぎ過ぎたようだ。……すまない成実。忘れてくれ」 
「ちょっ」 
 思わずウルキアガの手をとってしまったが、成実は顔を赤くしたまま、口をパクつかせる。 
「どうした?」 
「つ、妻となった以上夫の意向に極力従うのが極東のしきたりよ。極東の女をナメないでくれる?!」 
 ああ、どうして自分はケンカしか売れないのか。成実はどうしようもない情けなさを抱えて俯いた。 
「ふむ。極東における結婚の風習について知識の無い拙僧がマズかったようだ。では、明日コトに及んでも大丈夫なのだな、伊達・成実」 
「も、もちろんよ!」 
「それは良かった」 
 彼の声音が、心底ほっとした調子に変わる。それに喜びを感じながら、成実は一つの戸惑いを得ていた。 
 ――新婚初夜ってどうするの?! 
「何はともあれ準備は必要よね! ええ! ちょっと私行ってくるけど何も聞いちゃダメなのよ? これは女の子ルールだから!!」 
「うむ。聞きはしないが成実、貴様相当テンパってないか? 無理はしなくて良いのだぞ?」 
 ――そんな言われ方して断れるわけないでしょう! 
「いい? 例え怖かろうが自信がなかろうが、夫からの誘いを拒むようでは武家の嫁として失格なの。キヨナリはどちらかと言うと、――私の裸を初めて見た時くらいに強引でいてくれないと困るわ」 
「……善処する」 
「では、行ってきます」 
 この挨拶も何回目になるだろう。馴染んできた好ましい言葉を唇に乗せ、成実は戸外に出た。 
 
 
「で、このメンバー召集の理由を聞いていいでしょうか?」 
「Jud. 浅間さんは巫女としての知見が豊富ですし、立花・ァさんは武家の嫁としての経験が豊富。よってお二人をお呼びした次第です。――ご指導のほどよろしくお願い致します」 
 正座からの礼をした成実に、浅間とァも礼を返す。浅間神社に寄る途中にァを捕まえ、浅間神社におしかけたところだ。 
「具体的には何が起きたのか問うてもよろしいですか?」 
 ァの言葉に成実が頷く。 
「新婚初夜の準備についてお伺いいたしたく……!」 
 浅間が思い切り噴き出した。 
「おやおや浅間様。そのように噴き出してどうされたのですか。あのような符を夫に渡しておきながら中々すましたフリをするものですね」 
「ァさん地味に根に持ってますよね? ね?! ――ともあれ、巫女として言えることはただ一つです。ぶっちゃけ縛りは無いのでお好きにどうぞ。というか巫女なんで穢れメーター上がるから言えません。――ハナミ、玉串は刺さなくていいんですよ? 今は真面目な相談パートですからね」 
 ハナミがそろそろと浅間の背後から刺そうとしていた玉串を慌てて隠した。 
「ウルキアガくんが成実さん連れて帰って私が部屋の禊をした時点で夫婦になるための準備は全て終わっておりますので、ご安心ください」 
「ありがとうございます」 
 成実が礼をすると、慌てて浅間も礼を返す。 
「では、武家の嫁としての立場から言及致しましょうか。――夫任せが最大の秘訣です。それ以外ありません」 
「……今から何も準備できないような」 
 ァは決然と首を振った。 
「いつ襲われてもOKと、そのような覚悟を決めること。そして相手に曝して恥のない自分であることが大事ではないでしょうか。恥じらいは大事な物なので勘違い無きよう」 
 おおっと二人がどよめいた。 
「さすが人妻は言うことが違いますね……!」 
「年季が違うんですよきっと!」 
 成実はうんうんと頷くと、土下座に近い勢いで礼をした。 
「非常に参考になりました!」 
「Jud. 成功を祈っています」 
 浅間は笑みを作り頷いた。二人は神事に忙しい浅間を慮り神社を出る。別れ際、ァが言葉を作った。 
「ああ、成実様。一応同じ義肢持ちとしての意見なのですが、よろしいですか?」 
「Jud. なんでしょうか?」 
「行為に及ぶ際は我々の戦闘用の義肢では相手の生身を傷つける恐れがありますので、生体ベースの義肢に換装することをお勧めします」 
「Jud. わかりました」 
 わかったと言いながら、成実は内心脂汗をかいた。 
 生体ベースの義肢なんて持ってないのだけれど!? 
 なまじっか戦闘しか考えて生きて来なかったので、成実はそのようなものを持ってはいなかった。ァと違い、日常にも汎用性のある義肢であるため尚更だ。 
 今から義肢を注文しても間に合うわけもないし、そんな大きな出費を夫に相談せずに使うなんてもっての他だし、つまりこれは。 
 成実は肩を落としながら覚悟を決めた。 
 どうしようもなく、彼にされるがままになる覚悟を。 
 
 
 そして満月の夜が来る。 
「ふむ、準備完了であるな」 
 月光浴をしてくるとウルキアガが出て行ったのが半刻ほど前のこと。何となく目的は知れていたので、成実は行ってらっしゃいとだけ行って見送った。 
「お帰りなさい」 
 人型に変化した彼は、随分とだぶついてしまった制服を体に巻きつけて帰って来た。 
「ただいま」 
 日常の言葉。日常な会話。それが酷く愛しいと、そう成実は思った。 
「では成実、準備はいいか?」 
「いいわよ」 
 ウルキアガの寝床に腰掛けていた成実は、一つ息を吸うと自分の四肢を全てパージした。 
「成実?」 
「戦闘用義肢は、いくら半竜でも人型の体くらい傷つけられるわ。私はそれを望まないの。――ええ、だから満足させられるかはわからないけれど、……頂いて下さる? 旦那様」 
 頬を染めながらも真っ直ぐに見詰めてくる成実の視線の強さに、ウルキアガは背筋がゾクゾクと反応するのを感じた。 
「成実、貴様は最高だ」 
 抱きかかえて注意深く押し倒し、ウルキアガは接吻をした。 
 
 
 
「成実、下着はつけていないのか?」 
 腰帯をといてやると、成実の姿が露わになった。成実はいつかのように頬を赤くした涙目で答える。 
「万事夫に従った方がいいって助言をもらったわ。私が脱げないからやりやすいかと思ったのだけれど、失敗だったかしら?」 
「……今回拙僧、萌えっぱなしであるな。いい嫁をもらった。これは神の導きに違いない」 
 耳まで赤面した成実の唇を塞ぐ。舌で蹂躙し、歯列をなぞる。このようなキスは初めてだ。何せ半竜の姿が好みと言われた以上、なかなかやりようがない。 
 半竜の姿はかっこいい。それは間違いない。けれど体温を感じるには人型が好都合だ。 
 きっと先祖も人肌のぬくもりだけは忘れられずに完全な竜とはなれなかったのだろうとウルキアガは思った。 
「ふぁ……」 
 キスの間に呼吸も奪われていたらしい成実の初心さが心地よかった。 
「さて、貴様実際の行為にどれくらいの知識があるのだ」 
「……膣に男性器を挿れるんでしょう? すごく痛いことと、あと、恥ずかしいことくらいしか知らないわ。興味なかったから」 
 ウルキアガのツボにクリティカルヒットした。愛しさをそのまま抱きしめる力で表す。 
「今後も外道共から要らん知識を仕入れる必要は無いからな。何も知らない成実を一から開発! エロゲなど要らんくらいの愉しみではないか!」 
「変な言い方しないで頂戴!!」 
 成実が悲鳴を上げるが普段のような暴力ツッコミができない。もどかしさで、体温が上がる。 
 絶対絶対、来月までには生体式の義肢を注文しておかないと……! 
 それは無意識の内に来月もこのイベントがあることを肯定していることに成実は気がつかない。 
 怒りで強ばった体をほぐすようにウルキアガが成実の首筋を舐める。 
「い、今気がついたんだけどっ」 
「何だ?」 
「ふんばれないから何もかももどかしいわ、コレ」 
 成実が唇を尖らせる様が可愛らしい。ウルキアガは思わず微笑い、応えた。 
「今回は耐えさせるばかりになる。すまない、成実」 
 思ったより真摯なウルキアガの声音に、成実は夫に気を遣わせた自分を恥じた。 
「貴方にされることが嫌なわけではないのだから、勘違いしないでよ?」 
「ふむ、ツンデレに見せかけてデレデレな台詞だな。素晴らしい」 
「……っ」 
 全身に柔らかい手の感触が這う。それは間違い無く共に在ることを誓った夫のもの。成実はできるだけ呼吸を保ち、身を委ねようと努力する。 
「成実、何もしなくてもいい」 
 さらり、と髪をかき上げられて、ウルキアガの竜の瞳と目が合う。 
「無理はしなくていい。今はまだ上手くいく訳もないし、こらえることで悪い結果が生まれることもある。されて嫌なことは言えばせん。快いところは言わなくても態度で示せ。それを汲むのも甲斐性というものだからな」 
 成実は眼を見開いて、そして微笑んだ。 
 ――そうね、キヨナリを信じてなかったのは私かもしれない。 
「じゃあ、いつも通りでいくし、――何だかくすぐったいから変な声出しそうだけど、いいのね?」 
「無論是非も無い」 
 再度、唇を吸われる。やわやわと腰の辺りを撫でられた後に、尻肉を思い切り揉まれた反射的に手を出そうとして、出す手が無いことに気がつく。 
 反射で反撃する自分には四肢が無い方がよほど上手くいったかもしれないと思いながら、ウルキアガが注いでくる愛に成実は浮かされていく。 
 体が淡い熱を持つ。こらえねば自然と、出したことも無いような上ずった声が出る。甘えているようだ、と成実はそれを恥ずかしくも――嬉しくも思った。 
 ――そんな風に思える相手ができるなんて、ね。 
 皮膚が触れ合うのが、心地よい。ウルキアガの吐息が快い。どこかまどろむような心地ですらある。 
 体に教え込まれる新しい感触。知らなかった新しい感覚。 
 それをくれるのがウルキアガで良かったと、成実は本心からそう思った。 
「そろそろ触られるのには慣れたか?」 
「え? ええ、大丈夫よ?」 
「では」 
 密着した体勢から体を起こし、ウルキアガは躊躇い無く成実の両の乳房に手を伸ばした。 
「え、ちょ、ええっ?」 
「夫婦として許可が下りていて、このように拙僧好みの乳があれば揉むだろう、普通」 
「武蔵の普通はおかし、……んっ」 
 今までとは違う感覚に、成実はとまどった。 
 直接的な性的行為。不快感は無い。一方で知らない感覚に対する戸惑いが大きい。それがあからさまに表情に出ていたのか、ウルキアガがキスを落とす。 
「非常に良い塩梅だ、成実。見た目も触り心地も完璧とは、ますます惚れこむな」 
「ぁ……」 
 そう言われては、戸惑いすら歓喜に変わる。そんなにもわかりやすく“女”だったと知らしめられるのは、不思議と嬉しいことだった。 
 これも、キヨナリが相手だから、なんでしょうね。 
 成実は誓った。生涯自分が“女”であるのはウルキアガの前だけである、と。 
 自分の全ての女を預けて、自分はウルキアガと共に戦場に立つのだと。 
 そう思えば、自然とウルキアガの愛撫も受け入れられる。 
「ん、ふ……っ」 
「声はガマンせずとも大丈夫だぞ。夫婦専用の防音符が貼ってあるからな」 
「あああ、浅間さん?! 犯人浅間さんね?!」 
 思わず顔を真っ赤にして成実は言った。「準備は万全」とはこのことか! 
「うむ、穢れメーター振り切っておったがな」 
「あの人巫女としてどう、……ぁっ」 
 イヤイヤをするように首を振る。それに反応して、ウルキアガが成実の目尻に浮いた涙を舌で掬った。 
「辛い、痛いなどは?」 
「それは、ないけどっ」 
「逆接か。何がある?」 
「な、何かお腹の中が熱いわ……」 
 そう言うと、どこか恥ずかしそうに、けれど嫌になるほど嬉しそうにウルキアガの頬が緩む。 
「随分拙僧色に染まったようだな」 
「う、うるさ……っ」 
 ふるり、と震えが体を襲う。寒くもないのに、寧ろ熱いのに、だ。 
「ねぇ、ちょっと。これ、どうしたら収まるの?」 
「うむ。初心者には焦らしプレイは辛いものであるからな」 
 ウルキアガの手が成実の下腹部を這い、秘部に触れる。 
「〜〜〜っ!!」 
 それはかなりの羞恥心を伴う行為で、しかし成実は全てを受け入れようと決めており、歯を食いしばって耐えた。 
 ぬるり、と粘液がからんだウルキアガの指が、成実自身ですら殆ど触れたことがない箇所をまさぐる。指を滑らせて、愛撫が続く。しばらくすれば、羞恥に耐えるより、内からこみ上げてくる、生まれて初めての情動に耐える方が意味を強めてくる。 
「……ッ!」 
「だから、我慢は不要だと言っておろうが」 
 唇を吸われ、こじ開けられて歯の根を舐められる。口の中で囁かれる「もっと声を」。 
 何に抗えなくなったのだろう。だが、既に何かの臨界点は突破していた。 
「あ、……あぁっ」 
 情けない上ずった声が、間断なく喉から上ってくる。頬の熱は恒常的なものとなり、恥ずかしいも何もかも、ウルキアガに与えられる感覚で塗りつぶされていく。 
「や、これ、なに……っ」 
「快感だな」 
「かい、か……んっ?」 
「気持ちいいと、そういうことだ」 
 四肢をパージした今は、腰をくねらせることでしかそれから逃れる術を知らない。けれどそれもウルキアガに腰を抑えつけられれば終わりだ。逃れられない。 
 つ、と胎内に指が挿入ってくる感覚に、成実は背筋を逸らせた。 
「ゃ、キヨ、ナリぃ」 
「うむ。ここにいるぞ」 
 守る者であるべき自分が、今は無力に等しくウルキアガに組伏せられている。それが快感であることに、成実は一種の恐怖を覚えた。 
「わ、たし、ダメに、……なり、そ」 
「ならない」 
 はっきりとした断言に、安堵を覚える。 
「要は慣れの問題だ。何、既婚者の殆どがコレをして平気なのだから、成実も直に慣れる」 
 ふと、既婚者でありながら現役の戦士であるァを思い出し、安心する。 
 あの人も、私のようにどうにもならないまで追い詰められているのかしら? 
 一瞬の思考も、ウルキアガの指の動き一つで吹き飛ぶ。少しずつ、指が増やされていく。二本、三本。 
「……成実、痛みを覚悟する準備は?」 
 淫乱な水音が響く室内で、ウルキアガの声ははっきりとしていた。少量の不安を含んだ声音に、成実は不敵な笑みを作ってみせる。 
「そん、なの、とっくよ」 
 ウルキアガは唇の端を吊り上げると、成実の中から指を引き抜いて、舐めた。 
「ちょ……っ!」 
 成実が怒りで頬を赤く染めるが、ウルキアガは意に介さない。 
「何を言う。貴様の処女も今日限りだぞ。ちょっとした感慨に耽るのも致し方ないであろうが」 
「しょ、処女ってアンタね……!」 
 両手を頭の横に置かれ、思わずつぶった目蓋にキスを落とされる。 
「成実の処女がもらえて良かった」 
 酷く幸せそうな言い方に、成実は今度こそ金魚のように唇をパクパクとさせながらも何も言えなくなった。 
「さて」 
 腰を持ち上げられ、ウルキアガの膝に乗せられる。 
 痛みがかなりのモノであることは、流石の成実も聞き及んでいる。 
 しかし、その痛みも四肢を食いちぎられた時に比べれば大したことは無いだろう、とも。 
 だから成実は口を閉じ、歯を食いしばった。 
「痛くて我慢できんようであれば、言え」 
「Jud. ――でも、それは無いわね。痛いくらいで今更どうこう言わないわ」 
「Jud. しかし、何もかもが初めてづくめなワケであるしな」 
 つ、と入口に触れるモノがウルキアガ自身だと察した瞬間に、成実は体に更なる熱を感じる。 
 しかし、そこからは刺激されるのは痛覚だけだった。 
 ――痛い痛い痛いー?! 
 胎内を無理矢理押し拡げられる感覚は、四肢を落とした痛みにすら匹敵するレベルかもしれないと成実は脂汗をかいた。しかしこうなれば意地である。意地でも痛いとは言いたくない。 
「大丈夫か?」 
 ある意味さっきの状態よりは大丈夫よ?! 
 思わず口から出かけた言葉を飲み込んで、成実は震える声で一言Jud.と答えた。 
「ゆっくりと一気と、どちらが良い?」 
「キヨナリの、好きな方で」 
 痛みを堪えながらのセリフが愛おしい。両の腕で成実を抱いて、ウルキアガは注意深く成実に全てを埋め込んだ。 
「〜〜〜っ?!」 
 声にならない声が成実から放たれる。みしり、と身が軋むようですらある。 
「……っは」 
さすがに、色気も何も無い苦痛を堪える声が出た。涙がにじむ。けれどどこか満足してしまうのは、成せたというそのことが大きい。 
 そう、夫を受け入れることができた、妻としての悦び。 
 それは痛みを無価値にしてしまうほどの、誇らしさ。 
「正直相当痛いのだろうと察するが、――今日はここらでやめとするか?」 
 ウルキアガが、珍しく素直に気遣いを露わに成実の髪を撫でる。 
 成実は夫をきっと睨んだ。 
「妻として、恥をかかせないで頂戴」 
 ウルキアガは一瞬呆けたような顔をして、――そして微笑んだ。 
「Jud.」 
 成実は痛みと知らぬ感覚に翻弄され、――けれど最後に全てを果たした何物にも代えがたい満足感に満たされた。 
 
 
 
「そういえばキヨナリ。買いたいものがあるのだけれど」 
 所謂ピロートークの中。体が言うことを聞かないということはもうないので、成実は義肢を接続し直して、人型のウルキアガに裸で抱かれている。 
「何だ? わざわざ成実が申し入れるのは初めてだが」 
「まぁ、ちょっと高いもの。――生体義肢が欲しいのだけど」 
 ウルキアガが訝しげに眉をひそめる。 
「その義肢で実生活に不備があるのか?」 
「それはないのだけれど……」 
 いざとなると言うのが恥ずかしい。成実は顔を赤らめ、俯いた。 
「せ、セックスの時に私が何もしないのもおかしな話でしょう?」 
 今度はウルキアガの頬が赤く染まる。しかし残念ながら、成実はそれを見ることはなかった。 
「それに、キヨナリに自分から触れることもできないし、抱きついたりもできないし、……って私何言ってるのかしら?!」 
 掛け布団の中に成実が埋まっていく。ウルキアガはニヤニヤが止まらない。 
「では折半といたそうか」 
「わ、悪いわよっ! 私が使うものだし!!」 
「しかしソレ、拙僧を愉しませてくれるための道具であろう? ――嫁入り道具だと思っておけば、うむ、拙僧が出してもおかしくあるまい」 
 掛け布団から成実を引き上げて、キスをする。 
「愉しませてくれるのであろう?」 
「〜〜〜っ! 貴方ってホント、自分勝手だわ」 

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