「……いやいや、トーリ君が過去を振り返ったからこその戦果なんですけどね?」
浅間の静かな突っ込みに皆が同意したところで、ホライゾンの感情――淫蕩の御身に視線が集中する。
「皆様、如何いたしましたか?」
「焦がれの全域は大罪武装を100%の力で使える統括OSなんだってね。ただ、まだ――」
ネシンバラの言葉の続き、隅で潜んでいた忍者が、
「悲嘆の怠惰のように、感情の創生をしておらんで御座るな」
ああ、とホライゾンが頷く横で、全裸が頬を赤らめながら腰をくねくねと動かしている。
まさか、
「それならば済みました。よって、今のホライゾンには確かにエロと悲しみの感情があります」
「えぇ――ッ!!」
皆の驚嘆にホライゾンは満足げに頷く中、浅間だけは平然とした表情で立っていた。
「……ねえ浅間、なんであんたは平気そうな顔してるの?」
「えっ……え、え、うわあ! 驚いたなあもう! トーリ君とホライゾンってもうそういう関係だったんですね!?」
「何言ってんだよ浅間、オメーが淫蕩の御身の試し撃ちに協力してくれたお陰で、ホライゾンはエロくなれたんだぜ?」
馬鹿に指を向けられ、浅間が沈黙する。
そもそもエロという表現はどうなのか、という基本的な突っ込みも忘れ、皆が地面を向きながらもじもじと動く浅間を見つめた。
長い沈黙を打ち破ったのは武蔵の姫だ。
「端的に申しまして、淫蕩の御身をフルパワーで発動すると戦域の敵勢力をエロくします。今回、浅間様だけを仮想敵に設定し、発動させました」
このように、と。
ホライゾンが左手に持った淫蕩の御身を浅間に向ける。
わああ、と周囲の人々が去っていく中、地に視線を向けている浅間だけが気付かない。
それでも異常を察して面をあげた頃には、淫蕩の御身はまさに発動しようとしており、
「――エロうなれ、淫蕩の御身」
最低のフレーズとともに、蛍光ピンクのハートマークが浅間に飛来する。
咄嗟に撃ち返そうと懐を漁り、弓を、弓を……。
――昨日の夜、そのまま置いていったきりでしたぁ!!
そして遂に、浅間の身にピンクのハートマークが接触する。それもひとつではなく、無数と呼ぶに相応しい量だ。
「Jud. 巫女としての性分を果たすには、これぐらいの量が必要と判断しました」
「フフフ、ホライゾン! そうよね、歴史再現は重要よ! かつての巫女は村中の肉便器だったというもの! 浅間はちょっと歴史再現なめてるところがあるわ!」
ということは、
「……はぁ、はぁ、あ、ほ、ホライゾン……」
身体の疼きに耐えかね、頬を赤らめた浅間が地に膝をつく。
「淫蕩の御身に、悲嘆の怠惰――よもや、一戦で二つの大罪武装を手に入れられるとはね」
ネシンバラが感心を交えた嘆息を向ける先、両の武装を持つホライゾンの姿がある。
「僥倖です。案外、大罪武装の収集というのはちょろいのではないでしょうか」
「つーかよ、ホライゾン! お前、悲しみとエロの感情しか持ってないとかエロくね!? なんかブラックエロじゃね!?」
「フフフ、愚弟。あんた、迂闊にそういう事言うと記憶がフラッシュバックして死ぬわよ!」
「安心してくれよ姉ちゃん! 俺、過去は振り返らない男だからさ!」