「K.P.A.Italia副長、ガリレオである」  
 突如として現れた魔神族に対し、戦闘系の二名が即座に動く。  
 身軽なノリキと、空を行く異端審問官のウルキアガだ。  
 最初に接敵したのはノリキ。しかし、  
「軽いのであるな」  
 手に持つ淫蕩の御身が光を帯び、ノリキの身体から力が抜ける。  
「な、なんだこれは……」  
 溜まらず膝をついたノリキの息は荒い。  
 頬は紅潮し、すっかり骨抜きとなっている。突然の行動不能に皆にも動揺が広がるが、それに臆する事なくゆく姿がある。  
 半竜だ。  
「この異端めが――!!」  
「無駄だ。――エロうなれ、淫蕩の御身」  
 空からの急降下。まともにぶつかれば無事では済まぬその一撃を、しかし魔神族は回避する事もなく受け止める。  
 落下の衝撃で砂塵が舞い、視界が奪われる。  
 ややあってから重量物が地に落ちる音が響き、沈黙が訪れる。  
「貸し出されているだけあって、使用制限は個人に限られるが――この場を切り抜けるには充分だな」  
 砂塵が風に流される。  
 無事に立っているのはガリレオだけだった。  
「やっべえ、鬼強え――!!」  
 馬鹿が騒ぎ立てるが気にしない。  
 地に転がったウルキアガとノリキは、何故か己の股間を手で覆いながら情けない格好で戦場を離脱しようとする。  
「――あるある。緊張すると。倒置法だけどな」  
 やはり馬鹿が何かを言うが、皆は無視する。恐らくガリレオは金的攻撃を狙ったのだ。とてもそうは見えなかったが、そうだったのかもしれない。  
 そうしよう。うん。  
「地動説」  
 こちらにゆったりとした歩調で向かってきていた筈のガリレオの姿が消える。  
「移動術だ!」  
「察しがよくて助かる。――さて、ようやくここまで来られたよ、武蔵アリアダスト教導院副会長」  
 橋の欄干に魔神族の姿があった。  
 高所に陣取る事でその巨大さは倍増しになり、正面にいた正純が半歩を退いて魔神を見上げる。  
「――エロうなれ、淫蕩の御身」  
 避けることは出来なかった。  
 否、馬鹿が真横からタックルを食らわせてくれたお陰で、物理的被害は防ぐ事は出来た。しかし、  
「んっ……!」  
 押し倒された正純が馬鹿の真下で可愛らしい小さな悲鳴をあげる。  
「お、おいセージュン。何色っぽい声出してんだよ!?」  
「あ、葵っ……は、離れてくれ。わ、私に触れるな……」  
 何かを堪えるように目を伏せながら、しかし正純は気弱な声で言う。  
「まさかセージュン、今の攻撃が当たったのか?」  
 こちらを気遣う優しい手。  
 それは普段ならば腕を取り、立ち上がらせるだけの些細な動きに過ぎなかった。  
 だが、  
「淫蕩の御身。教皇総長に与えられた大罪武装を舐めてもらっては困るな」  
 馬鹿の手が正純の腕を取った途端にそれは起きた。  
「――!!」  
 嬌声だ。  
 絶頂、と呼ぶに相応しい声を挙げ、正純は立ち上がることすら出来ずに地に這い蹲る。  
 たまらず馬鹿も手を離し、しかし距離を取る事はなく再び正純に手を伸ばし――やめる。  
「俺のエロ菌がうつったのか……!」  
「違うわぁ――!」  
 頬を赤らめながら正純が叫ぶ。が、すぐにへたれて項垂れ、それでも言葉だけは続けた。  
「淫蕩の御身だ……。あれにやられると、その、あのな……つまり、ソフトに言うと、」  
「フフフ、愚弟。つまりお×××びっちょびちょの、××ん×ガッチガッチのドエロになってしまうのよ――!」  
「マジかよ姉ちゃん! つーかそれ、全然ソフトに言えてなくね? あまりに直球過ぎて伏せ字の意味がなくね?」  
「ていうか、ナイちゃん思うに早くセージュン助けてあげた方がいいと思うなあ」  
「ちょっと待って――その前に、今の正純を描きたい気分」  
「あ、じゃあ僕は官能小説のネタ収集しようかな。出来ればこう、役者のような気分で発言、行動してくれ。――さんはいっ!」  
 ……自由に鬼畜だよなあ、こいつら。  
 

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