口元を押さえられたエリザベスの鼻に突きつけられたのは、ムスクのような匂いを放つ嗅ぎ薬だった。
吸い込んだとたんに体温が上昇し、力が抜ける。
指先にしびれが走り、支え無しでは立つ事もかなわなくなったエリザベスは、点蔵の手が離れたのをきっかけにその場にへたり込んだ。
「極東の忍術には房中術というものが御座ってな、媚薬の調合もその一つなので御座る」
――媚薬?
憎らしい忍者の声が遠くで響くように聞こえる。
「大丈夫ですか?エリザベス」
姉の声だ。薬が回ったせいか、息も絶え絶えになったエリザベスは、助けを求めるように傍らに座りこんできたメアリの服の裾をつかんだ。
姉ならば、身体の内側からわき上がる火照から救ってくれるかもしれない。そう期待したエリザベスに、メアリは優しく髪をなでながら信じられない言葉を告げた。
「力を抜いて。すぐに点蔵様が気持ちよくして下さいますよ」
「ねえ、さん、」
思わず見上げた姉は、あくまでも優しくほほえんでいる。
「点蔵様。私に付けた傷を、妹にも付けてやって下さいますか?」
「メアリ殿…Jud.、承知したで御座る」
そう答えた忍者は、ためらいなくエリザベスに手を伸ばした。
「姉さん、なんで…あぁっ」
服の上から脇腹をなぞり上げられ、乳首をこねるように押しつぶされる。
「やはり双子、性感帯も似るので御座るなぁ」
「ふふ…私、直接触っていただくのがもっと好きです」
メアリはエリザベスの頭を膝枕しながら、まるで世間話のように話している。
「承知しているで御座るよ」
姉と忍者の会話が信じられない。しかし、エリザベスをこの部屋に呼び込んだのはメアリだった。姉の術式によって丹念に作られたこの空間は、エリザベスの妖精女王としての力を全て奪っている。今の自分には、人間の小娘と同等の、否、それ以下の抵抗しか許されないのだ。
服のあわせがはだけられ、白い肌が忍者の眼前にさらされる。
身を固くしたエリザベスの胸に、忍者の無骨な手が伸びた。
両手で何度か堪能するように揉んだ後、唇で乳首を吸われる。
「んん…っ、や、やめ!」
舌で転がすように味わわれて、身に走るのは確かに快楽の味で、その事にエリザベスは恐怖を覚えた。
「怖がらないで。気持ちいいでしょう?」
振り上げようとした腕を、姉に優しく止められる。覆い被さるようになった忍者が、いっそう遠慮無く動き始めた。
「や、いやぁ…あ、あ、」
肌の上を這う忍者の指が、エリザベスの快楽を高めていく。
「…もう染みてきて御座るな」
「Jud.、本当ですね。感じやすいんですね、エリザベス」
「やめ、あ、やぁ!」
忍者の指が秘所を隠す下着に伸び、布の上からゆるゆるとなでさする。曖昧な刺激を受けながら、自らが下着を汚している音が聞こえてきて、エリザベスは羞恥に身をよじった。
快楽を受け、ふくれあがったクリトリスを、忍者に爪先でコリコリと引っ掻くようにいじられる。くちゅくちゅ、と音を立てるその行為に、薄い布地がしとどに濡れてしまっているのが見ずとも分かった。
酔ったようにぼうっとした頭は、エリザベスに快楽だけを印象づける。
気持ちいい。もっと、もっと擦って欲しい。そしたらきっともっと気持ちよくなれる。
「あ、あぁ、姉さん、姉さん」
うわごとのように姉を呼ぶ。秘所からわき上がる快楽に、どうしようもなく身が苛まれている。そこにしか触れない忍者の指がもどかしい。
身体の奥、もっと内側に、もっと気持ちよくなれる場所がある事を、エリザベスは本能で知っていた。
「気持ちいいんですね?エリザベス」
姉の言葉に、こくこくと首を縦に振った。どうせ、感覚共有でこの快楽は姉にも伝わっているのだ。ごまかす事は出来ない。
「あぁ、ん!」
下着をはぎ取った忍者が足の間に顔を埋めた。固くした舌でクリトリスを刺激され、エリザベスはいっそう乱れた。ピンと張ったつま先はぶるぶると震え、さまよい、快楽の行き場を探している。
「エリザベス、気持ちいいなら気持ちいいと声に出さないといけませんよ?感覚共有は私たちだけのものですからね」
姉に促され、エリザベスはおずおずと言葉を舌に載せた。
「気持ち、いい…」
「よく言えましたね、エリザベス。ご褒美ですよ。どうしてほしいですか?」
エリザベスの大好きな、優しい声で姉が問う。
「…もっと、」
「もっと?」
「もっと、気持ちよくして欲しい…」
あえぎ続けたせいで乾いた唇を、舌先で潤しながらエリザベスは答えた。
「Jud.、では、誰にお願いするのか、分かりますね?」
微笑む姉の頬が紅潮しているのは、自分の快楽が伝わっているのか。
「…忍者、」
「Jud.、…何で御座るか?」
動きを止めた忍者が顔を上げる。息一つ乱していない、眼前の忍者が憎らしい。
「命令だ。私をもっと、気持ちよくさせろ。…私の姉にしたのと同じように」
「Jud.、それでは、遠慮無く」