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二代は二発目をぶち込んだ。
左へと突っ込み、すれ違いざまに振り抜く。
肩を入れ、曲げた肘をクランクのようにかち上げることで、相手の足をすくい上げる。
当たった。
手応え充分。全身を掛けての制動を入れ、二代は移動距離七メートルでストップ。
半ば滑り込む姿勢から、相手に背を向けないよう、身を俯せにして振り返る。
そして蜻蛉切の石突きを向けつつ、身体を起こして相手を見ようとし、
「な……っ!?」
戦闘用スーツの全接合部が一斉アジャスト。外れたパーツが身から剥がれて散らばり落ちた。
「フフフこれでアンタも白拍子ャーね! どうかしら、私の華麗な脱がしのテクニック!」
おおおおおお、と、先刻の正純をも上回る反応の中、二代の顔が瞬時に朱を帯びた。
胸腰の下着は無事とはいえ、女の身で半裸の姿を人目に晒すのは、恥と羞の感情が先に立つ。
すぐさま屈んで身を隠したくなる衝動を、戦闘中の一語で何とか抑え込む。
「ああ、ロッカー室などでたまにやりますわねアレ。身体測定の場で全員剥かれて大騒ぎになったり」
「防御態勢取っても何故かガード貫通してくるしねえ。あれってどういう技なんさね?」
「いえ私に聞かれましても。少なくとも認可した覚えがないので、術式の類いでは無いだろうとしか」
少し離れた女性陣は、ああまたかといった風情で平然と語り合っているようだが大丈夫か貴殿ら。
というか、先ほど正純を剥いで手捏ね確認していた総長といい、昨日の試しで尻を撫でてきた学長といい、
──武蔵の人間はこんなのばかりで御座るか!?
深い戦慄を覚えつつ、二代は手にした蜻蛉切を構え直し、
「こ、これしきの事で、拙者の戦意を奪えるとでも思ったので御座るか?」
「声が上ずってるわよ半脱げ女。それにこれはまだまだ序の口。本番はこれからよ?」
「本番などはあり申さん。二度と近寄らせねば良いだけのことに御座る」
言って柄のソケットを最大限に伸長、ロングレンジでの攻撃態勢に切り替える。
相手は無手でこちらは槍。リーチの差は歴然だ。
何をする気であったとしても、間合いを取って戦えば、もはや不覚を得る余地などある筈もない。
「フフ無駄よ無駄。だってもう準備はとっくに済んでるんだから」
「なに? それはどういう……」
「こういう事よ」
喜美はゆったりと舞いながら、横に振った片手を背後へ回す。
直後、尻の丸みを妖しく撫でる感触を受け、二代の口から声にならない悲鳴が洩れた。
「いっ、今なにをしたで御座るか!?」
「問う馬鹿がどこにいるのよ。答える馬鹿もいると思う? ──でも私は自慢しちゃう」
肩から横に大きく伸ばした右腕に、走狗のウズィを踊らせながら、喜美が挑発的に口を開く。
「言ったでしょう? 私の契約はエロとダンス関係だって。でも……、直接触るだけがエロだと思う?」
右から左へ、両の腕をクルクルと渡る走狗の動きを舞いの飾りに、
「芸能系の神が与える加護は、特定の感情を媒介に、相手へと何かを伝えて共有するもの」
喜美が笑う。クク、と喉を鳴らして身を反らし、
「私のこの"高嶺響"もその一種。対象は個人限定で、互いにある程度肌を晒しているのが条件だけど」
豊満な乳房を重たげに揺らし、くねる腰つきで淫靡な空気を醸しつつ、
「納め奉じるは悦の感情、得られる加護は……」
肉感的な唇を、紅い舌先で見せ付けるように舐め湿らせ、一言、
「──快感の伝播よ」
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「……は?」
内心の惑いを息と共に吐き、二代の頭に空白が生じた。
反射的に理解を拒む思考の間隙へ、続く喜美の声と行為が滑り込む。
「
つまり、私がこの場でソロプレイすれば、その快感がじかにそっちへ伝わるのよ。──こんな風にね?」
「ふぁっ!?」
太腿を撫で上げ、乳房を淡く揉み込む手指の運びに、二代の四肢が身の中心に寄る。
半裸の胸元を抱えて庇い、膝を重ねて内股立ちとなった姿は、武士ではなく照れて恥らう乙女のそれだ。
そのうぶな反応に、喜美の笑みがより深さを増し、
「フフッ、直接攻撃の手段が無くても、要は戦闘不能にしてしまえばいいだけのことよね?
手を伸ばして摘み取ることが出来ればアンタの勝ち、その前に失神悶絶させれば私の勝ちってわけ。
さあやって見なさい、高嶺の位置に至れるのかどうか。──エロが奉納される限り、私は高嶺よ」
「待てぇ──っ!?」
自失から回復した二代が、心の底から制止の声を上げた。
「衆人環視の中でそのような……! 貴殿には羞恥心というものが無いので御座るかっ!?」
「フフフ馬鹿ね。私の奉じる芸能神はウズメなのよ?」
「……それが?」
「馬のナニを突っ込まれてマジギレたヒッキー女を、モロ出しダンスで引っ張り出したストリッパー神!
その信徒が公開オナーニショーぐらいできなくてどうすんのよ?」
「どういう理屈に御座るかぁー!」
……ちなみに続きはないですじょ?