進撃の巨乳
夜の森の中を駆け抜ける影がある。
そこは六護式仏蘭西【エグザゴンフランセーズ】に属する、とある小領主の領地の中にある小さな森だ。
普段は平穏な静寂に満たされているはずの森の中に、今は常とは違う剣呑な空気が満ちている。
その空気の出所は、悠然と森を進む幾つかの影と、その影を遠巻きに包囲するように駆ける者達だ。
「いいか、目標の進入を決して許すな! 最悪我等が身を犠牲にしても……止めるのだ!!」
「Tes.!」「Tes.!」「Tes.!」
森を進む影を包囲する者達に、指揮官よりの檄が飛ぶ。
それは六護式仏蘭西の騎士達からなる護衛の兵士達だ。
今宵、森を抜けた先に在る領主の館では、非公式ながら六護式仏蘭西の重鎮等による会合が行われている。
彼等はその場所を護る護衛の者達であった。
「!……来るぞ!」
最前列を進む隊員よりの声に、全員の身に緊張が走る。
夜空を照らす月光の中、彼等の前に森の奥から走り来る影が舞った。
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「でも息子は役に立ったんですよね。何か直接の手柄はなくても息子の頑張りは皆様の糧になったんですよね。」
「もちろん・・いや・・今回の件で我々は、いや、今回も・・くっ・・何の成果も得られませんでしたぁぁ!!
私が不能なばかりに、ただいたずらに若人を奪われ、彼女等の夜這いを食い止めることが、できませんでしたぁぁ!!」
兵士の母親らしき女性に、涙混じりに謝罪の言葉を放つ警護役の責任者の悲痛な声が響き渡った。
その中に何気なく混ぜられたカミングアウトとでも取れなくもない彼の事情に、その場の者達の同情の視線が集まる。
「いやまあ、満月の夜の中で人狼(ルウガルウ)の女戦士達に襲われりゃ……ねえ?」
「うむ、まさに災難としか言いようのない状況だな。朕も同情を禁じえないね」
彼等の傍らでは、六護式仏蘭西のトップである毛利・輝元とルイ・エクシヴも、なんとも言い難い表情で顔をしかめた。
「だって、昨夜は月がとっても綺麗だったんですもの。それで、ついつい夫の温もりが恋しくなってしまって」
「テュレンヌ、今更だがあんたらの辞書に遠慮とか慎みとかって言葉はないのかい?」
「確かに輝元の言うとおり、朕も夜這いから逆レの朝までコースはいかがなものかと……ふぐおっ!?」
頬に手を当てて体をくねくねとくねらせながら、それでお友達連中を誘ってついつい襲撃しちゃいましたのてへぺろ、と”人狼女王”の返事に、
不穏な発言をしたエクシヴを殴り飛ばしながらの輝元の言葉が飛んだ。
男として”喰われた”若い隊員達は、文字通り精も根も尽き果てて、人狼の女戦士達にお持ち帰りされそうな状態だ。
「でも、皆さんの”息子さん”は、頑張ってくれたみたいですわよ?……隊長さんを除いてですけど」
人狼女王の言葉に、警護役の責任者の悲痛な泣き声が響き渡った。