目を覚ますと、頭が凄くすっきりしていた  
(あれ、なんだろ、これ…)  
どこまでも風が身体を通り抜けていく感覚。  
まるで毛皮を脱ぎ捨てたみたいな……  
はっくしょん!  
(って、ほんとに毛皮ないよ、寒い!)  
うう、と身をちぢこませる。  
ふよん。  
(…はい?)  
目線を下に向けてみる。白くて細い腕。その腕に押し込まれた柔らかい感触。組まれた足の付け根には、すうすうとした感触。  
その先には見慣れた黒い尻尾が見える。あ、毛づくろい毛づくろい。  
……じゃ、ないよ!  
「にゃーーーっ!」  
(に、人間になってるーーっ!?)  
「…うるさいわね、朝から」  
がさごそと隣から音がする。  
ああ、ブレンヒルト大変だよ、ボクなぜか人間になってるよ!  
「にゃ!」  
身振り手振りで伝えようと必死のボディランゲージを試みる。  
使い魔の意思を読み取ってくれるはずだ。  
「……」  
ぷるんぷるん。ふにゃふにゃ。  
「大変だわ。……朝から変態露出狂に出くわすだなんて」  
あああ、やっぱりわかってたけどこの人最悪だよーーーっ!  
眠たげな瞳をしばたかせて、ブレンヒルトは符を取り出す。  
や、やばっ!なんか雷とか書いてありますよ!  
急いでボクはよつんばいで駆け出した。  
「朝っぱらから嫌な夢見せるんじゃないわよ!」  
「にゃーーーっ!」  
ひぇぇ!い、嫌なものってなんですか!ボク何かしましたか!確かになんかこの身体、明らかにブレンヒルトよりスタイルいいっぽいけどそれだけで嫌ですか!  
雷に追いかけられて、ボクは美術室を抜けだした。  
ど、どうしよう、とにかくどこかに隠れないと!  
 
 
「……、……、……」  
かなりへばってきた。  
ううん、この体、動きにくいし重いし寒いしいいことなにもないよ。  
ブレンヒルトには攻撃されるし……それはいつものことか。  
「にゃぁ……」  
ため息をついてみる。  
とりあえず、まずは着るものを探さないと。  
何かないだろうかと考えながらとぼとぼと歩く。ああ、体が重い……ネズミいないかなぁ。  
「……んっ……はっ」  
「…!……!」  
あれ? なんだろう? 今の。  
ピクンと耳を逆立てて声を聞き分けようと集中してみる。  
……上の階からかな。  
ボクはひょいと前足で地面を蹴って後ろ足ではねるようにして、階段を上りだす。  
 
音楽室のプレートのかかった部屋。  
50人以上の人数を抱え込めるその部屋の窓に、半裸の男女が倒れこむようにして重なり合っていた。  
聞こえてくるのは、腰のぶつかりあう音。それも徐々に間隔が速くなっていく。  
「よしっ……千里っ、そろそろいいかっ!」  
「んぁっ、はっ……ふぁっ……  
 う、うん……来てっ、来て!覚ぅっ!」  
女の声に答えるようにして、男はさらに腰を加速させていく。  
尻で八の字を描くように、引いては加速をつけて押し出し、その先端がめちゃくちゃに膣の中をかき乱す。  
やがて、男が強く腰を打ち付けると、その接合部が震える。  
「…………っ!! ……っ!」  
「〜〜〜っ。は、はぁ……」  
ひくひくと腰をふるわせながらも、二人はその結合を解いた。  
「はあ〜〜。よかったぜ、千里」  
「ん。覚……」  
そのまま二人は口をつけ、まだ足りないかのように舌を貪りあった。  
 
(……ていうかっ! 見ている場合じゃないよ!)  
すっかり見入っていた自分を心中でたしなめる。  
うん、大丈夫。まだ気づかれているわけじゃない。  
「にゃぁ……」  
ため息を一つ。もしこれで見つかったらたまったものではない。  
と、そこで気づく。  
(あ、あれ? ボクもしかして言葉喋れてない?)  
「にゃ、にゃにゃ!?」  
(ぎゃーーっ! 最悪だよこれっ、普通猫が人型になったら言葉を喋れるか語尾にニャじゃないの? なんで逆なのさ! 喋る猫が喋れない人になるって意味判らないよっ)  
焦りを心中で吐き出すがそれでも声は、にゃ、にゃとしか出てこない。  
うう、どうしたものか。  
そう考えていたら  
「な、千里、今猫の声しなかったか?」  
「え、そう?」  
やばい。気づかれる。  
ど、どうしようっ。  
 
 

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