「ふむ・・・それで私達の元へ来たと言う訳だね。君達は」  
「Tes.」  
「押忍・・・申し訳ありません。」  
佐山の問い掛けに赤毛と眼鏡の侍女が答える。  
広い寝室で、キングサイズのベッドの端に腰掛ける彼に対し、  
二人の侍女は床に正座をした状態で相対している。  
赤毛の侍女の方は背筋を伸ばし平然と、眼鏡の侍女の方は申し訳なさそうに視線を落としていた。  
なんだか面白い組み合わせだよね、と佐山の傍らでベッドの上に座る新庄は思う。  
「えっと・・・とりあえず、話が見えないんだけど、なにかあったの?」  
少し前に風呂を使って部屋に戻ってくると、先に戻っていた佐山が二人の訪問を受けていた。  
片やUCAT全部長付きの自動人形にして、Low-Gの自動人形達を束ねる統括侍女。  
今一人は、3rd-G王族に仕える侍女式自動人形。花の名を戴く自動人形の一人だ。  
新庄の問いに、赤毛の侍女が口を開く。  
「Tes.では、新庄様にも最初からご説明いたします。昨夜未明、緊急的かつ私どもでは対処が  
不十分になる可能性の高い案件が発生致しました。事が3rd-Gに関わる事態であった為、  
私八号がアポルオン様と京様へと直接この件の連絡を仰せつかりまして、  
宿直でございました彼女、13thヴァイオレットと共にお訪ねしましたのですが・・・」  
「うむ。夫婦の営みの真っ只中に飛び込んでしまったそうだよ。3rd-Gの将来もゲンキ発進!とでもいうことかね」  
そう言うと佐山は傍らの飲み物を口に運ぶ。  
軽い炭酸の刺激を楽しみながら傾けるのはニューエイジドリンクの宣伝文句も色鮮やかな清涼飲料  
”ミラクルボディV”である。  
高麗人参・冬虫夏草・ガラナという斬新な原材料を前に出した飲料だ。  
・・・素晴らしい、UCAT以外でこのような製品を見ようとは。  
製造元であるSANGARIAの名前を確認した佐山は、近いうちに賞賛のメールを打つ必要性を感じる。  
「はい。それで私たちも、とても喜ばしいことだと安心していたのですが・・・何故か京様がご気分を害されまして」  
眼鏡の侍女、ヴァイオレットが困惑したように言葉を紡ぐ。  
「私たちが悩んでいましたら、アポルオン様が『ああ、すまない京は今ので絶頂に達し損ねてしまったのだ。  
皆もすまないが、次からは区切りの良いところで呼んで貰えると助かるかな。  
ああ、でも京はいつも達した後、私を迎え入れたままでまどろむのが好みだからそのように・・・』  
と、ご説明をしていただけたおかげで、事態の深刻さが理解できたのですが・・・」  
「その直後、京様はおもむろにアポルオン様に対し肉体言語を行使しだしまして、  
さらには大変激昂されてさながら暴風のようにお暴れに・・・新庄様、いかがなさいました?  
お休みになられるのでしたら、お布団の中がよろしいかと」  
ヴァイオレットの説明を引き継ぐように言葉を発していた八号が、ベッドに頭から突っ伏していた新庄に声をかける。  
このまま現実逃避を続けようかと本気で思い悩もうとしかけた自分を叱咤し、なんとか気を取り直した新庄が起き上がる。  
「そ・・・それでボクたちのところに?言っておくけど、佐山君に相談しても状況の打開にはならないと思うよ。絶対。」  
口元を引きつらせつつ、新庄が二人に答える。下手に佐山に関わらせては、いけない。  
己の直感がそう告げる。  
「いえ、現状況の収集につきましてはモイラ1st様等によって行われています。  
私どもが今回ご協力頂きたいのは・・・」  
「押忍。今後の事態を見越した上で、収集しておきたい情報です」  
「つまり、だ。良いかね新庄君」  
佐山がおもむろにベッドの上に立ち上がり、新庄に向き直る。そして、  
「私と君のステディな営みを彼女らは観察し、人間の性感に対しての情報を得たいと、  
そう言っているのだよ。なに、心配はいらない。  
こんなこともあろうかと人類のH、もとい英知の結晶である技の数々を私は修めている。  
特に新庄君用に用意した、”48の殺チン技”と”52のさぶミッション”からなる  
ハメハメ殺法などは特に・・・」  
言い終わる前に、ベッドの下に叩き落された。  
 
 
ここで、時間を少し戻す。  
大きな部屋の中に、幾人かの人影があった。  
部屋の隅に寄せられたベッドと、それを見守るのは三体の侍女式自動人形だ。  
「・・・京様はまだ?」  
長い金髪の自動人形の問いに、短髪の自動人形は会釈で答える。  
それは、彼女の問いに対して肯定の意を示すものだ。  
彼女等が案じるのは自分達の主。  
今は部屋の隅のベッドで布団に包まって、身じろぎもしない若き后である。  
「やっぱさー、大姉ちゃんがなんも考えずに通しちゃったのがいけな・・」  
小柄な自動人形の肩を長髪の侍女が、がしっとつかむ。  
「モイラ3rd」  
背後から溢れる気配を感じ、小柄な侍女が身を硬くする。  
「あ、いやほら、別に大姉ちゃんは変なとこで抜けてるとか、天然でひどいことするとか  
しかもそのあと笑ってごまかすとか、そんなことはぜーんぜん・・・うわだからやめて、あー腰のボルトがあー」  
上の姉と下の妹の、変わらぬじゃれあいを見ながらモイラ2ndの名を持つ侍女は思考する。  
・・・不甲斐無いと判断します。  
初めて己を認め、そして傍に置いてくれた主に対し、何もできぬ自分が恨めしい。  
主の苦しむ姿に何もできずして、何のための侍女かと己に問い質す。  
有事の際には、己の身を削りても主に尽くす想いを決意に、ゆっくりと主の元へと進む。  
「京様・・・」  
一言つぶやくと、意を決したかのようにその身を主の横へ潜り込ませる。  
「・・・って!?さっきから黙ってたら、いきなりなにすんだモイラ2nd!!」  
「・・・」  
短髪の侍女は、無言のまま衣服に手をかける。  
「無視かっ!だから、なんでいきなり脱ぐ?!お前らも見てないで止め・・」  
切羽詰った京が、助けを求めるように残りの侍女の方に目を向ける。  
「あ、申し訳ありません京様。すぐに加わりますので」  
「うん。姫様、ちょーっち待っててね」  
「お前らもかっ!!だから、何で脱ぐっ!?」  
主の問いにモイラの名を持つ三人の侍女は平然と。  
「はい。ですから、先ほどご満足を頂けなかったのがご不満のようですので、  
わたくし達でその解消をと・・・」  
「うん。それに中姉ちゃんは姫様の身体じょーきょーを把握してるから安心だよ」  
長髪と小柄な侍女の言葉に、短髪の侍女が顔を赤らめつつ軽く頷く。  
「やる気満々かよ、おまえら!?いいから、ちょっと落ち着け!!」  
寝室に京の絶叫が響き渡る。と、そこに長身の人影が扉を開けて入り込んで来た。  
「やあ、京。いいかげんに機嫌をなおして・・・」  
京の夫にして3rd-Gの皇であるアポルオンは、寝室の状況を見て一瞬言葉に詰まる。  
その後・・・  
「こ、これが噂の複数同時プレイ!?」  
次の瞬間、京のアッパーカットが彼を宙に舞い上げた。