<<CKBボタンとはつまり、CHIKUBIボタンの略でしてね、触れただけでシャキーンですよ!シャキーン!編>>
消灯した、夕日の光が差し込む部屋。
壁にはUCAT職員専用ロッカーと書かれたプレートがかけられ、光を反射していた。
その部屋の隅の方には何やら手を動かしながら呟く、黒髪の少年が居た。
彼の下には組み敷かれるようにして一人の女性が胸をはだけさせており、
「えぇっと、これがこうでえと、上上下下右左AB……ッ!」
「落ち着きたまえ、新庄君」
冷静な女性の声が黒い長髪の少年こと新庄を宥める。
しかし、彼は女性の胸を見て手を引いたまま、まだ混乱している。
というよりも、土台、こんな状況で落ち着けと言われても無理というものだ。
「だ、だって、自分以外の女の人の体を弄るのって初めてで……」
「大丈夫だ、新庄君。落ち着いて、いつも私がやっているようにこう――」
「いいから!手振り身振りを加えて説明しないでいいよ、佐山君!」
慌てて空を揉みはじめる佐山と呼ばれた女性を止める新庄。
彼は思う。なんでこんなことになったんだろうと。
「そうだね。新庄君の得意なシューティングゲーム風に言うならば、まず上部のCKBボタンをだね――」
「わー!わー!わー!」
今度は口を塞いで言葉を止める。
「だ、だから、そういうのは言わないでよ、佐山君!ボクだってわかってるけどこういうのは初めてで――って聞いてる?」
何時の間にか佐山は顔を青くしていた。
まずい、やりすぎたか、と思い、口から手を退かすと彼女は勢い良く息を吸い。
「ふふふ、流石新庄君……いきなり呼吸困難プレイとは……マニアだね?」
全然反省していない佐山を新庄は半目で見るが、彼女は全く気にせず身を起こし、
「何はともあれ、新庄君が慣れていないならばやはり私が――」
「すまん、忘れ物をし――」
時が止まる。
「み、命刻さん――?」
新庄が引き攣った顔でゆっくりと振り向くと、そこには目を見開いた表情の長髪の女性がおり、
「なっ!私がもう一人!?」
彼女はそう叫んで佐山を勢い良く指差した。
「くっ!新手の概念攻撃か!退け、新庄!そいつは私が」
「おおお、落ち着いて命刻さん!この人は危険だけど一応無害だから!」
慌てて、腕を広げて佐山の前に盾の様に立ちはだかる新庄。
それを見て、命刻は動きを止め、眉を顰め、しかし、次に佐山を見て、
「……そ、そうか、そういう事か……いや、本当にすまん」
顔を僅かに赤くして目を逸らした。
「?」
何故だろう、と思って確認のために後ろを見る。
そこには命刻そっくりの、ワイシャツの前を開けて胸を晒した状態の佐山が居た。
それだけだ。
何かおかしいところがあるのだろうか。
おかしいと言えば、確かにワイシャツの前は開いてるのにネクタイを付けているのはマニアックで――、
「って、おかしいというかうわー!?」
「落ち着きたまえ、新庄君。大丈夫、私達は至って健全だ!」
「どこがだ!?」
命刻がツッコミを入れるが、佐山は冷静に頷き、
「全てだ。そして、これから新庄君に健全、かつアグレッシブな私の体を使ったハウトゥプレイをだね――ッ!」
とりあえずネクタイを締めて黙らせた。
「しかし、新庄……そちらの方でも、その、溜まっていたなら私に言ってくれれば」
「って、脱がなくて良いから!誤解だから!?」
顔を赤く染めつつも恥ずかしそうに服のボタンをはずし始める命刻へと叫ぶ。
が、彼女はボソボソと呟きつつボタンをはずすのに余念が無い。新庄もネクタイを締めるのに両手が塞がっている。
まさに八方塞というやつだ。
というか、やっぱり同類かこの二人。
夕日の光の中、ついに佐山が酸欠で意識を失ったのを新庄は気づかなかった。